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第18話。 クリエイト・パーティー。

本日1話目です。

 ロックの魔法をエルフィナにかけて貰い、カウンターの女将さんに挨拶をして表へ出ると、エルフィナが言った通り残りの3人全員が待って居てくれた。ああ、ブレッドも入れれば4人か。


「ごめん、一番最後になっちゃったね」

「お気になさらないで下さい」


 未だに恐縮するように皆が僕を見る。

 まぁ直ぐに慣れてくれと言っても無理かな。

 僕も三鷹の屋敷に行ったときに最初はかなり戸惑ったし。

 今までの生活レベルからはかけ離れた待遇を受けると、どうしてもそんな感じになるのだろう。


「馬車の事なんだけれど、商人の紋が入って居るから処分した方がいいって詰所で言われたから処分をする。その代りこの町を出発するまでには別の馬車を手に入れるつもりだけどね」


「有難うございます。あ、ですが数日間向かわれる場所へはどのように?」


 エルフィナが代表してお礼を言ってくれた。

 歩きで何日もってのは辛いだろう。

 だが、それとは別にこれから僕が向かう場所に対して口にするが、


「騎乗用の馬を買おうと思ってる」


「その場にはお一人で?」


「んー……そうだね」


「それは駄目です。ユウト様の身の回りのお世話をするのが従者の役目です。ですからエルフィナさんを共にお付けください」

「はい、わたしがお供を致します」


 そうフィオナが口にし、エルフィナを見やるけれど、エルフィナも至って表情を変えずにフィオナの意見を肯定したばかりか、視線はまたしてもこれは譲りませんよ?と。セラはセラで当然かのように微動だにしない。


「分かった、じゃあエルフィナ付いてきて。セラは僕が居ない間、皆の護衛をお願い」


「はい、お任せください」


 確かに何となく一人で行くのは寂しかったし、かといって誰を連れて行く?とは思っていたので、話を皆でまとめてくれて助かった部分はあるのだが……


 エルフィナと二人っきりか。

 想像をしてしまうと期待と股間が膨らんできそうだ。

 だって10日もあれば、恐らくはまあ……


 というか今晩僕の素性を明かすし、出来れば巫女に成ってもらいたいとも打ち明けるつもりだから、まあ、受け入れてくれればそういう事になるだろう。もしも受け入れてくれなければ辛い旅になりそうだが。


「じゃあ、馬車を売るついでに騎乗用の馬を二頭買って来るから、皆は先にヨロズヤにでも行って欲しいものを見繕っておいて」


 そう言って僕は銀貨1枚を全員に渡した。勿論フェリスちゃんも立派な一人分。


 馬車の中でマジックキューブの有無を確認したのだが、キューブを持って居たのはフィオナとエルフィナとセラの三人で共に中キューブ。だけどものの見事に綺麗さっぱり中身を奪われたのだとか。


 どうやら隷属の首輪を嵌められると、キューブの中の物まで全て放出してしまい、首輪がある間はキューブの使用は不可能になるらしい。なので必要な物や着替えなどはある程度はこの町で揃えなければ成らない。


「良いのですか?」

「うん。僕も馬車を売って馬を買ったら直ぐに行くから」


「有難うございます」


「それと、ここが安全な場所なのか、昼間でも安全なのかも解らないから、とりあえず今日のところはバラバラで行動しないでおいてくれるかな」


「大丈夫です。わたしとセラが皆を守りますから」


 僕の言葉にエルフィナが自信満々で答える。


「わかってる。エルフィナ、セラ頼んだ」


「はい!お任せください!」「お任せを」


 綺麗な所作でお辞儀をするセラとは対照的に、エルフィナは嬉しそうに力こぶを作って見せる。

 こぶなんて出来……てるし。焦るわ。

 ぽっこりと膨らんだ上腕二頭筋に少し驚きつつ、そう言えば香那多もぽっこりしてたなあと。


「ははは、じゃあ行ってくるよ」


「あ、そうですユウト様。MPマジックポイントに余裕はありますか?あと、PTパーティーの作成方法もですが」


 くるっと反転して一歩を踏み出そうとした途端にフィオナに呼び止められた。

 何だろうね?MPなんて腐るほどあると思うけれど。

 転移の時に消費したMPと昼過ぎの戦闘で消費したMPは、何気に自然回復で半分程度まで回復している。……気がする。


 気がすると言ったのは正しくその通りで、数値として見れない代わりに、後どれくらいMPが残っているかというのが不思議な事に感覚として分かる。

 同じように生命力(HP)も恐らく分かるのだろうけれど、今は全く減って居ないどころか一度も減って居ないのでHPはいまいち分からない。


 一度減って見れば感覚として掴めるのだろうが、あまりHPは減らしたくは無いなと。

 でもまあもう生活魔法の<ステータス>を買うし、問題は無いだろう。


「あるよ?全然余裕であるしPT作成方法もしっている」


「そうですか……ではもし宜しければユウト様がパーティーリーダー(PTL)になってパーティー(PT)を組んで頂けませんか?ある程度の距離までですとPT会話もできますし」


 これは”不侵の森”を歩いている時に、造り方の説明をシャルルに受けた。だから多分パーティーは作れる。


 PTとは――


 早い話、よくあるゲームと同じ。全くと言っていい程同じ。

 詳しい説明はシャルルノートに書いてあるけど、ゲームと同じなのだからすんなりと受け入れられた。僕も3年間でそれなりにMMOで遊んだのだよ。


 そして何気に会話の仕方はこめかみに指を当てて念じる。まんま念話と同じ方法だというのだから、もしかして念話がこれなんじゃないの?と。思って聞いたけれど、どうやら念話は念話で古代魔法としてちゃんとあるし、その遺跡の場所もシャルルは知っているらしい。


「あぁ、そうだね。そうしておいた方が何かあった時対応しやすいな」


 僕はそう言ってPT作成のスキルを唱える。


「――クリエイト・パーティー!!」


 全員近くにいるな?……うん……初めてパーティーを組んでみたけれど、教えて貰った通り出来たようだ。


 パーティーが完成し、6人をPTに入れた直後、フィオナが自身のこめかみに指をやり、


『パーティー会話機能も便利ですから、MPに余裕があるのでしたら、なるべくパーティーを作る様にした方がいいかもしれませんね』


 彼女の澄んだ声が耳の奥に直接聞こえるような感じで響き、その声色にぞくぞくっとする。

 何となく嬉しくなり僕もこめかみに指を当てつつ、巫女と念話をしていた感じでパーティー会話を試してみる。


『あーてすてす……』

『なんでしょう?それは』

『……気にしないで良いよ。じゃあ行って来る』


 そう言い残して僕は皆とは違う方向へ、一人で馬車を走らせた。

 どうやらテストテストはこちらの世界ではポピュラーでは無いらしい。


『行ってらっしゃいませ』

『『お気をつけてご主人様』』


 何気にこの世界で必要になるかもしれないと思い、乗馬と流鏑馬の練習と、御者の方法を習って置いて良かった。

 でも懐かしいな……3年間で結局20回以上は乗馬の練習をしたっけ。

 その都度弓道部の部員もおまけで付いて来たけれど……良い思い出だよほんと。


 そんな元世界の思い出に耽って居るとエルフィナがパーティー会話でしゃべりだす。


『ですがパーティー会話は久しぶりかもしれません。術者のMP消費がそれなりに多いので普段の狩りですらそうそう使いませんから』

『私もエルフィナ様もMPは心もとないのです』

『残念ながら……』


 セラも同意をしたが確かにMP消費量はそれなりに多いらしい。

 元々のMPが少ない獣人ならではのあるあるだろうか。


『私は……そうですね、以前は兄さん達の狩りによく駆り出されたので、狩りの時は結構頻繁に利用して居ましたが……』


 やはりフィオナは結構頻繁に使用していたのか。

 回復魔法を使えるって言っていたから、MPもそれなりに多いのだろう。

 でも彼女の家族はフェリスちゃん以外もう居ない。


 そう言えば……という感じで、フェリスちゃんがパーティー会話で発言をしていない事に気付く。

 彼女はまだパーティー会話が出来ないんだろうか?もしかして制約があるのか?


『フェリスちゃんは会話に加われない?』

『はい、まだ10歳に成って居ませんから……聞く事は出来ますが発言は出来ません。今は私の隣で手をバタバタとさせて口をパクパクと動かしていますが……』


 フェリスちゃんの代わりにフィオナが伝えてくれ、今の彼女の様子を実況してくれたようだ。


 あぁやはりそうだったか。

 想像をしたら可愛らしすぎてにへらと顔が思わず綻ぶ。

 馬車に一人で乗っているのにいきなり笑うとか、傍から見れば気持ち悪いことこの上ないだろう。っていうか10歳って何かあるのか?


『10歳に成ると何かある?』

『満10歳になりましたら、フレイヤ様の加護と祝福を得る資格が生まれ洗礼を受けられるのですが、そうして得た祝福の中の一つがこの会話なのです。それまでは作る事も話す事も出来ません』


 転移者にギフトを提供する事もそうだけれど、既に世界から消滅していても尚こういったものを残せるなんて、神様とはやっぱり凄いな。

 とはいってもフィオナ達は女神フレイヤが既に居ないなんて知らないんだろうけれど。教えたらさぞやびっくりするだろうなと思いつつ、PT会話を続ける。


『へー……フェリスちゃんっていつ10歳になる?』

『来月の12日で10歳になりますね。ですから宜しければそれ以降に一度修道院へ連れて行っていただけると』


『今って6の月の28日だよね?』

『はい、その通りです』


 となると14日後になるが、それだとまだハイドラに着いてはいないだろう。

 道中になるんだが、決まった場所じゃなければダメなんだろうか?


『どこのでも良い?』

『はい、正教会ならばどこでも』


『分かった。多分ハイドラまでの移動中だろうから、その時の近くの教会へ寄ろう』

『はい、ご主人様』

『解りました』

『はい、有難うございます。フェリスも飛び上がって喜んでいます♪』


 それは見てみたかったなと答えると、前方に馬商らしき建物が目に入った。


「ここか……」


 町の中心部から少し北へ外れたその場所に、何台か馬車が並んだお店らしき建物を見つける。

 そしてその敷地内には5頭程馬が繋がれて、美味しそうに飼い葉を食んでいた。


 見ればどの馬も曳き馬用のようだけれど、一目で馬車に繋いでいる曳き馬よりも毛並みが良いのが分かった。なかなかどうして、当たりか?ここは。

 そう思いつつ、後ろを向いて何やら忙しそうに作業をしている若い女性に向けて口を開く。


「すみません。この馬車を処分したいんですが。あと馬の購入も」


 失礼とは思いつつも馬車の上から声を掛ければ、しゃがんでいたその女性はポニーテールをたなびかせて振り向き、上を向いて眩しそうに見やりつつ、


「あら、いらっしゃい。……え?」


 お客だと思いつつ声をかけて僕の顔を見たのだろうが、その瞬間にその女性は少しだけ目を見開いた。

 どうしたんだろうか?


「えっと……」


「あ、ちょっとまってね、お父さんを呼んでくるわ」


 家の手伝いなのだろうか?オーバーオールにシャツという恰好が恰好だけに地味ではあるけれど、どこか色気を持ったその女性は家の中へ駆け足で入って行った。


 なんだったのだろう?


 若干気にはなるが、もしかしたら見た瞬間に迷い人だと分かっただけかもと思い直し、走って行く女性の後ろ姿を見おくる。

 素朴だけど田舎には似つかわしくないというか、きっとすごくモテるんだろうなぁなどと思いつつ待つこと数分。


 建物の裏から先ほどの女性と一緒に50歳代くらいだろう男性が、少し禿げ上がった頭をタオルで拭いつつ小走りに近寄って来た。


「いらっしゃいませ……馬車を売りたいとの事ですが?」


「騎士団詰所のアルフォンソさんに、ここで売ればいいと言われて来たんですが」


 アルフォンソさんの名前を出せと言われたから出したのだけれど、殊の外効果があったようで、直ぐに誰だこいつという顔からホクホクとした揉み手を見せるかのような笑顔に成った。


「やはりそうでしたか。つい先ほどアルフォンソ様ご自身がお越しに成られたので伺って居ますよ。……しかしこれは……商紋入りでこの形状ですか……何やらいわくがありそうですから何も聞きませんが、その分安くなりますけど宜しいでしょうか?」


 少し申し訳なさそうに小さく腰をかがめながら馬屋の主人は言う。

 どうやら僕達が宿屋で部屋に案内されている間に、アルフォンソさん自身が口利きの為に訪れてくれていたようだ。


 ただ、店主の口振りからして彼が言って居た通り、どうやら早めに売るに越したことは無いようだ。

 というか皆が奴隷として運ばれた馬車でもあるので嫌な記憶もあるだろうし、どのみちさっさと処分しようとは思って居たから、丁度良かったと言えば丁度いい。それに元はタダだし。


「言い値でいいですよ」

「分かりました。では馬車の状態を見させてもらいますね。あと、馬の方はどうします?アルフォンソ様の話では馬もという事でしたし、新しい騎乗用の馬もご購入してくださるとも聞いたのですが」


 ありがたい事に段取りを全て行ってくれていたようだ。

 けど馬については少し相談しなければ。


「その事ですけど、どのみちこの町を出る時にまた引馬を買わなければならないんで、それまでどこか10日くらい預かって貰えるところは無いかなと」


 僕の言葉に少し考える素振りを見せていた馬商の親父さんだけれども、隣にいる女性に向けて何かを確認した。


「大丈夫、あたしが面倒を見るわ」


 その言葉に直ぐに小さく頷いて、そのまま愛想のいい笑顔を僕へと向け口を開く。


「トラブルがあると困りますので本来はお預かりはしておりませんが、アルフォンソ様のお知り合いという事で、私と娘のルルが責任をもって10日お預かりいたしましょう。もちろんその間の世話代は頂きますが。とは言っても1頭当たり1日大銅貨1枚程度で結構ですけれど」


 お!それはナイスだ。

 というかアルフォンソさんに貸しが出来てしまった。

 ただ、だからといって遠慮をする筈も無く。


「是非お願いします。あと、言われた通り騎乗用の馬を二頭程買いたいんですけど」


「はい、でしたらお売りできる程度の良い騎乗用の馬を裏手の馬留めに繋ぎますので暫くお待ちください」


 そう口にした親父さんはルルと呼んだ娘さんに何やら小声で指示を出す。

 その女性は頷き、僕の方を向いてニコッと笑いさっさと裏手へ向けて走って行った。


 年齢的には僕より何歳か年下だろうけれど、先ほどの言葉と合わせると、どうやら彼女が馬の世話をしているようだ。僕よりも若いだろうにしっかりとしているんだなと。


 そんな事を思って居ると店主の親父さんが、


「では私は娘が馬を繋ぐ間に馬車の査定をしますね」


「はい」


 返事を聞き、親父さんはそそくさと馬車の方へと歩を進め、拾い物の馬車の査定を始めた。



 10分くらいだろうか?どうやら査定を終えたらしく指を折りながらぶつぶつと呟きつつ戻ってきた。

 頭の中はフル回転なのだろうか。


「程度は凄くいいですが、馬車をこのまま使う事は出来ませんので申し訳ないですが、金貨3枚という事でどうでしょうか?」


 どうでしょうかと言われてもさっぱり相場が解らないからなぁ。そもそもタダで手に入れたものだし、言い値で良いとも言ったんだし、売ってくれるかどうか聞いて来るのはおかしいだろうに。


 もしかしたら「もう少しなんとかならん?」「いやぁもうこれが限界ですぜ旦那」「そこを何とか……」「負けたよ旦那には……じゃあこれで良いかい?これ以上は無理ゲーだよ?」……なーんて掛け合いでもしたかったのだろうか?


 僕はそんな掛け合いをするつもりなんて毛頭も無いので、勿論さっさと話を進めるが。

 と、何だか期待を持って見やって来る馬商の親父さんに向かって言い放つ。


「言い値でいいと最初に言ったんですから、その金額で良いですよ」


 その瞬間に親父さんは肩を落としがっかりとしたような目を見せた。

 そっちからすれば儲かるんだから良いじゃないかと。

 少し不満顔を見せる親父さんだが、娘さんが裏から走って来ると、それに気づく。

 そしてその時僕もある事に気付く。いやまあどうでも良い事だが。


「……有難うございます。……あ、ちょうど馬を繋ぎ終えたようです。では裏手へどうぞ」


 だぼだぼのオーバーオールのような服を着た娘さんと親父さんの後ろについて裏手に回ると、馬留めには7頭の馬が留めてあり、その傍に奥さんだろうやたらと美人の女性が笑顔で僕を迎えてくれた。

 うそマジかよ……禿親父にこの美人は反則だろう。やるなこの親父さん。


 そんな失礼極まりない事を思いつつも少し親父さんを尊敬し、繋がれた馬を見やる。

 どれも体躯が良く毛並みの良い馬だと直ぐに分かったのだが、残念ながら性別までは分からない。


「良い馬ですね」


「ええ、世話は全て娘と家内に任せっきりなんですけど、どの馬も自信をもってお勧めできます」


 馬を褒められたからか、ルルさんは嬉しそうに僕を見やる。


「雌が4頭、雄が3頭いますが、雌の方が雄の倍近くの値段がしますけれど、出来れば番よりも同じ性別で揃えた方が良いと思います。お値段は、雌が左から金貨6枚、6枚、5枚、5枚で雄が三頭とも金貨3枚です」


 まあ、種をまき散らすだけの雄と子供を産める付加価値がある雌の違いでそうなるよな。

 番にしないのはいきなりダイナミックな交尾を始められても困るから。らしい。

 確かにヒホウカンで見た馬の交尾はダイナミックだった。


 そんな風に思いながら7頭の馬に近寄る。

 どの馬もしっかりと調教済のようで、僕が近寄っても全く動じないばかりか、体を摩って毛並みを確かめるとつぶらな瞳を向けて媚びるように顔をまげて僕にスリスリと。


「うん、いいですね。どの子も凄く大人しい」

「えへへ~♪分かってくれる?」

「はい、毛並みも良いし、表に繋がれた曳き馬よりも更に良い」


 褒めればやはり嬉しいのか、ルルさんは更に満面の笑みで喜ぶ。

 とはいえやっぱり馬って可愛い動物だ。つぶらな瞳で僕を見やるその馬たちを見ていると全部欲しくなってくる。


 ただ、そんな事など出来ないのだからこの中から選ばなければ成らない訳で。でもどの馬を買ってよいのかさっぱり分からない。なので、ルルさんに聞いてみる。


「君はどの馬がおすすめ?」


 馬を撫でながらそう告げると、ルルさんは嬉しそうに、


「この子とこの子がとっても素直で丈夫で元気よ!力も曳き馬のようにあるし、きっと満足してもらえるわ!」


 勧められたのは雌の方だった。しかも二頭とも金貨6枚の方。

 その事で少し親父さんと奥さんが慌てる。


「る、ルル!」

「あああ、済みません。決してお高い雌を勧めたわけでは……」


 なんだそんな事か。


「いえ、分かってますよ。だから大丈夫です」


「はい……」

「ぁう……」


 少し咎められた格好になったルルさんは途端にしょぼくれてしまった。

 口を尖らせ、そんなつもりじゃあと呟きつつ指をいじいじ弄る姿が妙に可愛い。

 その表情に大丈夫ですと再度念を押し、親父さんへと告げる。


「じゃあ、この雌馬を2頭程お願いできますか?」

「ありがとう!……あ、有難うございます!」


 親父さんよりも先にルルさんが頭を大きく振りつつ元気よくお礼を言ってくれた。

 ポニーテールがバフンとおでこに当たる程に。

 それを見やり苦笑いを浮かべる親父さんと奥さんだが、お勧めをと聞いてお勧めはこれと言われたのだから何も問題はない。


 そしてそれをフォローするかのように親父さんが口を開く。


「確かにルルが言う通りこの二頭は他のよりも良い馬です。金貨1枚分の差以上の価値はあるのは私が保証します」

「あたしも保証するわ!」


「あはは、うん、そう言ってもらえると気持ちよく買えますね」


「有難うございます、では馬具はどうされます?」


 当然必要だ。

 馬具もなく騎乗できる程手馴れてはいない。

 なのでそれもお願いしますと伝え、馬の引き取りは明日の早朝だとも告げ、あっさりと馬の購入は終了した。


 ルルさんは直ぐにその馬に駆け寄り「良かったね、大事にしてもらうんだよ?」と嬉しそうに撫で、馬の方も嬉しそうに鼻を鳴らしていた。

 なんだかそれを見やり、もしかしてこの女性はギフトを持って居るんじゃないかなと。


「ではさっそく計算を致しますので中へどうぞ」


 そう言いながら馬商の親父さんは、どう見ても普通の家の中へとそそくさと入って行った。

 自宅兼お店という感じなのだろう。お店兼自宅では間違っても無い。


 店主に付いて自宅兼お店の中に入ると、小さなカウンターがあり、ここにもオーブがある。

 商売をする場合は必ずオーブが必要なのだろうか?

 ここのオーブは黄色だった。


「オーブが気になりますかな?」


 ここでも言われた。

 それは僕がオーブを相変わらずまじまじと見やっているからなのだが。


「はい、ここのは黄色なんですね」


「不思議ですよね。使っている私達ですらそうなのですから、一般の方からすれば更に不思議に思われるでしょう」


「これはどんな制限が?」


 艶消しブラックオーブがある意味一番制限が無いオーブだとは聞いた。

 ならば黄色ならもっと制限があると思って。


「これはソウルストーンに関して言えば書き換えが出来ないブラックオーブみたいなものですね。ですからパーソナルデータも同じように見えます」

「へぇ……じゃあ僕が迷い人だって気付かれてしまうんですね」


 自分から言っているけれど。


「ええ、ですので先ほどアルフォンソ様からお教えいただきました。粗相のないようにと」


 なるほど。なかなか気を回してくれる人なんだな。

 余計な詮索などされなくなるだろうから、非常にありがたい。

 っていうか、粗相って……


「ははは……」

「ですが一応規則ですから、オーブに手を当ててください」

「あ、はい」


 にこやかな表情で説明をしてくれた馬商の親父さんに促されて、黄色いオーブに手を翳す。

 それを殆ど見る事も無い風に、一瞥しただけで親父さんは口を開く。


「はい、結構です」

「確認をするのって、やっぱりどんな人が売りに来るかわからないからですか?」


「その通りです。馬車や馬、それからここには滅多に入って来ませんがユニコーンなどは高額商品ですので、盗難もそれに比例して多いのです。ですので怪しい人物が売りに来た場合、お断りする事もありますので」


 馬車とか馬は高額商品になるんだな。

 という事は……


「じゃあもしかして僕がアルフォンソさんからの紹介じゃなければ……」

「はい、お断りしたと思います」

「なるほど……まあそうですよね」


 表にある馬車に記された家紋を見やりつつそう口にした。

 明らかに僕が持つような馬車ではない。


「はい。流石にあの家紋は目立ちますし」


 またしてもアルフォンソさんに貸しが出来た気がする。

 とはいえ僕が旅をする上で困らないようにサポートをすると言った、彼の言葉は嘘では無かったという事だろう。信じてもいいかもな、あの人は。



 その後提示された金額を支払い、4頭の曳き馬を預け馬商を後にする。


「ちゃんとお世話をしておくわね」

「お願いします。じゃあ有難うございました」

「いえいえこちらこそ。アルフォンソ様によろしくお伝えください」

「はい」


 どうせ盗賊討伐するつもりだからまた屯所へ寄る事になるし、8日後に寄らなけばならないし。

 見送ってくれた馬商の三人に頭を下げてお店を後にした。


 あ、新しい馬車ももう今のうちに買っておけばよかったか?などと思いつつ。


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