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第15話。 イケメン兵士Aの素性。

本日3話目です。

 とはいえ。


 なんだろうか?……このブレッドからは、なにか一般人とは違う空気を持って居るような。まあ元兵士だからなのかもしれないが、それだとイケメン兵士Aとも違うのはなんでだ?……わからん。


 そんな風に思いながら二人を見やって居ると、イケメンさんの方がまだ話があるようで。

 いい加減この兵士Aさんの名前くらい聞いても良い気がした。

 兵士A兵士Aと心の中で呟く自分が失礼すぎて、何故か申し訳ないような気分にもなって来る。


「それから迷い人の救済という名目で、我が国ではこちら支給しております」


 そう口にしつつイケメン兵士Aはテーブルの上に金貨を3枚置いた。


「ユウトさんは先ほどお支払いしました褒賞金がありますのでとりあえずの生活は出来るかと思いますし、奴隷商人が持って居た資材もありますので必要ないとは思いますが、規則ですので規定分をお渡ししておきます」


 なんとも律儀なイケメン兵士A

 何気に融通が利かないような人物でもないし。

 目の前の人物が更に気になりだす。


「ありがとうございます。良いのかな……」


 奴隷商人から頂戴したゴルド以外にもシャルルから貰ったゴルドもあるんですよ?

 言わないけど。


「勿論です。あと、表に止まって居る馬車は早めに処分なされた方が良いかも知れませんね」


 そそくさと商人が持って居た巾着に金貨を3枚入れていると気になる事を言われた。


「何かあるんですか?」


「先ほど確認した兵士の報告では、奴隷商の紋が入っているとの事でしたので、このまま使ってしまっては、いらぬトラブルに巻き込まれるかもしれません。」


「あ、なるほど……馬だけでも残したいんですけどね。明日騎乗で使うので」


「ふむ……馬車を曳く馬は騎乗用の馬に比べて足がかなり遅いのですけれど、それでも残されますか?」


 どうするかな。

 確かに馬車を曳いていた馬は4頭とも足がぶっとくていかにも遅そうだったが。

 とはいえこの世界の馬がどんなものかは分からないのだから素直に助言に従っておこう。


「じゃあ馬車と一緒に売ります」


「その方が宜しいでしょう。騎乗用の馬はこの町でも買えますし。お店の場所はここから出られて真っ直ぐ北に向かって行けば、直ぐに目に付くかと。それから、もしも馬よりも強い牽引動物が必要なのでしたら、もう少し大きな町ならユニコーンという魔獣も購入可能ですよ。騎乗にも向いていますし。非常にお高いですが」


「へ?ユニコーン?魔獣?」


「もしかしてテイミングの事は知りませんか?」


「いえ、知って居ますけど、魔獣を牽引用の動物に?」


「はい、ユニコーンのほかには軍用としてトライコーンやバイコーンも。ユニコーンは元々おとなしい魔獣でこちらが攻撃を仕掛けなければ攻撃してこない魔獣なのですが、さらにテイミングした成体から生まれた幼体は非常におとなしく従順なので、繁殖を生業としているテイマーの方も結構いらっしゃいます」


「へぇ~」


「とは言ってもテイミングのギフトをお持ちの方自体が少ないので、必然的に繁殖をなさっておいでの方も少ないのではありますけれど」


「まあギフトが前提ですもんね」


 残念ながら僕にはテイムのギフトは無いし僕の巫女達も持って居ない筈だ。


「是非みてみてください。かっこいいですよ」


「そうします」


「あ、報告があるでしょうからエルスーラの町に行かれるのですよね?エルスーラならユニコーンを手に入れる事は出来ると思います」


「そうですか。でも一先ずは馬でもいいので、馬商に行って見ます」


 その返事に頷きながら、


「因みに、今回ユウトさんという迷い人が立ち寄られたとの報は、手続き上入れなければ成らないのですが、上層部に一旦上がりましたら緘口令を敷くように通達しておきます。ですので馬車を処分して頂けたら何も問題は起こらないと思います」


 この人ってどうも先程から一般の兵隊じゃないような気がしてならない。

 勿論この中では一番の上役だという事は、身に着けて居る鎧を見れば何となく解る。オーラも他より随分大きいし綺麗だというのも気に成る要因なのだけれど、なんだかそれだけじゃなく……うーん……やっぱりまだこの世界の情報が少ない。明らかに。


 そんな今後の事を考えて居ると、兵士Aがまだ僕に何かあるらしく。


「あと、もしもハイドラという町に行く機会がありましたら、私の父へお会いして下されば何かと手助けをしてくれると思います。父の名前はアルバート=フォン=ルシオスと申します」


「フォン?」


 僕の問いかけをスルーするかのように、目の前のイケメン兵士Aは続けて口を開く。


「申し遅れましたが、私の名前はアルフォンソ=フォン=ルシオスと申します。私の名前をお出しいただければ話が通じる様に早馬を出しておきますので。それと、この町で馬車を売る場合も、私の名前を出してみてください。きっとお役に立てるかと。」


 目の前の兵士Aはさらっと名前と苗字の間にフォンって付けたけれど、フォンって……貴族か!?もしもそうなら……なるほど……それなら何となく納得いく。

 うん、確かに似ているかもしれない。

 これまでの受け応えや、この人が持つ独特のオーラ。その全てが元世界のイギリス貴族の知り合いに。


 でもなんで貴族の息子がこんな辺境の駐屯地に居るんだ?……貧乏貴族さんなのかな?……うーん……やっぱりまだまだ分からない事だらけだなぁ。

 そう心の中で大層失礼な事を考えつつ頭を抱えながらも、丁寧に応対してくれた兵士A改めアルフォンソと名乗った兵士に礼を言う。


「分かりました。今日は丁寧な対応有難うございました。ハイドラには行く予定ですので、その時にご挨拶しておきますね」


「はい。旅の道中にはお気をつけて。それと……盗賊討伐は有り難いのですが切にお気をつけて。」


 結局シャルルは急に眠りについてから一度も目を覚ます事は無かった。



 ◇



「じゃあこの証明書はブレッドに渡しておくよ」


「有難うございます」


 そう言って証明書らしき金属プレートをブレッドに手渡した。らしきと言ったのは、金属プレートには何も文字が記されて居ないから。恐らくはオーブに翳せば内容がオーブを介して表示されるんだろう。


 そして相変わらず敬語のブレッド。

 ブレッドはおずおずと僕の素性を確認する。


「その……ただの迷い人では無かったんですね」


「迷って居ない迷い人だよね。まあ、目的を持って来たんだけど、それも近いうちに……そうだな、今晩にでも言うよ」


 そう告げるとブレッドは納得をしたかのように一つ頷き、馬車の方を一瞥しつつ口を開く。


「この事は皆には内緒ですかね?」


 言っても良いかどうか分からない事の確認をとるというスタンスは、中々に優秀な人だなと。

 貴族のアルフォンソが一定の評価を下しているような節が見られることからも、この人も僕が知らない事は沢山ありそうだ。


「いや、どっちにしろ今晩もっと詳しく言うつもりだったから内緒にはしないよ」


「分かりました。ですが漸く納得できた気分ですよ」

「なにが?」

「いえ、迷い人は目立たないように動こうとする傾向にあるのに、旦那は真逆に近い。何故だろうと不思議に思ってはいました。その、理由を聞いた後も」

「ハハハ。実はこういう事だった訳だ。なんていうか、目立たないようになんて出来ない目的だってわかっていたから、来る前から覚悟はしていたんだよね。だからだよ」


「そうですか、今晩のお話を楽しみにしてます」


 なんだかだんだんブレッドの言葉遣いが使用人ぽくなってきた。とはいっても源次郎さんや総司さんや修司さん程では全然ないけれど。あの3人はもう、どこの時代の人達なの?かと3年間ずっと思ってたし。

 ほんと僕としては、もっとフランクに接してくれても良いんだけれど。


 馬車に戻ると4人が外に出て居て僕等を出迎えてくれた。


「「お帰りなさいませ」」「ませぇ~」


「只今。上手く処理できたよ。皆の事も問題ないって言ってくれた」


 その言葉でエルフィナもセラもフィオナもフェリスちゃんも咲いたように明るい笑顔になった。

 うん、女性の笑顔は力の源だね。

 野郎の笑顔なんてげんなりするだけだけれど。

 田中という僕の親友が発する気持ちの悪い笑顔を思い出しつつそう思った。


「有難うございますご主人様」

「本当になんとお礼を言っていいか……」

「ありがとうお兄ちゃん!」


 エルフィナとフィオナとフェリスちゃんが再度お礼を口にした。

 そしてセラは無言で大きくお辞儀をする。

 僕はそれに笑顔でもって応える。


「さぁ、まだ日は高いけれど、今日の寝床確保の為にまずは宿屋に行こう」

「「はい!」」



 小さな町の部類だと教えられたこの町の中心部にはそこそこ商店が有るようだ。


 魔法装備ではないが衣類を専門に売っているお店や、日用雑貨を売っているお店も小さいながら存在する。少し離れた場所へ行けば規模は小さいながらも八百屋や肉屋などが軒を連ねている場所もあるそうだ。


 因みにこの町には宿屋が二軒あって一軒はチープな宿屋でもう一軒はそれなりの宿屋なのだとか。チープな宿屋も経験してみたいけれど、今日は記念すべき異世界初日。出来れば気持ちよく眠りにつきたい。


 それにそもそも宿にお金をケチっても仕方が無いという考えもあって、僕は皆に高い方の宿屋に泊ると宣言をした。

 だがそれにエルフィナが異を唱える。


「勿体ないです!わたし達なんて安い宿屋で十分ですから!」


「ん?いいんだってば。この世界の常識がどうとかなんて僕には関係なくて、まずは自分の考えで行動するって決めてるから、皆も同じ宿に泊まる事」


 その結果、あまりにもこちらと元世界の常識の乖離がみられるようなら、その時また考えれば良い。

 それくらいの気持ちで居る。

 だが、それでも引き下がらないエルフィナは、思いもよらない言葉を発する。


「ぅ……では夜伽をする順番を決めて頂いて、その人だけをご主人様と一緒に……」


「夜伽をする人を決めるって……本気で言っている?」


「はい」


 本気だったのか。

 既に魔力の影響は薄まっているのは見て分かる。

 だから今日はもう無いだろうなとは思っていたのだが。


「色々と駄目に決まってる。……夜伽とか今は考えなくていいから、一先ず全員高い方に泊まって貰う。あと、宿で部屋をとったら一旦外に出て皆の生活に必要な物を揃えよう。」


「も、申し訳ありません……で、ではお言葉にあまえて……」


 少し語気を強めて言ったものだから、びくっと体を硬直させて申し訳なさそうに何度もお辞儀をしてくる。尻尾も垂れ下がり耳も少し力が無い。


 何気に建物の中で、アルフォンソが苦笑いをしながら僕らを見ているのが目に入った。

 僕もアルフォンソに手を上げながら苦笑いを返したら、彼も手をあげて応えてくれたから、何となく状況がわかったのかもしれない。


 でもこれは……もう一度ちゃんと話し合った方がいいかもしれない。

 小さく溜息を吐きつつ、僕は馬車へと乗り込んだ。


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