表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

第14話。 戦時奴隷と非正規奴隷。

本日2話目です。

 ある意味意趣返しのようになってしまったけれど、さて、どう出るかな?


『わくわく』


 僕とシャルルは少しわくわくとしつつ返答を待つ。

 だが全く考える事も無いかのように、目の前のイケメン兵士Aは笑いながら返答を返す。


「ふふふっ……破壊を目的に来た人間がそんな事は言わないでしょうし、貴方から溢れ出ている強すぎるオーラがそれを否定して居ますので。それに、私が想像をするお方でしたら下手をすれば国賓として手厚くお迎えしなければならない程です。いえ……下手をしなくてもそうでしょうね。……ですが……今は……いえ、何でもありません、失礼いたしました。」

『あららら、すなおさんですのね』


「こ、国賓……ぶじゅるる」


『シャルが付き従うのですから国賓は当然ですの』


 小さな声で兵士Aはしゃべったのだけれど、流石に僕の隣に居るブレッドには聞こえたようで、その事実を聞いて涎を盛大に垂らしてしまった。口が緩い奴だな?ブレッドは。


 というか、目の前のイケメン兵士Aは今何を言いかけた?国賓で迎えたいが、今は無理だと言う事か?

 それがどういう事かは分からないけれど、想像できる事と言えば……やはり盗賊が多くなったという話に結び付く……そんな気もするが、果たして。


 ただ、少なくとも目の前の兵士はオーラが視えると言った。人間族だろう目の前の人が。

 シャルル曰く人間族でオーラが視える人などそうそう居ないと言っていたし。

 彼女はその事に全く気付いていないようだが。


「まあ、ある意味真逆ですけどね」


「そうだと思います。ですが規則は規則ですので、まずは証拠と成る盗賊のソウルストーンと被害者のソウルストーンを見せて頂けますか?」


「これです。一応向かって右が盗賊のもので、真ん中が商人のもので、左のが護衛のストーンです」


 僕は盗賊と商人、それから御者と護衛のソウルストーンを机に置いた。


「く、黒いですね……確認します」


 並べられたソウルストーンを見やり、まず最初にど真ん中に置いた奴隷商人の石の黒さに驚いたようだ。

 そして右のストーンを見ても渋い顔を見せる。黒くないのは護衛のストーンだけだ。

 盗賊の石は誰が誰のものなのかは分からないけれど、確かにソウルストーンは全て黒く濁っている。


 そして黒すぎるストーンを見やったイケメン兵士Aは、徐に指を中空に這わす。

 マジックキューブ内のアイテムを取り出す時の仕草だ。


 するとテーブルの上にもう一つのオーブが飛び出た。

 艶の無い黒いオーブが。


『むむ?』

「それは……」


 出されたオーブの魔力にシャルルが気付いたようだ。

 だがブレッドはそのオーブが何であるのかを知っているかのような。


「ええ、折角ですから」


 そう口にしつつ兵士Aは一つずつソウルストーンを手に持ち、カウンターの上に設置してある先ほどのオーブに近づけて確認をしていく。


 とはいえ一体どういう感じで表示されるんだろう?

 あれかな……マジックキューブの表示みたいに立体ホログラフ的な見え方なのかな?

 もしかして黒い球体だけに、球体に直接文字が浮き出るってやつかな?


『シャルル先生シャルル先生』


 知りたくて堪らなくなりイケメン兵士Aの意識が僕に向いていないのを確認して、シャルル先生に小声で話しかける。


『むにゃむにゃ……』


 ね、寝てるう!!ってか早すぎるう!!つい数秒までは起きていたのに!!……寝つきが早すぎるぞシャルルさん!


『あ、寝てたんですね……じゃあいいです。おやすみなさい』


『ちょと目の前の人が気になるですけど、大丈夫だと思うですの……むにゃ……おやしゅみなしゃ……』


 どうしても知りたい事でもないし、まあいいか。

 大丈夫だって言っているし。


 シャルえもん召喚に失敗してしまった直後、目の前のイケメン青年兵士Aはオーブ周辺を眺めながら少し唸る。


「ふむ……奴隷商人ですか……いやしかしこのカルマ数値は酷いですね……」


 奴隷商人はどうやらとんでもないマイナスカルマだったようだ。

 というか艶消し黒オーブはカルマ数値が見えるようだ。

 だとすればこれを最初に出されて居たら身バレも良いところなのでは?


「そのオーブだとカルマの数値が見えるんですね」


「ああ、カルマの事は泉で精霊に教えて頂いたのですね」


「はい」


 殆ど聞いてないけどね!

 ……あとでちゃんとノートを見て置こう。


「ええ、おっしゃる通りこのオーブのみカルマの数値が分かります。艶消し黒オーブと光沢黒オーブの唯一の違いですね」

「なるほど……」


「ではユウトさん、奴隷商のギルドカードはお持ちですか?」


「あ、はい、これです」


 そう言われてキューブからカードを取り出して渡した。

 それをイケメン兵士Aは受け取って、オーブに翳しつつ、


「間違いありませんね。……という事は奴隷も乗って居たという事ですよね?被害者にその方達は含まれていないようですが……」


「4名乗って居ました」


「その奴隷は今は何処に?」


「表の馬車に乗って居ます」


 それを聞いた兵士Aは別の兵士Bに合図をし、表の馬車まで兵士Bを確認に向かわせた。

 テーブルに置いてあった光沢のある黒オーブを渡されたところをみると、恐らくはエルフィナ達のソウルストーンも検閲するのだろう。


「この奴隷商人は国から許可を得ている奴隷商人ですが、何故他国への買い取りに向かったのでしょう」


 腑に落ちないといった具合に腕組みをするイケメン兵士A。 

 やはり他国への奴隷買い付けは珍しいらしい。

 そしてその言葉に反応するかのようにブレッドが口を開く。


「それについてだが、どうやら戦時奴隷と非正規奴隷の買い付けだったらしい」


「……え?それはどういうことですか?」


「本人達のパーソナルデータを見れば分かると思うが、二人はどうやらバルベールの出身だ。どんな流れでそうなったかは分からないが、商人が話していた高貴で希少という言葉は恐らく……」


「バルベールで尚且つ戦時奴隷。……という事は狼人ですか……?」


 ブレッドの言葉に一瞬考えるような素振りを見せたが、直ぐにハッと顔を上げ正解を言い当てた。


「ああ、狼人と猫人だが狼人の方は見ればすぐに分かる。俺もついさっき初めて見たが間違いない」


 もしかしてエルフィナってとんでもない出自なのか?

 だからブレッドがあの時口ごもった?


「貴方は……当然知らなかったのですよね」


「勿論だ。戦時奴隷や非正規奴隷なんぞ買い付ける予定だったら護衛依頼なんて引き受けやしない」

「でしょうね。冒険者ギルドを通しての護衛依頼という事ですからブレッドさんに分る筈も無い」

「残念ながらそうだな」


 なんだなんだ?ここでも見えないやり取りが行われているような。

 ぶっちゃけ僕は今現在蚊帳の外にいるんじゃないか?


「ブレッドって何者?」


 つい気になって聞いてみた。

 蚊帳の外が悔しかったからではない。

 すると少しバツがわるそうに口を開く。


「俺は元騎士団員なんですよ。ロレイルのね。だからこの人も知っているんです」


 その言葉に兵士Aがまたしても驚く。

 だからどういう意味!


「は、はい、この方は私も少なからず存じています。風貌が変わられたので名前を拝見するまで気づきませんでしたけれど」


「ははは。まあ、昔の事です」


「そっか……」


 何となく誤魔化された感は否めないが、嘘は言っていないように思えるし、それならそれでいいかなと。

 得体のしれないおっさんなんかじゃなく、元騎士団員だと現騎士団員も言っているし。


「あとのお二方はどのような?非正規奴隷と言われましたが」


「これは本人の話だから確実ではないんだが……旦那、言ってもいいですか?」


「いいよ。僕が話すよりこの世界を知るブレッドが説明をした方がきっといい」

「分かりました――」


 僕の返事を受けてブレッドはイケメン兵士Aに説明を始めた。

 割合に事細かく説明をしたところを見れば、結構ブレッドってしっかりした人なんだなあと。

 とはいえイケメン兵士Aは終始難しい顔を見せつつ話を聞いていた。


「――とまあそういう訳だが、国が国だけに十分ありうる話ではある」


「……ジグラルドですからね。ですがこれもオーブで拝見すれば分かると思います」


「そうだな。恐らくは仮登録すらされていない」


 どうやら登録されているかされていないかで大きく変わるらしい。


 というのも奴隷商が正規に買い付けを行った時は必ず自奴隷商会の所有物として仮登録をする。そうしなければ税金を払う必要を負うだけではなく、逃亡した場合に誰かに見つけて貰ったとしても自身の所有物だと主張できない。だから登録をするのだが、これが攫った奴隷ならば登録を殆ど行わないのだという。


 登録を行わない理由の一つは税金を払う必要が無いからというのもあるが、それとは別の理由もある。


 それは登録を行わないまま非正規で奴隷を買う顧客が多いゆえに。

 攫った奴隷を仮にでも登録してしまえば、それは非正規ではなくなり正規扱いとなる。ゆえに非正規で奴隷を購入したい顧客はそれらの奴隷を敬遠する。だからあえて登録をしないのだとか。


 非正規奴隷を好んで買う顧客は何故そうするか……だが、まあこれはあえて説明をする必要は無いし、口に出すだけで胃がムカムカしてくる。


 なんていうか、攫う方も攫う方で売る方も売る方で買う方も買う方だなんて、なんて腐った供給と需要のシステムだと。

 思わず反吐がでてしまうかと。


「ですがそういう事ならば直ぐに結果が出るでしょう。そしてもしも戦時奴隷の買い付けを行った事実があるなら、このハップン商会は資産没収の上解体させざるを得ませんね。勿論非正規奴隷の取り扱いでもですが」

「そうだな」


 パチンと指でハップンだろうストーンを弾きながらそう口にしたイケメン兵士Aとそれを肯定するブレッド。

 そして奴隷商はどうやらハップンというふざけた名前らしい。なにか?イップンからジュップンまで居るというのか?もしかして。


 そんなふざけた妄想を繰り広げている内にも、兵士Aはその後もしっかりとストーンのチェックを続けていたが、ふと1個のストーンを見た時に渋い表情を更に渋く歪めた。


「むぅ……盗賊の中に迷い人が居ますね。……んー……この名前は……記憶通りならばこの男は懸賞金を掛けられて居るはずです」


 そう口にしたイケメン兵士Aはテーブルの下に置いてある紙の束を1枚1枚めくりだす。


――そして数分後。

 忙しなく動いていた指がピタリと止まる。


「ああ、やはりありました。いわゆるネーム付きですね。ギフトは命中系のノーマルギフトだとの情報がありますね」


 そう口にしつつオーブ付近の空中を何やら指でなぞっている。

 やはり立体ホログラフのように見えるのだろう。


「やっぱりそういう類だったか……おかしいと思った。何せ気付いて数秒で3人が遣られたからな」


 苦々しそうにブレッドが指を噛む。


「結構名の知れた盗賊だったようですし、仮に不意打ちならばブレッドさんクラスでも仕方がないところでしょうか。ですが……ふぅー……本当に勿体ない事です。……真っ当に暮らせば良い地位まで行けたでしょうに……」


 言葉の途中で盛大に溜息を吐いた。

 余程に思うところがあるのだろう。


「あー……うん……僕も同感ですよ……」


 その言葉を聞いて、僕は何も言い返せなかった。


 望んで来た訳では無いのだろうが、来た先ではそれこそ他の人より数段優位なポテンシャルを持って転移してくるので、心が弱い人か元々心が薄汚い人間じゃなければ相当な地位に行けるのだろう。


 転移者や転生者は日本人もしくは日本人の血が混じって居る人に限るって話だったから、殆どの人が中学は卒業しているだろうし、そうなるとそれだけで相当なアドバンテージに成りうるのに。しかも一番ネックだと思うのが言語の問題だろうけれど、それすら自動翻訳魔法で解決するのに。


「勿体ない話だが……人は弱いからな、誘惑に……」


 ブレッドもそう呟きながら目を伏せた。


 その後も21個のソウルストーンを1個ずつ丁寧に確認をしていた兵士Aは、全て確認し終わったのか、オーブ周辺から目を移し、僕をみやりながら口を開く。


「全て確認しました。よく13人もの盗賊を処理していただきました。お礼を申し上げます。ですが、やはり相当な力をお持ちのようです」


「まあ、じゃなければ自分から来ようなんて思わないですよ」


「ははは、確かにそうかもしれません。400年前に来られた方もそれはもう強大な力をお持ちだったと言い伝えられていますし」

「はは……」

「とにかく、何か目的を持って来られたようですから、こんな辺境の地からではありますが、陰ながら応援をさせていただきます」


 そう言って爽やかな笑みに戻った兵士Aは、言葉の通り何も二心はないように見えた。


「有難うございます。それと、盗賊の残りが居ると思うんですが、どうされるんですか?」


 僕がそう告げると、イケメン兵士Aは穏やかな表情を途端に曇らせる。


「ああ、やはり残党がいますか。でしたらそうですね……ここ最近はそういった情報が入って来ていませんでしたから……これから対策を立てる事になるかと思います。ですが……規模にもよりますが、私どものような国の王国騎士ではなく、各領地の領主が持つ私軍がまずは討伐に向かう事になるでしょう」


「という事は直ぐに解決しそうですね」


 ほっと一安心だと思い、そう口にした僕の言葉に少し苦笑いを浮かべるイケメン。


「い、いえ、早くても1か月――」

「い、1か月!!」

「……は掛かると思います……情報を集めて領主に報告をし、それから領主が私軍を招集して派遣をするのですが、なかなか腰が重い領主が多く……」


 思わず声を被せてしまったけれど、そのまま説明しきった兵士Aはそう言って苦々しく顔を歪めた。


 しかし1か月とか……盗賊はその場に居ないかもしれないじゃないか。

 特に今日13人殺してしまったのだから、既に仲間が死んだ事は察知したとも思うし、そうなればどういう行動に出てもおかしくは無い。


 運が悪かった奴等だなと一笑に付すだけで済ませるのか、警戒してその場を立ち去る準備を始めるのか……


「まぁそれなら僕が明日もう一度いって掃討してもいいかな……」


「何人残って居るか解らないので本来なら思い留まって頂く所ですが……」


 そう言葉を濁したけれど若干不安な様子だ。

 まあ、力はあると分かったけれど、じゃあそれがどれだけ?となっているだろうから、今のイケメン兵士Aの表情は納得できる。


「なるべく安全を確保しながらやって見ますし、危ないようなら手を出さずに逃げてきますよ」


 そう言って僕は笑った。


「その方が宜しいでしょう。無理はなさらないで下さい。」


「因みに依頼が無いと盗賊の討伐報酬は当然もらえませんよね?」


「いえ。仮に冒険者ギルドに依頼した場合の金額分の褒賞は領主と国から出ます。比率は大体半分半分です。領主は極力自領の兵士を盗賊討伐で減らしたくないので、領主自らが冒険者ギルドへ依頼を掛ける事もありますし。ただ……」


「ただ?」


「ここの領主マスプラード伯は善政を敷く名領主として有名でして、支払いに何ら問題はないのですが、中には討伐だけをさせ、支払いを踏み倒すような領主も居ます」


「うへぇ……その場合国は全額保証なんてしてくれないんですよね?」


「はい、規定通り半分までです。何度も不払いが続けばそれが領地没収に繋がるのですけれど、力の強い領主であるとかですと国もなかなか……」


 申し訳なさそうな表情を見せるけれど、何もあなたが悪いわけではないだろうに。

 とはいえ、


「それこそ働き損の死に損か……」


「はい……」

 イケメン兵士Aは心苦しそうにそう首肯した。


「クリーグ公の領地とレミアス伯の領地だな……」

「ええ、ブレッドさんは騎士団所属でしたのでその辺りに詳しいですよね。あの時から何も変わって居ませんから……」

「そうだろうな」


「そういう事なら頼りにしてるよ」

「はい、任せてください、旦那。ああ、俺は今後旦那の従者になったからな」


 そう胸をドンと叩いて口にしたブレッドは、そのまま知り合いだというイケメン兵士Aに就職先を告げた。


「は?」


 イケメン兵士Aが素っ頓狂な表情を見せた。

 そんな顔でもイケメンなんだから腹が立つ。


「命を助けてもらったんだ。俺の一生でお礼をするさ」

「らしいです」


「はあ……では冒険者は廃業ですか?」


「そういうことだ。最初は簡単に考えていたが、これがやってみるとなかなか思うように行かないもんでな。引退を考えていた矢先に今回の襲撃に出くわしたって訳だ」


「なるほど。渡りに船だったというわけですね」


「そういう事だ」


「そうですか。お相手がユウトさんではないなら少し勿体ない気もしたでしょうが、主と仰ぐ対象としては申し分無い相手だと私も思います」

「ああ、さっきの話を聞いて余計にそう思った」


「もっとも、全てを見せて頂いた訳ではないので、半分程度おべっかが混ざって居ますが」

「ははは、心配するな、それはおべっかではない。めちゃくちゃ強いぞ」


 ブレッドが笑いながらそういうけれど。

 貴方殆ど気を失ってたじゃないですか。

 そんな僕の視線を感じたのか、


「ああ、真っ二つになった盗賊の切り口を見れば力量は疑いようもないですよ。あんな切り口は今まで見た事も有りません」

「あーなるほどね」


 まあ、半分はムラサメブレードのおかげだけどさ。


「ふふ、ブレッドさんがそう言われるのでしたらその通りなのでしょう。いつか私もその片鱗を見せて頂けると嬉しいものですね」

「ハハハ……まあ、その内」


 その内があるかどうかも分からないが、こういうときの逃げ口上。

 とはいえ、ブレッドは結構な騎士団員だった様子がこの人から伺える。一定の敬意すら感じられることからも間違いないだろう。


「という事は今回僕が退治した盗賊の報酬も貰えるという事です?」

「勿論です。恐らくは奴隷商人が持って居た装備やゴルドもあったでしょうが、それもここで提示していただく必要はありませんし」


 な?だから言っただろ?的な視線をブレッドが投げかける。

 何故提示する必要が無いのかなんて、考えればすぐに分かるが。


「持ち主が既に死んでいるから、その持ち主の持って居たモノだという証拠もないから……だから提示する必要は無い、ですか」


 既に商人が着ていたレジェンド級のロードクロースですら主が死に、自動で使用者不明UNKNOWN状態になっているし。


「そういう事です。ですが先ほどお伝えした通り、盗賊討伐に関する褒賞金の半分は領主から支払われるので、とりあえずは合計討伐報奨金の半額を今この場でお渡しします」


「残りはどうすれば?」


「残りはそうですね……どこかのギルドカードをお持ちなら、ギルドカードに振り込みという形もとれるのですが、生憎とユウトさんはギルドに所属をされていないので、ここの領主に直接受け取りに向かわれるか、王都かハイドラにある別邸へ赴いて頂く事になるかと」


「ふむふむ……」


「勿論その場合の証明書は発行し、直ぐにでも領主へと連絡が行くように今から手配を行いますけれど」


「わかりました、お願いします」


「ああそれともう一つ簡単にですが、冒険者ギルドからの依頼を受けて討伐をした場合ですと、それはギルド管轄になりますので、受取りから何から何まで全て冒険者ギルドにて行ってください」


「あら、親切」


「その代わり手数料を1割から2割引かれますけれどね」

「まあ、煩わしい事を代行してくれるんだし」

「あと、情報も貰えますよ」

「でしょうね」


 安全安心を考えれば冒険者ギルドの討伐依頼があれば、それを受けた方が良いかもしれないなと。


「以上ですが、何か質問はありますか?」


「あ、そう言えば奴隷として連れて来た4名は結局どういう扱いなんですか?隷属の首輪は僕が解除しましたが……」


 その一言でまたしても兵士Aは固まる。


「じょ、上級解除魔法も使えるのですね……あぁ丁度見に行かせていた者が戻って来ましたので報告を聞きます」


 そう言って少し僕達から離れた場所まで行き、兵士Bに兵士Aは報告を聞きだした。 

 使ったのは高級な部類でも古代魔法なんだけどね。


 ほんの数分程度だろうか、途中で兵士Aは少し怪訝な表情を浮かべはしたが、報告が終了して僕の所まで戻って来る時には、また先程までの爽やかな笑顔をみせて居た。


「確認致しましたが、確かに狼人族の方と猫人族の方で、一月前に無くなったバルベール首長国出身のようでして、間違いなくお二方とも戦時奴隷の方です。そのお二方の元の身分は……私が伝えて良いのか分かりませんので、申し訳ありませんが本人に直接聞いていただければ。」


「あ……はい」


 やはりエルフィナって……っていうかセラもそうなのか?

 まあいい、今晩聞いてみよう。


「それから、残りのお二方ですが、やはり登録をされていなかったようで、市民階級もジグラルド二等市民のままでした。不審な点も特に見られませんのでお二方とも我が国ロレイル王国への亡命者という形になります。しかも既に隷属の首輪は解除されているとの事なので何も問題はありませんよ」


「首輪が解除されてなければ違ったって事です?」


「いえ、今回は4名とも非正規なのは間違いないところですから皆さんどのみち自由です。ですがもしも登録を成されていたならば正規での購入なのか非正規での購入なのかは判断は付きませんから、隷属の首輪が取り付けてあった場合、奴隷商の所有資産となります。なのでもしもを考えればユウトさんの判断は正解だったという事です」


 あぁ……そっか……

 なるほどね。

 だから今後も解除できるものは解除してくれて良いよと言う事か。

 でも、なんて言うかはっきりと言えない所がお役所っぽいな。


「それなら良かったです」


「……狼人族と猫人族の女性は恐らくは半年間を教育期間等に充てて、半年後に何食わぬ顔で売りに出すつもりだったのでしょう。教育と言ってもおぞましい教育でしょうが……」


「そうですか……」

「残念ですが良くある話です。特に有名な戦姫で美貌を持つ方ですと、かなりの高額で取引される傾向にありますので裏で必ず動こうとする輩が居ます」

「数年前にあった話では1億ゴルドを軽く越えた戦姫も居ました」

「うわあ……」


 綾乃大丈夫かな……冒険者だから戦姫ではないけど。

 変な虫に取りつかれでもしてないだろうか。

 無性に綾乃の事が気になりだしたのだが、イケメン兵士Aはそんなの知らないとばかりに話を進める。まあ、知る訳がないのだが。


「因みにですが、これはユウトさんも含まれるのですが、皆さんをこのままの状態で放置をされますと、今度は我が国への密入国者扱いと成ってしまう可能性もありますので今日より1か月以内に何らかの登録を成される事をお勧めします。そうでなければ国が亡命者として身柄の保護はいたしますが……私の口から言うのも変ですが、それは余りお勧め致しません。」


 まあ、みんな正規で入国してきたわけではないから仕方が無いか。

 って!?


「ぼ、僕もです?」

「はい、所属国が未記入となっていますので、必然的にそうなってしまいます」

「あ、あー……そうか。いやほんと自分のパーソナルデータを見れないのって厄介だな」


 まさか自分が亡命者扱いになるとは。

 とはいえよく考えればあながち間違いでは無いなとも思える。


「ああ、まだ生活魔法を手に入れられてはいないのですね」

「はい」

「ここの町のヨロズヤにもある筈ですから手に入れられれば良いでしょう。ではどうされますか?勿論ここで行わなくても1カ月以内ならば自由ですけれど」


「登録をしておいた方がいいです?」


「いえ、んー……特別ここで登録をしておいた方が良いわけではないのですが、そうですね、この町にはどれくらいの期間いらっしゃいますか?」


 どういう意味だろうか?一瞬だけ返事に窮したように見えたが。

 まあいい。余計な事は言わずに日数だけ言おう。


「8日から10日くらいは居ると思います」


 すると目の前のイケメン兵士Aは頭の中で何かを猛スピードで考え巡らせているかのようだ。

 机をトントンと叩きつつ、一点だけを見つめたまま暫し固まった。


「でしたら……8日目くらいにもう一度こちらへいらしては頂けないでしょうか?」


「いいですけど……何かあります?」


「大した事ではありません。単にユウトさんが今後の旅をスムーズに進めて頂けるように、私の方で少し動こうかと」


 気になる。

 がこの人から邪気が伺えない以上、そんなに詮索をするのも憚られる。


「どう動くのか気になりますけど、まあいいです」


「本当にそれだけです。ユウトさんが不利益を被るような事は致しません」


「ははは。まあ信用します」


「ありがとうございます。ではここでの登録はなさらないという事で?」

「はい、皆と一緒に登録をしたいのでベースを決めてそこで登録をします」


「わかりました。では奴隷商の3名と護衛5名分のソウルストーンを除いた13名分の換金と、今回の件を正式に受理したという証拠で、ブレッドさん用に証明書を発行致しますので暫くお待ちください」


「お願いします」


 そう言い残して兵士Aはガチャガチャと鎧を鳴らしながら奥の部屋へ消えて行った。


 換金率は解らないしこんな事シャルルに聞いたところで分からないかもしれない。……というかシャルルは夢の中だろうし。

 まぁ……貰った分でいいや。お金が欲しいから盗賊を倒したという訳では無いし。



 数分後、兵士Aがお盆に硬貨と何やら金属プレートらしき物を乗せて戻ってきた。


「このプレートを持って行き、冒険者ギルドで認証を受ければ問題なく処理されます。しかしブレッドさんの冒険者ランクは確実に1ランクは下がりますのでご理解しておいてください」


「それは構わない。依頼を失敗したのだから当然だ」


「では、報奨金はこれだけに成りましたのでご確認ください」


―――ピロリン……


 何かの音と共に差し出された硬貨の種類と数を見てみると、金貨3枚に大銀貨12枚だった。

 もしかしてカワサキが金貨3枚で残りが一人大銀貨1枚か?


「……一人あたりいくらです?」


「指名手配犯が金貨3枚。後の12名は名も無い盗賊でしたので、結果こうなります」


「ああ正解した。でも名が無いと一人10万ゴルドなんですね」


「はい。あまり高額ですと不正を働く者も出ますし、下手をすれば口減らしのために誰かに家族を殺させてというケースも過去にありましたし。勿論そのような場合は不自然な点が多々見られる為に直ぐに判明しますけれど」


「あまり高額でも駄目だし低額だと誰も討伐しないからという事ですか」


「そういう事です。最初から討伐を目的として動く冒険者は少々の盗賊からはかすり傷一つ負わない程です。それだけ装備の差もあれば腕の差もありますので、そういった方が好んで討伐をなさる場合もありますね。性格的に少し危ない方たちでもありますけれど」


「そうだな。強い奴は本当に強いからな……思い知ったよ」

「ブレッドさんもなかなかだったじゃないですか」


「いや、まあ過去の話はいい」


「失礼しました」


 またまた微妙な空気をだすし。

本日は後1話投稿すると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ