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第13話。 イケメン兵士A。

本日1話目です。

 程なくして本日宿泊予定の”パース”の町が、緩やかな下り坂の先に見えて来た。


 三千人程の町という事で、どれくらいの規模なのかと思ったけれど、案外大きい……というのが率直な感想だ。


 日本での三千人規模の街よりは大きく感じる。理由は家屋が密集しているからだろうか?もしくは平屋が多いからだろうか?

 結局今日は街道を20kmくらい進んだのだけれど、シャルルが言った通り道中で村落らしい場所は全く見られなかったし、1軒屋なんてもっての外だった。


 それだけ危険が身近にあるからなのだろうけれど、日本だと商店街周りとは別に、田園を管理する農家が中心部から離れて点在しているから、人口が中心部からばらけている。だがここパースは柵で囲われた町の外に家は無く、柵の外には畑が広がっているだけだ。ただ、畑では今も結構な人が農作業をやっているようだけれど。


 時間は既に5時前くらいだと思うけれど、季節は夏直前なので日もまだ2時間程度は落ちないだろう。

 ロレイル王国の夏季における農村(200人~500人規模)の生活サイクルは現代日本とは大きく異なるそうだ。経験したことは無いが聞いた限りでは江戸時代以前の生活様式か。


 基本的に朝日が昇る前に起き出して、日の出とともに畑へと出かけ、夕方3時か4時くらいには仕事を終えて日が沈むころには寝るというスタイルだ。

 ライトの生活魔法を持って居たとしても、特別することが無いからだという。することと言えば子作りくらいだろうと。


 それが二千人規模から五千人規模の町――目の前に見える”パース”程度になれば農家ばかりではなく、商店や飲食店も点在する為そこそこ夜遅くまで飲食店や飲み屋が開いているらしい。これが村から町へと変わる境目。あと、朝市などの市場が出てくるのもこの規模かららしい。


 これが更に1~2万人規模になると農業などの一次産業もだけれど製造業などの二次産業や小売業などの三次産業が活発となるらしい。この辺りは日本とあまり変わらないのだろうか?地球における一次二次三次の分類は結構複雑だそうだが。


 加えて2万人規模に成ると風俗産業も表だってくるようになるそうだ。

 要するに2万人規模の町から王国公認の娼館がお目見えするようになるらしい。

 では2万人未満の町では色系の店は無いのか?と言われるとそうとも言い切れない。


 娼館は基本的に各領主が認可すれば出店出来るのだが、娼館で働く娼婦は殆どが奴隷という身分が現実だ。

 因みに奴隷商を営むには国の認可が必ず必要で、その条件も厳しく、尚且つ一人の奴隷商が開ける店の数も制限されている為、おいそれと規模が小さい町には奴隷商店を開く事は出来ないのだそうだ。


 それによって規模の小さい町で娼館を開いた処で娼婦を思うように揃える事が出来ない為、最低でも2万人規模以上の活気がある町にしか娼館は存在しないのだそうだ。


 じゃあ5千人とか2千人規模くらいの小さな町ではどのような色店があるのかと言うと、基本的には夜遅くまで開いている飲み屋の二階で個人的に客引きをしているらしい。


 個人的にとはいえ、そこは当然ながら元締めは存在するわけで、違法な売春である事から娼婦の労働環境としては最も底辺に近く、客を引いても娼婦に入るお金は殆ど無いらしい。


 尚、魔法世界ということで、当然のように避妊魔法も魔法で作られた避妊薬もあるが、効果はどれも半日程度しか持たないらしく、避妊に失敗をするような娼婦も非正規では珍しくないらしい。


 しかもフレイヤ教の教えから、堕胎は一切認められていないので、そうした場合もう生むしかなくなり、仕事も当然出来なくなり、結果最悪のケースに落ちる娼婦が後を絶たないとか。


 5万人規模から娯楽産業もぼちぼち有るようで、代表的な娯楽産業はやはりギャンブルだろうか。どこの世界でも同じなんだなと思いながら聞いていたけれど、この世界のギャンブルはドッグレース改め魔獣レースが一番人気があるそうだ。


 魔獣レースと聞くと、大丈夫か?とも思うけれど、この世界には【テイマー】と呼ばれる職業があり、ある一定の種類の魔獣を手懐ける事を生業にしているのだとか。因みにテイマーになるには<テイミング>というギフトを持って居なければそもそも成れない。


 そしてテイマーがギフト<テイミング>を使用し手懐けられた魔獣は特別人に危害を加える事も無くなり、更にその子供ともなれば元が温厚な魔獣ならば更に温厚になり、元が狂暴な魔獣だとしても育て方によってはテイマー以外にもある程度懐くのだとか。


 聞いた感じでは地球で言うブルドックや土佐犬くらいの危険度なのだと思う。……僕の意見を言わせて貰うならば、十分危険だとは思うが。強さなんてブルドックや土佐犬の比ではないだろうし。


 とはいえレースに使用される魔獣は地域によって異なるのだそうで、一概には言えないけれど、違う種類の魔獣を同時に走らせるような事はないらしい。そもそも魔獣同士も仲が悪い為に同種以外では殺し合いを本能で初めてしまうとかどうとか。思わず本当に大丈夫かよと心配になってくるが。


 魔獣レースの運営方法を聞いてみると日本とは若干異なり、国家も直轄地において運営しているが、地方領主もそれぞれ自領において運営しているらしく、結構な収入源に成っているとの事。


 更に違う事と言えばブックメーカーが獣券を発行するわけではなく、開催会場毎に発券するそうだ。まぁ通信設備も無いだろうし、有ったとしてもギャンブルに通信設備を使うなんて事はないだろう。

 ゆえに当然ながら開催地へ行って、開催地で券を買って、開催地で換金するという方法だ。


 以上がブレッド君が僕に話してくれた、色とギャンブルに関する情報なのだけれど、なんというか……


「旦那も良ければ一度くらい行ってみるといいですよ。色もギャンブルもその土地土地で特色がありますから」


 なんてサラっと言った後で、周りの女性の眼を気にしたのか、今は居ない自分の好きな女性の事を思いだしたのか、不味い事を言ってしまったとばかりに、わざとらしく口笛を吹き出した。


 今時誤魔化すのに口笛を吹く人なんているんだなぁと感心もしたけれど、よくよく考えてみれば、ここは地球ではないなと。

 とはいえ、こちらに来る前にも琴音という僕の妻の一人にも同じ事を言われている。自分達が来るまでは苦労をするだろうから羽目を外してくださいと。


「まぁ、機会があったら……一度くらいはいいかもね」


 そう言うに留めたのだけれど、それを聞いたエルフィナ達は、全く気にも留めないようでもあった。


 そればかりか、


「確かに。様々な情報を得られる場所でも有ると聞きますし、そういう意味でも高級娼館に通う必要は出て来るかもしれません。ご主人様が今後どう生活されるか……ですが」


「そうですね。ユウト様が今後どう動かれるかは分かりませんけれども、必要なら迷わず通うべきだと私も思います……ですけれど、病気だけは気を付けてくださいね。魔法で治るとはいえ」


 なんてエルフィナとフィオナに言われてしまう始末だった。


 皆にはまだ当然ながら僕の目的を言って居ないし、迷って入って来たとしか思っていないだろう。

 ただ、僕の強さは馬車内からとはいえ直接見たわけだし、冒険者になる事は伝えたのだから、普通の生活を送るなんて毛頭思ってはいないのかもしれない。


 だからこそ色んな情報を集めろと言ったのかもしれないが……



 そんな事を考えて居るうちに街の入口に到着。

 街の入口には衛兵が2人立っているが、馬車を停められることも無くすんなり町に入る事が出来た。


「この規模くらいなら検問とかは無いのかな?」


 こっそりとブレッドに聞いてみる。


「余程重要な拠点じゃなければこの規模での検問はありませんね。町に入る為の検問があるのはパースから街道を北に歩いて10つ目の町まで行けば。名前は”エルスーラ”といいますが、人口20万人程の町でその町には冒険者ギルドも有ります」


「へぇ……20万人程度の町だと冒険者ギルドがあるんだなあ」

「そうですね。5万人規模の都市からは冒険者ギルドが大体ありますね。あと、大きな迷宮の近くにある町は、仮に人口が少なくてもギルド支部が設置されている事もありますね」


「なるほど……そういうのもあるのか」


 依頼かあ。

 僕もこれから依頼を受けてそれを消化して生計を立てて行くんだろうな。

 そんな風に冒険者ギルドの事を思っていると、ふと気になる事を思い出した。


「ってそう言えば今回依頼を受けて護衛をしたって言ってたけれど、今回は不履行になるんじゃない?」


「はい。その事で相談があります」


 僕が質問を投げかけた事について、一層真剣な目を見せながら、相談が有るとブレッドは口を開く。


「ん?どうぞ言ってみて」


「今回俺が依頼を受けたのもその町ですが、依頼完了予定日が7月5日だったので、履行不履行に関わらず7月15日までには一度”エルスーラ”へ行って報告をしなければ……」


「今日が6月28日だから、あと17日の内に一度行かないとか」


「はい……申し訳ないです……俺だけで報告する事も出来なくは無いんですが、そうなると証拠が必要になるんです。俺も死んでしまって商隊が全滅してたなら報告する人自体が居ないから、強制的に7月15日に不履行扱いになるんですが」


「今後の為に履行不履行に関わらず報告はしておいた方が良いって事だよね?」


「はい」


 まぁ当然そうだろう。死んでいるなら問題は無いが、依頼を受けておいて不履行なのに生きて居るという事が解れば当然問題が発生するだろう。

 いくら法律がザルとは言え信用問題は別だろうから最悪ブレッド自体死んでいなければ都合が悪いという事にも成りかねないのかもしれない。


 あとは15日までに間に合うか、だけれども。まあ、シャルルのお願いを叶えた後は、”ハイドラ”まで15日程度で進むところを10日程度で行く予定だから、その半分にも満たない距離の”エルスーラ”なら大丈夫だろうと。


 そうブレッドとの話を終えた。


 ◇


 僕達が到着した”パース”の街中に入って最初に思ったのは、子供が割合に多い……と言う事だろうか?

 あちらこちらで子供を見かけるし、それに付き添うように一応老人もいるが、それでも子供の方が圧倒的に多いだろう。


 しかもその子供たちは遊んでいると言う訳では無く、その殆どが手籠を持ち、その手籠の中には果物や野菜や干し肉などが入って居る。

 そして僕らが乗る馬車に近寄りつつ無言で籠を掲げ、少しでも中身が見えやすいように工夫を凝らしている。


「子供も働いて居るんだなあ」


 そうポツリと呟いたのだけれど、それをさも当然の様にブレッドは説明を始めた。


「小さな町は子供も普通にこうやって家の手伝いをしていると思います」


「馬車が街に入って来たから?」

「はい。大人たちは多分畑で仕事をしていると思いますし」


「この国に勉強を教える機関は無いの?」


 その言葉に肩をすくめながら困った顔を見せつつフィオナが口を開く。


「学校は……この国はどうかは分かりませんけれど、小さな町では殆ど無いと思います。それに、例えある程度大きな町でも学校に通える子供は少ないのではないでしょうか」


「この国も似たようなもんですね……文字を書けない大人も多いし、それ以前に読めない人も多いです……幸い俺はどういうわけか姉が頭が良かったので、姉に勉強を教えて貰えたんですが、そうじゃなきゃ算数も出来ないし文字も読めなかったと思いますよ」


 フィオナの言葉にブレッドが続ける。

 エルフィナとセラは何も言わないけれど、馬車の窓から外を眺めつつ、じっと何かを考えて居るようだ。


「そっか……」


「それが当たり前なのです」


 何となく予想はしていたのだけれど、それでも現実を見ると少しモヤモヤっとした物を感じる。

 学校へ行くのが当たり前だった世界から、学校へ行くのも一苦労な世界へとやってきた。


 その現実を見てしまうと、何とかしたいなぁと漠然と思ってしまう。


 頑張ろうな、明日香。

 今はここに居ない、教員資格を持った妻の一人を思い出しながらそう呟いた。



 町の中に入って真っ先に向かった先は騎士団の詰所だ。

 数時間前に起こった出来事を報告しなければならない。


『シャルル』


『はいはーいですの。』


 どうやら今は起きて居たらしい。


『詰所に今から盗賊退治の報告と、僕自身の登録をするつもりなんだけれど、気を付けないといけない事ってある?直ぐに迷い人だって事はバレちゃうんだよね?』


『んー……カルマも恐らくは見られないオーブでしょうし、その他の数値も<鑑定>のようには見られない筈ですの。でもでも、名前と年齢しか登録されていない状態ですから迷い人だという事はバレバレちゃいますの』


 そのカルマって一体どれくらいの数値なのか。


『それって大丈夫なんだよね?』


『問題ありませんのーっ。ユトは既に精霊の泉で祝福を受けているですし、ここの騎士団さんは迷い人さんの登録を頻繁にしている場所のはずですから、全部正直に話してもいいですのよ。迷って来た!と。そしたら所属国だけの登録を勧めてくると思うですの』


『なるほど。でもいつ祝福を受けた?』

『それはー。むふふふふふ♡』


『ああ……そういう事ね……』


 シャルルの含みを持った少しえろっちぃ笑い声で直ぐに悟った。

 精霊は神の僕なのだから、精霊が祝福を授けてくれるとしても何ら疑問はわかない。多少エロくとも疑問はわかない。



 騎士団詰所はソコソコ立派な石造りの建物で作られていた。周りの民家が総じて木造のバラックなのだから、ある意味やたらと目立つのは間違いは無い。


 すみませんと挨拶をして用事がある事を伝えると、奥の方に座り、黙々と事務仕事らしき作業を行って居た男性が、先に話をした兵士に自身の仕事だと言わんばかりに「私が応対しよう」と言いながら立ち上がった。

 鎧が他とは若干違っている感じからして、少し偉い人なのかもしれない。


 その男性は最初に僕を見た直後、一瞬顔を強張らせたような感じで見やったのだが、直ぐに元の爽やかなイケメン顔に戻して鎧をガチャガチャと鳴らしながら近づいて来た。

 そして、見慣れないローブ姿だからなのだろうか、僕のローブをチラチラと気にしながらも、どうしたのかと聞いて来くる。


「どうされました?」


 爽やかなよく通る声で兵士Aに聞かれたので、僕は事の顛末と泉から来た事を話そうとしたのだけれど。


「俺は依頼を受けて護衛をしていたのだが、途中で盗賊に襲われてしまってな。本来なら依頼者と一緒にこの町を通り過ぎる筈だったのだが、俺以外の護衛も依頼主も全員死んだ。幸い俺が盗賊に切りつけられていた時に彼が助けてくれたので、俺だけは生き残れたんだが。」


 何故かブレッドが開口一番喋ってしまって、喋ろうと思って居た僕は口が開いた状態のまま、声も発する事すらせず、思いっきりスカしてしまった。

 まぁどちらが言っても話が伝わればそれでいい。


「分かりました。その報告証明書を発行して欲しい……ということですね?」


「そういう事だ。ギルドに報告しなきゃならんのでね」


「わかりました。では身分証明の為ソウルストーンを確認させて貰いますので、このオーブに手を翳かざしてください。最初は護衛の方から」


 ブレッドは言われた通りテーブルの上に置いてある黒いオーブに手を翳す。

 オーブは所謂水晶玉のように光沢のある球形で、直径15センチ程はあるだろうか。

 若干魔力を放出して居るようではあるけれど、特別不思議な力は感じられない。


 そんな何処にでも……は無いであろうオーブに、手をかざしたブレッドの個人情報を確認しているらしき兵士Aは、淡々と言葉を発する。


「職業は……冒険者……出身地はハイドラ……っ!……か、確認できました。……では次に冒険者ギルドのギルドカードを翳してください」


 どうしたのだろうか?

 何か不味いものでも見つけたのか、一瞬だけ兵士Aの表情が強張ったと思ったらブレッドの顔とストーンを数度見比べた。

 だがブレッドはそれを見ても、なんともないと言わんばかりに無表情で、言われるがままに冒険者ギルドのカードをアイテムキューブから取り出してオーブに翳した。


 なんだろう?この異様な空気は。


「確認しました。では次に、助けた方のソウルストーンを確認させて貰います」

「あ、はい」


 とはいえ僕に手を翳せと促して来たのだから、さっさと同じように手を翳すべきだろう。

 非常に気にはなったがブレッドに真似てオーブに手を翳した。


 どういう理屈なのやら分からないけれど、これで個人情報がある程度みれるらしい。本当に大丈夫なのかな?と思いながらも、翳せと言われてだが断る!なんてアホな事など言える訳も無く、シャルルが大丈夫だと言った言葉を信じるしかあるまい。


 だが、やはりというか、僕の殆ど未記入らしいパーソナルデータを見た瞬間、兵士の顔色が明らかに変わった。

 なんというか……畏怖?恐れるだけではなく……かしこまる?そんな感じで僕を見ながら兵士Aは僕に告げる。


「……こ、この町は……というかこの国自体初めてですね?と言いますか迷われて来られましたね?」

「初めてです。迷ってきました」


 すごい、本当に分かるんだ。

 だが僕のパーソナルデータを閲覧した途端、目の前のイケメン兵士Aは分かりやすい程に動揺を見せた。


 思わず素直に答えたけれど、迷い人という立場とはいえ僕がこの世界にいる事は何ら不自然な事ではないという話だから、正直に答えた方がいいだろう。そもそも嘘をついてもどうやら分かるみたいだし。


 努めて平静を装うかのように、受付をしてくれている兵士の一人は続けて僕へ質問を投げかける。

 だが微かに指が震えているかのようだ。


「な、なるほど、迷い人ですか……んー……」


 どうしたんだろう?。そんな難しい顔をされると途端に不安になるんだけど。

 迷い人に対する反応って皆こうなのだろうか?


「やっぱり見た目と名前で分かるんですね」


 迷い人と言い当てた兵士Aは周囲を見渡し、自分の仲間にすら聞こえない程の小さな声で、僕を見やりながら口を開いた。


「見た目と名前で、というだけではありませんが……もう少し詳しくお教えいただけますか?口に出せる範囲で構いませんので、出来れば正直におっしゃられた方が貴方の為にも良いですよ?」


 先程の優しい表情とは打って変わって、意外と鋭い目つきを浴びせて来るイケメン兵士Aに対し、どう答えるべきか少し思案を始める。ただ、言葉は丁寧なのだが少しだけカチンと来た。

 正直に話した方があんたの為になるんだぞ?的な。


『むむむむ?』


 シャルルももしかしたら同じような違和感を感じたのかもしれない。


「それって威圧です?」

『威圧に聞こえたですの』


 良いだろう。売られた喧嘩は買うのが男の子だ。

 買っちゃいけない相手だろうに何故か買ってしまった愚か者の僕。

 だがその言葉に一瞬で真っ青になる兵士A


「い、いえ。決してそんなことは。言い方が不味かったようですね。謝罪を致します」


 そう言いつつ丁寧に頭を下げて来た。

 その様子を見ていたブレッドが目を丸く見開く。


 なんだ?先ほどからこの二人の雰囲気がどうにも気になる。

 でも良かった。売ってなくて。


「威圧じゃないならいいです」

「威圧などとんでもありません。何といいましょうか、本当に迷って来られたのか?と」


 焦る様にそう口にするが、騎士団員って迷い人全員にこういう遜った対応をするのだろうか?

 なんだか気になる。まるで、僕が迷ってきた人ではないと気付いているかのような。


『あらら……もしかしてこの人族ちゃまは……』


 シャルルも明らかに不審がる。

 どうする?言うか?だが言ったところで通じるのか?


『言っちゃえ!』


 よしわかった。

 僕は単細胞だ。

 何とかなるだろ。


 とはいえたったの4か月間の内にある程度の基盤を作っておかなければならないのだから、この程度で立ち止まって居る時間なんて無いんじゃないのも確か。

 そもそも色んな事を想定して転移して来た訳だけれど、ある程度全部ぶっちゃけてしまった方が、逆に動きやすいんじゃないか?との結論を昨晩桃子達と出したじゃないかと。


 だからシャルルの後押しも有り、考える事を放棄した僕は洗いざらいぶっちゃける事にした。


「確かに僕は迷ってきたわけではなく、自分の意志で、ある方の力を借りてある目的の為に今朝転移して来ました。目的はおそらく言っても信じて頂けないでしょうが、必要ならば言います」


「んぁ……旦那……?……え?」


 さあどう出る?

 隣のむさっ苦しい筋肉モリモリ男の反応は放置だ。

 真っすぐにイケメン兵士Aを見据え、返答を待つ。


「やはりそうでしたか。……理由は私が聞いても理解できないでしょうからおっしゃる必要はありません。ですが、遥か400年過去にもお一人、ご自分の意志と、さるお方のお力添えで転移されてきた方がいらっしゃるという記述は残っていますので、恐らくは其の方と同じ方法でこられたのでしょう」


 僕の軽いぶっちゃけを聞いた兵士Aは、聡いのだろうか自分の手には負えないと判断したようで、詳しい理由は聞いてこなかった。

 ブレッド?当然口があんぐり開いたまま目が零れ落ちそうな状態ですね。……よだれまで垂らしそうなほどですよ。


『ふむん……ふむむん……でもでも大丈夫ですの。やっぱり何も問題はないですのよ』


 シャルルが唸った。けれどさっさと自分だけ納得をしてしまう。

 唸った意味を聞いてみたいけれど、この場で聞けるわけもなく。

 再度大丈夫だと言ったのだから、今はそれを信じるしかないだろう。


 とはいえ三代目の事も知って居るのか。まあ、結構派手にやらかしたと言うし、記録として残って居ても不思議じゃないか。


「いいんですか?もしかしたら僕はこの世界を破滅に導きに来たのかもしれませんよ?」

『言ったですねぇ……さっきの仕返しですのね?シャルルはこういうけん制は好きですの』


 あえて言わなくてもいい言葉を投げかける。

 その意味はないのだけれど、どうやらシャルルは先ほど威圧に聞こえた言葉の意趣返しだと捉えたらしい。好きだという辺り、きっと今は悪い顔を見せている事だろう。シルフは悪戯好きだっていうしな。


 でも、目の前のイケメン兵士さんはどう出るだろうか?

淫語などは伏せて投稿しているのですが、いかんせん元がノクターン版なので伏せ漏れがあるかもしれません。

なのでお気づきの方は知らせて頂けると助かります。

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