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第9話。 先輩転移者。

「へっ!ばーかめが!とんだ甘ちゃんだなぁ!」

「二対一なら負けねぇ!あんな美味そうな女を諦められるかよ!」


 解除した途端に豹変し、僕を目掛けて襲い掛かって来た。

 馬鹿はお前らだ。


「まぁいいや……さようなら」


 僕はそう言いながら二度程ムラサメブレードを盗賊の顔面を目掛けて振るう。


「ひぎっ」「あぐっ」


 盗賊二人は薄ら笑いを浮かべながら顔の上下が真っ二つとなりあっさりと崩れ落ちた。


 人の記憶が視える異能の<念視>がこちらの世界でも使えていれば、こんな茶番など必要はなかったのだが……

 まあ、持ってこれなかったのだから仕方がない。

 そう頭を切り替え、またまた顔だけぴょこんと出したシャルルに先ほど気になった事を聞く。


「ところでさ、シャルル」

『ハイですの!』

「助けた女の人達ってやっぱり……奴隷?」

『あの首輪に掛かっている魔法式は能力封印の式ですから……恐らくは奴隷さんですの……』


 そう言ってシャルルは少し悲しそうな顔を見せた。

 やっぱりこの世界の奴隷も虐げられるしかない存在なのだろうか。


「そっか……ちょっと奴隷制度を簡単にでもいいから教えてくれるか?」

『ハイですの。でもでも基本的な事しか分からないですけど……』

「それでいい」

『ハイですの。……この世界の人口は約5億人程いるですが、奴隷さんは全体の20%強を占める人数ですの。』

「え?にじゅ……」


 そんなに居るのか?一億人……?……ウソだろ……

 僕はその人数を思い浮かべただけで眩暈がする思いがした。


『たくさんいるですの。それで――』


 それから奴隷についてかいつまんで教えて貰った。

 シャルルはこの国の奴隷制度しか知らないらしいけれど、それでもやはり聞けば、ああ、奴隷制度だなと。僕が知っている奴隷制度に程近かった。


 とはいえこのロレイル王国という国は奴隷に対して割と優しい国だという。

 他の国はもっとひどい筈だと言われ、奴隷制度になじみの全くない近代日本に育った僕としては、カルチャーショックも良いところだった。


「でもまあ、口減らしってのは昔の日本でもあったらしいし、家族が生きて行かなければ成らないなら、誰かが犠牲にならなきゃならないのかもな……この世界でも」


『悲しいですがそれが現実ですの。でも、全ての奴隷さんが不幸という訳ではない筈ですのよ』


「そうなのか?」


『ハイですの。幸せな奴隷さんも居るのは確かですの』


「まあ、一握りだろうな、そういう人は」


『ですの』


「ふぅー……そっか……」


  奴隷について知りたい事はおおよそ分かり、深く溜息を吐いた頃、盗賊二人のソウルストーンが死体から浮き出た。

  僕はそれを手に取りマジックキューブに入れて馬車の処まで戻る事に。


「……奴隷についての話はまた後で。一先ず馬車の処まで戻ろう」

『ハイ!戻るですの!』



 木枠で覆われた馬車まで戻って見ると、馬車の傍で護衛の一人が目を覚ましているのが分かった。

 馬車の車輪部分に背中を預け、今は助けた女の子が濡れタオルで体を拭いてあげているようだ。


  急いで駆け寄ると護衛も僕に気付いたようで、ゆっくりと体をこちらに向けて来る。


「目が醒めましたね。僕は悠斗、貴方は?」


「あぁ……助けてくれたんだな……傷の回復もしてくれたようだし……本当にありがとう……私はブレッドと言う名だ。仲間は……他の護衛はどうなった?」


 既に何となく分かってはいるだろうに、それでも心配なのか聞いて来た。


「残念ながら護衛5人と御者と商人は間に合いませんでした」


 首を横に振りながらそう告げると、ブレッドと名乗った男は目を伏せる。


「そうか……この街道は比較的安全だって話だったのに……」


「……こういった事は珍しい?」


「いや、ここ半年近くそういう話は聞いてなかった……」


 珍しいのか。だとするならば……


「どこかからか流れて来たんですかね。……何にしても多分まだ盗賊の仲間は居ると思います。最後まで残した二人にアジトを聞いても吐きませんでしたから、この近くにアジトが有ると思って良いでしょう」


「そうか……君が一人で盗賊を退治してくれたのか?」


 ブレッドさんはあたりに散らばっている死体に目をやって言った。


「ですよ」


「10人は居たと思うが……凄いな……」


 まずいか?

 まあ、馬車の中にいた5人には既にバレてしまっているわけだし、仕方がない。


「それなりに鍛えては居ますからね」


「俺らもそれなりの冒険者だったんだがなぁ……奴らは強かった」


 ん?盗賊ってそんなに強かったのか?

 ブレッドさんの言葉と表情に少し疑問が湧く。

 この人も見た感じそんなに弱そうには見えないし。


「強そうに見えなかったし、実際に強くなかったんですけど、どういう状況でした?」


「いきなり6人の内3人が弓でやられちまって、そこから一気に雪崩れ込まれたって感じなんだが……どう考えても普通の弓使いじゃなかったと思う」


 弓か……

 確か最初に倒した中に居たな。


「ちょっと失礼」


 気になったので話を切り上げて弓使い二つの死体を見に行く。

 フードを目深く被って居たので、ムラサメを使ってめくる。


 すると――


「あー……こいつか?」


 弓を持ったままの男のフードをめくれば、明らかな東洋人顔がそこにはあった。

 試しに他の奴らを見ても白人顔だったのに、一人だけ違う顔。


 転移者か……


 まだ高校生くらいの顔付きを見せるその男を見下ろしながら、酷く寂しい感情が沸き上がる。


『シャルル、こいつって転移者?』


 馬車が近いのでこそこそっと。

 呼べばシャルルは切れ目を作って目だけをぎょろっと覗かせる。

 そして一定時間ジッと死体を見た後、


『どれどれ……あ、そのようですの……この人は確かに転移者さんですのね。ヒロノリ=カワサキという名前ですの。弓系のギフトも持ってますの』


『やっぱりか。でもまさかこの世界へ来て最初に会った元日本人が盗賊だとは……結構なショックだな……』


『……残念ですがこれが現実ですの……こういう転移者は多いですの……』


『そっか……』


 考えてしまい少し陰鬱になりつつも、ブレッドさんの元へと戻り説明をする。



「一人転移者らしき男が居ましたね。多分ギフト持ちだったんじゃないですかね」


「やっぱりか……」


 悔しそうな表情を見せるブレッドさんだが、彼は何を考えているのだろうか。

 えもすれば既に僕は転移者だと気付かれているかもしれないし、転移者に対して嫌悪感を抱いているのならば、あまり関わり合いには成らない方がいい気がする。


 とはいえ、擬態を行えない以上、僕の顔は東洋人そのままなのだから、これから常に転移者では無いかと疑われるわけで。

 そう考えると、人と関わる以上隠すのはさっそく無理なんじゃないか?とそら思えてくる。


 まあ、転移者の子孫も結構いるみたいだから気にする事もないのかもしれないけれど。

 しっかし転移してまで何やってんだよ全く……


 少し離れた場所に横たわるカワサキの死体を睨みつけながら、そう独り言てみたところでどうしようもない。

 むしろ転移する前から悪い事ばっかりやってた人間かもしれないし。



 さて。

 いつまでも考え込んでいたところで仕方がない。

 夕方までには町に行きたいのだからと、この後どうするか話をする。


「護衛仲間と御者と商人はどうしますか?」


「ソウルストーンだけでも持って帰った方がいいだろう……亡骸は……仕方が無いがそのまま放置にするしか……」


「じゃあ火葬か埋葬してもいいです?」


「!それはとても有り難いが……良いのか?魔法でも使えない限り手間がかかるが……」


 この人は僕が魔法を使える事を知らない。

 まぁ、僕がここに到着した時には既に虫の息だったわけだし。


「大丈夫だと思います。火魔法を使えるので一か所に纏めて火葬をしてあげましょう」


「そうか……じゃあ宜しく頼むよ」


 そう言って僕とブレッドさんは盗賊も含めた全員の亡骸を二か所別々に集めた。

 盗賊まで火葬する必要は無いとブレッドさんは言って来たけれど、街道に放置するのも迷惑になるし、死体の匂いにつられて、魔獣や魔物が反応して街道に出て来る事も考えられるというシャルルの言葉もあり、護衛の亡骸とは別にだけれど燃やしてしまう事にした。


「さて……ソウルストーンは回収したが、一応全部君が持って居てくれないか?あと、これは商人のギルドカードだ」


 そう言いつつ8人分のストーンと、ギルドに所属したら必ず配布されるらしいカードを手渡してくる。

 黒いのもが3個と乳白色のものが5個。その中でもとりわけ1個は禍々しい程にどす黒い。誰のものかなんて、僕やブレッドさんならば直ぐに分かる。


 そしてギルドカードと呼ばれたカードは金色をしており、何気に表も裏も何も書いてはいない。

 ただ、わずかに魔法を施した痕跡が感じられる事からも、説明されたようにオーブに翳せば何らかの情報が得られるのだろう。


 そう珍しそうにカードを眺めつつ、キューブに一つ一つストーンを入れて行く。


 ブレッドさんはそれを見やりつつ何かを言いたげだったが、時間が惜しいのか言葉を飲み込むように必要な言葉だけを告げる。


「……盗賊の所持金や装備で金に成りそうな物は剥ぎ取ってこっちに置いて、俺らの護衛が着て居た防具は使い物にならないが、マジックキューブ内の装備とお金はここに、御者と商人の持ち物はあちらに置こうか」


 そう口にし、その後すぐにテキパキと行動を始めるブレッドさんに、僕は若干の違和感を感じた。

 顔を見れば疲れたような表情はうかがえるのだが。


『妙に慣れてるなこの人』

『それがこの世界では日常的な事なんですの……』

『そっか……なんだか嫌だな……』

『仕方がないですの……』


 僕はそれ以上何も言えず、ブレッドさんに頷いて、死体からお金と使えそうな装備を剥ぎ取って指定の位置へ置いて行った。


 盗賊が装備していた武器と防具は魔法装具ではあったのだけれど、魔法防具は当然ながら僕が耐久値ごと叩き切った。なので防具としての使い道は今のところ無いし、修理をしてまで使いたいと思う程の防具でもなかったようだった。


 武器も特別大したものではなく全てノーマルランクだったのだが、転移者が装備していた弓はそれなりの物だったようで、こっそりと<鑑識>をしてみれば、名前部分が緑色だった。


【名称:ハンターボウ】

【分類:長弓】

【ランク:レア級】

【属性:無属性】

【ATK:30】

【耐久値:151/999】

【備考:ハンターの称号を協会から得た際、協会から贈与される一般的なレア武器。】


 ……レア級……か。


 装備のグレードは、【ノーマル】<【レア】<【レジェンド】<【ユニーク】<【幻想】<【神話】という感じで6段階に分類される。


 <鑑識>をした際の名前の表示色はノーマルから順に、白、緑、青、黄、橙、紫色になるそうだ。

 僕が持って居る<ムラサメブレード>と着用している<オーディンローブ><オーディンボトムス>は幻想級と神話級なのでそれぞれ橙色と紫色で表示されている。


 因みにノーマル級とレア級は出来ないが、レジェンド級以上になると所有者を指定する事が出来る。指定済みの装備は他者が使用しても魔力的効果は得られず、武具も防具も本来の能力は得られない。が、持ち運びに関しては可能。


 所有者状態の解除に関しては、所有者本人が解除魔法<キャンセラ>を唱えない限り解除は出来ないけれど、所有者本人が死亡してしまえばその魔法装備は自動でUNKNOWN可され、新たな所有者を決める事ができるようになる。


 なのである意味僕が今着ているオーディンローブなんて、赤ちゃんが着る事だって可能というわけだ。

 勿論<アクセプト>が唱えられることが条件ではあるのだけれど。


 あ、因みにカルマが少しでもマイナスだと聖属性装備は<アクセプト>を唱えても不発するらしい。

 なので不発して「お前のカルママイナスなのか……」と周囲に愕然とされるオチも有るとか。


「さてっと、集めたぞ」

「こっちも集めた。弓使いの一人だけが10×10で1ページのマジックキューブを持って居たけど、後の奴は持って居なかった」

「こっちの奴は誰も持って居なかった。盗賊だからだろうがな」


 マジックキューブは高価だ。

 作れるのが伝説とまで言われるハイエルフとシルフだけなのだから仕方がないとは思うけれど、一体どこで作っているのか聞いても『きぎょうひみつですの!』と言って教えてくれなかった。ただ、作れる場所と材料が決まっているらしく、どこでもかしこでも作る事は出来ないのだとか。だから高価なのだと。


 因みに、僕がシャルルに貰ったマジックキューブは白金貨でようやく買えるかどうからしい。日本円に換算すると1億円。カワサキが持って居たのはそれよりもグレードが低いがそれでも大金貨1枚はするそうだった。とはいえ、どえらいものを僕はもらったものだと。


「武器の価値的には……弓以外はゴミ同然だな。耐久値もまあ多分残っているとは思うが」


 盗賊が持って居た武器をブレッドさんが一つ一つ見やりながらそう口にした。


 僕とブレッドさんで集めた盗賊達の武器は、ハンターボウ2本とファルシオンという片手剣3本とバスタードソードという両手剣が6本とパイクという槍が2本で、どれも耐久値に問題は無さそうだった。マジックキューブの中には金貨2枚分のゴルドしか無かったので、これで全部。


 死亡してから数分経過すれば、マジックキューブが体から分離するだけではなく、中のアイテムも同時にばら撒いてしまうらしい。なので余計な装備は持ち歩かない……という事なのだろうか?


「防具は綺麗にぶった切られているし、修理してまで使う程のものでは無いな。しかしこの切り口は凄いな……こんなの見た事もない。剣が良いのか腕がいいのか……」


 僕をチラリチラリと見やりながら何か言っているようだが知らん顔をする。


 因みにこの世界の理ことわりにより、魔法防具の耐久値が0になって初めて生身の肉体に傷がつけられる。

 だからホットパンツにノースリーブのような形状の物や、挙句ビキニアーマーなる魔法防具も存在するらしい。


 その姿を想像しただけで鼻血がでそうになってしまうけれど。

 巫女達に着せたら、僕が戦闘どころの騒ぎではなくなりそうな気がしなくもないが。


 そんな夢のようなトリップを仕掛けていると、作業が終わったブレッドは額に流れる汗をぬぐいながら、僕に向かって言う。


「……盗賊どもの装備はこんなもんだな」


 盗賊達の所持金は13人全員分を合わせても金貨3枚にも満たない有様だった。

 結局装備もハンターボウ以外碌な物は無かったようで、それが分かった途端に何故だか解らないけれど、ブレッドさんはがっくりと肩を落として項垂れていた。


「次は護衛だが……」


 その反面、護衛が装備していた物は結構質が良い防具だったようなのだけれど、武器は耐久値が十分残って居たが、やっぱり防具は盗賊達が装備して居たのと同じ様に使い物にならなくなっていたようだ。

 ゴルドもそこそこ持って居て、キューブも一番ランクが低いものだが5人分あった。


「最後にこいつらか」


 見ればまあ凄いのなんのって。

 御者はまぁ、お金も殆ど無いし装備も大したものは無い。


 だが、びっくりしたのは商人がマジックキューブ内に持って居た装備だった。

 僕が持つキューブと同じものを持って居たようで、中には色んなものが詰まっていた。


 主だったものを挙げれば、ミンクルという魔獣の毛皮から作られる暖かくて防御力がそこそこ高い【ミンクルのコート】という外套や【オーガトゥース】というオーガの牙を材料にした短剣だろう。


 とはいえこの外套は貴族のご婦人の間で大流行しているらしく、最低でも大金貨1枚はする値打ちものだとか。しかもお土産だったのだろう装備をしてはいなかった為に耐久値もMAX状態だった。もちろん短剣も同様で、金貨数枚はするようなレジェンド級の武器だった。


 他にも【グラディウス】だとか【ダマスカス】だとかのレア級短剣や、【シルバーローブ】や【皮のマント】などノーマル級やレア級どまりの物が多数。それでも合計すると凄い価値だが。


 そして商人が直接装備していた防具は【ロードクロース】という防御力が高く動きやすい商人が好んで着ている魔法防具だったのだけれど、こちらはしっかりと耐久値が0になっており、このままでは修理をしなければ使い物にならない状態だった。とはいえロードクロースはレジェンド防具でもあるので修理して売っても利益は十分得られるだろうとの事。


 それよりも更に驚いたのは商人が持って居た所持金で、大金貨が15枚に金貨が18枚、大銀貨が4枚に銀貨が40枚という結構どころではない大金を持ち歩いていたことだった。

 勿論、死亡した後のマジックキューブから噴き出て来たものだから、普段はこんなお金は持ち歩いてはいないだろう。


 奴隷を買い付けた後の残りなのだろうか?……そう思うとまたまたやるせない気持ちにも成ってしまう。



 そうして装備を集め終わり、今度は死体を燃やす為に二か所に纏める作業を黙々と行う。

 やはりこんな街道のど真ん中に死体を残しておくと通行人の迷惑にしか成らない。

 それに馬車も1台しか持っていかないのだから、小さな方はここで燃やしておいた方がいいし。


「さて、こんなもんだな……じゃあ燃やしてくれ」


 準備が整ったと言うブレッドさんは、思いの外落ち込んではいないようだ。

 やはり不自然にしか思えなかったのだけれど、そんな気持ちを押し込んで、目の前に山積みにされた死体を燃やす事に専念する。


「分かりました。ちょっと離れてください」


 僕の言葉に無言で頷き、結構な距離を開ける。

 それを確認し、目を閉じて集中をする。 


 すると直ぐに手の先に魔力が集まる。

 そして死体を詰め込んだ馬車に手のひらを向け――


「――ファイアーストーム!!」


 そう言って僕は火属性中級小範囲魔法<ファイアーストーム>を発動した。


 ゴゥッと轟音が鳴り響き、竜巻のような炎が遺骸全部を覆いつくしつつ巻き上がり、集められた遺骸を瞬く間に骨も残さず塵にしてゆく。

 その様子を最初はびっくりして見やっていたブレッドさんだが、やがて仲間が塵に成って行く姿を眺めて居ると、流石に思う事があったのだろう、彼は顔色を左程変えはしなかったけれど、大筋の涙を流して居た。


 首輪をされた女性4人も火葬されて行く骸を無表情で眺めている。

 自分達を買い取った奴隷商人は居るし、護衛とは言えそれは奴隷商人を護って居ただけなのだから、無表情も仕方がない処なのだろう。


「ファイアーストームを見たのは何度もあるが……これは凄い威力だな……しかも増幅武器も無しでだから相当な魔力って事か」


「中級魔法だから使えるウィザードは多いはずですけど」


 なんとまぁ適当な事を言ってみる。

 中級魔法はウィザードの称号を得て居なければスクロールを売って貰えないけれど、ウィザードの称号を持つ黒魔術師は結構存在すると予めシャルルに教えて貰っていたから言えた言葉だ。


「しかし……まぁいい。じゃあ装備を片付けて町へ戻ろうか」


 ブレッドさんは、そんな事言ったんじゃないんだがなといった表情を見せたけれど、それ以上は突っ込まないようで、そう口にした途端に馬車の方へと歩きだした。盗賊を焼くところを見ても仕方がないと言わんばかりに。

 だが、ちょっとまって、これどうするんだ?


「装備の分配はどうします?」


 山積みになった装備に気付き、急いで盗賊どもの亡骸を燃やしたあとそう聞いたのだけれど……

 僕の言葉に怪訝な表情を浮かべながらブレッドさんは口を開く。


「分配も何も君が全て倒したのだし、俺は命を助けて貰った身だ。命があっただけでも儲けものだし、そもそも俺から君にお礼を渡さなければならない」


「お礼は言葉だけで。そもそもお礼を期待して助けた訳では無いし。依頼をされたなら話は別だけど」


「しかしそれじゃあ……」


 意外だったのかブレッドさんは目を丸く見開きつつ困惑をする。


「いいんです。それと仲間の装備とお金もブレッドさんが。形見とかあるでしょうし」


「確かにそうしてもらえると奴らの家族に渡す事が出来るから助かるが……いいのか?」


 ああ、そうか。

 遺族に渡す物も当然あるよな。


「はい、家族が残されたなら尚更に。あとは商人の装備やお金はどうすれば?」


「それは当然君の物だ。但し死んだのは正規奴隷商人だから、ソウルストーンとギルドカードは騎士団詰所に証拠として持っていかなければならない。一旦全て預けたあと確認後どうするか指示があるだろうが、恐らくは君のものだ」


「あ……やっぱり奴隷商人だったんだなあ」


 わざとらしく今知った風に言ってみた。


「ああそうだ。こちらの国から連れて行った奴隷を隣国で売って、その場で買い付けた奴隷の搬送中だったんだ」


 だから余分にお金を持って居たのか。

 人が売買された結果のお金だと思えば気持ちのいいものでは無いなと。

 地面に無造作に積み上げられている硬貨を見やりながらそう思った。


 でも、


「正規の奴隷商人ですか……」

「勿論そうだ」

「ふむ……隣国で買い付けたというのはよくある事?」

「んー……余りないね。……そもそも隣国で買い付ける必要が無い……」


 人口の20%も奴隷が居るならば、それこそ国外で買い付けをする意味は無いだろうな。

 だとすると、あえて隣国に行かざるを得ない状況だった……という事か。

 行かざるを得ない理由なんてものは、それこそ幾らでもあるだろうが、どのみち碌な理由だとは思えない。


「なんだかキナ臭いな」


「まぁな……でも俺らはギルドで依頼を受けただけだから、そういう詮索はしちゃいけないんだ。だから詳しくは解らないが、まぁ君の想像通りだと思うよ」


 そう肩をすくめながら、僕に苦笑いを浮かべるブレッドさん。


「なるほどね。じゃあまあそういう事で出発しましょう」


「御者は俺がするから君は幌内の奴隷達を見ててくれるか?」


「見るというのは、監視をする?という事?」


「んー……今回は商人自体が死んでるんだが、その首輪は魔法道具でね、奴隷商に雇われている専用の術者以外には外せないんだ」


 封印を解く類のスペルは持って居るはずだ。

 天照様が無駄に古代魔法エンシェントスペルだとのたまっていたから覚えて居る。


 そう思いながらスペルリストをみる。

 あった……恐らくこれで解除出来るだろう。


 でも確かに僕なら外せるだろうが、外すのはブレッドさんがある程度信用できる人間かどうかを、見極めてからでも遅くはないだろう。


 何故かって?奴隷解放時の条件そのたもろもろを僕はまだ知らないから。


「ですか。ではまぁ少し話をしてみるから御者の方はお願いします」

「ああ、任せてくれ。徒歩が居ないのと4頭曳きになった事で少し速度を出せるから、大体2時間程度で”パース”の町に着くだろう」


 その言葉に頷いて、馬車の後ろに回り込む。

 さてっと、何から話そう。


『ユト~ユト~ユト~~』

 荷台に乗り込もうとしたとき、気の抜けた呼び声でシャルルが僕を呼ぶ。


『どした?』


『この人たちどうするですの?』


『それを今から決めようかと。話を聞いてみてだが』


『ほむーん……できれば解放してあげて欲しいですの!』


『理由は?』


『恐らくですけど……この人たちは拉致された人達ですの……』


『そうなのか?……ふむ。因みにだけど解放って<エンシェント・ディスペル>で解放ってことだよな?』


『ですの!』


『わかった。まぁ話は聞いてみようと思う。解放する事を前提にはするけれどな」


『さすがですの!ユトは流石ですの!こんどお礼にふやけるくらい、お〇んちんをちゅぱちゅぱしてあげるですの!』


 声のトーンを1段上げてシャルルが喜びをあらわにする。

 そんなに嬉しい事なのか?とも思うけれど、綺麗な気しか体に纏わない種族がシルフだと言うのだから、シャルルが願う事は完全に善なのだろうし、善行を僕が行なおうとしてくれるのだから、喜びもひとしおなのだろう。


 というか、ちゅぱちゅぱの結果で出てくる白い液体は自分にとって大事な液体なんじゃないのか?と。いやまあ僕にとっても大事な液体ですが。


 そんな風に思いながら馬車の荷台へと入って行った。

 楽しみだなとも思いつつ。

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