Three -1-
「なっ……何してん、の……?」
星と修一と私は生まれたころからの幼なじみ。
家が近所で小さなころはよく3人で過ごしていた。だけど中学生になり思春期になれば派手だとか地味だとか男だとか女だとかを意識し始めて自然と一緒にいることがなくなった。(前者は修一と星のことでもちろん後者は私のことだ。)
でもそれはよくあることで特に気になど留めていなかった。自然の成り行きだと思う。
中学、高校と卒業して私と星は反抗期も然程なく今まで平凡に成長したと思う。(変わったことといえば今はもう亡き母に似て、視力ががくんと落ちたことくらいだ。)
だけど修一は少しムシャクシャしたようで上手くいかなったように思う。目つきなんかが特に怖くなって睨まれでもしたらドキリとしてしまう。
大学生になったころには以前よりずっと落ち着いてはいたけど、どこか地に足が着いていないように思えた。
せっかく受かった大学もあまり出席していないようだと修一のお母さんが嘆いていた。
私と星は偶然にも同じ大学を受験し見事ふたりとも合格することができた。それがきっかけで昔のように遊んだり家を行き来することが増えた。
―――そんな矢先の出来事だった。
今にして思えば、とんでもなく無粋なことを私は聞いてしまったのだろう。
普通の人ならばきっと「ごめんなさい」などと言って静かに扉を閉め、その後に動揺だとか混乱だとかしただろうに。
動揺からか混乱からかは分からないが、扉を閉められずそんな滑稽な質問をしてしまったのだ。
だが修一はそんな動揺した私のことなんかお構いなしに星の上に乗っかったまま「せっくす」としれっと答えるのだ。
そうしてやっと私は冷静になれた。
「…………ごめん」
だけど、そっとなんて無理だ。思いっきり勢いをつけて扉を閉めた。その反動でメガネがずれ落ち床に叩きつけられた。
なんて。なんて。なんて。なんてものを私は見てしまったのだろう。
星の部屋の扉を閉め、しばらく頭を抱えた。ぼんやりと床に落ちた自分のメガネをながめていた。
すると扉の向こうでずっと黙っていた星が甘い声を上げていた。
「ちょっ……しゅう……も、イヤや…… んっ」
居た堪れなくなって星の部屋の扉を力いっぱい蹴り飛ばし、その場を去った。
扉はきっと壊れた。バリッという鈍い音がしたし自分の足が食いこむ感触があった。
走って星の家を後にし自分の家へと向かったが、足に痛みが走り、道端で蹲った。
足を見るとストッキングが破け、そこから見える肌が赤く染まって血を流していた。
痛い。痛い。痛い。痛いよ、星―――。
視界がぼやけているのはメガネをかけていないからか、それとも泣いているからか。
星が修一のことを好きなのは知っていた。
長いあいだ、ずっと片想いをしているのも知っていた。
修一が荒れた時も星はずっと修一のことを気にかけていた。
けど。けど。けど。だけど。
修一には恋人がいることを星も知っているはずだ。
ずっとつき合いがない私でも知っていることなのだ。修一の恋人の存在を星が知らないはずがない。いや、そんなこと以前に。
男同士だもん。報われない恋だと、不毛の恋だと、私はどこか安心しているところがあった。
星がずっと修一に恋をしていたならば星はずっと誰のものでもないままだった。
もしももしも星が修一に想いを告げたとしても振られることが前提だった。
星は泣きむしだから泣いてしまう彼の髪を撫でて「ツラかったな」と励ますことまで考えていた。
片想いのその苦しみをもっとも分かってあげられるのは私なのに。
恋人になんてなれなくていい。近くにいるのは私だった。私のはずだった。
星が好き。大好き―――
これは罰なの?
そんなことを考えていた私に、私が大切にしている人を、神様は傷つけるの?