Cherry Blossom
今日で最後、と私はくんっと上を向いた。
はらり、肩にひとひら落ちた、桜の欠片。
摘まみあげて息を吹きかけると、それはふわふわと空中を泳ぎ、足下へと着地する。
―――明日の天気予報は、大雨。
この桜を拝めるのも、今年は今日が最後なのだろう。
「吏桜」
吏桜。
この桜の、精。
その精に向かって、私はゆっくりと呼びかけた。
「結花か」
結花、と私の名前を呼んだ吏桜。
満開に広がる桜の中から吏桜が、ふわっとした動作で現れた。
風がゆるやかに吹いて、セーラー服の裾を揺らす。
桜吹雪が舞っている光景に、私は笑みを漏らした。
「今年は咲いてられる日数、少なかったね」
「ほんとだよ。明日が大雨ってどういうこと?」
吏桜が、さらりと靡く長い髪を無造作にかきあげる。
その動作は、あまりにも綺麗過ぎて。
思わず息を飲んだ。
「俺だって歳くらいとるってのに」
そう、吏桜だって歳をとる。
今年16歳なら、来年は17歳。
それに伴って外見も変わっていくから、毎年吏桜を観察してると面白い。
「16歳の外見、今年だけなのにさー。今日限りだぜ。よく拝んどきな」
「歳とるのが早く感じない?」
「感じるっつの、だって俺にとったら、1年が約1ヶ月だぜ」
そう言って、長いため息を吐いた。
「吏桜」
私は右手を伸ばして、吏桜の髪を掬おうとする。
だけど、伸ばした右手は吏桜の手に引っ張られて。
そのままぎゅうっと抱き締められた。
「…どうしたの」
「1年に1回しか結花の温もりもらえねーの」
白い装束を纏った吏桜の腕の中は、温かくて。
「十分あったかいよ」
「心が凍えてんだよ」
吏桜は乾いた声で笑った。
その瞬間だった。
ポツリ、と頬に雫が落ちてきて―――
大きく目を見開く私に、吏桜はまた、にこと微笑む。
「来年の約束」
こつん、と額をあてがう。
優しい笑顔が、顔中に広がった。
「またこの場所で、会おう」
変なの。
毎年、当たり前のように会うのに。
「うん」
そう答えたら、吏桜は現れた時と同じように、ふわっとした動作で消えて行った。
消えると同時に、桜吹雪が一層激しくなり、一欠片が髪に吸い込まれて。
“またね”
そう、囁いた気がした。
End…
ファンタジー要素と恋愛要素を組み合わせてみた短編。
いかがでしたでしょうか?笑
…この後の解釈って、色々出来ますねw
皆様にお任せします←
それでは。
ここまで読んで下さった皆様に、最大の愛と感謝を込めて。
With love...
ありがとうございました!!!