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魔女の娘の秘密  作者: みあ
本編
8/53

「もう少しですわ」

 先導するアデレイドが言ってからしばらくして、ようやくフィーアは久々に彼女以外の人を見た。


 扉を守る見張りのように直立不動なのはどこか見覚えのある人。どういうことだと怪訝に顔をしかめてしまった後にフィーアはその正体に気付いた。

 今日は一度も見かけていないアデレイドの兄が、騎士らしからぬ姿でそこにいた。生真面目な顔で直立不動なのはいかにも騎士めいているが、今はあのちっとも実用的ではなさそうなピカピカの鎧を身につけていなかった。


「あら、お兄様」

 アデレイドがそう声をかけ、おそらくは同一人物だろうと確信する。どうなさいましたのと続く妹の言葉に、今は騎士らしからぬ姿のアデレイドの兄はどこか不満そうに口を開く。


「王妃殿下のご要望だ」

 心の中で騎士騎士と呼んでいたものだから、その姿には大きな違和感がある。騎士というよりは貴族めいた衣服は、本来公爵の嫡子である彼も着慣れているらしく着こなしには問題はないのだけど。


「お兄様を警護につかせるだなんて……」

 眉をひそめたアデレイドは扉の中に聞こえぬように声をひそめて呟く。

「いくら人払いをしていても、お兄様が出てくる意味を勘ぐる者がいると思いますけど。姫さまのことは、万に一つも漏らしてはなりませんのよ?」

「だからこそ、理由を後付けして私を駆り出されたのだ。女性同士の気軽なお茶会に男性の目は不要だが、参加者の兄である私が警護につくくらいは譲歩して認めようと」

 目に見えて不機嫌な言葉を聞きながら、ようやくフィーアは記憶の引き出しから彼の名を少し引っ張り出した。

 確か、アルトなんとかと言ったと思う。もう少し長かったと思うが、覚える気もあまりなかったのでこれ以上は出てきそうになかった。


「私がこのような姿でここにいなければならないという屈辱を、どうやら妃殿下はわかっていらっしゃらないようだ」

 見栄えばかりはよいものの確かに万一の際にはなにも役に立ちそうにない衣装だ。どこかに何か武器を忍ばせているのかもしれないが、丸腰のようにも見える。


 人払いされていても王城の奥の奥、こんなところにそうそう賊は入りこまないとしてもそれでは護衛としての意味がないのではないかと素人のフィーアでも想像できてしまう。


「じゃあなんでそんな姿なの?」

 思わずフィーアは口を開いた。

「やけに真新しい鎧着てるところからしてどうかと思ってたけど、本当は騎士じゃないの?」


「姫様、どうかそこには目をつぶって差し上げて下さいませ」

 その割に堂々と名乗りを上げていたことを思い出しながら言ったフィーアに対して、兄の反応を伺うようにしながらどこかたしなめるようにアデレイドは応じた。


「お兄様は――本当に心底騎士になりたかったのですわ」

 じゃあやっぱり本当は違うのねと言わない程度の分別はフィーアも持ち合わせていたので、ただこくりとうなずいた。


「ただ、我がルガッタ公爵家の継嗣がそうなるには障害が多かったのです。一応は騎士として叙勲は受けていますけど、ごく限られた時にしかそのようにふるまうことを許されないのです」

「なるほど」

 ならばその限られた時が自分の出迎えだったのかとフィーアは納得した。


 王に近しい公爵家の跡取りかつ自らに忠誠を誓う騎士であるならば、秘密も漏れないだろうと国王は考えたのだろう。そして、きっとそれはアデレイドの兄にとってとても気に食わないことなのだろうなと想像する。


 滅多にできない騎士としての任務が魔女の娘に関することなどとは。

 なのに、アルトなんとかは納得してうなずいているフィーアに頭を垂れた。


「このような姿で御前に侍る失礼をお許しください」

 予想外の言葉にフィーアは驚いて言葉をなくしてしまう。そんなに騎士の格好がいいのかと思う反面、わざわざそれを自分に断る必要などないだろうとも思う。


「外に控えておりますので、何かございましたらすぐにお呼びください」

「はあ」

 男の言葉は丁寧でこれまでにないくらいに恭しい。なんだか意外な気がして、フィーアはつい生返事をしてしまった。


「……姫さま」

 途端に恭しさが消えて、咎めるような声が耳を打った。


 騎士になりたかった男が騎士としてふるまえる数少ない機会の理由が魔女の娘で、その上ちっともお姫さまらしくないとくればさぞやご不満なことだろうし、王城だからと気合を入れても相手がフィーアでは張り合いがないだろう。


 男の思惑に乗るのはしゃくだが、とりあえずの味方である相手に喧嘩を売るのも得策じゃない。フィーアは上品に見えると太鼓判を押された笑みを浮かべて彼を見た。


「――気をつける。頼りにしてるわ」

 本物の王女さまならば騎士の名を呼ぶのだろうけど、相変わらずちっとも思い出せない。親しくない相手に愛称などで呼ばれたくもないわよねと名前を呼ぶのを諦めて言うだけ言うと、フィーアは男から顔をそらせ横をすり抜ける。


 フィーアの言葉に一応の満足を覚えたのか、男がすっと頭を下げたのが気配で分かった。

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