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魔女の娘の秘密  作者: みあ
本編
17/53

17

 それからの数日は、表面上は平穏に過ぎた。

 少なくとも、あらかじめ知っている人間以外に母やフィーアの正体はばれなかったという意味で。


 あらかじめ顔を合わせていた面々は、フィーアの髪色の変化を当たり前のものとして受け止め、一言の突っ込みもよこさなかった。

 フィーアが人目から隠すように連れてこられた原因の一つはその髪色だったらしく、それから少しずつ顔を見せる相手が増えて気を抜けないことも増えた。とはいえ、病弱というレッテルの貼られた王女の行動範囲が広くなるはずもなく、社交的でもないしそうなる気もないフィーアの周りに増えたと言えば数人の侍女に国の要人がいくらかくらい。


 ボロが出そうになることはそうなかったし、出ないように周りの人間は厳選されていた。


******


 とはいえ、その厳選された人間には難があった。


 筆頭は、娘が大好きな国王陛下だ。田舎町に住んでいたフィーアの耳にも娘を溺愛していると聞こえていた国王は、本当に娘を溺愛していたらしい。

 ――長年会えなかったというのに。どういう思考回路を持っているか疑問だが。


 さすが遥か年上の、性格に癖のある魔女を唯一の妃にしようとした男だ。暇さえあればフィーアの下に顔を出しに来ようとしている。

 むしろ執務で忙しいにもかかわらず顔を見せにくるので、その度に久々に王城に戻ってきた王女を一目見ようと側近たちが入れ替わり立ち替わり呼びに来るのもまたフィーアには煩わしいことだった。


 次に厄介なのは異母弟たちだ。

 なにが厄介かというと、別に疎んじられているわけでないのが逆に厄介だった。


 フィーアが知っていた通り、国王陛下には三人の息子がいた。すべてフィーアより年下の弟にあたる王子たちだ。

 上の二人が双子で十五歳、少し離れて八歳になる。愛称は順にエセル、リック、バート。父を含め全員名前がエから始まるので、フィーアは正直本名を覚えられる気がしない。


 上の双子が王妃の子で、末弟が第二妃の子。そんなフィーアの異母弟たちは、大変仲がよろしくて、その上フィーアもその仲間に入れてこようとするからたまらない。


 特に上の双子などは反抗期であろうに、ぽっと出の姉に大層親身だった。ぽっと出というのはフィーアの感覚だけの問題で、彼らにとっては長らく合いたくても会えなかった姉なのだろうけれど。

 姉上姉上と呼ばれるたびに、違和感や奇妙なむずがゆさを覚えてフィーアは落ち着かない。むき出しの好意を受けること自体にそもそも慣れていないのだ。

 存在を予想したこともなかった兄弟にどう対応していいものだか迷ってしまう。


 そして、国王の妻たち――王妃サリアナと第二妃マイラもフィーアの戸惑いを増長するばかりだ。


 結論として、ツァルト国の王室はおかしいという結論に達する。結論を見出したところで、気が楽になるわけでは決してなかったけれど。


******


 フィーアが気を許せるのは慣れ親しんだ母と、お世話になったアデレイドくらいだ。


 とはいえ、母は傍若無人にふるまう人ですぐにかつていたという環境に慣れ親しんでいたし、アデレイドも上流階級の人間――公爵令嬢である。フィーアの感じる違和感などそもそも感じてなさそうだ。


 加えて二人ともそうそうフィーアの前に姿を見せないと来ている。母は長い不在の情報不足を埋めるべくあちこち飛び回っているようだし、アデレイドはフィーアの義理の従妹にあたるとはいえ王室とは少し距離があり、簡単に病弱な王女の前に現れるわけにはいかないらしい。


 つい出そうになるため息をフィーアはかみ殺す。ため息なんて漏らしたら何を言われるかわからない。

 フィーアが一番うんざりしているのは、自分に割り当てられた部屋に一日の半分は居座る一人の男だった。


 より正確に言うならば、うんざりしている半面少々の救いでもあるのだが。


 それは、フィーアを迎えに来た騎士、アデレイドの兄アルトベルンなのだから、フィーアとしては少々複雑だ。

 心底騎士でありたかったのに将来公爵家を継ぐが故にそうはなれなかったという本来文官の彼が、唯一騎士としてふるまえる時――、それが王女の護衛であるときだけだというのを、今のフィーアはすでに知っている。


 興味はないので詳しく理由など聞かなかったが、事情を知るルガッタ家の人間だからだろうなとフィーアは半ば確信している。日ごろいない王女限定の騎士なんて彼には不満だろうが、だからこその処置でもあるのだろう。


 詳しい事情はさておき、その王女が魔女の娘だというのが彼にはさらに不満に違いないとフィーアは踏んでいる。


 しかしさぞやご不満であろうのに本来の職務とやらがあってもなお、フィーアの下に日参するのはよほど騎士としてふるまいたいのだろうか?

(――いや、きっと私がボロを出さないか見張るつもりだわ)

 口数の多くない彼の眼がそう語っている気がする。


 もちろんフィーアに付けられた近衛騎士は他にもいるが、大抵は扉の外に控えている。唯一の例外が騎士の中とびぬけて身分が高く、そもそも文官で、かつ王女の義理の従兄に当たるアルトベルンなのだ。


 同じくつけられた侍女にうかつに本音を漏らすわけにもいかないとなると、唯一気楽に話せそうなのが彼しかいないという巨大な罠。

 近頃のフィーアはなんとか彼とコミュニケーションを取ろうと努力しているところだった。


 息抜きをしなければ、そのうちストレスが爆発しそうな気がしたので。

お久しぶりでございます。

数話分書きためているものの、ちょっと見通しが甘いところがありまして、設定から変更して書き直したりしてました。(あと冬は寒くてなかなかキーボードつつけませんでした!)

これまでの投稿分と、今後数話分(もうちょっと練り練りしてから投稿する予定です)でなにか違和感を感じられましたら、変更漏れかうっかりですので、こっそり教えていただけると幸いです。

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