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ダンジョンを魔改造してパチスロダンジョンに  作者: おこげ


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9/9

9

 鼓動のような振動に背中を預けたまま、悠真はしばらく動かなかった。焦る必要はない、と頭では分かっているのに、内側では何かが急き立てる。

 流れの上流。

 あの壁の向こうにある“広がり”。

 触れれば壊れるかもしれない。だが、知らないままでは先へ進めない。

 立ち上がる。

 通路を抜け、光の筋が走る空洞へ向かう。足音はやけに静かだ。自分で調整した床が衝撃を吸っているせいか、響きが薄い。そのことが、逆に緊張を強める。

 壁の裂け目の前に立つ。

 光は一定の速さで流れている。さきほど干渉した名残はもう消えているように見える。

 今度は強めない。

 辿る。

 流れに逆らわず、その方向へ意識を沿わせる。指で水面をなぞるように、そっと。

 最初は何もない。ただの感覚の延長。

 だが、しばらく集中していると、微かな“抵抗”に触れる。

 壁ではない。

 境界だ。

 この空間と、別の層を隔てる薄い膜のようなもの。

 悠真は息を止める。

 押さない。

 破らない。

 ただ、触れてみる。

 瞬間、視界の奥に閃光が走った。

 音はない。だが圧がある。耳鳴りに似た振動が頭蓋の内側を震わせる。

 ほんの一瞬だけ、何かが見えた。

 暗闇。

 広い。

 今いる空間とは桁が違う規模。

 点在する、いくつもの光。

 それが何なのかを理解する前に、意識が弾かれた。

 後ろへよろめき、壁に手をつく。呼吸が荒い。胸が焼けるように熱い。

「……今の、何だ」

 膜に触れただけだ。破ろうとはしていない。それでもこれだけの反動。

 あの向こうは、自分の制御範囲外だと、身体がはっきり告げている。

 だが、確信もある。

 この空間は単独ではない。

 巨大な何かの一部。

 もしくは、連なりの中の一つ。

 悠真はゆっくりと広間へ戻る。石台の前に立つと、鼓動が先ほどより強く感じられた。

 反応している。

 自分が境界に触れたことに。

 恐る恐る手を置く。

 じわりと温かさが広がる。視界の奥に、淡い図形が浮かぶ。線と点の集合。広間と通路と空洞、そしてその先に、ぼんやりとした影。

 さきほど見た“広がり”の断片だ。

 完全には表示されない。

 だが、存在だけは示されている。

 悠真は唇を噛む。

 外がある。

 それも一つではないかもしれない。

 もし、あの点在していた光が、それぞれ別の空間だとしたら。

 ここは、その一つ。

 繋がる可能性がある。

 同時に、繋がれる可能性もある。

 ぞくりと背筋が冷える。

 自分が外へ出るだけではない。

 外から、何かが来る。

 その瞬間、空間の奥で小さな軋みが走った。

 石の擦れる低い音。

 通路のさらに向こう。

 まだ手を加えていない方向からだ。

 悠真はゆっくりと振り向く。

 音は止まった。

 だが、空気が変わっている。

 流れが、わずかに乱れている。

 境界に触れたせいか。

 それとも。

 慎重に通路を進む。光の空洞を通り過ぎ、そのさらに先へ。

 そこは、まだ探索していない領域。

 曲げただけの通路が続いているはずだった。

 だが、壁の一部に、細い亀裂が走っている。

 昨日はなかった。

 裂け目の奥から、かすかな風が吹き込む。

 外気。

 いや、正確には“別の空間”の気配。

 悠真は立ち尽くす。

 自分が触れた境界とは、別の場所。

 自然に薄くなっている部分。

 このまま放置すれば、いずれ穴になるかもしれない。

 心臓が早鐘を打つ。

 繋がる。

 準備も整っていないのに。

 塞ぐべきか。

 それとも、様子を見るか。

 悠真はゆっくりと手を伸ばし、亀裂に触れた。

 冷たい。

 だが、向こう側から確かに流れ込んでくる何かがある。

 魔力と呼ぶべきものかどうかも分からない、異質な揺らぎ。

 石台の鼓動が、遠くで強くなる。

 この空間が、何かを待っているように。

 悠真は、しばらく動けなかった。

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