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ダンジョンを魔改造してパチスロダンジョンに  作者: おこげ


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6

 天井に張り付いた淡い光が、ゆっくりと明滅している。規則性があるのかどうか分からない揺らぎを、悠真はしばらく黙って追い続けた。数を数えてみる。三つ目でずれ、また最初からやり直す。集中しているつもりでも、意識のどこかが常に石台の存在を気にしている。

 立ち上がる。

 広間の端から端まで歩く。昨日よりも確実に歩きやすい。自分が波打たせた床の癖を、もう身体が覚え始めている。段差の位置、曲がりの角度、微妙な視界のズレ。知らない場所のはずなのに、少しずつ“自分の部屋”のような感覚が混じってきているのが気味が悪い。

 通路へ入る。

 わずかに曲げたはずの角度を、改めて観察する。ほんの数度。だが直線でないという事実だけで、先が見通せない。奥に何かが潜んでいるような錯覚を生む。

 何もいない。

 音もない。

 それでも、真っ直ぐな通路より落ち着かない。

「……見えないだけで、怖さって増すんだな」

 独り言が自然と漏れる。

 自分は今、何をしているのか。出口を探すわけでもなく、空間をいじって遊んでいるだけではないか。だが、この“遊び”がどこまで通用するのかを確かめなければ、先へ進めない気もしている。

 広間に戻り、石台の前に立つ。

 触れない。ただ見下ろす。

 昨日は食事を出した。今日は壁と床を変えた。消耗は回復するらしい。ならば回復の限界はあるのか。溜まる速度は一定か。自分の体調と連動しているのか。

 実験、だな。

 そう思った瞬間、胸の奥に小さな高揚が灯る。何かを試す前の、あの感覚に似ている。結果が出るまでの間に膨らむ期待と不安が混ざった、落ち着かない熱。

 悠真は石台に触れず、壁へ向かった。

 今度は質感ではなく、厚みを変えるイメージを送る。外側へ膨らませる。内側へ削る。慎重に、ほんの数センチだけ。

 指先から冷たい波が走る。壁の表面がわずかに脈打ち、空間の奥で石が擦れるような低い音が響いた。

 目に見えるほどの変化はない。

 だが、叩いてみると音が違う。先ほどより軽い。

 成功している。

 同時に、こめかみのあたりがじわりと重くなる。昨日ほどではないが、確実に何かを消費している。

 悠真は一度深呼吸し、壁から手を離した。

 やりすぎるな。

 自分に言い聞かせる。

 試せるからといって、無限に出来るわけではない。限界を知らないまま踏み越えれば、何が起こるか分からない。床が崩れるかもしれないし、天井が落ちるかもしれない。

 そのとき、自分は守れる側にいるのか、それとも巻き込まれる側に落ちるのか。

 広間の中央に戻り、床へ視線を落とす。

 弾力は気持ち悪かった。だが、硬さの“段階”を細かく調整できるならどうだろう。完全な石でも、柔らかすぎる何かでもなく、その中間。

 膝をつき、掌を当てる。

 硬い。冷たい。

 目を閉じる。

 ほんの少しだけ、衝撃を吸収する性質を加えるイメージを描く。跳ね返すのではなく、受け止める。石の内部に細かな隙間を作り、圧を分散させるような感覚。

 低い振動。

 手の下の感触が、わずかに変わる。

 立ち上がり、軽く踏み込む。

 カン、と乾いた音は鳴らない。代わりに、鈍い反発が返ってくる。

 完全な石ではない。

 だが、沈まない。

 悠真は数歩走ってみる。足裏への衝撃が柔らいでいる。転んでも致命的な怪我はしにくいかもしれない。

「……使い道は、あるな」

 誰が使うのか、という疑問はまだ浮かばない。ただ、自分が動きやすい空間を作るという発想だけが先にある。

 広間の端に、小さな段差を追加してみる。高さは膝ほど。幅は狭く。飛び越えられるが、油断すると躓く程度。

 石が盛り上がる。

 頭が少し重くなる。

 出来た。

 眺める。

 意味はない。ただの段差だ。だが平坦だった空間に起伏が生まれたことで、景色が変わる。単調さが崩れ、視線が自然と動く。

 悠真はその段差に腰を下ろした。

 自分が手を加えた痕跡に囲まれている。

 ここはまだ何者でもない。ただの石の空間だった。今も正体は分からない。だが確実に、自分の意志が反映され始めている。

 閉じ込められている、というより。

 与えられている、に近い。

 何を。

 自由か、責任か。

 天井の光が揺れる。

 腹は落ち着いている。消耗も致命的ではない。まだ余裕はある。

 悠真はゆっくりと立ち上がり、広間全体を見渡した。

 次は何を変える。

 形か、流れか。

 それとも――。

 視線が通路の奥へ向く。

 まだ手を付けていない場所がある。曲げただけの先。あの向こう側はどうなっているのか、自分でも確かめていない。

 少し迷い、悠真は歩き出した。

 足音が、さきほどより柔らかく響く。

 自分で変えた床の上を、自分で進んでいく。

 通路の角を曲がると、わずかな冷気が頬を撫でた。広間とは空気の質が違う。奥に空間が広がっている気配。

 まだ何も起きていない。

 だが、何かが待っている予感だけは、確かにあった。

 黒川悠真は歩みを止めず、その先へと進んでいった。

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