表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民魔法使いは拾った獣人の子の故郷へ向かう(元恋人も追ってくる)  作者: ある鯨井@書籍発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

一方、その頃イオスは②

「話聞いてて思ったんだけどさ、なーんかおかしくない?」


「何がおかしいんです?」


「イオスが帰ってきた日にプロポーズ匂わせて〜、コメットは別れ話を決めて〜、次の日にほぼ夜逃げで引っ越したんでしょ? で、家の中は空っぽだったって変じゃん」


「確かに。イオス、魔法使いの引っ越しはたった一晩でどうにかなってしまうものなのですか?」


 その指摘で『コメットは数日前から引っ越しを進めていた』という村人の証言を思い出す。

 ショックのあまり結果と原因を勘違いしていた。これでは『イオスと離れるために引っ越しを決めた』とは言えない。


(逆だ)


 コメットは数日前から引っ越しを決めていた。そして準備はほぼ整っていた。そんな状況で村に留まるプロポーズされれば断るし、何も話さずに去って当然だ。


(僕のために、何も話さなかったのか)


 コメットが旅立つことを知れば、イオスはこの地で築いた全てを捨ててついて行った。

 町の発展も、トンネル計画も、彼女と共に生きるからこそ取り組んできたものだ。優先順位はコメットに劣る。


 ……それでも、後悔はするだろう。

 期待を寄せてくれた仕事仲間を裏切り、イオス個人と友になってくれた二人の信頼を潰す。それらをどうでもいいと言えないほど、この地に愛着が湧いてしまった。


 だからコメットは何も話さなかった。

 あの別れ話は、旅立ちを決意していた彼女の置き土産だった。


(……僕が原因ではないなら、コメットは何故引っ越しを決めたんだ?)


 コメットは強い愛郷心を持っている。その大多数を占めた彼女の母を失ってなお、心が離れることはなかったはずだ。

 何かあったに違いない。愛する地を離れる決意をするほどの、よっぽどの事情が。それをコメットは今一人で抱え込んでいる。


 思わず飛び起きたイオスの肩を双子が抑え込む。


「イオス、まだ寝てたほうがいいですよ」


「コメットは数日前から引っ越しの準備を進めていた。何かあったんだ。せめて事情を聞きに、」


 彼女と一緒にフロストもいなくなっていた。なら、移動は徒歩か馬車だ。空を飛べはすぐに追いつける。

 気が逸るイオスを止めたのは、両肩を掴む圧である。


「どっちに行ったのかわかんねーのに飛び出すなら、こっちも暴力するしかねーんだけど」


「まったく、しょうがない人。友人として上手に絞め落として差し上げますね」


「寝ます」


 よろしい、と頷く二人に見守られながらイオスは布団の中に戻った。


 言われてみればその通りだ。向かうにしてもコメットの行き先がわからなければ無意味だ。熱でまだ頭がうまく回ってないのだろう。

 まずは体調を整える。そのあとは……。


「……近々、この部屋を出るよ。仕事の引き継ぎを済ませてからだけど」


「そ。まぁ、プロポーズが成功したらそうなる予定だったもんね」


「また振られてしまったら、戻ってきていいですからね」


 あまり想像したくない未来だな、と思いながらイオスは瞼を下ろす。これ以上不確かな妄想に首を絞められないため、そして一刻も早い回復に専念するために。




 上長に辞職の意思を伝えたら騒然となり、職場に何の不満もなかったとわかってもらうために数日を要した。


 業務の引き継ぎは問題なく進んだ。

 ただ、トンネル採掘は計画見直し、どうしても後ろ倒しになりそうだった。


 材料の確認、各地で人材確保依頼、領主の連絡役、対向堀削の伝達役……。

 イオス個人が飛び回ることを折り込んだ計画だったので、それらが人の手足による連絡手段に変わると時間も加算される。


「トンネル採掘は元々数年がかりなんだ。一年二年延びても大して変わらない。どちらにせよ雪が降り始めたから、雪解けが終わるまでは何もできない」


 気落ちするイオスを慰める上長の言葉に、天啓を受けたような感覚を得る。


「雪解けの季節に一度戻ってきます」


「我々は助かるが、しかしそれは」


「身勝手な理由で離れる身ですが、トンネルを完成させたい気持ちは変わりません。皆さんの一員として力になりたいんです」


 別れ話の時の『無責任なことしないと信じてる』という言葉、トンネル採掘が決まったことを知らせた時の嬉しそうな笑顔。コメットから向けられた信頼を裏切りたくない。

 けれど、それだけではない。


「それは……心強い。でもそれ以上に、嬉しいよ」


 上長はそう言って微笑んだ。

 できることだけして丸投げしたほうが気が楽だっただろう。しかしイオスは己の選択が正しいと噛み締める。


「はい。これからもよろしくお願いします」




 引き継ぎを進める一方、コメットの行き先の調査もしていた。

 引っ越しを知っていた村人たちは口を揃えて『結婚すると思っていた』と言い、無駄にダメージを喰らうだけで情報は集まらない。


 最後に会った時も健康的に見えた。少なくともコメットが身の危険を感じる問題が起きて村を離れたわけではなさそうだ。

 そうなるとますます謎は増していく。彼女の目的が全く掴めない。


「あれから他に心当たりは思い出せませんか?」


「お前もしつこいね。この一カ月、何度も何度も来て」


 コメットがいなくなって一カ月、外はすっかり雪景色になっていた。

 毎度毎度迷惑そうに溜息を吐きつつ、村長は家に招き入れて温かい茶を出してくれる。言葉と行動のちぐはぐさにイオスはつい笑みを溢す。


「おそらくコメットが最後に会ったのは村長なので。方角とか町の名前とか食べたいものとか、何か言ってませんでしたか? どんな些細なことでも構いません」


「そうだねぇ……」


 テーブルに肘杖をつく村長の表情は渋い。今日も成果はなさそうだ。出された茶を啜って体は温まっても、心が冷えて沈んでいく。

 村長は再び深々と溜息を吐き出した。


「……コメットからは、黙っててほしいって言われてんだけどねぇ」


「え……」


「何度も何度も知らん振りで追い返すのも、いい加減寝覚めが悪くなってきた。間違って雪深い方角に飛ばれたら、わしも胸くらい痛む」


「あの、」


「あの子らは世界樹に向かったよ。麓に入るつもりだろうから、許可証をもらうために王都に立ち寄るだろうね」


 は、と息を呑んでイオスは目を見開く。

 陸路で王都に向かうなら三カ月以上。途中にあるコギー村近辺は今深刻な獣被害で移動規制されていると聞く。もっと時間がかかるだろう。

 あと一カ月で引き継ぎを終わらせて王都に向かえば、先回りすることは可能だ。そうすれば、コメットとの再会が叶う。


「事情は本人から聞きな。わしから話すようなもんじゃない」


「はい……!」


 ようやく展望が見えたイオスは満面の笑みで首肯し、しかめ面だった村長は肩の荷が下りたように目尻を下げた。




 コメットの行先が判明して、さらに一カ月後。

 仕事の引き継ぎと身辺の整理を終えて、イオスはようやく旅立ちの準備が整った。方々に出発の挨拶回りを終えて、最後に同居人だった双子に向き合う。


「それじゃあ行ってくる。もし緊急事態があれば、以前教えた手順で飛行紙を使ってくれたら戻ってくるから」


「あー、あれ、こないだ暖炉の焚き付けで使ったから、もう無い」


「こちらの問題はこちらで解決しますから、イオスはイオスの問題を解決して来てください」


「…………。そうか」


 いざという時にイオスをすぐに呼び戻せるように用意したのだが、どうやら不要だったらしい。

 これは彼らなりの気遣いなのだ。しかし、吹雪に負けない改良を施した代物だったので、もう少し別の使い方をされたかったなとイオスは苦笑いを零す。


「雪解けの季節にまた戻ってくる」


 二人とも再会の約束をして、イオスは粉雪が舞う空を飛んだ。



 コメットが消息を絶ってから二カ月。

 今から王都に向かえば、陸路で進む彼女の先回りは余裕できる。のんびりするつもりはないが、休息で村や町に立ち寄るついでに目撃情報を集めてもいいかもしれない。


(……結局、コメットが世界樹に向かう目的がまったくわからなかったから、何かわかればいいんだが)


 魔法使いが世界樹の側にいることを望むのは自然なことだが、魔法使いの中でも異質なコメットはそれが当てはまるとは思えない。

 些細なことでもいい。何かわかって、彼女の力になれたら――――そこまで考えて、ぐっと全て飲み込む。


(……あまり押し付けがましくならないよう、気をつけないと)


 別れた男が未練がましく追いかけてきたなんて、相当恐ろしく見えるだろう。コメットは特に強がりが上手いから、あまり負担をかけたくない。


 怯えられたり迷惑そうな態度をされたら、どうしよう。

 想像はできないが、否定もしきれない。込み上げてきた不安にイオスは俯き、不意に懐かしい鳴き声が脳裏に蘇る。


(……少なくとも、フロストは歓迎してくれるか)


 コメットの家に行くたび人懐こい甘えん坊の犬から熱烈に出迎えられたことを思い出し、イオスは口角を上げて前を向く。


 雪の勢いは緩やかに増していき、イオスの視界を遮り始める。

 しかし、イオスが止まる理由にはならなかった。


 たった一つ。目標の光しか見えない暗闇の中を手探りで進むのは、彼にとって生きている実感をする瞬間でしかないのだから。

やっとこさタイトルが始まりましたが、ストック切れです_(┐「ε:)_

別作業に入るため、次の更新までしばらくお待ちいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ