表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民魔法使いは拾った獣人の子の故郷へ向かう(元恋人も追ってくる)  作者: ある鯨井@書籍発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

スタンピードの危局④

 兵士長率いる討伐班が帰ってくる前。

 フロストに案内させてコギー村のゴミ置き場までやってきたコメットは、機嫌を損ねた我が子を撫で回していた。


「うぅぅ……わぅわぅわぅわぅわぅ……」


「ごめんごめんごめん。フロスト、えらいぞー! とっってもえらい! 本当にありがとうー!」


 コメットでも漂ってくる悪臭が鼻につくので、嗅覚の優れたフロストは相当辛いだろう。「先に戻ってて大丈夫だよ」と促すと、少し離れた場所で地面に伏せた。一緒に帰りたいと言われているようで、嬉しくなる。


「よし。やっぱりあった」


 村にとってゴミとは、『処分に困る物』だ。

 穴が空いた鍋や折れた包丁、割れた食器や鉢、すぐに再利用が難しい物をまとめておくのがゴミ置き場である。一定数溜まったら町まで運び、直したり売ったりする。それでも使い道がないものは地面に埋める。


 なので、本来は村のゴミ置き場から悪臭はしない。

 原因は管理する村人が避難し、代わりに兵士が利用していたから。


 彼らにとって家畜とは食材だ。可食部以外の被毛、皮、内臓、骨など、全てが不要品。ゴミはゴミ置き場へ。彼らにとって当たり前のことをした結果、ゴミ置き場は大変なことになってしまった。

 血の匂いに寄ってきたらしき動物の死骸も転がっていたので、穴を掘って埋める手間を省く代わりに毒餌でも撒いていたのだろう。不幸中の幸いだったのは、今が寒く乾燥した季節だったことだけ。


(もったいない……)


 被毛も皮も貴重な資源で、骨も部位によって道具や肥料になるし、内臓も肉食動物用の寄せ餌になる。

 あまりの惨状にコメットは眉を顰めるが、兵士たちが悪いわけではない。彼らは命懸けで戦うために来たのだ。家畜を適切に解体したり、糸を紡いだり、皮を加工する余裕はない。少なくともトーマスとジェラルドの反応からは感じられなかった。

 だからこそ、コメットが今できることを見つけられたとも言える。


(一から布団を作るのは初めてだな)


 綿や羊毛から不恰好な糸を紡ぎ、それらしい布を織ったことはある。あれを大きくするだけだ。きっと何とかなる。何とかする。


「――世界樹に捧ぐ。望んだ祝福に報いる感謝を、願いを」


 杖を振るい、光が放出される。光は地面に捨て置かれた羊毛を持ち上げ、洗浄し、糸を紡ぎ、織り込んでいく。

 それをぼんやりと眺めている暇はない。羊毛だけでなく鳥の羽も洗浄して袋に詰める。村から引いてきた荷車に積み上げているうちに、魔法で織り上げた布が完成した。悪くない手触りに小さく安堵の息を漏らす。

 集めた材料で二十人分の寝具にはなるだろうが、三十人以上いる兵士に対して数が足りない。しかし不足を補う考えはある。

 準備はできた、あとはコメットが覚悟を決めるだけ。


(……誇張はしない。でも、堂々とする。誰にも胸の内を悟らせない)


 彼らは魔法使いという存在をよくわかっていない。何を以って優れているのか劣っているのか区別がつかない。それを利用して、完璧に騙し切るのだ。『やってきた魔法使いはすごい奴なのかもしれない』と。


「……大丈夫、私ならうまくやれる」


 気合を入れるため両頬を叩き、コメットは自信に満ちた表情で武装した顔を上げた。




 荷車を引いてテントのある拠点に戻ると、先に帰還していたらしい討伐班らしき兵士とジェラルドの姿が見えた。

 駆け寄ってきたジェラルドの表情が驚きから安堵、最後に困惑と、表紙が移り変わる。


「いたーっ! 見当たらないと思ったら、一体どこに行って……その布団の山は何……?」


「ゴミ置き場にあった物で作ってきたの」


「つく、……何で?」


「そりゃ、テントの中がまともに休める場所じゃなかったから! こんな寒い季節に毛布にくるまって地面に寝て、最悪だと思わなかった?」


 目を見開いて絶句するジェラルドの返事を待たず、コメットはさらにまくしたてる。


「私は最悪だと思った。家から布団とかかっぱらおうとか誰も言わなかったの? 家畜を譲ってもらえたなら、家財も遠慮なくいただいちゃったら良かったんだよ。最初の頃はまだわかるよ? でも今は、もうこの村駄目かもってくらいまずい状況なんでしょ? だったら布団の十枚や二十枚使い物にならなくなっても大したことないよ。だからかっぱらってきた」


「かっぱらってきたぁ!?」


「いや、本当は全員分作るつもりだったんだけど、ちょっと足りなくて。怒られたら『コメットって名前の魔法使いがやった』って学院のほうに言っておいて」


 ゴミ置き場から拠点の間にあった民家に侵入して持ち出し、不足分を補った。

 寝具がいくつか駄目になったとしても、この村が放棄されれば些末なことだし、彼らの頑張りで平穏を取り戻せたなら些末なことになる。どっちに転んでも結果は同じで、駄目なら弁償すればいい。材料さえあればどうにでもできる。

 驚いた顔で硬直するジェラルドの反応に、コメットは自らの非常識を実感しつつ、死の危険を身近に感じているにもかかわらず行儀が良すぎると心配になった。


「いや、でも……確かに、もう後がないかも、しれなかったけど」


「『何で考えなかったの?』とは思わないよ。身も心もボロボロだって、顔見たらわかったから」


 二人とも渇いた唇と頬の血色が悪く、目の下には濃い隈があった。今この場にいる兵士たちも似たり寄ったりなので、あの遺書を盗み見なければこういうものかと勘違いで済ませるところだった。

 自分たちには後がない――そんな不安で追い詰められているのだ。ここにいる全員も、きっとこれから帰ってくる他の兵士も。


 すぅ、とコメットは大きく息を吸い、全員に届くように声を張りながら片手を高く上げる。

 

「ここにいる人の中でもう一仕事できる人、いるー? 私と一緒に布団を運び込んでほしいんだけどー!」


 コメットの勢いに唖然としていた兵士たちは目配せして、数人が前に出てきた。荷車の上の布団を持ち上げた最初の一人が、「……あたたかそうだな」と小さく呟き、圧縮するように強く抱え込む。


「これを、本当に俺たちが使ってもいいのか?」


「もちろん! 手伝ってくれる人は早い者勝ちで選んでって! 魔法使いの名の下に、喧嘩、決闘、圧政は禁止。あ、合意ならシェアはありだよ」


 その宣言にさらに数人動き出し、十人以上が荷車の周りを囲んで布団を持ち出し始めた。手伝うどころか我先に良いものを確保しようとする兵士たちに、発起人のコメットが入り込む隙間すらなくなる。

 怪我で本当に動けないらしい数人が「理不尽だ~!」「俺の分も頼む~!」とだいぶ切実な声をあげていたので、「怪我人用のテントにはいいやつ運んであるよ~!」とコメットの補足に歓声が上がった。

 しかし全員ではなく、浮かない顔も数人いる。


「は~、すぐ使える奴が羨ましいよ。俺ら夜番は強制後回しだし」


「あ、許可はこれからだけど、当番とか気にしないでみんな寝てね! 夜更かししてる人は見つけ次第フロストが叱りにいくよー!」


「わん!」


 自分管理任されてます、と言わんばかりにフロストが鳴く。

 とんでもないことしか言っていない魔法使いと誇らしげな犬に、兵士たちはまた愕然とした顔で静まり返り、ジェラルドは挙手した。


「さすがに夜番をつけないと、安心して眠れないと思うんだけど……魔法でどうにかするとか、何か考えがあるの?」


「考えってわけじゃなくて、普通に私が夜番やるよ。一晩」


 何か言いたげに数人が息を吸ったが、何も言わせないためにコメットは手のひらを前に突き出す。


「私は村の自警団として夜回りの経験もあるし、害獣退治だってできる。故郷の村は山に囲まれてたけど、このコギー村は見晴らしがいいから空を飛んで見下ろしてたら余裕だよ。みんなの側にはフロストがついててくれるから、安心して寝て」


「……だけど、コメット一人に任せるのは……」


「逆、逆。誰かが近くにいたほうが困る。魔法使ってる時に魔法使いじゃない人がいるのって、すごく危ないから」


 半分正しくて、半分嘘である。危ないのは本当だが、適切な距離を取ってコメットが気を付けていれば危険は少ない。こう言えば任せてくれる、そんな思惑を含んだ嘘だ。

 そして、ここまでコメットの意見を押し出し過ぎたので、反発を防ぐため一歩だけ引く。


「……私ができることって、それくらいしかなさそうだからさ」


 俯きがちに申し訳なさそうに、ついでに本音も零す。

 納得してない顔をしていたジェラルドも、コメットの一方的な物言いに不快感を滲ませていた兵士たちも、虚を突かれたように固まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ