第2章:特別アイテムルームへ
ルナ・フォルカは、もう抜け出すことのできない世界に自分が囚われていることに気づいた。彼女に送られてきた特別なメッセージに含まれていた最新のアップデートには、バグやゲームのエラーが含まれていた可能性がある。しかし、この世界は現実そのものだった。玉座も、NPCたちの振る舞いも、すべてが現実のようだった。
(落ち着け、私……!これは大きな問題じゃない。でも、この出来事はまだ謎のまま。一つずつ解決していかなければ、答えは見つからない)
ルナはあらゆる可能性を考えながら、自分が座っていた玉座から立ち上がった。彼女の視線は、頭を下げているドッペル・リーガーと、清掃と部屋の再整理を任されている数人のラミアに向けられていた。
「ドッペル・リーガー、そしてラミアたち!これより命令を下す!」ルナは厳かに部屋のNPCたちに告げた。
「了解しました!」ドッペル・リーガーとラミアたちは深く頭を下げた。ラミアたちはその場で作業の手を止めた。
「この部屋の整理が終わったら、ラミアたちは大広間に集合せよ。全員との重要な会議を行う。」
「承知しました、ルナ様。」
「ドッペル・リーガー、クレセント・ラビリンスの各階層の代表を二時間以内に大広間へ呼び集めなさい。我々の今後の計画について会議を開く。」
「かしこまりました、ルナ様。」
ラミアたちは命令を受けた後、素早く作業に戻った。ドッペル・リーガーは立ち上がり、ルナの命令を遂行するため部屋を後にした。ルナは彼らNPCたちの行動をじっと観察していた。これは今までにない光景だった。
彼女はゆっくりと玉座の間から歩みを進め、ラミアたちの動きを細かく観察した。一般的なNPCとは思えないほど滑らかで精密な動きに、ルナは密かに驚きを覚えていた。そして、NPCたちがより詳細な命令を理解して実行できることに気づいた。
「ルナ様、大広間へ行かれるのですか?」ラミアの一人が頭を下げながら尋ねた。
「いや、まだ準備しなければならないことがある」とルナは迷いなく答えた。
「失礼を承知で申し上げますが、ルナ様には護衛を一人お付けすべきかと存じます。」
「……私の力を疑っているのか?もしそうなら、貴様を私の創り出した虫たちの餌にしてやる!」
「とんでもありません、ルナ様。ただ、我々は唯一の最高指導者である貴女が危険にさらされるのを望んでいないのです。」
ルナはラミアを重要な存在とは見ていなかった。クレセント・ラビリンスの創設者たちは、特別なアイテムと魔法でNPCたちを創造し、この迷宮の管理を行わせていた。それがルナ・フォルカの認識だった。
(……まあ、ラミアの申し出を受け入れても損はない。ゲームのシステムが使えず、ログアウトもできない)
ルナは冷静さを保とうとしていた。この現象にはきっと理由がある、と彼女は信じていた。そして、桃崎トウカという存在は、もう戻ってこないのだとも確信し始めていた。
「……いいだろう、共に来るがいい」ルナはラミアを指さしてそう言った。
「かしこまりました、ルナ様!」
「名前は?」
「カマカと申します。ルナ様のお側にいられること、大変光栄に思います」
ラミアのカマカは笑顔で、誇らしげにルナの後をついて歩き始めた。その表情は、選ばれし者だけが得られる特権に満ちていた。
ルナにとってはどうでもよかった。彼女の関心は、NPCたちの言動がゲームの仕様を超えているという事実に向いていた。これは、桃崎トウカが完全にルナ・フォルカという存在に同化した証だった。
(ここではもう、学べることは限られている。もっと効率的に動くためには、外の情報が必要……この世界に私一人だけが残されたのだろうか?)
ルナの足が、大きな扉の前で止まった。彼女はその先に何があるかを知っていた。ためらいはない。その扉には、銀の装飾が施された茶色の木材と、目を引く竜の紋章が描かれていた。
「カマカ、この扉の前で警戒を続けよ。緊急でない限り、誰も中に入れるな」ルナは鋭い視線をカマカに向けながら命じた。
「承知しました、ルナ様。大広間へ向かうまでには、まだ時間がございます」
「それは承知している。ただ、これは予防措置だ」
「予防措置……とは?」カマカが顔を上げて尋ねた。
「クレセント・ラビリンスには、いくつかの特別なアイテムが保管されている。この管理を任されたのは私だ。ヴェディゴがこの任を私に与えたのは、誤りだったのかもしれない」
「ルナ様……?」
「……ああ、今のは忘れろ、カマカ。とにかく、命令通りにしてくれ」
「はい、ルナ様」
ルナ・フォルカは右手を扉に向けてかざし、そこにわずかな魔力を流し込んだ。扉はゆっくりと開き、彼女を迎え入れた。ルナの瞳に一切の迷いはなかった。
彼女は一人でその部屋へと足を踏み入れた。カマカはただ、深く頭を下げて見送った。部屋の壁には、数多くのカードが展示されていた。だが、ルナはすべてを知っていた。
「コレクティングカード……これは、私がこのゲームで自ら開発した特別なカードアイテム。一般的な魔法使いたちのアイテムとは違い、あらゆるものを封印できる。そして、私にとっては何より効率がいい」
ルナは一枚一枚のカードを丁寧に確認した。それぞれ異なる絵柄を持ち、漆黒の地に描かれていた。これらはすべて、彼女の所有物。迷宮最強の魔女、ルナ・フォルカの証だった。多くのNPCもまた、これらのカードを使って創造された存在だった。
ルナは一枚のカードの前で立ち止まった。
「今こそ、私の特別なカードを使い、この世界にいる仲間たちの存在を確認しなければ」
彼女は、赤い魔法陣のような絵柄が描かれたカードを取り、右手で掲げた。そして目を閉じ、魔力を流し込んだ。
【大指導者探知】
カードが光を放ち、部屋全体を一瞬にして照らした。その光はすぐに消えた。ルナが目を開けた時、その顔には大量の汗がにじみ、不安な表情が浮かんでいた。
「……なに……これ?仲間たちの魔力が……探知できない……。まさか、私が……この世界に残された最後の魔女……?」
信じられなかった。絶望が彼女の胸を支配した。手にしていた【大指導者探知】のカードが、彼女の手から落ち、床に静かに転がった。
それは、クレセント・ラビリンスの指導者たちを探知するための特別なカード。その反応が何もなかったということは――
ルナ・フォルカの仲間たちは、もうこの世界には……存在していなかった。