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(未来の栞) X-3:少年

・・・




 俺たちの日常には非日常が混じって、でも平和なまま賑やかになった。


 ……ちょっと中二病みたいな表現になったか?

 でも幽霊と友達になるだなんて、なかなか無い非日常だろ?


 普通だったらそんなオカルト的存在を信じたりはしないだろうけれど。

 何故だか俺たちはその存在をあっさり信じることができた。実際何かいるし。


 直接話したりはできないけど、軽く触れ合うことはできるし、通訳がいれば意思疎通もできる。

 だからまあ目に見えないだけで、コミュニケーションに思ったほどは不自由しない。


 目に見えない。声も聞こえない。

 なのでこいつがどんなやつか、正直はっきりとはしてない。

 ほんのわずかな感触と、その言葉と、その通訳をしてくれてる萌香の反応でしかわからない。

 ただ、俺の第一印象として。



 こいつは、遠慮しがちな寂しがり屋。

 そんな女の子なんだと、なんとなく感じた。



 自分はここにいるべきじゃないかもって思ってるのか、すぐにどこかに行こうとする。

 萌香がそれを察しては、すぐに捕まえてこの場に留める、といったことを繰り返している。


 全力で逃げたりはしてないようで、留まりたい気持ちと板挟みになってる、そんな感じだろうか。

 この子らの関係性はよくわからんけど、まあ悪い関係ではないことは確かなんだろうな。


 ともかく俺たちはまだ、こいつの居場所にはなれていないようで。

 いつかなれたらいいと思いながらこいつを振り回している。



 のだけど。






「ゆっぴーゆっぴー」

「幽霊さん幽霊さん」



 ちょっと流石に構いすぎじゃないかお前ら……犬猫じゃないんだぞ……。

 いや本人が構わないならいいんだけどさ……。


 萌香の様子をチラ見すると、問題なさそうに見てるから多分嫌がってはいないんだろう。


 なんだかこいつも器用なやつだよな。となりの灯を構いながら、ちゃんと周りも見てる。

 子供っぽく振る舞ってるけど結構大人な奴だ。年下だけど、かなりしっかりしてる。



 ……というかどうでもいいけど、最近のこいつら距離近すぎなんじゃないか?

 さっきまで指を絡めて手を繋いでいたと思ったら、今は腕を組んで密着してる。

 灯がやたらと積極的で、萌香も何だかんだそれを受け入れているんだが……。


 見てると、なんだかあんまり見てちゃいけないみたいな気持ちになって少し恥ずかしいんだが……?



「仲良きことは美しきかなっていうけど、どうなんだこれ……」

「仲良しさんなのはいいことではないです? やっぱ好きなんですねぇ」



 いつの間にか隣に来た雪花が、変な口調で呟いてくる。

 俺もまぁ、そういうのは嫌いじゃないし、というか割と好きだったりするんだけどさ。


 ただなんていうかこう、そういう問題じゃなく。



 ……こうして見てるとなんだか、こいつらから若干ながら壁を感じるんだよな。

 まるで本当の友達じゃなく、あくまで幽霊の仲介役に徹して、観客になってるというか。


 もしかしてだけどこの二人、自分たちのこと邪魔者だって思ってたりしないか?


 俺たちと友達になりたい幽霊のために、いまは一緒にいるだけで。

 多分嫌われてるってわけじゃないだろうけど、俺たちと必要以上に仲良くならないようにしてる。


 幽霊がいつか幽霊じゃなくなったら、それを見届けて代わりにそっと消えてしまいそうな、そんな雰囲気がある。

 たぶんきっと、当たらずとも遠からずなんだろう。


 ……まあ、無理だろうけどな。鈴華がそんなの許さないだろうから。

 鈴華は、本当は望んでないのに離れていこうとする友人を追い詰めるの、得意だし。



 ……ん?

 そんなこと、()()()()()()()()……?



 まぁ、いいか。

 俺もそういうとこあるし、せっかく友達になったならちゃんと仲良くなりたい。

 だから遊ぶ機会があるときはこいつらを積極的に巻き込むようにしてる。



 ……まあ数少ない男友達からは、またハーレムが増えたとか言われたが。


 ちげぇよ俺たちそういう関係じゃねぇからって言っても全く信じてもらえない。なんでだ……。



「どうでもいいけど、女友達ばかりできるな俺」

「まぁ恭お兄さんお顔も悪くないと思いますし、女の子に優しいですからね」

「俺たちってやっぱハーレムに見えるのか……? 雪花はどう思う?」

「冗談はよしてください」


 強烈に拒否られた。目線が冷たすぎて、つらいんですが……。


 なんだこいつ、みたいな目をしたまま再び幽霊のところに行った雪花を尻目に、萌香にちょいと手招き。

 グループから少し離れつつ呼んだので内緒話がしたいと察してくれたのか、こそこそと近寄ってくる。

 灯はこちらに軽く手を振って幽霊たちの方へ向かった。


「どしたの?」

「ちょいと確認なんだが、まだダメそうか?」

「……ん? ……ああ、名前の件。もうちょっとかな。ごめんね、私から教えるのはちょっと違うと思うし」

「ああ、いいんだ。待つよ」

「いやぁ、あの子、ほんとヘタレのクソボケだからねぇ」

「口が悪いな……」

「まあ、あの子とはいま一緒に暮らしてるからね。色んな意味で……うん、色々思うところはあるかな」


「ふーん。まあ別に幽霊だろうがなんだろうが、俺たちは受け入れるのにな。どこにもいかねぇってのに」


「……」

「……なんだ?」

「そういうとこかなぁ」


 意味がわからん。




「……あの子は、ね。信じきれないんだよ。自分の未来が」

「……?」




 萌香が遠い目になって、幽霊と戯れる二人を見る。

 俺も一緒になってそれを見る。




「わからないものは全部わるいものとなって降りかかる。今はそうじゃなくても、いつかそうなると心のどこかで思ってる」

「……」

「未来が視えなくなった。確かめられないから、何も信じられない。期待したいのに、期待することが怖くて仕方ない。望めばまた失ってしまうかもしれないから」

「……」

「バカだよ。優しいおバカ。みんなの未来を作っておきながら、自分に未来があるなんてやっぱりおかしいって、いまだに思ってる」



 ……。


 ……なるほど、な。



「私は、あの子に思い知らせてやりたいんだ。未来はあるって。君が望む限り、諦めない限り、いくらでも未来は作れるんだって」

「……」

「君の未来は、君の手の中にあるんだって、ちゃんとわからせてやりたい」



 ずっと感じてたけど。

 なんとなくは違和感の正体が、わかった気がする。


 わからないことは多い。だけど、確信に近い理解ができた、と思う。



「だから俺たちが友達として、あいつの失くした未来を一緒にたくさん作ってほしいってことか」

「そうだね」



 ……うーん。なんか、気に食わない。

 無性にむしゃくしゃしてきたぞ。





「……あのさ、それってお前らが一緒でも作れるんじゃないのか?」





「う……ん?」

「お前、自分たちより俺たちの方が友達に相応しいとか考えてるだろ、多分」



 俺の直感は、おそらく正しい。

 こいつは自分たちがいない方がいい形になるんじゃないかって感じ始めてる。

 そんな、どうでもいいことをうっすらと考えてる気がする。



「一緒だろ。俺たちも、お前たちも」

「……ううん、それは違うよ。あの子にとっては、私たちなんかより、恭さんたちの方がずっと大事」

「そうじゃねぇってバカ」

「いや……バカって、私は真剣に」



 いーや、お前はバカだ。

 誰かのために、自分の気持ちを全部無視しようとしてる。


 まるで、()()()()()()。ほんとバカだろ。

 くだらないことで悩んでるんじゃねぇよ。





「お前も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 虚をつかれたような顔をする。なんでそんな顔してんだ。

 未来は、望めば作れるんだろ?


 じゃあ、お前も望めよ。




「あいつに嫌われてるってわけじゃないんだろ?」

「……たぶん」

「なら、俺たちと一緒にいるのは嫌か?」

「そんなことはない……けど」

「じゃあいいじゃねぇか」


 こいつもいつも強引で自分勝手なくせに、変なところで遠慮する優しいバカだ。

 だからとことん振り回してやる。覚悟しとけ。





 お前は知らないだろうけど、()()()()()()()()()()()()()()








「一緒に、あいつの未来を作ってやろうぜ」








・・・

次回『未来』

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