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(未来の栞) X-1:日向

 エンディング後の未来。

 悲劇も絶望もない、ただのありきたりな日常の群像。

・・・



 私はあの時、最後の最後まで無力だった。


 相手にも、してもらえなかった。

 あの時の、あの子の顔が、頭から離れない。



 まさしく……《《子供扱いされた》》。



 悔しかった。

 友人は無理もないと慰めてくれたけど、やっぱり悔しい。


 だからこう、その。

 あの子が無力な存在になったとき、ほんの少しだけ気持ちがスッとしたんだ。


 私の腕の中で、ほとんど何も感じさせないくらい、力無くもがく感覚。

 それに、小動物のような愛くるしささえ覚えた。


 ああ、我ながら、器が小さい。

 でもこれも私。認めるしかない。


 こんな私を、友人は認めてくれてるんだ。

 私も私を認めないと。


 結局のところ私たちの失敗を、失態を、あの子が帳消しにしてしまった。

 あの子自身もなんだかんだ無事?だった。


 それが私の心を軽くしてくれてるんだろうなって思う。


 なんだか、思ったよりも精神的に余裕がある。

 もう戦わなくていいし、戦わなくても誰も奪われない。



 平和だ。こんな日が来るなんて。



 魔力はすぐには無くならないけど、いずれ無くなるという話。

 だから私たちはまだ魔法が使える。


 といっても以前ほどの力はなくて、だんだん力が失われていってるのがわかる。


 いつか、この力が全て無くなったとき。

 私たちは、魔法少女から、本当の、普通の少女になるんだ。


 魔力を持たないものは魔力関係の記憶を保持できない。

 だから魔力が無くなったとき今の記憶がどうなるのか。

 魔法絡みで関わった人、友人との記憶は、どうなるのか。


 少しだけ不安だけど、それもきっと問題ない。

 何かしらの辻褄合わせは起こるだろうけど、私たちが離れ離れになることはない、と思う。


 今まで一緒にいて、これからも離れる理由がないのだから。

 私たちはきっと、ずっと友人だ。


 この感情だけは絶対に変わらないから。


 私たちは、大事な友人同士のまま、普通の女の子同士になるんだ。






 ……でも。


 でも最近思うのだけど。


 私たちってずっと友人どまりなんだろうか。



 もっと先に行くのも、あり、なんじゃないだろうか……。嫌がられるかな……。


 わからない……。

 今のスキンシップだって、たぶん受け入れられているとは思うけど……。


 更に一歩、踏み出すのは、やっぱり怖い。


 もし、もし、私の思い違いだったら。

 万が一、友人が離れて他人になってしまう。


 そんなことを考えると血の気が引きそうになる。


 でも、友人が友人じゃなくて、その、そういうもっと深い関係になったのなら。

 どうしよう。どういうこと、するんだろう。何が、起こるのかな……。



 いや、まさか、あんなこととか、こんな、あ、でもいきなりそんな。




「……えへへ」

「灯ちゃん?」




 ……おっと、危ない。

 電話中で対面してないとはいえ、流石にやばい顔してたかも。


 うーん、なんだろう。やっぱり私っておかしいのかな。

 こんなの普通じゃないと思うんだけど。


 友人と話してると、気持ちがポカポカする。一緒にいると、身体が熱を持つ。


 友人を、そう、友人なのだと思っていないと、道を踏み外しそうになる、よくわからない感覚。


 でも……この心地よさをもっと感じられるなら。

 私は普通じゃなくてもいいのかもしれない。




 そして……願わくば……、友人も、普通じゃなかったら、いいなぁ……。




「……あ、そうだ灯ちゃん」

「なぁに?」


「えー、その」

「?」



 意を決して、みたいに切り出して、歯切れの悪い声色で口ごもる。

 友人は割とハキハキ喋る方なのに、こんな話し方って、ちょっと珍しい。


 なんだろう。



「あー、あのさ」

「うん……?」

「私たち、あのあと解散してさ、私が野良猫少女を家まで送ることになったじゃない?」

「うん」



 野良猫少女……あの子は油断するとフラフラ何処かに行ってしまうからまさに野良猫だ。

 だから捕まえておくために、結構長い間一緒に行動してて、でも私はどうしても外せない用事もあり家に帰らなければならなかったから、あとは友人とあの子の友人たちに任せて別れた。


 本当はもっと友人と一緒に居たかったけど、流石にただの友人の関係では四六時中一緒にいることは叶わない。

 もしそれを可能とするなら、もっと深い関係にならなければならない。いろんな意味で。

 そしたら同じ家から出かけて、同じ家に帰って、そして、そうして、


 ……って、違う違う。

 平和ボケしすぎで頭おかしくなってる。脱線するな私。本筋に戻れ。


 えっと……、あの子が、帰る場所が一応あるって言ってた感じで、言葉のコミュニケーションを唯一取れる友人が最終的に送るって話になったんだっけ?




「……それがどうしたの?」




「……えっと、色々あって、私の家に連れ込みました」




「?」




 ……?



 ……。



 ……。







「は?」






「え、あ、いや、ね」

「どういうこと?」


「あー、うん。えっと、この子、帰る家とか言いつつほぼ野宿のホームレスだったんだよね」



 何となく想像はつく。だけど聞きたいのはそこじゃない。



「それで?」

「いやなんとなく察してはいたけど、思ったより酷い環境だったからさ」

「……うん」

「でさ……、この子をちゃんと認識できるのって今のところ私だけじゃない?」

「……」


「じゃあお世話するなら、私しかいないなって、思って、さ……」

「……」



 ……なんだろう、この気持ち。

 熱が引いて頭が冷たくスッとしていく感じ。



「強引に連れ帰ったら連れ帰ったで、代償の影響もあるんだろうけど思ってた以上に何もできない子で……」

「……」

「お風呂に入りたいってちょいちょいこぼしてたから家のお風呂貸したんだけど、でも一人じゃ入れない様子だったから一緒に入って」



「え?」

「あっ……」



「大丈夫、続けて」

「……なんか恥ずかしがってすごく嫌がったから、無理やり捕まえて洗ってやっていやなんかほんとまるで猫みたいだよね、うん!」

「……」

「えっと、服も自力じゃ着れないみたいだったから、これも嫌がったけど着せてあげて……」

「ぅ……ん、それから?」

「なんか、下着も持ってなかったから私の下着を貸してあげて、つけてあげて……」

「っ……つづけて」

「……でもトイレ行くたびにパンツ脱がなきゃだから、そのたびに穿かせてあげてたんだけど」

「……」

「でも無理やり穿かせるたびになんか毎回涙目になってるのが可哀想になったから、いっそ脱いでてもいいよ、って」

「……」



「……そういうわけで、ノーパン少女が、いま私のベッドでゴロゴロしてます」



 なんなのだ、これは。どうすればいいんだ、私は。

 落ち着け私。とにかく落ち着こう。


 うん、大丈夫。大丈夫。



 大丈夫。




「他には?」

「たぶんないです……」


「……」

「……」



「萌ちゃん」

「はい」

「ちょっと待っててね。いますぐそっち行くから」

「あっはい」



 電話を切る。

 うーん、なんだろうね。なんだかすごく透き通った気持ち。こんなの初めて。

 わかるよ。うん、わかる。友人は優しいからね。


 あの子もまあ、そうなる理由も、わからなくもない。うん、おーけー。私は冷静。

 私だってあの子には感謝してるんだ。だから、まぁ。そうだね。


 うん。感謝は、すごくしてるんだよ?


 でもさぁ。ねぇ。


 私をあんな気持ちにさせといて、今はこんな気持ちにさせるだなんて。

 いやぁ友人の家に行くのは初めてじゃないけど、なんか楽しみだなぁ。






 ……まってろよ泥棒猫。







・・・

次回『親友』

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