表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

(伝達の栞) B-5:宣言

・・・



 抵抗が止まった。敵意が、消え去った。


 あんなにも必死に逃げようとしてたのに、こんなにもあっさりと抵抗しなくなった。



 髪を掴んで、頭を持ち上げる。どんな顔してるか覗いてあげよう。


 うわ、真っ青だよ。どうしたのかな。


 震えも止まらないみたいだ。なんでだろうね。かわいそうに。




(それだけは……やめて……)

(ん?)



(お願い、やめて)

(聞こえないよ。もっと強く、心の底から考えて)



(お願いします……やめてください……ッ!!)

(なんでやめなきゃいけないの?)



(何でも……何でもします……お願い……)

(そっかーなんでもかー、どうしようかなー)

(……)



(……あ、でもごめんね。もう送っちゃった)



(ぁ……)




(残念でしたー)


(あ、あああ)



 まぁ嘘だけど。全部は送ってない。送ったのはおねえちゃんに関することだけだ。

 情報の上澄みはともかく、何でもかんでもをあの人に送る気もない。

 あの人がそんな全部に責任を感じること、必要ないし。


 私は笑顔で、敵の心を嬲っている。わかってる。

 おねえちゃんのためだなんていってて、本当は、自分の自己満足のため。



 おとうさんは私のことをお姫様といってた。

 おねえちゃんは私のことを天使といってた。



 だけど今の私は、きっと悪魔みたいな笑顔で笑ってるんだと思う。



(お前なんか、お前らなんか)



 思考がうるさくなってきたのでフィルターで切る。もう聞く必要もない。


 そろそろ終わりにしよう。

 魔法少女の地獄は一年分ストックがあるし、本当はもっともっともっと地獄を見てもらいたいけど、時間も無い。

 早く処理しないと、いい加減あの二人にバレる。

 黙って隠してしまって、敵はどこかに逃げてしまったと告げる。

 罪は私の中だけ全部抱えて隠してしまうんだ。



 だから、この敵にも、もう終わりを告げてやろう。



 助けてやるつもりなんか、最初から無い。

 だってこの敵は、もう何人も()()()()()

 だから、この敵も隠してやる。




 それが『隠蔽』にふさわしい末路でしょ?




 少し離れて、敵の頭に情報を送り始める。

 今までの比ではなく、桁違いの、膨大な量のノイズを注ぎ込む。



 一瞬、ビクッとなって、敵の動きが止まった。まだまだ注ぐ。



 喘ぐように、口をパクパクさせてへたくそな息をしている。釣ったお魚みたい。まだまだ注ぐ。



 ピクピクしてる。やっぱりお魚みたい。まだまだ注ぐ。



 動かなくなった。まだまだ注ぐ。



 まだまだ。














 極光が迸った。



 驚いて背後を振り向く。思わず、『伝達』も解除されてしまった。



 そこにあったのは……窓の空いた車。





 そして、肩で息をしながら、真っ青で死にそうな顔の、天井に寝そべり窓から腕を突き出した、元魔法少女の姿。





 ……なんで。



「……ッ! 裏切りものは……あたしが殺した」



 なんで。



「見てたな、菫」

「……ああ、ごめん。こんな汚れ仕事をさせてしまって」



 なんで……!



「綺麗に消したから後処理も……必要ないな」

「……そうだね」



 これは……私だけの罪のはずだったのに。



「あいつは……可哀そうな奴だったんだ。だけど、一線を越えてた。何度も超えてたのがわかった。これ以上罪を増やす前に、だからこうするしかなかった」

「……そうだ。僕たちは、こんなことが最後になるように、しなければならない」


「悪い。お前と燕の理想に、一生消えない傷を付けてしまった。謝っても謝りきれない」

「……いや、これは僕の決断だ。熟考の果ての。引き金を引いたのは、僕だ」

「そっか。まぁ実行犯はあたしだから、どっちにしても共犯だな」



 ちがう。本当はもう終わっていた。だからこれは私が。

 なのに、二人が罪を背負ってしまった。


 私だけの罪のはずだったのに。

 私たちの罪になってしまった。



「なんで」

「何がだ」

「なんでここに」

「ああ。携帯電話……持ってるだろ」



 ……持ってる。

 いつも持ってろと言われてたから何も考えずに持ってた。



「お前の携帯、見守りGPSが入ってるんだ」

「え……」

「いつ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……間に合ってよかった」



 本当は間に合ってない。だけど、そんなこと伝えても、意味がない。

 どう見ても、敵を隠してしまったのは、この人だから。



「帰るぞ。こんな辺鄙なところで迷子になりやがって」



 ああ……私は……間違えてしまったんだ。


 ごめん。おねえちゃん。ごめんなさい。



 おねえちゃんの大切な人が、汚れちゃった。本当に……ごめんなさい……。










・・・










 懐かしい記憶。夢を見た。

 ほとんど悪夢に近くて、そういう夢に限って起きても覚えているものだ。


 あれから私たちは協会の活動の裏で、日常の団欒の裏で、この罪を隠し続けた。やっていることは、あの敵と大して変わらない。

 違うのは、その後も手を汚し続けているのは、私しかいないということだけ。


 それが私の贖罪。もう二人が手を汚さずに済むように。そのために動いている。

 ()()()()()()はもうしてないとはいえ、それでも私の手は汚れきっている。


 でも、それでいいんだ。二人の理想のために、私は陰ながら力になる。


 それでいい。







 だけど、もうそれも終わりを告げた。


 私はまた、肝心な時に何もできなかったけれど。

 偶然とは思えないタイミングで一斉に、強引に叩き込まれた情報の渦で、私は何日も眠りについていた。


 そして目が覚めたとき、『未来』の魔法少女とのリンクは切れていた。

 私が伝え与えた魔力の欠片が感じ取れなかった。



 つまり、終わったんだろう。

 彼女が言ってた、エンディングが始まる。



 私たちは魔法少女じゃなくなり、魔物の被害も無くなる。



 ということは、()()()()()()()()




 おねえちゃんも。


 おねえちゃんの敵も。




 だから今度は間違えない。

 おねえちゃんを助けて、おねえちゃんの敵にも、間違えさせない。


 みんなの記憶がどのようになるのか。

 死んだ時点の記憶が残るのか。何も覚えていないのか。

 分からないけど、またやり直すことができる。

 取り返しのつかないことを、もう一度だけ。


 『未来』の彼女の記憶と一緒に魔法の記憶も消えるって言ったけど、私の、私たちの罪の記憶はきっと消えないだろう。

 普通の少女に戻ったとしても、私たちはツミビトだ。一生背負っていくしかない。


 それは、あの敵も同じ。だからそれは覚えていてほしいけど、おねえちゃんだけは全てを忘れていてくれたらって思う。

 勝利の女神なんかじゃない、ただのおバカなおねえちゃんであってほしい。



 私たちには、日常が返ってくる。



 たった一人の犠牲の上に、それ以外の全ての犠牲を取り戻したんだ。







「おはよう、あやめちゃん」







 私は……今も振り向けない。

 ……ずっと、視界はにじんでいる。


 感謝を、しなければ。深く、祈るように。


 そして……、彼女は忘れるようにといったけど……、一生忘れるべきじゃない。絶対に。

 どうにかして、語り伝えていかなきゃいけない。


 私は、『伝達』だから。伝えることが、私の使命だから。







・・・








 あ、そうだ。


 そのうち『伝達』も消えるなら、その前にこれもしておかないといけないね。



 チャンネルオープン。対象、全部。







(あー、テストテスト)



(日頃から魔法通信をご愛顧いただき誠にありがとうございます)


(突然ですが、魔法通信は近日中に、サービスを終了いたします)


(ご不便をおかけしますが、なにとぞ、ご了承ください)



(そして、皆様にお伝えすることがあります)


(私たちの戦いは、終わりました)


(一人の女の子、『未来』の魔法少女のおかげで)


(魔物との戦いも。魔法での非日常も)


(すべてなくなり、私たちは日常に帰れます)






(私は今ここに、()()()()()()()()()()()()()()()






(皆様、本当におつかれさまでした)






 これでよし。

 めちゃくちゃ、通知がきてるけど、無視だ無視。フィルターオン!


 終わり、お終い!








・・・








 あれから、おねえちゃんがカナメさんとスミレさんを連れてまさかの『隠蔽』との話し合いに行ったり。

 『察知』さんに会って『未来』さんのことを話したり。

 カナメさんの代償が軽減されてふわふわと幽霊みたいになってたり。

 道端で『抑制』さんと偶然会って、会釈して別れたり。


 色んな事があった。

 というかおねえちゃんは何考えてるんだ。わけがわからない……。


 まぁでも、どれもこれも、平和で平穏な日常だ。





 みんな、みんな、あの子のおかげ。

 彼女が犠牲になって、私たちは救われた。


 ……忘れたくないな。忘れちゃいけない。

 始めて会ったときに思わず敵対しかけてしまい、一瞬だけ、情報を抜いた。


 あの子もすごく……弱くて強い子だった。

 色々なことを経験して大人にならなきゃいけなかった、世界の犠牲者。


 本当はあの子にだって、普通の女の子として、日常を謳歌して欲しかった。


 でも、それももう叶わない。あの子の未来は、終わってしまった。


 それだけが、このエンディングで叶うことがない。唯一の取り返しのつかないこと。


 だから、忘れちゃいけないんだ。

 私たちの日常が、あの子の犠牲の上に成り立っているってことを。

 私たちの今は、あの子が費やした未来だっていうことを。


 絶対に。忘れるべきじゃない。










(あ、もしもし彩芽さん?)

(この魔法通信はサービス終了を予定しております、ご用件のある方はこれからご案内する番号に)



(あー、そういう定型文いいんで、ちょっと聞いてほしいんですけど、今から会えます?)

(……あれ、なんか協会に用事でした? 協会も解散予定ですけど)



 協会が解散したら、私は実家におねえちゃんと帰る。おかあさんもおとうさんも一緒だ。

 カナメさんは、なんやかんやと理由をつけてここに残るらしい。うーん、色々と頑張ってほしいなぁ。



(私、最近家で野良猫を飼い始めてですね、連れて行きたいなぁと)

(あ、良いですね。私ネコ好きですよ)



(パンツ穿いてないんですけどね)


(……パンツ?)







・・・

伝達の終わり。

次回『日向』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ