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(伝達の栞) B-4:隠蔽

・・・



 その人は努力の人だった。


 たくさん努力して、たくさんの成果を出して、でも一つの傷だけで全てが台無しだと言われてしまう人。

 どれだけ頑張っても、99点では認めてもらえない。1番でなければ認めてもらえない。

 約束された完璧。それ以外は全てが無駄。そんな環境で、必死になってた人。


 ただ一つの落ち度。それだけで、この人は全てを失った。

 たとえ直接それを奪ったのが魔物だったとしても、元を辿ればそれは自分のミス。


 はっきりいって、()()()()()()()()()()()()()()()()。ただの思い込みだ。


 靴を履くときに右足から履いたから事故にあった。そんなレベルの、何の意味もない考え。

 だけどこの人は、失われたことへの責任の所在を求めた。それが自分のせいだってなったのは当然の結果。

 だから、自身にけじめをつけようとした。逃げようとしたともいえる。勝手に責任を感じて、それに耐えきれなかった弱い人。

 再び魔物が現れて、魔力に目覚めてまだ魔法には目覚めていないこの人を襲おうとしたとき、この人は抵抗しようとしなかった。


 それを助けようとしたのが、スミレさん。ほんとバカみたいだけど、単身で助けに入ったらしい。

 たくさん考えて、力も無いのにその魔物を倒してしまったとき、この人は思ったらしい。


 なんでこの人は私なんかを助けたのだろう。私に何の価値があるのだろう。


 はっきりいって、スミレさんにとってこの人は、その他大勢の魔法少女の一人にすぎない。

 だけど全てを失ったこの人にとって、スミレさんは唯一無二の存在となった。


 この人の近くにいたい。

 許されるなら隣にいたい。


 思った。思い続けた。そしていつの間にか。


 隣にいない自分は、許されていない。


 と思うまでに歪んでいった。


 このとき考えたのが、常に完璧でなければならない、ということ。

 たった一つの傷すら許されない。たった一つの罪すら許されない。


 万が一、もし傷ついたなら、もし罪を犯したなら、それを絶対に隠し通さなければならない。

 それが私の価値をすべてゼロにしてしまうから。


 そうして魔法が目覚めてしまった。全てを隠し通す魔法。『隠蔽』が生まれた。


 ほんの少しのミス。それを隠した。それは秘密裡に、リカバリーされた。

 ほんの少しの傷。それを隠した。それは秘密裡に、治された。

 ほんの少しの罪。それを隠した。それは秘密裡に、無かったことになった。


 『隠蔽』は繰り返される度に、少しずつ歪んでいく。

 隠されたものを隠し続けるために、もっとたくさんのものを隠さなければならなくなる。


 嘘つきが、嘘をつき続けるためにやがて泥棒になってしまうように。

 ほんの少しのミスが、傷が、罪が、どんどん大きくなっていく。それでも、隠し続けなければならない。


 だって、完璧でなければいけないから。認められなければ、価値がないから。そう思い込んだ。


 隠されたミスと、傷と、罪が大きくなるにつれて、力もどんどん大きくなっていく。

 そしてたくさんの隠された爆弾を抱えながら、この人はようやく目的の場所の近くまで辿り着いた。



 だけどそこには、おねえちゃんがいた。

 決して動くことのない、不動の神様。



 この人も最初は真っ当に頑張ろうとした。

 それまでがいくら真っ黒でも、スミレさんの前では潔白であろうとした。


 だけど駄目だった。努力はずっとこの人を裏切り続けた。

 いつまでたっても良くて二番手。一番とは目に見えて差のある、最下位と変わらない存在。


 改めて考えるしかなかった。

 スミレさんを諦めて、無価値な存在として死ぬか。

 スミレさんの隣を奪い取って、価値ある存在として認められて生きるのか。


 選択肢をこの二つに定めてしまった。これも思い込みだ。

 そして、綿密に、周到に、悪辣に、おねえちゃんの場所を奪い取ろうとした。

 その過程は上手くいったのだろう。おねえちゃんは、『幸運』は、いなくなった。

 だけど気づいていない。その二つの選択肢の中に、そもそも正解が無いってことに。


 思い込みだ。選択肢が見えたなら、その中に必ず正解があるっていう、思い込み。

 それまでの選択が上手くいっていたのは、たまたまだ。《《幸運》》の賜物でしかない。

 そして、上手くいかないのも、たまたまだ。その後たくさんの《《不運》》が、この人と周りを襲ったのも、全部偶然。


 でもそんな『不運』なんか、おねえちゃんとは関係ない。

 唯一、『幸運』が失われたのだけが、この人のせい。



 結局、『幸運』の場所を勝ち取ったのは、カナメさんだった。

 この人が考えているような、有用さという価値は関係なかった。

 なんの力も無くしてしまった、ただの心配性なおせっかいが、今のスミレさんに必要とされた。


 だからこの人は、カナメさんのことも認めるわけにはいかない。

 認めてしまえば、自分の全てが否定されてしまうから。諦めるしかなくなるから。


 でも何もかもが上手くいかない。不運が何度も何度もこの人を襲う。

 この人は思った。全部、『幸運』のせいだと。こいつが、死んでもなお、何かしている。


 全部気のせい。全て思い込み。それでも、表立って動くと不運に見舞われるので、この人は裏に回ることとなった。

 裏から手を回し、表向きは協力を続けながら、味方面をしながら、機を待ち続けた。


 雌伏の時だ。全てを隠し直して、全てを払拭したとき、完璧な私は返り咲く。そして再びあの場所を。






 これが抜き取った、簡単な情報。


 くだらない。哀れで惨めな、道化の話。

 私の目の前で、完璧な表情をほんの少し崩して目を見開いている、整いすぎた顔の女の、どうでもいい顛末だ。


 見つけるのに、ほんと苦労した。

 この人は自分を隠せない癖に、タイミングを見計らったかのように表から隠れたから。


 だから、通信からは片時も意識を外せなかった。いつ何とき、この人が動くかわからなかったから。

 確実に捕まえないといけなかった。だから、一人になるタイミングを、ずっと見計らっていた。


 ひとけのなくて、見晴らしがいい林の中の小高い丘。ここがこの人の最後の場所だ。


 ようやくだ。ようやくだよ、おねえちゃん。


 ようやくおねえちゃんの敵を捕まえた。



「あな……たは……?」

「誰だと思う?」



(あの、挽き肉)













──は?




(いえ、似ているけれど、妹。そう、たしか妹がいるといっていたはず。だったらこの子は、あの挽き肉の妹)




 はは。




(なぜ妹が? いや、そういえばあの時。この子も魔法少女に? 噂程度だったけどやはり真実。だとするとタイミング的に)




 ははは。




()()()()……ッ!? まずい、私は使ってないけど、魔法の条件が分からない、私は私を『隠蔽』できない、情報をやり取りする魔法ということは、条件によってはそのまま私の思考が)




()()()










 地獄を見せてやる。











・・・











 唐突に、私の見ている世界が隠された。

 そして、唯一はっきり見える敵の姿だけが、全力で後退していく。


 速いなぁ。もうあんなに離れている。




 でも関係ない。

 私には距離の制約はないし、既に敵の魔力核は掌握している。



 豆粒ほどに離れていった敵を、()()()()()()()()()

 急に推進力を失った敵が、そのまま地面に落ちる。


 敵は私の魔法を単なる通信手段としか考えていない。

 だから、恐れているのは、情報の拡散。

 だから、私を全力で隠して、いったん逃亡した。改めて隠し直すために。



 甘すぎる。私は女神の妹だというのに。


 なんの準備もせずに隠しただけで封殺できたと思ってる。これも思い込み。



 いま敵に与えたのは、一か月前に魔物に殺された魔法少女の死に様。

 巨大な魔物に押しつぶされた、可哀そうな人の最期。


 それを忠実に再現して、敵に送りつける。

 潰れてないのに、頭の中で勝手に、潰れたと思い込ませるくらいの解像度で。

 身体は勝手に反応する。死んだと思う。だけど、これは幻でしかない。地獄の序の口だ。


 敵は、頭の中で一回死んでいる。でもすぐに復活するだろう。

 あれでも敵は歴戦の魔法少女だから。油断しないように追撃をする。




 少しずつ近づいていく。

 逃げる敵に、今度は何度も触手に貫かれた魔法少女の情報を叩きつける。


 少しずつ近づいていく。

 逃げる敵に、今度はゆっくり絞め殺された魔法少女の情報を叩きつける。


 少しずつ近づいていく。

 逃げる敵に、今度は生きたまま食い殺された魔法少女の情報を叩きつける。


 少しずつ近づいていく。

 逃げる敵に、今度は身体の端からだんだん消化されていった魔法少女の情報を叩きつける。


 少しずつ近づいていく。


 少しずつ。少しずつ。少しずつ。






 ……追いついた。






 身体中から水分を出してべちょべちょになりながら、それでも逃げようとする敵の頭を押さえつける。


 全力で抵抗してくるけど、もはやそれも弱弱しい。

 何回も死んでるのに。意外としぶといね。


 どうしてくれようか。





「……あ、そうだ」



 いいこと思いついちゃった。

 なんで最初に思いつかなかったんだろう。



「ねぇ、今からさ」



 息も絶え絶えの敵に、顔を近づけて囁いてあげる。

 私が、終わりを告げてあげる。







「あなたが隠してきたこと、スミレさんに全部教えるね」




次回『宣言』

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