(伝達の栞) B-2:通信
・・・
私は頭が良くないから、考えても分からなかった。
一人一人あたって探していくのでは、時間がかかりすぎるし、限界がある。
だからたくさんの人と一気に、伝え合えるようにしたい。
そのためにはどうしたらいいのか。私には思いつかなかったけど、この人なら。
「……わかった」
「おい」
「まず、何が出来るか教えてくれ」
「おいッ!」
コウモリさんが怒っている。
役に立たない人は黙っててほしい。
「こいつはッ……!」
「分かってるよ」
「ッ……」
「この子は、燕の妹だ。燕のために何かしたいという気持ちは、僕たちと同じはずだ」
「……こいつは危ういぞ」
「それも、分かってる」
「……」
納得、したんだろうか。コウモリさんは悔しそうに引き下がって、それから私たちは、たくさん話し合った。
私がしたいことを、この男の人が具体的な方法としてやり方を考えて、形にしてくれる。
意外にもコウモリさんも色々な意見を出してくれた。
この人は私に無理をさせないことと、私が道を踏み外さないように自分たちを関わらせることが本当の目的だったみたいだけど。
それでも、私だけじゃできないことが、この人たちのおかげで先に進んだ。
三人で色んなテストをしながら、やり方を調整して、実践もしながら、ついに私たちの武器が出来上がった。
それが、『魔法通信』
情報を、私が受け取って、別の人にそのまま流すという、言葉にすればとても簡単な仕組み。
手軽で、便利で、魔力さえあれば誰でも自発的に使えるようにシステムを考えた。
安心、安全をうたって、セキュリティも万全。プライバシーも守られてる。
プライバシーは大嘘だけど。
これを協会の魔法少女に使ってもらう。私がそれを覗き見して、怪しい情報を調査する。
この男の人は、敵がその中の誰かまでわかってて、それでも証拠がなくて確信が持てていない。
この人の理想は全ての魔法少女を助けること。
でももし、その魔法少女の中に敵がいるなら?
そんな思いのせいで動けなくなっている。確実な真実が無ければ、踏み出すことができない。
だから、私が隠されたそれを暴く。私の力ならそれができる。
手ごたえはある。
いまはまだ起きている間しかできないけど、たぶんもっと頑張れば一日中動かせる。
力の消費量も、普通の人に使うのとは違って、魔法少女ならその人の魔力も分けてもらう形にもできたので、そこまでではない。
情報の中でも少しは知ってたけど、この男の人は思ってたよりずっとすごい。
この男の人が、たまにおねえちゃんやコウモリさんのことをエッチな目で見てたってことも抜き取って知ってるけど。
だてに魔法少女をまとめ上げる協会の代表をやっているだけある。ただのムッツリなだけじゃないみたいだ。
それに、この人は男の人にしては、だいぶ誠実な感じだ。
私も最近はちょっとずつ大人っぽく成長してきてて、道すがらそういう目で見られていることが伝わってきたりとかもするけども、この人はそういうことを考えた瞬間に何も考えないように考えを止めてる。なんだかいい人なのかもしれない。
そんな、どうでもいいことを考えられるようになったくらい、順調だった。
進展があると、ちょっとは心に余裕が出来るものだね。
さっそく、私は全国の魔法少女に会って仕込みと魔法通信を使ってもらう説明のために、この男の人の車であっちこっちにいくことになる。
一人、二人。
十人、二十人。
私が直接会う必要はないけど、一応対面はする。
可愛がってもらえることもあれば、もしかしてあの女神様の?ってささやかれたりもする。
あからさまに変な目で見られることもある。こういう人からは念入りに情報を抜き取っておく。
三十人、四十人。
五十人、六十人。
大体の人とは会った。だけど、どうしても会えない人がいる。
その人に、どうしても辿り着けない。
私にだってもうわかった。この人が敵なんだと。
どうしても隠れて見つけられないものを見つけるにはどうすればいいのか。
そう、そこ以外の全てを暴いて見てしまえばいい。
そうすれば、自然と不自然なものが浮かび上がるから。
あとは根比べだ。
敵以外のほとんど全員が使ってる魔法通信を監視して、その場所を炙り出す。
ここまできれいに隠れられると、長い戦いになるかもしれない。でも大丈夫。
私は我慢が得意なんだ。
・・・
一年が経とうとしてる。
敵はまだ見つかっていない。
通信を監視していて一つすぐ分かったのが、コウモリさんも狙われてる可能性が高いということ。
というか当たり前すぎる。だって、今までおねえちゃんがいたところにいるんだから。
むしろ力を失っておきながらよく今まで無事だったと思う。危なっかしすぎる。
男の人が色々考えて頑張ってるけど、敵は、あのおねえちゃんの敵なのだから。何があるか分からない。
こんな人たちでも、おねえちゃんの大切な人たちなのだから、もっとしっかり身を守ってほしい。
そんなわけで、私は陰ながらこの二人のことを守っている。しょうがない人たちだ。
この二人と一緒に暮らしていると、なんだか色々勘違いしてしまいそうになるけど。
私はこの二人を利用しているだけだ。ちゃんと切り離して考えないといけない。
「今日も、見つかってはいません。ただ関西方面で最近魔物が多いみたいです」
「そうか。となると今は、東北と関西と九州って感じだな」
「そのような感じですね」
「……」
天井に寝転がりながらパンを食べているコウモリさんが、何か言いたげな表情でこっちを眺めている。
最近はこの人たちから勝手に情報を抜き取るのもどうかと思い始めてるので、何もなければ普通に会話をするようにしてる。
通信も基本使わないで、買ってもらった携帯でやることが多い。
というか、相変わらず行儀悪いなぁ……。
前にそのままパンを落としてなんとも言えない顔で真下のパンを眺めてた時は、ちょっとおねえちゃんぽくて面白かったけど。
普通に食べれないんだろうか。
「敬語、やめないか?」
「?」
「いや見てると忘れそうになるけどお前まだ10歳だろ。そんくらいのガキはもっと横柄なもんだぞ」
「まあ、そうですけどね。でも私は私なので」
「……」
たしかに、私はまだ小学生。小学校にはあんまり行ってないけど。
でも知識とかは情報が勝手に伝えられるので、そこから拾っていってなんとでもなってる。
それに、私はもう見た目だけなら中学生や高校生っていってもおかしくない。
だからあんまり子供扱いしないでほしいというか。割と大人な知識もいっぱい知ってるんだけどな。
「それに見た目だけならコウモリさんの方が子供っぽいですよ」
「お前……」
あ、これは抜き取らなくてもわかる。
たぶん微妙に傷つけた。まあ大丈夫だろうけど。
「あと、コウモリさんってそろそろやめろ。要でいい」
「……」
「まあ、名前は呼べるようになったら、でいいけどな。とりあえずコウモリは、やめろ」
意趣返しってやつだろうか。微妙になんとも言えないところを返された。
うーん……でも……うーん……。
「カナメ……さん……」
「すげぇ嫌そうな顔だなおい」
「……あ、でも思ったよりいけそうです」
「なんだその、食わず嫌いの食べ物が、食べてみたら意外と不味くなかったみたいな言い方」
「ああ、そんな感じですね。前は嫌いでしたし」
「おい」
「今は違いますよ?」
この人も、あの男の人も、私とは違う。
おねえちゃんが大切に思っていたっていうのも、わかる。
まあ、そう。好ましいといえば、好ましい。
「おはよう」
噂をすればなんとやら。その男の人が起きてきた。
最近は色々と魔物の動きが活発になってて、昨日も忙しそうにしてたからまだ眠そうだ。
「おう、おはようさん。ついにやったぞ」
「どうしたんだい?」
「彩芽に名前で呼ばれた」
「……!」
目が合った。えぇ……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「スミレ……さん……」
「おはよう、彩芽ちゃん」
なんかとてつもない敗北感がある。謎の圧に負けてしまった。
別に、そこまで嫌な感じはしなかったけど、でもなぁ。
なんかさっきより嫌そうな顔しちゃった気がするんだけど。
でもこの人、なんか珍しく笑顔になってるし、いっか。
……こんなやり取りをしてると、やっぱり勘違いしてしまいそうになる。
だけど、私たちは家族じゃない。仲間ですら、ないかもしれない。
協会が私を利用しているように、私も私の目的のために協会を利用してるだけだから。
私の目的と、二人の目的は、きっと違う。
スミレさんは朝の用事で出かけていった。
私は痛む頭の中で、少しずつ溜まっていく情報をまとめて、
「あ」
「どうした」
「あ、いえ、そういえば昨日買い忘れたものがあったなと」
「……ふーん。なんかあったら教えろよ」
「……」
その約束は、たぶん守れそうにない。
怪しまれている。だけど確信は持たれていない。
二人には直接的な力がないから、確信がなければ動けない。
だから、これは私の中だけに留めておけば、二人は動かない。
「ちょっとお買い物に出かけてきますね」
割り当ててもらっている自室に戻り、着替えて、ヘアゴムでポニーテールを作る。
準備はこれだけで十分だ。私の武器は、私の中にある。
……さあ、行くよ。おねえちゃん。敵のところへ。
・・・
次回『隠蔽』




