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(伝達の栞) B-2:抑制

・・・



 ある日。変な女の人が私のところに来た。

 ここには病院の人以外は入れないはずなのに。

 ()()()()()()()()()。どこからかこっそりとやってきた。


 そして私に向かって伝える。


 ごめんなさい、と。


 何に謝ってるのかは、わからなかった。

 全部伝わるはずなのに、()()()()()()()()()()、肝心なところが伝わらない。


 その代わり、色んなことがわかった。


 魔法。魔法少女。魔物。魔法少女協会。


 その人は他の人と違って、私のおかしな力のことを忘れたりせず、でもそれがわかっていながら何度もやってきた。

 最初は声に出してたけど、この力のことが伝わってからは何も話さずに伝えてくれた。


 まるで吐き出すように。嫌なことを。悪いことを。謝りながら。


 でもそれは、謝っているということしか伝わらない。

 この人は自分の力を使いすぎて、自分の思っていることとかが抑えきれなくなっているそうだ。

 だから、もうすぐ【隠されてしまう】。その前に、誰かに伝えたいと思ったらしい。

 誰にも伝わらない【自分の罪を】。


 それは何も伝わってこなかったけど、代わりに知りたかったことをいっぱい知れた。

 おねえちゃんのこと。私が思っていたよりも、ずっとずっとすごい人だった。


 家ではあんなに情けなかったのに。女神さまだなんて言われて、みんなを助けてた。

 やっぱりおねえちゃんはヒーローだったんだ。もっと早く知りたかったな。


 そんなおねえちゃんはたくさんの人に慕われていて、でもそうは思っていない人もいて。

 おねえちゃんには、家族以外にも大切な人がいたらしくて。

 それを快く思っていない人たちが何人もいて。

 目の前の人も、その一人だったって。


(だから、みんなでどうにかしようとしてた)


(【どうかしてた。あんなことに手を貸してしまうなんて】)


(【あんたにこれを伝えようとしてもどうせ隠されてて伝わらないんだろうけど】)


(私も、死んでしまえと思ってた)


(【でも、どう考えてもやりすぎだった。あんまりにもひどすぎる】)


(【そんな当たり前なことに、私がその対象になるまで気づかなかった】)


(菫さんにも、申し訳ない)


(【私が怪しい動きをしてることも、たぶんすぐ気づかれる】)


(【もしかしたら、もう気づかれてるかもしれない】)


(【でもどうせ何も話せないし、何もできないと思ってるんだろう】)


(私は馬鹿だから、一人じゃなにもできない)


(でも馬鹿なりに動いて、大当たりを引くことができた)


(【あんたの力を、あいつはまだ知らないはずだ】)


(【私はもうすぐ、隠される】)


(だからそれまで私を使ってくれ。私の知ってることで、伝えられることは何でも伝える)


(【あいつに思い知らせてやってくれ】)


(【そしてできたらついでに、あいつに伝えてほしい】)



(【『抑制』が先に地獄で待っていると】)



 何を伝えたいのかよくわからないけど。

 何度も何度も気絶する私に、何度も何度も根気強く、何かを伝えようとしてくれた。



 その人は色んなことを教えてくれて、そして、いつの日か、姿を見せなくなった。



 私はたくさん考えた。


 あの人がいっていたことを考えた。


 おねえちゃんはたくさんの人に慕われていた。

 おねえちゃんはたくさんの人を助けられるくらい、強かった。


 あの時のおねえちゃんはすごかったけど。

 話の中で見せてもらったおねえちゃんは、桁が違った。

 あんなピンチ、本当ならありえない。


 なんで? どうして?


 結局のところ、そこは何もわからなかった。


 だから、知らなきゃいけない。


 そのためには、この力を使いこなせるようにならないといけない。

 どうせ、あの人みたいな人以外には使っても忘れられるんだ。だから全力で、伝え合おう。

 何度も何度も。気を失い。時には死に掛けながら。でも大丈夫、ここは病院だから。

 私は、知らなきゃいけないんだから。知らなきゃいけないことの全てを。


 何か月も地獄の中で暮らしてみて、痛みにも苦しみにもだいぶ慣れてきたころ。

 私のところに、一人の男の人が現れた。あの人と違って、ちゃんとこの人は正式に会いに来てるらしい。


 この人は私をただじっと見て、何も話さなかった。


 でも、最近になって身に付けた新しい方法があった。

 最初に私から何かを伝えて、伝え合うきっかけを作るのではなく。

 力の欠片だけを相手に渡すことで、一方的に相手から伝わることを読み取ること。


 だから、私は何気なく私の魔法、『伝達』をこの人に仕掛けた。

 そして戸惑う。



 この人の心の中は、あの人とは比べ物にならないほど、比べるのも失礼なくらい、おねえちゃんのことでいっぱいだった。



 勝手に抜き取ってしまったけど、たくさん。

 本当にたくさん、新しいおねえちゃんのことを伝えてくれた。思ってくれていた。


 あの人の中のおねえちゃんは憎たらしいくらいに強くてすごい人だったけど。

 この人の中のおねえちゃんはけっこう情けないところもあって、それでもこの人と助け合ってて。



 まるで、私が見てたおねえちゃんみたいで、家族みたいな顔をこの人に見せていた。



 そっか。この人がスミレさん。おねえちゃんが大切にしてたっていう人。


 この人も、おねえちゃんが大切だった。


 そして、もう一人、おねえちゃんが大切にしてた人がいて。


 その人も、おねえちゃんのことを大切に思ってた。













 ()()()()()()









 私は一瞬で、この人のことも、その人のことも嫌いになった。



 ()()()()()()()()()()()()()()


 大切だったのに気づくことができなかった。

 肝心な時におねえちゃんを助けられなかった()()()()



 だから遠慮せずに情報を抜いた。知りたいことを知るために。

 でも知れば知るほど、この人がおねえちゃんを大切に思ってたことを思い知った。

 この人がどれほど後悔しているか。この人が何を疑っているのか。


 私はこの人のことを好きになれそうにはない。

 だけど、この人を信用してもいいとは思った。

 協力しようとも思った。


 だから私は、まずこの力を完成させなければいけない。

 有用さを示して、おねえちゃんの近くにいたはずの、()()()()


 この人はその敵を知っているはずなのに、それが何も伝わってこない。

 ただ、疑っているという気持ちだけしかない。まるで肝心なことが隠されているかのように。


 ならば、こちらから探しにいかなければ。

 私の地獄は、ずっと真っ暗だったけど、ようやく光が見えてきた気がする。










・・・








 あの日から1年が経った。

 力をかなり使いこなせるようになって、私は表向き健康に見えるようになったらしく無事に病院を退院した。

 おかあさんはまだ病院だ。だから私に帰るところはない。

 そんな私を、例の男の人が、どうやったかは知らないけど保護する形で預かるように持っていったらしい。


 好都合だ。


 本当は迎えが来るはずだったけど、先に抜け出して。

 力を出してれば、誰にも気づかれないから簡単だった。


 ずっと未開封だった新品のヘアゴムをカバンから取り出す。

 おねえちゃんと同じように後ろで髪を束ねて、気合を入れる。




 ……さあ行こう、おねえちゃん。私、頑張るよ。




 そして、目的の家に着いて、インターホンを鳴らす。

 誰かと聞かれたので名前を名乗って、一軒家なのにオートロックな鍵が開いたので、勝手に扉を開けて入る。


 そこにいたのは。





「……コウモリ?」

「お前もたいがい失礼なやつだな」


 さかさまの人だった。

 あの男の人から伝わった映像でも見てたから知ってるけど、やっぱり実際に見ると違和感がすごい。

 まるで人の写真を切り取って、家の中の写真をさかさまにして天井を床みたいにして張り付けたみたいな。


「変なの」

「……まあいい。菫はどうした」

「おいてきた」

「お前……」


 頭を抱えてる、この人はカナメさんという。もう知ってる。

 このコウモリさんも、おねえちゃんの大切な人で、おねえちゃんを大切に思ってた人。


 私や、あの男の人と同じ、()()()()


 この人にいたっては、魔法の使い過ぎで魔法が使えなくなってしまっているから、今となっては私以下だ。

 信用はしても良いと思うけど、敵探しにはあまり使えないかもしれない。


「……」


 私のことをジッと見てきたので、軽く情報を抜き取った。

 ズキッと痛む頭の中で、色々わかったけど、この人の情報はあの男の人とそこまで違いはなかった。やっぱり役に立たない。

 私のことを見て色々なことを思ってるけど、そんなのどうでもいい。

 私は、おねえちゃんの敵のことを知りたいんだ。


「……」


 でも何もわからない。

 この人から伝わることも、色々と隠されている。


 やっぱり一人一人あたるんじゃダメみたいだ。やっぱりもっと大きな網がいる。


 何も話すこともなく、ただ私だけが一方的に、勝手に伝えてもらうだけの時間が過ぎていく。






「要ッ!!」

「おせーよバカ。もう来てるぞ」


 あの男の人が勢い良く飛び込んできた。思ったよりも早い。


 あ、そうか。さっきのインターホン押してから私が入るまでの間に連絡が行ってるのか。

 何かあったときの緊急連絡。あと、この人が私の前で無防備だったのも足止めみたいなものだったのかな。

 情報の抜き取り方をミスってたみたいだ。というより意外とこのコウモリさんが上手かったのかも。


「……」

「……」

「……」


 ちょっと気まずい雰囲気が流れる。

 まあ私はこの人たちにとって、触れがたい腫れ物のようなものだから。

 それも仕方ない。


 沈黙が続くが、私がそれを破る。




「……提案が、あります」




 私はこの男の人が、『熟考』と呼ばれていることを知っている。

 だから、考えてもらう。



「私の力の、最大限の使い道を考えてください」




 私の使い方を。敵の、見つけ方を。




・・・

次回『通信』

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