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(幸運の栞) A-4:剥落


・・・




 更に1年が経った。



 『協会』のメンバーは、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地に広がった。

 魔法少女による対魔物の網は、ほとんど完成したといっていいだろう。


 これで完全に、私たちが優位に立ったと思った。思い込んでた。



 甘すぎたんだよね。話がそんな簡単にいくわけがなかったんだ。

 現実は、不運は、いつだって私たちを嘲笑うかのように、すべてを台無しにする。



 何が、間違っていたのだろう。

 もしかしたら、最初から間違っていたのだろうか。



 わからない。

 それでも私は、幸せを運ぶ。

 私のすべてを使って、みんなに幸運をもたらす。



 それが私の、存在意義だから。






 ……それすら、間違いだったのだろうか。







・・・







 はっきりいって我が家は貧乏だ。


 もちろん、下を見たらもっと貧乏な家はたくさんあるんだろうけど、客観的に見ても確実に平均は無い。

 精々、下の上と言ったところじゃないかな。


 明日の食事に困るほどではないけど、決して贅沢は出来ない。

 家にあるものは全て安物。娯楽はお金の掛からないものだけ。


 お母さんは頑張って働いてくれてるけど、この生活を維持することで手一杯。

 私もアルバイトしたいって思ってるけど魔法少女やってると中々ね……。


 まあでも、悪い生活ではないと思ってる。

 毎日は無理だけど、食卓に家族がそろうことも珍しくはないし、笑顔も多い。

 最初はもっと『幸運』を注がなきゃと思ってたけど、そんなの必要ないくらい私たちは十分幸せだ。


 すみれさんは、隙あらば私のことを援助しようとする。私はそれをずっと、突っぱねてる。


 私がすみれさんの隣にいるのは、そんなことのためじゃないんだ。

 それに、それを受け取ってしまったら対等な関係じゃなくなるでしょ。そんなの私は嫌だ。


 私が受け取るのは、他の子と同等の報酬のみ。


 私は、みんなに幸運を与えるもの。魔物以外からは何も奪いたくはない。


 それに、私は十分に貰っているんだ。

 これ以上貰うわけにもいかない。







「誕生日のプレゼントくらい良いんじゃないか……?」

「他の子たちが貰ってないなら不平等でしょ」

「ほんと強情だなお前」


 今月私は14歳になる。

 年齢は秘密だけど誕生日は知られてるので、この人たちはここぞとばかりに私に色々渡そうとする。


 かなめさんはもう物で贈るのはやめて、さりげなく何か手伝ってくれたりとか、そういう方向にシフトしてるように見える。

 すみれさんは諦めが悪くて、あの手この手で私を祝おうとしてて……優しいけどホントそういうところがダメな男だよね。




 そもそも私の誕生日は、祝ってもらうようなものでもないんだ。


 私の、原点の日だから。


 楽しい思い出なんか、作るべきではない。作ってはいけない。




 あ、でも、あやめちゃんの誕生日は別だ。

 この子の誕生日は、良い思い出で満たしてあげたい。

 お母さんはお父さんみたいに、この日だけ好きなものを買ってあげている。

 私も、この日は目一杯あやめちゃんを甘やかしている。いやいつもだけど、いつも以上に。


 だけど最近、あやめちゃんが遠慮というものを覚えてしまって……。


 いい子だなぁ……でももっと祝わせてくれよぉ……。



「というわけで、私はどうでもいいので今年のあやめちゃんには何を贈ったらいいかの作戦会議を始めたいと思います」

「……お前なぁ」



 かなめさんに呆れた目をされたけど、これが私なんだから諦めてほしい。


 ちなみに私とあやめちゃんは同じ誕生月。あやめちゃんが少し先だ。

 かなめさんは面倒見いいから、割とこういう相談には的確なアドバイスをくれる。助かるねぇ。


「私は今回髪留めなんかいいと思ってます! 可愛いヘアゴムとか!!」

「まあいいんじゃないか? 遠慮せず受け取れそうだしな」




 そんな、平和な会話も。開始早々、唐突に打ち切られる。




 ……二人の携帯電話が同時に震えた。魔物だ。




「声、聞こえた?」

「いや。だとすると今回は遠いな」

「場所は……車で送ってもらっても着いた時には終わってるかもだね」

「一応向かうか」


 現地には数人魔法少女がいるみたいだけど。どうだろう。

 私の『幸運』を送れたらいいのだけど、調整は近づかないとできないからこういう時、少し不安になる。

 前もって送っておけばいいかもだけど、そんな長続きしないからね。

 一応会う機会がある子にはその度におまじないをかけてるのだけど、今回の子たちはもう切れてしまってるだろう。


 サクッとすみれさんに連絡を取って、車で拾ってもらって、現場に向かう。


 助手席が私。後ろにかなめさんだ。



「……あれ、りのさんは?」

「先に現場にいるそうだよ」

「あ、じゃあ一安心だね」



 彼女はなかなかの戦闘巧者だから、今回の現場は心配いらないかな。

 絶対に気付けないトラップで嵌め殺されて、ちょっと可哀そうになるくらい魔物が何もさせてもらえないからね。

 一応確認はしに行くけど、もしかしたら到着前に終わってるかもしれない。






・・・






「あら、皆さんお揃いですね。けれど、もう終わってしまいました」

「そのようだね。お疲れ様」


 やっぱり終わってたみたい。他の子たちも全員無傷で無事な様子。

 今回現場にいたのは、全員りのさんのグループ。問題は何もなかったようだ。

 現場も綺麗だ。魔力残滓もかなり少ないから、だいぶ早めに片付いたのかな。


「私はまだしばらくここに残りますから、後処理も任せていただいて構いません」

「……分かった、お願いするよ」


 そういうわけで、私たちはUターンする。その前にすみれさんの調査があるんだけどね。

 戦闘に関しては今回終わってたけど、すみれさんは毎回こうやって各現場を回って記録を取ってるので決して無駄足ではない。

 どこで、どれだけの数で、どういう魔物が出たか。誰が現場にいて、どういう戦闘をしたか。

 こういったデータがどう役に立ってるのか私にはわからないけど、きっと彼の頭の中で熟考の材料となってることだろう。


 私はその考えに、ただ従うだけ。




──………………。




 聞き取り調査も終わり、帰る途中。

 私はふと、ここ最近不運に見舞われてないなと思った。


 禍福は糾える縄の如し。っていうけど経験則からして、こういう時の不運は大きいものになる。

 自分の『幸運』は調整できないから、そろそろ心構えをしておかないといけないかな。







・・・







 甘い考え。そんなことを呑気に思ってた。




 妹の誕生日も無事に終わり、私は可愛いヘアゴムを送った。喜んでくれた。

 この日は何も起こらなかった。


 次の日。みんなで魔物を袋叩きにした。

 この日も何も起こらなかった。


 次の日。何も起こらなかった。


 何も起こらなかった。



 そんな日が続き、私は誕生日を迎えた。


 全てが終わって、始まった、私が生まれた日。






「私は……ずっと考えていました」



 地面に転がっている私を、遠くから見ている人がいる。


 私は痛みの中で、《《その人だけを見つめる》》。



「あなたに有って、私に無いもの」



 人生の末路は、その人の積み重ねの果て。

 であれば私が積み重ねてきたことって、何だったのだろう。


 本当にこれが、《《私のエンディング》》?



「わかりませんでした。あなたを観察し、調べて、あなたのように人を助け、彼を助けました」



 私は、みんなに幸せを運ぶ、『幸運』の魔法少女。

 みんなを幸せにするために、頑張ってきた。



「でも駄目でした。何もかも、私は完璧だったはずなのに」



 でも、私の存在が誰かを不幸にしていたなら。私はどうすればいいのだろう。

 私はどうやったら、この人を幸せにできたのだろう。



「だから、考えたのです。その場所は、一人限りなのだと」



 誰かに私の代わりになってもらう。

 その考えが、傲慢過ぎたのだろうか。



「奪い取らなければ、決して手に入らない」



 何にしても。

 こんな形は絶対に駄目だ。誰も幸せにならない。

 私はこれを、こんな不運を、全力で否定しなければならない。



「だから、私は《《あなたを隠します》》。跡形もなく、消えてください」



 今更、遅すぎるかもしれない。

 でも、抗うんだ。



 立ち上がれ。『幸運』をもたらせ。私は勝利の女神だ。


 《《私とこの人のバッドエンド》》にも、必ず勝ってみせる。




・・・

次回『残滓』

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