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(幸運の栞) A-2:駆逐

・・・




「うっさんくさ」

「えぇ!?」



 いま私は現役トップクラスの魔法少女、『比重』のかなめさんのとこに来ている、のだけど……。


 その計画、さっそく頓挫しかけてるんですが……。



「今なら会員ナンバー3番だよ!?」

「いや、中途半端だなおい」

「だって1番と2番は彼と私だし……実質ナンバーワンだから!」

「魅力を一ミリも感じられない」


 拒否が思いの外きつくて泣きそう。悲しい。


「大体お前、騙されてるんじゃないのか? どうみても胡散臭いだろその男」

「いや大丈夫だよ。私頭いいし、彼もそういう人じゃないし」

「現在進行形で騙されてる女にしか見えんのだが……」


 むしろ私がこの人のことずっと騙してるんですが……。

 この人は高校生だけど、私のことを小学生とは知らないから同年代のように接してくれている。

 にしても、過保護な気もするけどね。たぶんそういう優しい性格なんだろう。


「いま加入してくれたら携帯電話もらえるし、何かあっても病院代とか出してくれるよ。彼が」

「話が進むほどに胡散臭さが増してくな……」

「じゃあお試しでいいからさ、形だけでも加入してくれない?」


 条件を下げて譲歩。ドアインザフェイスだ。

 正直、この人の名前を借りれるだけでも今後の勧誘が有利になる。


 これでダメならなんとか実績を作って改めて、という形になるけど……。


「今は無理だな。お前のことは信用してるが、その男は信用できん」

「そっかぁ……」

「というかやっぱお前あたしのグループに入れって」

「うーん、ごめんね」

「……」


 それじゃあ意味ないからね。

 私たちの目標は、全国の魔法少女を一つの大きな集団にすること。

 個人グループの傘下に入ってしまってはそれが難しくなってしまう。

 なので逆に、グループを私たちに引き入れる形にしなければならない。


 『比重』の魔法少女のグループは有名で人も結構いて、活動範囲も広いから少しだけ期待したけどやっぱりまだ難しそうだね。

 何回か親交があるからって、いくらなんでもいきなり欲張り過ぎちゃった。


 一旦諦めて次のグループのリーダーにあたってみるかな……。



「……今度その男と会わせろ。クズだったら潰してやる」

「ありがとう。また来るよ、かなめさん!」



 とりあえずすみれさんをお煎餅にするわけにはいかないので逃げるようにその場を後にする。

 というか何故か話せば話すほどすみれさんがすごい悪人みたいになっちゃったから、何とか評価を回復させてからじゃないとこの人に会わせられない……!


 ほんと。人を動かすのって難しいな……。





・・・





 お母さんが普段家にいないからといって、小さな妹を放置してあっちこっちに気軽に行くわけにもいかない。

 そんなわけで私の勧誘活動はなかなか上手くいっていない。


 すみれさんもすみれさんで、やっぱり男の人が少女の集団をまとめるってのは体裁が悪いみたいで上手くいってないみたい。

 ままならないなぁ。というか、まだ時期尚早なのだろうか。私がせめて高校生に、いや、でも流石に時間がかかり過ぎる。



 そんな思いを抱きながら、私の足であたることができる最後のグループと接触することになった。






「どうも、初めまして。私は『幸運』の魔法少女」

「あなたがあの……。わたしは、『隠蔽』の魔法少女です。どうぞお見知り置きを」


 丁寧な人だ。グループ人数は少なめ。悪い評判は、()()()()()()


 目の前にいる、すごく綺麗でそんじょそこらのアイドルでは相手にもならないほどの美少女が、そのリーダーだ。


 お人形さんみたい、という言葉は目の前の人のためにあるんじゃないか、と思うくらい



「早速だけど」

「入ります」



 話がはっやーい!!!


 なんかあっさり第一目標達成したけど。え、なんか、いいのこれ。



「わたしたちは、菫さんに助けられた人の集まりですから」



 ……ああ、なるほど、()()()()()()()か。

 ほんのちょっとだけ親近感湧いた。


 あの人は弱い癖に必死に人助けするから、こういう人も実は珍しくはない。

 行動力もある。何気にお金持ちだから財力もある。

 そして、信念があって、誠実。悪い人ではない。


 だから私は彼のことを信頼してるし、その理想も応援してる。

 その理想が、()()()()()()()と衝突しないという前提があってのことだけど、その理想を叶えてあげたいと思っている。



 ともあれようやく、私たちの理想の組織が。

 『協会』が一歩前に進むことができたんだ。



──……。



「そういえば名前を聞いてもいいかな。私は、つばめ。『幸運』のつばめ」

「わたしは、乙木(おとぎ) 莉乃(りの)です」


 私は、にっこりとお人形みたいな完璧な笑みを浮かべた彼女の、手を取った。




「これから、よろしくお願い致します」







・・・





──……こんなのが。





・・・










 あれから1年が経ち、私は中学生となった。

 全然似合わなかったランドセルともついにお別れだ。


 『協会』もまだまだ問題は多いけど、少しずつそのメンバーを増やしている。

 特に、最初にメンバーになったあの人たちが精力的に動いてくれているので助かっている。


 ……なんとなく、本当になんとなく。

 あの人のことをほんの少しだけ疑ってしまったけど、これまで特に怪しいことは《《何もなかった》》。


 やっぱり人のこと悪く思っちゃダメだね。

 疑わしきは罰せずだよ。反省しないと。


 一人はみんなのために。みんなは一つの目的のために。

 今では立派な、私たちの仲間だ。


 私たちの活動範囲はいつの間にか首都圏を越えて東北や中部の方にまで広がっている。

 このペースなら近いうちに全国へ波及させることができるかもしれない。



 これでようやく、私たちは反攻することができそうだ。



 全国に網を張り、かかった魔物を連携して叩く。

 私たちはずっと後手だったけど、やっと、こちらから狩る側に回れる。



 早く、駆逐しないと。



 魔物という名の不運を。








・・・








 私が魔法に目覚めたのは、10歳の頃。

 思い出したくもないけど絶対に忘れてはいけない、最悪の日。



 私の、誕生日だった。



 我が家では誕生日、毎年お父さんが買い物に連れて行ってくれていた。

 私と妹のことをお姫様と呼んでくれる、気さくで、優しいお父さんだ。

 私はいつも、お父さんと二人で行くこの買い物を楽しみにしていた。


 その帰り道。

 人通りのない道を歩いていたときのことだった。



 いきなりお父さんに、力一杯突き飛ばされた。



 全幅の信頼を置いていた相手からの突然の暴力に、一瞬放心したのを覚えている。

 アスファルトを思いっきり転がって、遅れてやってきた場違いな痛みに戸惑いながら見上げると。






 朧げにしか見えなかったけど。


 ロープのようなものをたくさん垂らしたとても大きな猿の足元で。


 お父さんが裂けていた。






 ここからはあまり語る必要もない。


 魔物が、何が起こったかわからないまま咄嗟に私を逃したお父さんを、ゆっくり食べただけの話だから。


 私は、この世界にはこんな不運がありふれてると、知ってしまった。

 あの時の私は、自分の日常がどれほどの幸運によって保たれていたのか知らなかった。

 幼かった私には、それがどれほど貴いものだったのか、その瞬間まで理解できていなかった。



 郊外で巨大な熊らしきものに襲われた。

 そんな有り得るわけない猛獣の襲撃事故だと解釈された、父の葬式の日。


 中身がほとんどない棺桶の前で泣く、母と幼い妹をじっと見ながら、ぐちゃぐちゃに壊れた心の中で思った。



 幸運って何だ。

 不運って何だ。



 お父さんが、燕ちゃんを守ってくれた。



 それは、事実。

 お父さんのおかげで私は助かった。



 お父さんは、運が悪かった。残念だった。

 燕ちゃんは運が良くて、良かった。



 ……。



 お父さんが、燕ちゃんの代わりに、不幸を持って行ってくれた。



 ……何それ。

 お父さんが不幸になったおかげで、私が助かった?


 理解できなかった。よくわからなかった、けど。


 よくわからない何かが、私の一線を、超えた。

 ずっと我慢してた涙が溢れ、私は全力で暴れた。


 親を亡くした子の癇癪だと、周りに思われただろうけど。

 私は心の底から求めていたんだ。


 切実に。力が欲しかった。


 あの時のお父さんを守れるような、圧倒的な力が。


 嫌だった。

 守られるばかりな子供の自分が。

 理不尽。不運に無力な、弱い自分が。




 気が付いたら、私には魔法が宿っていた。




 普通に使っても役立たずだけど。

 使い方次第では。まさしく神様の如き強大な力。





 私は、今までお父さんが守ってくれていた家族を見て、思う。

 不運の被害者たちを見て、思う。



 私たちの平穏が、幸運によって保たれているというのなら。

 私はこの『幸運』の力で、それを守る。


 私たちの日常が、不運によって壊されるというのなら。

 私はこの『幸運』の力で、それを守る。



 私にとって一つだけ幸いだったのが、不運が、魔物という触れられる形をしていたことだった。


 いるなら、殺せる。消してしまえる。







 もう不運(まもの)に、誰も奪わせはしない。








・・・


次回『視線』

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