(幸運の栞) A-1:幸運
一昔前の番外編。
今に影響を残す、大いなる残滓。
勝利の女神、『幸運』のお姫様の話。
・・・
幸運って何だ。不運って何だ。
そんなことばっかり考えてる。
幸運と不運は差し引きゼロだっていうけれど。
それなら。
誰かの不運で、誰かが幸運になるのか。
誰かの幸運で、誰かが不運になるのか。
そんなことはない。絶対にない。
もしそれなら。
魔物に殺されて亡くなったお父さんの不運で。
お父さんを目の前でバラバラにされた私の不運で。
一体どこの誰が幸運になったっていうんだ。
不運はどこまで行っても、純粋に不運なんだ。
だから私たちには不運なんて必要ない。
あいつら以外への不運なんて、存在する必要がない。
不運が私たちを否定してくるなら。
私は、私たちの不運をすべて否定してやる。
みんなが不運に嘆くことのない世界を、作ってみせる。
私は、『幸運』の魔法少女。
魔物に不運を。
みんなに幸運をもたらす。
勝利の女神だ。
・・・
私は今、本日早々の不運を嘆いている。
「お姉ちゃん……」
「あやめちゃん……」
否定してみせても、不運は変わらずそこにある。
不運が私を嘲笑っている。
なんて、ちょっとカッコつけてみたけど。
今回のこれは単に私が私の朝ごはんのトーストをうっかり落としただけの話だ。
バターを塗った方を下にして。悲しい。嘘だと言ってよマーフィー。
……まぁ、あの法則は本来、失敗する可能性のあるものは失敗するっていうものだからね。
トースト云々は拡大解釈されたギャグでしかないと私は思うんだけどさ。
それはともかくとして、私は運が悪い。
不運に愛されてるとしか思えないくらい悪い。
半分くらいは私のうっかり気質が原因な気もするけど、残りの半分は理不尽そのものだ。
いや、今のトーストは完全に私のうっかりなんだけどね。
あやめちゃんのトーストが無事で良かった。
ああ、私は新しいトースト焼くからあやめちゃんは気にせず自分のを食べるんだよ。
分けようとしなくていいのに。かわいいなぁ。
まぁ、そういっといて新しいパンは出さないんだけどね。勿体ないし。
閑話休題。
休日。親がいない二人だけの食卓。
お母さんは、今日も仕事だ。
我が家ははっきり言って貧乏だから、たくさん働いている。
亡くなったお父さんの代わりになってくれている。
私は、家にいないお母さんに代わって、家事をしたり、あやめちゃんのお世話を承ってる。
きっと、私は周りの子と比べて早熟なんだろう。
大人の代わりにならないといけないから。
でもそれでいい。私はもっと早く大人になりたい。
背もかなり伸びた。身体つきだってもうほとんど大人の女性みたいだ。
いっぱい勉強して難しい言葉も覚えた。その気になれば大人とも対等にしゃべれる、と思う。
だけど私はまだ小学生だ。
例え来年中学生になるとしても、今は妹と同じ小学生。
問答無用で、子供なんだ。
例え子供が読まない難しい本を読んでいたとしても。
それが大人でも苦労するような専門書であったとしても。
例え私のランドセル姿がコスプレのように思われていたとしても。
その姿を先生が、大人の女の人に向けるような目で見てたとしても。
私は大人として認められていない。
それは、揺るがない事実。私も認めるしかない。
だけど。
今の私には、大人のように振る舞っても許される場が、一つだけあった。
……いま、不運の声が聞こえた。
そして隠し持った携帯電話が、静かに震える。
「お姉ちゃん、ちょっとだけお外に行ってくるね」
「お買い物? 一緒に行っていい?」
「んー、すぐ帰るからお留守番してて」
「……わかった。じゃあちっちゃいチョコ買ってきて」
「おっけー、待っててね!」
あやめちゃんは聞き分けのいい子で本当に助かるね。
さぁ、行こうか。
勝利の幸運をもたらしに。
・・・
「もう大丈夫! 私が来たよ!」
・・・
ランドセルしょったやたらでっかい小学生は、世を忍ぶ仮の姿。
その実態は、家族と街と、ついでに近くの街も守ってる魔法少女お姉ちゃんなのだ。
いや、本当はもっと遠くの敵も倒しに行きたいけど、仮の姿とはいえ私小学生なので……。
悲しいかな、交通手段も無ければお金も無い。あとあやめちゃんを置いてあんまり家を空けるわけにはいかない。
遠くの街と家族を天秤にかけたら、そりゃ勿論家族が優先になっちゃうよね。
街の人たちも大事だからニアリーイコールだけど。今日は近かったので迷わず即出動。
あやめちゃんにも、ちゃんとおまじないをかけておいたからきっと大丈夫。
そして今日も今日とてピンチらしいピンチもなく戦いは終わった。
私の『幸運』は一人でも強力だけど、仲間がいればさらに強い。
とんでも性能のバフとデバフをばら撒いてるようなものだからね。
もしもゲームだったらきっと人権キャラ間違いなしだね。
でもこの魔法って、本来は戦闘に使えるようなものではなかったりする。
普通に使えばちょっと運が良くなる、悪くなる、程度でしかないから。
出力を無理やり上げることもできるけど、代償があるからあまり使えない。
そう、代償。
私は元々運が悪いけど、下手に『幸運』を使いすぎると私はもっと不運になる。
とはいっても最近は代償を起こさない裏技も身に付けたので割と大丈夫だけど。
この裏技に果たして問題が無いのかってことは、まだよく分かってないし、できることなら無駄遣いはするべきじゃない。
そういうわけで、裏技を使った強力なブーストは極力戦闘でしか使わないようにしている。
戦いはちょっとした不運で取り返しのつかないことになるからね。そっちでは出し惜しみは出来ない。
日常生活で魔法を使うのは、ちょっとしたおまじない程度だ。
例えば妹に、例えばお母さんに、いつもよりちょっとだけいいことが起こればいい。
本音を言えば、裏技でゴリゴリにブーストした『幸運』を使って家族を幸せにしてしまおうとも考えていた。
だけど、それって本当に幸せなんだろうか。
無理やり、身の丈に合わない幸せを押し付けられることが。
ある人がそれを、そう言って止めてくれた。
その人はこの裏技のこともよく思っていないみたいだけど、使わなければ私は戦えなくなってしまうからそれは無視だ。
その人は私の大事な相棒で、私もその人の大事な相棒、だと思ってくれてると思う。
私が本当は小学生だとも知らずに、大人扱いしてくれる人。
私の悩みに、一瞬でたくさん考えて答えを出してくれる人。
それが、『熟考』の魔法少年。すみれさん。
彼は私の6つ年上で、もう18歳だから《《少年》》と呼ぶとちょっと微妙な顔をする。
見た目だけなら私の方が年上っぽく見えるけど、魔法少年ではなく魔法使いと言ってあげた方がいいかもしれない。
『熟考』の魔法使い。うん、かっこいいね。
まぁ本人はかっこいいというより可愛い系だし子供っぽいとこもあるから、やっぱり少年でもいいかも。
さておき、私と彼は今、ある大がかりなことを考えている。
もっと、効率的に戦う構想。
もっと安全に、もっともっと魔物を倒す計画。
今の私たちは魔物が現れたら近い人がバラバラに現場に向かう、といった感じで戦っている。
まるで、ボールに一斉に群がる小学生のサッカーみたいな戦い方。
ほんと信じられないことに、こんなやり方が何十年もずっと続いているのだという。
非効率極まりない。だけど、仕方ない面もあるんだ。
私たちは、何の後ろ盾もない、力を持ってるだけのただの一個人に過ぎない。
お互いに何の関わりもないし、戦うのは周囲と自分の身を守るためだけ。
そんな子ばかりだ。
だから、みんなを結びつけて連携させる。
彼が調査した限りでは、機会さえ与えれば戦ってくれる魔法少女は、予想以上に多かった。
だから、みんなに示す。私たちの有用さを。
私たちについてくれば、もっと魔物たちに思い知らせてやれるということを。
私は戦いの場で。彼は戦い以外の場で。
私たちをトップとした、魔法少女の組織を作る。
・・・
次回『駆逐』




