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(七日後) 8-3:黎明




 え?

 なんで?


 今のおじさんは誰にも認識できないのに。なんで……?



「不思議に思ってるだろうけど、とりあえず捕まえとくね」



 呆然としてたら、腕を掴まれた。

 ちょっと、結構痛いんですけど。そんな力入れなくても。


 目の前にいるのは、パーカー姿の女の子。そしてフリルワンピの少女。


 『察知』ちゃんと、『熱気』ちゃんだ。



「なんで……?」

「あんだけ手がかりあったら探すことはできるよ。私を誰だと思ってるの。『察知』さんだぞ」

「え、いや、でも」

「バッグ」

「あ、え、でもなんで」

「ごめんね、勝手に中身見ちゃった」


 見つかったのか。

 いや、でもそれを見られたからといって、おじさんを見つけられるわけではない。

 だって、そもそも認識できないのだから。


 それは魔力現象のタイムラグでしばらく魔力核が残ってしまう魔法少女だって例外ではない。

 事実あの日は、この子の横を素通りすることができた。


 なのに、なんで。


「教えてもらえなかったけど、君の名前も知っちゃった。君も私たちの名前は知ってるんだろうけどね」

「……」


「でもさ、ちゃんと自己紹介しよう。私は浦島 萌香。……ほら、灯ちゃん」

「……日向 灯だよ」

「……」


「名前、教えて?」

「……」


「……」

「大野、百合……」


「……んー、おっけ。じゃあ百合ちゃん」

「……いきなり馴れ馴れしいな年下」


 ガキが……おじさんを舐めてると潰すぞ……。

 その、なぜかおじさんよりほんのり大きい胸とかをな……。


「ああ、あの時はてっきり年下だと思ってたからタメ口きいちゃってたけど、ごめんね」


 謝るくらいなら最初から敬え。






「でさ、百合ちゃん。なんでバッグにおむつが入ってたのかな?」



「えっ」



 えっ。



「もしかして、あの時もおむつ穿いてたりした?」

「あっ」


「へぇー。私ラスボスです! ってすごい大物感出してたのに」

「あっあっ」


「あんなにシリアスなこと言ってたけど、実はおむつ穿いてたんだね」

「あっあっあっ」


「年上なのに赤ちゃんみたい。かわいー」




 はい。


 おじさんの尊厳は死にました。こいつに殺されました。

 誰かこの凶悪犯を捕まえてください。




「ひょっとして今も穿いてたりする? よし、どれどれ……」

「あっ、ちょっ、やめっ」



「萌ちゃん」



 『察知』ちゃんのパーカーフードを思いっきり引っ張る『熱気』ちゃん。

 ぎゅえ。そんな乙女が出しちゃいけないような音が『察知』ちゃんの喉から出る。


 助かった……ありがとう『熱気』ちゃん……。


 あれ、何その目。なんでそんな顰めっ面なの?






「あー、ふぅ。……じゃあ、私たちがなんでここにいるのか、説明しよっか」


 何事もなかったかのように仕切り直そうとしてるんだけど、何この子怖い。

 でもおじさんも何事もなかったことにしたい。切に思う。




「彩芽さんにも色々聞いたけど、とりあえずさ……君って結構バカでしょ」

「は?」



 なんだ喧嘩か? いま喧嘩売られたのか?



「私も結構バカだけどさ。確認なんだけど、私たちは魔法少女じゃなくなるんだよね?」



 ……。



 そうなる……はずだ。



 過去を、魔物がいなくなった過去に書き換えて、魔力核が存在する理由が無くなるから。

 改変後の未来は正味一日分くらいしか見れてないけれど、でも問題はないと思う。

 魔力核が存在しない過去になるよう、すでに選別済みだ。

 だから魔力現象のラグでしばらくは残ってても、いずれは消える。



「……うん。多少タイムラグはあるかもしれないけど、君たちは普通の女の子になる」

()()()()()()?」




「……うん?」




()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」




 え、いや、ちょっと待て……。もう一回考えよう。

 少女は、魔物の魔力で生まれた魔力核によって、魔法少女になる。

 この、真ん中の過程が丸々無くなるのだから、少女が魔法少女となることはなく。

 結果として辻褄が合わなくなるから世界が書き換わって、魔法少女は少女に戻る。

 代償も無かったことになって、元に戻るだろう。


 だけど、自分は例外であってもおかしくないはずだ。

 干渉者そのものが改変の対象となっては過程を書き換えることができなくなって、論理が破綻してしまう。



 ……のでは、ないのか?



「もっと単純に考えようよ。決めつけちゃダメだって」

「……」

「君は、君が選んだ先の未来を視ることができなかった。だから無意識に、君一人だけが救われない結末を想定してる」

「……」

「君は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが間違ってるっていうの」

「……」



「あと、もう一個。それって本当に、100%の代償?」



 え……?



「本当に、地獄のような代償だと思うよ。私も察してる」

「……」



「だけど、これだけのことをやるために溜め込みに溜め込んだ代償が、()()()()()なのかな?」



 ……たしかに、世界を変えた代償としては、軽すぎるとは思っていた。

 これなら、あの天罰の日の方が辛かった。これまでの未来の選別の方がしんどかった。


 神様気取りの報いとしては、あまりにも軽い。


 それでも、これは人を殺してしまうのに十二分に過ぎる代償だ。

 今だって気を抜けば、いつだって死んでしまえる。

 すぐに、終わりにできる。


 そう思っていた。


「魔力核が消えるまでタイムラグって、たぶん個人差もあるんでしょ?」

「……」

「要さんはいま中途半端な重さになっててふわふわしてるけど、君のも少しずつ軽くなってるんじゃないの?」


 なっている。


 でもこれは、単に代償に慣れただけだと思っていた。

 それが単なる慣れであれば、体感が楽になってるだけで実態は何も変わっていない。


 本当は、慣れただけ、じゃなかった……?

 干渉できる力、選択できる力がほんの僅かに、少しずつだけど戻りつつある?


 もし、もしも本当に、属性が回復しつつあるのなら……?

 ()()()()()()()()()()()()()()……のか?



「『察知』もいずれ消えるのだろうけど残っている間なら。君の認識阻害が少しでも揺らいだなら、()()()()()()()()()()()()

「……」





「そうだよ。ここからが、私たちの本当の勝負だ」





 これは……宣戦布告だ。

 おじさんの、『私』の孤独の未来に土足で踏み込むという。



「私の魔法が消えるのが先か。君の代償が消えるのが先か。私はこれから、君のことを認識し続ける」



 『私』の納得を、エンディングを、この子はぶち壊そうとしている。



「そう遠くない未来、君が人知れず、誰も知らない普通の女の子に戻ってしまったときに、()()()()()()()()()()()()()()()()



 『察知』の少女が、『未来』の腕を掴んで放さない。



「あの時と比べれば、勝算は十二分にある。そう思ってるよ。そう感じてる」



 傲慢で強気で自分勝手な少女が、不敵に笑う。



「見つけ続けるよ。君は知らないだろうけど、()()()()()()()()()()()



 ……。



「君には生きて、未来を作ってほしい」





 ……。





「だから、改めて言うよ。私と友達になってくれる?」







 ……本当に。この主人公ときたら、傲慢すぎるよ。











・・・











「とりあえず手始めに、灯ちゃんにもこの今にも逃げ出しそうな野良猫少女を認識してもらいます」

「んー……確かになんかいる気がする……」



 おじさんです。

 何故か女子中学生に揉みくちゃにされています。


 どういうことなの……。

 というかやっぱりこの子には見えてなかったのね。


 それにしても……。


「……やっぱり、友達は無理だよ」

「なんで?」


 何言ってんだこいつって顔してるけど、無理なもんは無理だ。


 顔を揉み揉みされながら、ほんの少しだけ、そんな未来も考えてみた。

 だけどどうやったって、そんなの、異物混入でしかない。


 許されるわけがないんだ。




 大人が、子供と友達になるだなんて。




「いやよくわかんないんだけど?」

「……私は、異物だよ。少女のふりした、大人だから」


 むしろ汚物だよ。

 冷静になって考えたら、妹と彼女のことめっちゃ汚染してるね……。背徳感がすごい……。


「それが?」

「え、いや、私は前世の記憶がある、大人の男だから。気持ち悪いでしょ」

「?」


 衝撃のカミングアウトをしてみたのに、なんで首傾げてるんだ。

 考えるようなことか?


 理解できなかった?

 もう一回言ってみるか?


「いや、なんとなく変だなとは感じてたけど。でも、()()()()()()()()()()()()()?」

「え?」

「それに、あの人達とは友達だったんでしょ?」





 遠ざかっていく3人を見る。





 ……。





()()()()





 あれは、自分がおじさんだと自覚する前の話だ。

 最初からそう理解していれば、されていれば、そうはなっていない、なってくれていない。




「ふーん……なるほど。()()()()


 わかってくれたようだ。なんか妙に素直な気がするけど。


 ……いやな予感がする。




「灯ちゃん、ちょっとこの子捕まえてて」

「おっけー」

「え」


 ぎゅっと抱きしめられた。

 あ、なんかいい匂いする。じゃなくて。


 やめて! おじさんお風呂入ってないから!

 なんか汚してるみたいで申し訳ない気持ちになる!


 というかまじで何する気なん……!?












「あの人たち連れてきます」


「ぁ」





 待て。冗談抜きでやめろ。


 やめてくれ。『私』の思い出だけが、今の希望なんだ。

 もし、もしも、拒絶でもされたら。


 『私』が『私』でなくなってしまう。


 やめてくれ。やめて。お願いします。やめてください。




 遠ざかっていく背中。声にならない声。

 またあの、全身がばらばらになりそうな不安感が膨らんでくる。


「……大丈夫だよ。萌ちゃんが確信してるんだから」

「……」

「きっと悪いようにはならない」






 ……戻ってきた。きて、しまった。


「というわけで、ここにその幽霊さんがいます」

「そんな胡散臭い誘い文句でほいほいついてきちゃう俺らも俺らだよな」

「でも、せりぬんが興味津々だったしー」

「本当だったらすごいことです。私、気になります」


 また妹のあだ名変わってるし。お前は激怒しながら走るつもりか。


「わっ……本当に何かいる気がします」

「……」


 妹に、手を握られた。

 いや気持ち悪いよね、こんなの……。




「すごい。不思議。なんだか嬉しいです」

「へー、ホントだ。幽霊っているんだねー」




 手と、二の腕を優しく触られる。

 『熱気』ちゃんは、少し離れて『察知』ちゃんと一緒に『私』たちを眺めている。


 少年は、『私』を見つめて、少し考えるそぶりをして。




「うん、そうだな」




 『私』の頭に手を置き、優しく撫でた。




 ……いま唯一、顔を見られる子が後ろの方にいて良かった。


 きっといま、とても美少女とは呼べないような不細工な顔になってしまってる。




「この幽霊さんさ、独りぼっちなんだ。良かったら私と一緒に、友達になってくれない?」


「もちろん」





 こんな、未来があっても、いいのか。




 新しく、未来を作っても、いいのだろうか。




 わからない。けど、そんな未来も悪くない。




 そう、思っちゃったんだ。




 うん。生きよう。




 『私』の、おじさんの、魔法少女としての未来はあの日終わったけど。







 新しい未来がいま、私の手の中で生まれた。そんな気がしたんだ。







これにて、魔法少女おじさんに未来はない、本当の完結です。


このあと番外編がいくつかありますので、よろしければあと少しだけお付き合いください。

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