(二–七日後) 8-2:幽冥
・・・
あの日から2日目だよ。
ようやっと故郷に着いたんだよ!!!
いやぁ、懐かしい町並みだね。たぶんほとんど変わってないんじゃないかな。
そんなに覚えてないけど。
実際は変わってないというより、戻ったというのが正しいんだろうね。
災害が無くなって、復興後の街とは様相が違うわけだし。
ここまで見てきた限りでは、魔力が関わらないところでは、深刻なパラドクス的なことは何も起こってないようだ。
頑張って選別したから大丈夫だとはわかってるんだけど、やっぱり未来を視て確信できないのは少し怖い。
あーあ、ネタバレ嫌いなはずだったんだけどなぁ……先を見て早く安心したい、みたいな感情が結構ある。
実際現実ってホントに何が起こるかわからんし……嫌な癖がついちゃったもんだ。
さてさて、あとはあの曲がり角を曲が────
突然すぎて、言葉にならなかった。
消失した『未来』では、はっきり観測できていなかったから。
ずっと不安だった。本当に、本当に、上手くいったのか。
他のものだけが元に戻ったのに、おじさんの、『私』の大事なものだけが返ってこない。
絶望が、そんな悪夢が、何度も頭をよぎった。
身体を食い破られそうになる感覚。
その中を、わずかな希望だけを胸に、ここまで足を進めていた。
そう、希望。
今の『私』に残された、唯一の新たな未来。
無数の未来、無限の牢獄に閉じこもっていたから。
そんなものを抱くのは、本当に、久しぶりの感覚だった。
未来がわからない。どうなっているかわからない。
決定的な不確定が迫り来ることの、想像を絶する恐怖感。
だから、その光景を見たとき、その反動で、
あっぶね。取り乱すところだった。
おじさん大人だからね、落ち着かないと。
3人はおじさんに気付くこともなくすれ違っていった。
元気そうじゃん。よかった。
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3日目だよ。
おじさんが何を思ってるか分かるかな?
風呂入りてぇ……。だよ……。
いやね、別に臭くはないんだ。
おじさんは美少女だからね。何ならむしろいい匂いする。ミルクっぽい感じの。
ただやっぱね……気分的にさっぱりしたいって気持ちにはなっちゃう。
あ、でもやっぱ風呂入ってリラックスするのはちょっとやばいかも。
なんか今の無気力感にも少しは慣れてきて、ある程度ボケっとしてもうっかり死にかけたりしなくなったけど……。
風呂入って全力リラックスは、多分まだやばいかもなぁ。
あと服脱いで全裸おじさんになる度胸も勇気も今のところない。
なんかいずれなることが確定してるみたいな言い方だけど。
……別に楽しみにしてるわけじゃないぞ。本当だぞ。
そういえば、あの一般生理現象はどうしてるのかって?
今のおじさんはJK姿のスカートでノーパンだ。
これ以上言わせんな恥ずかしい。
ちなみにおじさんは今、我が家にお邪魔している。
いやもう我が家ではないのだけどね。ガチのお邪魔だ。不法侵入ですよ不法侵入!
でも、母親も父親も元気そうだ。本当に良かった。
母が何故か一人分お弁当を作りすぎて父のお弁当がバイバインになってる。
相変わらず母は可愛い人だ。
妹もいつも通り超絶可愛い。世界で一番お姫様。
サイリウムってどこで売ってるんですか!? 多分持てないけど!!
全身全霊全力で推していくよ……!!
そしてそんな妹をストーキングして一緒に学校に向かう姉。
どこからどうみても不審者である。誰にもみえないけど。
通りがけに、少年と出会う。
妹が頭を撫でられ、少年に可愛い悪態をついている。可愛い。
遅れて親友……もうおじさんは彼女の親友ではないから、彼女か。
その彼女が合流して妹と楽しそうにお話をしている。
この二人が妹の友達のままで、本当に良かったなって思うね。
おじさんという因果が無くなって、妹が独りぼっちになるんじゃないかって思ったけど。
本当に、本当に、良かった。
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4日目だよ。
放課後に待ち合わせして遊んだあとの少年と彼女を見守ってるよ。
二人はベンチに座ってダラダラしてる感じだね。
ていうか、ほんとこいつら全然いい雰囲気にならねぇ……。
くそっ……じれってぇな。おじさんちょっとやらしい雰囲気にしてきます!
できないけど!!
それにしても、少年は成長したなぁ。かなり男らしくなってきた。
そして相変わらず彼女は、どんどんいやら……女らしくなってる。
ちょっとそのおっぱいでボーイッシュキャラは無理でしょ。
ばるんばるんいうとるで。
そしてふと、自分の胸元を見てしまう悲しいおじさん。くっ……。
少年は高校生になって身長がまた伸びてるみたい。
170cmは余裕で超してる。180行くんじゃないか。
145cmのおじさんじゃ、もう手を伸ばしても頭まで届くか微妙だね。
身長差がすげぇや。
彼女は160cmくらいかな?
あの時より伸びてる気もするけど、ちょうどいい身長なんじゃない?
少年が抱きしめたらいい感じに胸に収まりそうだ。
彼女の胸は収まってないけど。なんてな!
……おじさんだと……腹の位置か。
なんかおじと姪っ子みたいな感じになりそうだな。
ふざけんな! おじさんがおじさんだぞ!!(意味不明)
まあ少年も彼女のことは悪く思ってないみたいだし。
彼女がもうちょっと積極的になれたら余裕で本当の彼女になれるんじゃないかなぁ。
所詮、男なんて狼だからな。あのおっぱい使ってビンタすればイチコロよ。
くっ……。
……おぉ! 彼女がウトウトして頭が少年の肩に頭ライドオンしたぞ!!
イケるぞ少年! 抱けっ! 抱けーっ!!
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5日目だよ。
ちなみに少年はあのあと、ヘタレて寝たふりしてたよ。
ハァ~~~(クソデカため息)
今日は人混みに気を付けながら町を散策してるよ。
……これまたあまり大きな声では言えないけど、本当の目的はゴミ漁りだよ。
今のおじさん買い物できないからね。そもそもお金ないけど。
ちなみにゴミ漁りも普通に犯罪だよ。
見つかれば捕まるからホームレスのみんなは気をつけようね。
おじさんはもう誰にも見つからないけど。
さて、とりあえずまだ生きてるつもりだから、食料になりそうなものの確保を優先に漁る。
食料品だと、コンビニなんかは割と狙い目だ。
商品の入れ替えが激しいし、雑なバイトだとゴミ袋をゴミ庫に入れずに脇に置いたりする。
まだ普通に食べれるものも捨ててあるので有難いね。
超絶貧弱おじさんはお弁当ですら持ち上げるのもしんどいので、おにぎりなんかあると嬉しいな。
おにぎりだって正直しんどいけど、口に入りさえすればしんどさもなくなるので小さめのやつなら問題ない。
最悪、直食いだ。絵面が悲惨だけど背に腹は代えられない。
口に入れたら問題ないって、なんだろうねこのよくわからない代償の基準。
くそっ、カラスが来やがった……おい、ここはおじさんの縄張りだぞ!
あ、ちょ、体当たりしないでごめんなさいどうぞ。
……負けてないが?
何かにぶつかったのに何にぶつかったのかよくわかってなくて、ひとしきり暴れてからきょとんとしてるカラス。
その隙を突いてなんとか小さなサンドイッチを確保したので、それをもぐもぐしながら我が家をウォッチング。
あんまり不法侵入は出来ないからね。外から眺めるだけだよ。
父が仕事に行って、妹が学校に行って。
母が洗濯物を干して、取り込んで。
母が買い物に行って、帰ってきて。
妹が帰ってきて、父が帰ってきて。
食卓に明かりが灯ったのを見届けて、おじさんは、山へ戻る。
そうそう、今おじさんは裏山の、扉ついてないタイプの山小屋を不法占拠して暮らしてるんだよ。
開放感がすごいけど、虫にも認識されていなくて無視されるので問題ないよ。(激ウマギャグ)
掃除も一応はしたけど、今のおじさんには限度があるからね。
ちょっぴり散らかってるけど住めば都のおじさんの城さ。
頑張って掃除してほんの少し綺麗になった、古びた簡易ベッドに横になる。
扉のない入口越しに星空を眺めて、目を閉じる。
明日も、みんなが幸せでありますように。
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6日目だよ。
ちょっと今悩んでることがあって、服をどうするか考えている。
いや、全裸の封印を解くのか悩んでるのかという話ではなく。違うぞ?
なんか、頑張れば服も着れるんじゃないかと思えてきたんだけど。
そもそも服ってなかなか捨てられてなくて、手に入らないんだよね。
せめてパンツが欲しい。
スカートを持ち上げてみる。着てる服はこうして簡単に持てるけど。
色んなものに触れた結論として、たぶんいったん脱ぐと着るのがかなり大変になる。
だんだん代償に慣れてきたのか、しんどさもほんの少しずつ軽減されてるけど、それでも難しい。
でもパンツくらいなら、頑張れば、何とか穿けるのでは……。
あ、風が気持ちいい……。
もし全部脱いだら、全身で風を感じてもっと気持ちいいのかな……。
……って、いやいやいや!!
ダメだダメだ危ない。
最近変な扉が開けようとしてないのに近づいただけで勝手に開こうとするから困る。自動ドアかよ。
とりあえず山を下りて、少年たちの様子でも見てこよう。
少年が、彼女と一緒に話をしている。
明日が休みなので遊ぶ予定を立てているみたいだ。
お、デートか? って思ったけどどうやら妹も誘ってくれるみたい。
うん、それもまた青春だね! おじさん嬉しいよ!
それにしても少年、こうして傍から見たらラブコメ漫画の主人公みたいだな。
おじさん的には彼女とくっ付いてほしいけど、もし妹とくっ付くならそれもそれで。
いや、でも、うーん。
妹が欲しければこのおじさんを倒してから、って思ってたけど、おじさん存在しないから不戦勝なのよな。
これは妹の気持ち次第かなぁ。といっても正直、そういう感じには全くならなそうだけど。
どこまでいっても近所のお兄さんポジションで終わりそう。やはり彼女が大本命か。
でも、妹にもいつかはそういう彼氏的な存在が現れるのかねぇ……おじさん寂しくなっちゃうね……。
いつか結婚して、そしたら子供も出来て、母と父がお婆さんとお爺さんと呼ばれるようになるかもしれない。
そんな、ありきたりで幸せな家庭を作ってほしいものだ。
うん。よし。
それまで何とか生きれたらいいかな。
よーし、今日も一日頑張るぞい!
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7日目だよ。
やっぱり、朝が一番つらい。
この世の終わりのような脱力感を、死に物狂いで抜け出して、ようやく起きる。
あれだね。例えるならボタン連打で危機回避、みたいな。
やめよう。こういうとなんか肝心な時に復活できなさそう。
そして下山して今は、遊んでる3人を離れて眺めてる不審者やってまーす。
おしゃべりして、笑いあって、楽しく遊んで。
青春だね。美しい青春の一ページだ。
だから、絶対にこれを壊してはいけない。
だから、絶対に思ってはいけない。絶対にだ。
なんであそこにいることができないのだろう。
そんなわがままなんて、思うだけで罪深い。
子供は好きなだけ遊べばいい。
自由に好きなことをすればいい。
だけど大人は子供とは違う。
なんでも好きなことができるわけではない。
責務のためにやりたいことができなくても、受け入れるべきだから。
おじさんは大人なんだ。
だからそんな子供の感傷は全力でねじ伏せなければならない。
……お、みんな移動するのかな。
よし、おじさんも一緒に、
「やっと、みつけた」
・・・
次回『黎明』




