(七日目) 7-2:終幕
いい未来だ。感動的だね。
・・・
いや、行くのは灯ちゃんなのだけど。
そんな冗談抜きに、私にできることはそんなにない。
私ができるのは魔物の出現を察知すること。
それ以外には、この子とお話することしかできない。
「察してるかもしれないけど、この魔物の連続出現が終わったら、世界にもう魔物は現れない」
灯ちゃんは頑張っている。私も頑張って最速で察知している。
だけど間に合わない。
この、数十メートルの範囲に出てくる、魔物の出現全てに先回りされてしまう。
「だから別に、今更君たちが頑張る必要はないんだ」
握った灯ちゃんの手がまた少し冷たくなる。
大丈夫。私が見極めてるから、コアブレイクなんか絶対させない。だけど。
それでは到底足りない……どころの話ではない。
灯ちゃんには悪いけど、次元が違う。
「そして、今後も頑張る必要はない」
「だからって、何もしない理由にはならない!」
どうすればいい……どうすれば……!?
「これならっ!!」
「灯ちゃ!?」
「それは行き過ぎだ。しばらく寝てるといいよ」
正確に、的確に、手加減された魔力弾が灯ちゃんを地面に叩き伏せた。
……いま、灯ちゃんは切り札を使うために、使いすぎかけた。
遠隔焼失。普段使う熱波とは違って、離れた相手の熱を直接急上昇させて一瞬で燃やしきる、負担の大きい技。
たしかに、これなら割り込みにも間に合うかもしれない。なのだけど。
まだコアブレイクには至らないものの、相当な無理には違いなかった。
「子供に手をあげるのは心が痛むけど、失わせるわけにはいかないからね」
私も思わず灯ちゃんを止めかけてしまった。
まだ大丈夫だと直感は言ってるのに。思わず。
「大切なんでしょ。今の君はまだ失ってないのだから、手放しちゃダメだ」
……。
「君の大切な人は……」
「まだ今は、いない」
もう、全て確信した。とっくにしてしまっている。
まだ、諦めたくない。なのに。
いや、本当はわかっていた。
私の直感は、さっきから手遅れだと何度も言っている。
下手したら、私が異変に気づいたあの日の時点で間に合っていなかったんだって。
私たちがやってることだって、本当は何の意味もない。わかってる。
ただ、私が納得できない結末に、駄々をこねて邪魔しただけ。
私がやったことは、灯ちゃんに無理をさせただけだった。
ほんと、私ってバカだ。
全身の力が、抜けてしまった。
魔物はあれからもう、数百体は倒されている。
あと少しで、終わってしまう予感がしている。
私は、間に合わなかったんだ。
完膚なきまでに、私のエゴは、この子のエゴに負けてしまった。
一矢たりとも、報いることができなかった。
「……このあと、どうなるの?」
「お察しの通り、だよ」
「……」
「魔物が全て消えたら、私も消える。魔法も消えて、君たちは日常に帰れる」
私たちは日常に帰って、この女の子を犠牲を見なかったことにできるのか。
そんなのできない。そんなのは嫌だ。嫌なのに。
「消える……」
「死ぬわけじゃないよ。世界の誰からも、忘れられて視えなくなるだけ」
なにそれ。そんなの、ある意味、死ぬよりも地獄じゃないのか。
「気にすることはないよ。安心して。少しの間は覚えてるかもだけど、君たちもいずれ忘れる」
「そんなのって……」
「これは清算。遅くなっちゃったけど、私は力の責任を果たしただけだから」
力には責任なんてない。そう言いたかった。
でもこの子には、決してその一言は救いにならない。
きっと、そのせいでこの子は全て失ったのだから。
彼女がそうだと思い込んでるだけだとしても。
「……君の魔法ってさ。『未来』を選ぶ魔法だよね」
「お、流石だね。そうだよ」
「君の未来って……」
「それを今から取り返すのさ」
きっと、その未来の中にこの子はいない。
わかってしまう。わかりたくもないのに。
「長く苦しい戦いだった。やっと終わるんだ」
見たこともないような、形容し難い凶悪な見た目の巨大な魔物が、現れた瞬間に光って消えた。
これで、本当に、終わってしまう……?
「君、自身の……未来はっ……!!」
「だから、それはもういいんだって」
そして、魔物が、現れなくなった。
終わったんだ。終わってしまった。
長かった私たちの戦いも。
これからのこの子の未来も。
……いや、未来は、まだ終わっていない。
私は、この子の未来を見てみたいと思ってしまった。
この子が生きて、幸せになる姿を。
できることなら、近くで。
……許される、かな。
「……あの、さ。一つだけお願い、いいかな」
「なんだい? まだあとちょっと時間あるから聞くよ?」
「厚かましいと思う。押しつけがましいとはわかってる。怒らせるかもしれない」
「なになに。おじさんいま気分いいから、大体のことなら叶えてあげるけど」
「私と……友達にならない?」
「────……」
「私は、君の大切な人の代わりにはなれない。でも、君の隣にいることはできる」
「……」
「一緒にお話をして、一緒に遊んで、一緒に泣いたり、悲しんだり、分かち合うことはできる」
「……」
「だからさ、これからも生きて、未来を作ろうよ」
「……」
「今は気絶しちゃってるけど、灯ちゃんだってきっと友達になってくれる」
「……」
「私は……君と友達になりたいと思うんだ」
わかってる。きっとダメだって、感じてる。
やっぱり……ダメ……なのかな。
「うん、私も君たちのことは嫌いじゃない」
……。
「いい未来だと思うよ。そんな未来も悪くない」
え……?
「────ばいばい。もっと早く会いたかったね」
「ぁ」
・・・
もしも本当に、世界に意思なんてものがあるのだとしたら。
多分、魔物という異世界からの異物を何とかしたくて、『私』を生み出したのだろう。
終わったよ。どうだっただろう。満足しただろうか。
これが私の辿り着いた未来。大人の『私』が視た最良の未来。
今これを見ているかもしれない、過去の『私』が辿り着くべき未来。
そもそもの世界の目的を考えると、過去改変なんか別に必要なかった。
魔物を殲滅した時点で目的は果たしている。
だからこれは単なるわがままだ。
無理を通すためにリスクを承知で道理を壊した。
世界は望む通りに変わってくれたように思う。
認めてくれたのだろうか。
魔物はいなくなり、魔物の被害は消え去った。
残った影響も、いずれ元に戻る。魔物が奪ったものも、全部返ってくる。
動かない臆病な『私』を動かすための罰は、とても辛かったけど。ちゃんとやり遂げられたんだ。
いっぱい頑張ったのだから、これくらいのこと、どうか許してほしいね。
この過去改変は厳密には過去が変わっているわけではない。
世界の現在を誤認させて、取り上げられたものを返してもらってるだけだ。
過去自体が本当に変わっているわけではないのだから。
過去の『私』は同じ道を辿るしかない。
だから、改変後の未来には、どの『私』も存在しない。
なんにせよ、異世界の異物を取り除くために『私』という存在が必要なのだとしたら。
『私』の未来なんか生まれた時から無かった。
そういうことなのかもしれない。
でも、いいんだ。
最悪のバッドエンドと比べたら、望外のハッピーエンド。
それまでにもう、身に有り余るほどの幸せを貰っていたんだ。
だから頑張ってそれを返した。それだけのお話。
魔法少女たちだって、これで普通の女の子になれる。
『私』の代わりなんかにならなくて済むだろう。
みんながこれから幸せになれるかどうかはわからない。
けど、生きててさえくれたら、きっと何とかなる。
だってみんなは、本当にすごい子たちなんだから。
そんなすごいみんなを、ようやく助けることができたんだ。
少年……。
私もこれで、やっと英雄になれたかな……。
・・・
……探そう。
いなくなっただけなら、必ずどこかにいる。
必ず見つけてみせるから
・・・
七日間の終わり。
魔法少女おじさんの物語、これにてお終い。




