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(希望の栞) -4:始まりの終わり

・・・




 ただでさえおかしい私がもっとおかしい存在になったのは、中学生になってすぐのこと。

 ちゃんと覚えてはいないけど、おそらく最初の異変は、友達と別れて一人で帰宅しているときだったと思う。


 河川敷を歩いていて何か大きな音がしたなと思ったら、何故かいきなり川に落ちているということがあった。

 何が起こったのか、この時はよくわからなくて、ちょっとうっかりボーっとし過ぎたなと思っていたのだけど。



 それからしばらくして、あれは確か、道端の猫を眺めていたときだった。

 この猫は一体この後どこに行くのだろうな、と考えたその時。



 唐突に脳裏を、()()()()()()()()()()()()()()()()



 そしてその中に、猫が車に轢かれて死んでしまう、というものがあった。

 それの映像は一つだけではなく、いくつも。いくつも。いくつも。いくつも

 それは悪趣味なスプラッタ動画のように、何度も視点を変えて、死に様を変えて、入念に猫を殺し続けた。



 凍り付いた私の目の前を、まだ生きていた猫が、急に走り出す。

 私は声なき声で叫ぶ。やめろ。とまれ。やめてくれ。とまってくれ。










 気づいたら私は自室のベッドの上で震えていた。

 あれからどう帰ったかもはっきりと覚えていない。

 この日からしばらくの間、私の日常は地獄となる。



 近所の優しいお爺さんが急死することも。

 両親がサプライズで用意してくれたプレゼントの内容も。

 学校のプールの工事が延期して今年はプール授業がないことも。

 隣に引っ越してきた新婚夫婦が不倫していてすぐ離婚することも。

 駅前の交差点でニュースになるような大きな交通事故が起こることも。

 可愛い妹が実は笑顔の裏で、いじめにあっているということも。



 全部、全部、下らないことから隠し通されたことまで、全てわかってしまった。

 気になってしまったことが、その瞬間にわかってしまう。こんなもの、恐怖でしかない。

 何にも期待できない。何も夢を見れない。


 未来を見れるようになった私は、未来を見失っていた。



 もう誰とも会いたくなくて、だんだんと引きこもるようになった。

 そしたら、いつしか部屋にいながらも未来が見えるようになった。


 頭がおかしくなりそうだ。このままでは狂ってしまう。


 もう見たくない。もう知りたくない。

 でも、目を閉じても、未来からは逃れられない。



 この異常に拍車を掛けたのが、この力が()()()()()()()()()()()()()とわかってしまったとき。



 いじめが突然エスカレートし妹が同級生に川へと突き落とされる、という未来が見えてしまった。

 苦し紛れにそれをどうにかできないかとあがいていたら、幾多もの突き落とされる映像の中に見つけてしまう。

 様々な偶然が重なって、妹は落ちず代わりにその同級生が川に落ちる未来が、そこにあった。

 躊躇わずにそうなればいいと願い、何かがごっそり身体から抜け落ちる感覚とともに、私は倒れて意識を失う。



 その日、妹は無事に帰ってきた。

 代わりに落ちた同級生も、優しい妹がすぐさま助けを呼んだので無事だったようだ。



 この力の本質に気付いた瞬間、不覚にも私は高揚感を覚えてしまった。それとともに改めて戦慄する。

 なんだこれは。何様のつもりだ。私は神にでもなるつもりなのか。


 それでも、力の使い方に気づいてしまったからには試さずにいられなかった。


 サイコロの1の目を連続で出してみること。

 当たり付き自販機を必ず当てて売り切れにしてみること。

 虫を一つの大きな花に群がらせて枯らすこと。

 卵を何個も放り投げてすべて割れないように地面に落とすこと。

 トランプを投げて飛んでいるハエを殺すこと。

 妹の身の危険をすべて回避すること。


 ほんのわずかでも可能性があるならば、それは可能だった。

 考え得る何もかもが、思い通りになってしまう。


 更に幾度となく未来を選択する内に、消費される何かそのものを操ることもできるようになった。


 体内を巡らせれば身体能力が上がり、空だって飛べてしまえる。

 そのまま放出すればビームのような強力な光線にもなる。


 ……この力で、いったい何をしろと?


 こんな強すぎる力で、何を求められている?

 世界でも救えばいいのか?

 それとも世界を壊せばいいのか?

 立ち向かうべき敵はどこにいるというんだ?



 思えば、小学生の私はまだまだ普通の範疇だったのかもしれない。



 だけど、今の私はもう、ただの化け物だ。



 言い表しようのない嫌悪感の中で、使うたびに私の力は成長していく。

 皮肉なことに、成長したことで力を制御することが容易くなった。

 ようやく、ついに地獄を抜けて普通を振舞えるようになったのだ。


 そしてこの時になってやっと私は、自分がとんでもない大馬鹿者だったことに気付く。





 妹のいじめはいつの間にか治まっていた。




 関わると不幸になる、()()()()と中傷されるようになった代わりに。





 私は力を封印することに決めた。こんな力、あってはならない。


 残念ながら使わないようにしていても、僅かに未来が見えることはまだある。

 それでもその程度なら、多少察しが良すぎるといっただけに留まる。


 ずっと避けていたが、やっとのことで友達ともちゃんと向き合うことができるようになった。

 たくさん心配をかけたけど、もう大丈夫だ。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 私は日常に帰った。

 そして、あの時とは違う気持ちで、思う。



 やはり私は、みんなと一緒にはいられない。



 だから、少しずつ距離を取っていくように考えて……でもそれは上手くいかなかった。

 というより、距離を取るとその分詰めてくるのだ。ぐいぐい、ぐいぐいと。

 みんながそういう人たちだとはわかってはいたつもりだったものの、かなりしつこかった。

 詳しい事情は聞いてこない。ただ、気遣いをするだけ。



 なんでこの人達は、私の友達でいてくれるのだろうか。

 私は、普通の人間ではない化け物だぞ。



 それとなく伝えてみたこともある。

 私のことを不気味に思わないのか。

 離れた方がいいんじゃないかと。



 そしたら、くっっっそ怒られた。私たちは、結局それからも友達のままだ。



 というより実際のところ、本当は私が友達のままでいたいだけなのだ。

 いつまで続くかわからない、仮初の日常。これを長く味わっていたいだけ。


 化けの皮が剝がれないように気を付けながら、そんなぬるま湯のような青春を送る。

 私がただの子供として振る舞っても許されている、嘘みたいな日々を。



 1年も経てば仮面を被るのもかなり上手くなった。


 2年も経てば普通と見分けがつかないレベルにもなったと思う。


 私はずっと、みんなと一緒にいることで、普通のようでいられた。



 ずっとあの恐怖を味わっていないと、ふとした瞬間に力を使いたくなる誘惑が顔を覗かせることもある。


 でも、決して安易に使うわけにはいかない。

 私は、この力はみんなを守るいざというときの一回しか使わないと例外的に決めたんだ。


 その時の私は、少年のいうヒーローのようには多分なれないだろう。

 その日がきっと、私の日常の最後の日になるはずだ。


 化け物が化け物だとバレたなら、羊の群れを抜け、一人で生きて、一人で死ぬべきだろう。


 たまにみんなの様子を覗いて、幸せそうにしていてくれたら、それで満足だ。

 そうなるまでの間、できるだけ長く平和な青春を過ごせたなら、それでいい。



 みんなで土日の度に集まってにぎやかに遊んだり。

 クリスマスには私の家に集まってプレゼント交換会をしてみたり。

 バレンタインでは親友と共謀して、焦らしに焦らしながら少年にチョコをあげてみたり。

 夏休みに海で親友と一緒に、水着で少年を悩殺してみようと試みてみたり。

 テスト勉強として少年の家に集まって、少年がいない隙に、いけない本探しを親友としてみたり。

 修学旅行の班がみんなと分かれてしまったので、勝手に自由時間で合流してグループで観光してみたり。

 妹のいじめが教師を巻き込んで中学で再燃してしまっていたのでそれを平和的に鎮圧したり。

 親友に勉強を教えたのに上手く教えられてなくて、まさかの受験不合格を必死に慰めながら凹んだり。


 中学時代もあと少しで終わる、といった時、私はずっと考えていた。




 そんな、間の抜けた考えを。ありもしない希望を。




 私はあの時、怯えきって必死に力を抑え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その先にどんなことが起こるか、知ろうともしなかったんだ。




 やはり私は、とんでもない大馬鹿者だったんだ。




・・・

希望の終わり。

次回『終わりの日』

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