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(希望の栞) -5:始まりの日

 私のこれっぽっちの未来なんて、欠片だけでいいからね。

・・・




 未来とは何だろうか。


 私たちの前にあるのは常に過去だ。

 だから私たちは、未来に進んでいるのではない。

 決して目を離すことができない過去から遠ざかっているだけ。


 もし、背後の先が気になっても絶対に振り向いてはいけない。見てはいけない。

 そこにあるのは果てしない混沌の海。現実になる前の、無限の虚実。

 現在を起点にあらゆる過去となり得る可能性の闇。


 そう。未来とは、過ぎ去った瞬間に未来だったとようやく理解できるもの。

 過去の行き先でしかなく、過去となる前のもの。


 では、私たちにとって未来とは何だというのか。

 私たちは何を思って、それに夢や希望を託すのか。


 それは分からない。

 でもきっと、分からないからなのだろう。


 夢が無くたって、暮らしていける。

 希望が無くたって、生きていける。


 それは、未だ来ることのない未来の中に。

 まだ見ぬそれが、あるかもしれないと思えるから。


 だとしたら。


 もしも未来が決まり切ったものでしかなくて。

 それを全て見ることができてしまうというのだとしたら。



 それは、あまりにも、救いが無さ過ぎる話なのではないか。






・・・






 私が私のことをおかしな存在だと気づいたのはかなり早い時期だったのだけど。

 それでも自分で気づくのが遅かったようで、いつの間にか周りからは頭がおかしい子供として扱われていた。


 それもそうだろうなと思う。

 大人びた子供は、マセてて可愛いと思われるかもしれない。


 でも、大人そのものの子供は、ただ気味が悪いだけだ。


 私には前世の記憶がある。

 かつて無為に生き、無為に死んだ男。

 豊かな生活の中で、孤独に死んだ寂しい男。


 この一生の記憶があるせいで、()()()()()()()()()()()()()()


 生まれ変わって女になった男なのか。

 男の記憶を持っているだけの女なのか。


 果たしてどちらなのか。どちらにしても、気持ち悪く、普通ではない。



 それでも。



 こんな私を、両親は普通の子供のように扱ってくれた。

 こんな私を、妹は心の底から慕ってくれていた。

 こんな私と、友達になって一緒に笑ってくれる人がいた。


 だから私は、家族と友達がいれば他に何も要らないと思ってた。




 全ては過去のもの。私の未来には何もない。






・・・






 小学校で、とある少年と友達になった。きっかけは大したことではない。

 少年が馬鹿なことをして、思わず私がツッコミを小さく呟いた。たったそれだけのこと。

 それに反応した少年とたまに言葉を交わすようになり、いつの間にか大体一緒にいるようになっていた。

 その少年は、普通に馬鹿で、臆病だけど意外と我慢強くて、割と熱血の癖にクール気取り。


 そして、私なんかと最初の友達になってくれた、物好きだ。


 別に趣味が合うわけでもない。話のレベルも全く嚙み合わない。

 子供には何もわからないだろうことを私が延々と話してしまっていた時もあった。

 それでも少年は、一回たりとも私の話から逃げたことがない。

 いつだって真剣に聞いてくれて、ちゃんと子供なりに考えてくれていた。

 他の子とは何か違う。一緒にいて心地よい存在。


 だから、この少年のことをもっと知りたいと思えた。

 少年が好きな話もたくさん仕入れて、楽しくお話がしたいと思えた。

 少年が好きなことはとりあえずやってみて、好きになろうと思えた。


 少年のことを何気なく目で追うようになった。

 少年がどこにもいないと、寂しい思いを感じるようになった。


 私はそれまで一人でも平気だったけど、この少年のせいで何だか弱くなってしまっていたようだ。


 ある日、少年に私以外の友達がいると知ったとき、よくない胸のざわつきを感じたのを覚えている。

 私には少年しかいなかったというのに。少年には私以外の他の人がいたんだ、と。


 そのうちに少年のもう一人の友達と会う機会ができ、私は不思議な緊張感と決意を持って、その友達と対面した。


 だけど、その友達はとても素敵な女の子だった。

 そして、私の二人目の友達になってくれた。少年もそうだけど、もはや親友といってもいい。


 この子も、私の話をちゃんと聞いてくれて、気持ちよく反応を返してくれる。

 控え目に言ってちょっとおバカだけど、好きなことならすぐに覚えられる。

 好きなこと以外は右から左だけど、意外なことを覚えていて、後から聞き直してきたりもする。

 元気溌剌とした活発な子で、よく身体を動かしていて、走るのがとても速い。

 だけど誰かを置いて行ったりは決してしない。むしろ滅茶苦茶待たせる。

 本人に全く悪意は無く、悪いことしたと思ったらすぐに謝ってくれる。

 嘘が苦手で、すごくまっすぐな女の子。




 そして、()()()()()()()()()




 ああ、これは応援してあげなければいけない。素直にそう思えた。

 この子はいい子だ。私とは違って、可愛らしくて、少年にお似合いの、()()()()()()


 いつの日か、こんな私はこの二人から離れなければならないだろうな、と。

 なんとなく、それでいて、確信的な未来を思い描いていた。



 子供の恋愛が実を結ぶことは滅多にないけど、もし親友の恋心が成就して、そのまま結婚したのなら。



 その時は二人の幼馴染として、()()()()、お幸せにね。と言ってあげるのだ。



 私はきっと、上手に笑えるだろう。



 二人の話を聞きたいと妹にせがまれて話しているうち、そんなことを少しこぼしたら怒られたことがある。

 大人になったらそういう別れも必要なんだよ。と諭したらそのあと何故か本気で泣かれた。

 機嫌を取り戻すのに大変苦労したけど、ホント純粋で可愛いらしい妹だ。



 そして、妹だって、最初から私のことを慕っていたわけではない。

 といっても嫌われていたというわけではなく、むしろ私から妹を遠ざけていた。


 この子には真っ当に、普通の女の子になってほしいと。

 両親にとっての、()()()()()()()になってあげてほしいと思って。


 だけど、なぜかいつも私の後ろに、見えない尻尾を振ってついてきていた。

 いつだって一緒にいて、置いていこうとしても泣きそうになりながら必死についてくる。


 そのうち、私は妹を遠ざけることを諦めた。両親に真剣に怒られたというのもある。

 私の言動の真似ばかりするのでそれは無理やりやめさせたけど……まあギリギリ大丈夫だろう。


 表向きは可愛いものが好きで、お姫様に憧れているどこにでもいそうな女の子。

 頭が良く状況を弁えていて、変なことは変なことを言っていい時にしかしゃべらない。

 両親の前ではちゃんと普通の女の子になってくれている、とても良い子だ。


 見た目もよく、周りも見れる、そんな妹だというのに友達は少ない。

 幼いころから身体が弱くて病気がちで、小学校をよく休んでいたからだろう。

 だから私の友達が、そのまま妹の友達にもなってくれたときは本当に嬉しかった。



 遊ぶときも少年と親友と、私と妹の、四人で一緒が多い。

 最初は妹も遠慮がちだったが、連れまわすうちにそれもほとんど無くなった。


 四人で冗談を言って笑いあって、遊びまわって、こんな平和な青春を味わっているとまるで。




 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 私は変わらずおかしなままだったというのに。





・・・

 次回『始まりの終わり』

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