どう足掻いてもヤンデレがR―18の壁を超えてくるのでボツにした物語を供養させてほしい
ヤンデレスキーな皆様に、実在したヤンデレ戦国武将・細川忠興をプレゼンするエッセイ。
と言いつつなんですが、ご紹介するのは『逸話』であり、史実かどうかは定かでないお話です。今回は、あくまで後世の人が脚色した忠興像。本来の細川忠興は別物だと思いながら読んでくださると有り難いです。
というか話の大幅が脚色だったとしても、ヤンデレのテンプレはこの時代から変わらないという事なのですよね。古来から存在するヤンデレと、その愛好家……人間の趣味嗜好が昔も今も変わらないところ、そこが私の思う歴史の楽しさです。
みんなー、ヤンデレは好きかー!(好きだー!)
愛は重いかー!(横綱級をご所望だー!)
メリバで心躍るかー!(ヒップホップ踊るわー!)
監禁上等だー!(ただし二次元に限るー!)
えー、皆様こんばんは、私はヤンデレスキー・メリバコフこと青山めぇめぇでございます。鼻っ柱からふざけまくって申し訳ありません。
上記の通り私はヤンデレが好きなのですが、自己紹介に書いてある通り歴史、特に戦国時代が好きでもあります。2023年、秋の公式企画として『食事』をテーマにした歴史ジャンルの作品を募集していますが、実はそれも参加しようと水面下で動いていました。ピクミン4とかパラノマサイトとかスイカゲームの誘惑に負けたりもしましたが、書いていたんです。
まず初めに思いついたのは、毛利元就のお話。元就さんは部下にご褒美をあげる際、お酒が好きな子にはお酒を、苦手な子にはおモチをあげる、という人だったらしいです。それを元に結構書いていたのですが、書いてるうちに『食事』というテーマから外れすぎてしまったのでボツになりました。内容自体は悪くないので、後ほどどこかで使うかも分かりませんが。
で、テーマを重要視して思いついたのが、今回のタイトルになった物語。戦国時代、そしてヤンデレ。歴史好きな方はもうお分かりでしょう、戦国時代のサラブレットヤンデレ・細川忠興と、その妻ガラシャのお話です。
一般的には、ガラシャの方が有名ですかね。本能寺の変を起こした明智光秀の娘で、キリスト教を信仰する美しい女性です。
さてこの二人には、食事にまつわるエピソードが今日まで伝わっています。まずはそちらを軽くご紹介しましょう。なお、この話にはいくつかバージョンがあり、真実はどうか分からないのですが……こちらではよりヤンデレらしいバージョンを採用しています。
織田信長が「人形のような夫婦じゃ」と絶賛した美男美女夫婦、細川忠興とガラシャ。二人はとある日、縁側で庭を眺めながら、食事していました。その庭には、忠興お気に入りの松の木が生えており、その時は庭師がその松を整備中だったそうです。
が、庭師は美しいガラシャの姿を見つけ、ついうっとりと見惚れてしまいました。そのせいで、うっかり松の枝を誤って切ってしまったのです。
忠興はそれを見て、おもむろに立ち上がります。そして庭師の元へ向かうと……
デッドボール! 斬首!
スパンとやっちゃった忠興は、その首を食事中のガラシャの元へ「この男はお前に見惚れていた、許しがたい。お前が人の目につくところにいたせいだ」と投げてよこしました。が、ガラシャは怯えもせずに黙々と食事を続けるだけ。予想していた反応と違った忠興は、眉を寄せ呟きます。
「フン、人の首が目の前にあっても心一つ動かさぬか。お前は蛇のような女だな」
それに答えたガラシャの言葉は、こちらでした。
「些細な事で部下を斬る貴方は、まるで鬼のようではありませんか。鬼の妻には、蛇のような女がお似合いでしょう」
ガラシャさん、強いです。おそらく忠興は返す言葉がなかったでしょう。
この通り、忠興は極度のヤンデレです。しかも質の悪い事に恐怖支配をしたがるタイプのヤンデレのようで、このようにガラシャを怖がらせたり傷つけたりする行動も取ります。創作の物語なら、「ヒロインを傷付けるのはただのDV、ヤンデレじゃない」と言われるパターンのヤツですね。
ここで、少し忠興について説明しましょう。彼は名門、細川家の出で、父は将軍の御落胤とも噂される細川藤孝。しかし藤孝は、色々あって一時期苦難の時がありました。
その大変だった時期に、父と離れて暮らした忠興少年。おそらく、不安な時期に絶対的に安心感を得られる親という存在と離れた経験が、ヤンデレの土台を作ったのでしょう。
さて、そんな時期を乗り越えて、忠興が迎えたのは明智光秀の娘、ガラシャ。武士の結婚は基本的に政略ではありますが、美しく強い彼女を愛するようになるのは必然だったでしょう。
愛する彼女と離れたくない、ずっと側にいたい。自分なしでは生きられなくなれば、それは叶うのか……なんて思ったかどうかは知りませんが、闇のヤンデレが生まれたのもまた必然だったのかもしれません。
しかし、忠興が愛したガラシャという女性は強い人でした。ガラシャが今回の話の中で泣き出したり、縋ったりすれば忠興も満足だったのだと思います。が、自分を見失わないガラシャは、忠興の望むお人形ではいられません。夫婦仲は決して良いとは言えないようでした。
類似したエピソードがもう一つ。ガラシャが使用人と話をしていたら、嫉妬した忠興が使用人を(胴体から離れるという意味で)クビに。いくらなんでもそれはない、と思ったガラシャは、その時返り血を浴びた着物を三日三晩着続けたそうです。この時は忠興の父、藤孝が「分かった、分かったから勘弁してくれ」と取りなしたとか。
忠興は部下に対し、スリーアウト斬首制を採用していましたが、ガラシャが絡む事だけはワンアウト斬首だったとか。
その他、沢山あるヤンデレエピソードも軽くご紹介。
・本能寺の変の際、本来は叛逆者の娘であるガラシャと離縁するのが普通だが、「ハイハイ離縁離縁」と聞いたような顔をしてガラシャを隠す。しかもその期間中に子どもを作った疑惑もあり。
・キリスト教の信仰を選び、洗礼を受けた事に激怒。やめてほしいあまり、同じく改宗した侍女などを殺しまくる。しかしガラシャは信仰を捨てない。
・腹いせなのか側室を取るなんて言い出すが、逆にガラシャは「もう離縁したい」と嘆く。なお、このガラシャの決意を止めたのは、皮肉にもキリスト教の「離縁禁止」の教えだったりする。
・女好きの豊臣秀吉に目をつけられた際の対処法として「やられる前に自殺しろ」と命じる。なお秀吉に関わらず、「捕まりそうになったら、ガラシャを殺してその場の家臣も全員死ぬように」と指示を出している。
・関ヶ原の戦いの前、人質にされそうになったガラシャは家の者に自らを槍で貫かせて死を選ぶ。その際息子とその妻は逃がすよう取り計らっていたのだが、「ガラシャは死んだのに、なんで息子の嫁は生きてるんだ! そんな女すぐに離縁しろ!」と大激怒。で、それを嫌がった息子を廃嫡。
・ガラシャの葬式は、生前あんなにやめろと迫っていたくせにキリスト教式で行う。余談だが、その事を加藤清正にからかわれてキレる。でもこれは清正が悪いと思います。
さて、話を戻しましょう。今回紹介した食事のエピソードを物語にする際、絶対に外せないシーンがあります。
そう、斬首です。忠興を鬼と呼ばせるには、まず斬首しないと始まりません。
が、どう控えめに表現しても斬首は斬首。首と胴体がサヨナラするシーンは、どこから見ても残酷の極みです。
なるべく表現をまろやかにする? 無理でした。
アウトした庭師のアレを、首桶に入れてから持ってくる? そんな気遣いをする男じゃないよ彼は。怖がらせたくてやってんのにさ。
どう足掻いても、斬首がR−18の壁を超えてくる。それを破るすべが……私には、ない!
という事で、私の挑戦は失敗に終わりました。そもそも食事ってテーマで、斬首シーンのある話を書くなという話です。
が、せっかく途中まで書いたのに、このまま捨てるのは勿体ないな……と思ったので、今回、話のネタとしてエッセイにしてみました。皆様も物語を考える際は、自分の技量を見誤らないようにお気をつけください。
それと、ヤンデレスキー同好会の皆様に、忠興という逸材を知ってほしかったのもまた一つの理由です。今回お話を出す事は出来ませんでしたが、歴史にはまだまだ知らない逸材が沢山います。今回のような企画で、歴史に興味を持つ人が増えたら私も嬉しいです!
最後に、ボツにした物語を載せて供養としたいと思います。ここから先はボツ物語(しかも途中まで)なので、お好きな方だけ読んでいただけると嬉しいです。なんだったら誰か続きを書いてください。タイトルは『異世界転生した訳でもないのに、私の旦那様は狂っている』でした。
混ざり物の少ない玄米が美味い事を、私はよく知っている。
幼い頃、私の父上、光秀はよく嘆いていた。「私が不甲斐ないせいで、このように粟や稗しかない飯を食べさせてばかりで申し訳ない」と。けれど、私はその頃玄米そのものの味を知らなかったから、特に不満などなかった。父上と母上、兄弟達と囲んで食べる、笑顔溢れる食事の時間がなにより幸せだった。
忠興様は、そんな小さな幸せを知らずに生きてきた人だ。忠興様の父にあたる藤孝様とは折り合いが悪く、会えば睨み合いになる。何らかの事情で食事を共にしても、会話などほとんどない。細川家は由緒正しい血筋だ、農民のように混ざり物だらけの米が食事に出る事はない。しかし美味い食事が幸せかと言われれば、私は素直に頷けなかった。
そういえば忠興様は、私の昔話を聞くのが好きな方だった。忠興様は、他愛もない話を聞いては羨ましがり、自分もその場にいられたら良かったのにと呟いていた。私の生家である明智家は、信長様に仕える今こそ力を得ているが、かつては各地を放浪していた貧乏な家だった。井戸へ水汲みに行ったとか、道中食べられそうな草を見つけた話などは、都会暮らしの彼には物珍しく聞こえたのだろうと思っていた。
いつからだろう。興味深く頷いていた忠興様の瞳に、暗い陰が宿ったのは。
「縁側で食事?」
この日もまた、忠興様の目は淀んでいた。仕事に追われているのなら、まだ分からなくもないが……今は趣味で集めた茶器を眺めているところだ。実際、私が話しかけるまでは、鼻歌を歌いながらあれこれ触っていたのだ。私の存在が不機嫌の元であるのは、間違いなかった。
「ええ。庭の松が青々として美しかったので、共に眺めながら食事をしたいと思いまして。いかがですか?」
「松……ああ、あれか。あれは俺も気に入っている松だ」
眉間に深く寄っていた皺が、少しだけ薄くなる。けれどそれはすぐに戻り、忠興様は小さく呟いた。
「……お前が見惚れるなら、あんな松植えなければ良かった」
「分かりました、お嫌でしたら無理にとは言いません。私は一人で食べますから」
忠興様は、私のやる事なす事何もかもが気に入らないらしい。私が話をすれば溜め息を漏らし、私が動けば文句をつける。何も言わず、何もせずに部屋に閉じこもっていないと、満足しないのだ。私達はいつからか、そんな関係になってしまった。
けれど忠興様の厄介なところは、そこまで私を憎んでおきながら、決して放ってはくれないところだ。私が諦めて去ろうとすれば、大事なはずの茶器を乱暴に置いて大きな音を立てた。
「駄目だ! 今、あの庭は庭師が整備している。お前を一人で人目のつく場所へ置いておけない!」
「庭に降りたり、邪魔をするような真似は致しません。それに、下人の仕事ぶりを確かめるのも妻の務めでしょう」
「お前はそんな事しなくてもいい!」
私を妻として認めないのは結構な事だが、引け目を感じて怯えていたくはない。気に入らないなら、離縁すればいい。私が目を逸らさず向き合えば、忠興様は大きな溜め息を吐いて立ち上がった。
「庭師に色目を使うつもりだろうが、残念だったな。俺が共にいる以上、余計な企みは通じんぞ」
庭師に色目を使いたいなら、そもそも初めから忠興様を誘ったりしないというのに。この人は本来聡いはずなのに、私が絡むと途端に馬鹿だ。とにかく忠興様は、食事を共に取る気にはなったらしい。私の気持ちとしては、もう結構だと断りたいところだけれど。誘った手前、今さら覆すわけにもいかず、楽しくない食事の用意は進められる事となってしまった。
風が吹けば、深い緑の香りが広がる。しかし食事の邪魔はせず、さらりと私の横を通り過ぎた。盛られているのは今日も、混ざり物の少ない玄米。隣に座る忠興様は、それを当たり前のように口へ運んでいた。
私も、箸を運ぶ。ぷちぷち、ぷちぷちと噛み砕いていく。よく噛まないと甘みが出ないので、無言で飯を噛んでいく。
ふと、父の顔を思い出す。父は穏やかな人であるが、食事の場では母よりおしゃべりだった。愚痴は多かったが、それ以上に褒め言葉も多かった。支えてくれる母に笑みを向け、私達子どもが何か少しでも善い事をすれば、頭を撫でてくれた。優しい父だった。
あの頃の食事の時に、こんなにも米の食感を気にした事があっただろうか。ぷちぷち、ぷちぷち。
……煩わしい。
(ここから進めると残酷表現不回避のため、断念)
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
史実として残る姿の忠興はとんでもなく優秀で、戦での勇猛さはもちろん、茶の湯、甲冑などのデザイン、医学など数多くの知識に長けた文化人です。ただし『武将の中で一番短気なのは忠興』なんて残されたりしてるので、まあキレるとヤバイ奴だったのかもしれませんね。