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第7話 仕返し

「うおおおぉぉっっ……!」


  走る、走る。後ろから迫ってくる、人間ほどの大きさを持つ大トカゲ吐く炎の熱を背中で感じながら、薄暗いダンジョンを、間一髪の所を走り続ける!

 

----------------------------------------------------

     ●リザードマンこえええええ

        ●なんか敵の強さの割りに

装備貧弱じゃね?

 ●追いつかれるぞ!

     ●死亡配信じゃねこれw


----------------------------------------------------

  


「くそっ、あの性悪課長め、仕返しのつもりかよ……! こんな残虐な仕返し、中世にだって存在しないぞ……!」


 あの後、俺が会社に戻った時、突然言われた異動――ダンジョン探索課。

 その名の通り、少し前、突如世界中に現れたダンジョンを探索する課のことだ。

 ダンジョン内は危険が多く、その様子を配信すれば、大勢の視聴者を手に入れることは容易い。故に、多くの企業がこの事業を取り入れようと画策していた。

 だが、実際に課が創設された会社はそこまで多くない。

 理由は簡単。

 "危険だから"だ。


 昔見たことはある。配信の中で行われている、壮絶な戦い。

 優秀な探索者はいいだろう。しかし、中には目も当てられない末路を配信してしまった者もいる。

 俺が見たものは、運が良いことに、激しい戦いで配信者が途中でカメラを落としたのか、その様子がはっきりと映し出されることはなかった。

 しかし、忘れられない。レンズの視界内に飛んでくる血しぶき、配信者の徐々に小さくなる悲鳴、そして、最後に近づいてくる、ダンジョンに潜む"化け物"のシルエットが――。


「なんたって俺がそんな目に……。うぐっ、か、かは……!」

 

 まずい、変な想像してしまったせいで、持病のパニックが出てきかけている……。

    ぐ ぐ

鼓動が、 ち ち になる。

     ゃ  ゃ


 息が乱れて、視界がカスむ。 


 もう駄目か……。諦めて目を閉じたその時。


「ラ、ライトニングサンダーっ!!」


 ダンジョン内に、少女らしいソプラノボイスが響く。

 それと同時に、俺の背後で爆撃が起きた。


 <ギャァアアァアァアァア……ッ>


 高火力の爆発を至近距離で受けた大トカゲは、流石にたまらず大声を上げて倒れる。

 


「こ、これは……」

「や、やった……。上手くいった……!」


 呆けてる俺の隣に、胸一杯の喜びを隠しきれない澪が、会社から支給された"第三級汎用魔導書"を持って、満面の笑みを浮かべて現れた。


「い、今のってもしかして……」

「はい、魔法ですっ。ちょっとかじった程度だったので不安だったんですけど、成功しました!」

「う、うぉ……!」


 ぴょん、ぴょんっ!

 あまりに嬉しいのか、両手でこちらの手を握って、飛び跳ねながら荒くしている鼻息がこちらの顔にかかるほどに接近する澪。もう"やみおち"してるとか、そんな設定さっぱり忘れてるほどに無邪気だ。


 しかし、完全に油断しきっている彼女の背後、俺は気づいてしまった。

 彼女を狙って、何かが迫ってきていることに。


「――っ、澪、危ないッ!」

「え……?」


 そこには、先程地面をのたうち回っていたはずの大トカゲが、白目を向きながらも、最後の力を振り絞って立っていた。

 しかし、俺の叫びはもう遅い。

 その巨大な手は、彼女の体全体に影を落とすまで接近していたのだから。


「っ!!」

 

 赤い鮮血が吹き出る。

 背筋が凍るほどの轟音に、俺は息を呑んだ。

 しかし、膝を地面につき、ゆっくりと力尽きるように地面に倒れたのは、……澪ではなかった。


「――リザードマンは狡猾な種だ。倒したと思っても、止めを刺すまで目はそらさないようにした方が良い」


 聞くだけで目が覚めるような、凛とした青年の声。

 大トカゲ――リザードマンが澪に手をかけようとしたその瞬間、一瞬の間でそいつを切り刻んだ金髪の彼は、見る者全てを魅了できる様な、きれいな青い瞳でこちらを凝視していた。


----------------------------------------------------

     ●一瞬で切った!?

●謎のヘルプキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

      ●こいつってあれじゃね? ダ

ンジョン警察とか言う

     ●ちっ、いいとこだったのに

●正統派イケメンだ


----------------------------------------------------

  

「だ、誰ですかっ!?」

 

 一瞬で色々なことが起きたせいで、しばらく呆けていた澪だったが、我に返るとトレードマークの犬歯を露わにして、俺の後ろに隠れながら威嚇を始める。お前は犬か。


「俺はダンジョン警察に務める、有西 恭也(ありにし きょうや)だ。……ん?」


 澪のそんな態度にもものともせず、有西さんと名乗った青年は、俺たちの身体をジロジロと見回す。

 な、なんだ……。そんな俺の疑問は、彼の驚きと呆れで顔を固くする彼によって解き明かされた。


「なんだその装備は……。君たち、ここまでそれだけの装備で来たのかい……!?」


 青年が目を丸くする。それもそうだろう。こちとら、異動を命じられたその日にここに潜らされ、支給された装備も、切れ味の悪い剣と、安物の魔導書という、いかにも初歩中の初歩という物しか揃っていないのだ。

 当然、彼がそんなこと知る由もないのだが、人の苦労知らずの指摘に、澪が思わず顔をしかめる。


「私達だって、好きでここに来てるわけじゃないです。会社の命令で、無理に潜らされて……!」

「澪、それは……!」

「あっ――!」


 まずい、バレてはいけないことを喋ってしまった……!

 あの会社が、社員の意向を無視して、そうした違法行為スレスレのことをしているのは、極秘事項だ。

 もしバレれば、会社の経営は傾き、俺たちも露頭に迷うことになる。……ここまでブラックな仕事に耐えてきた苦労が、今度こそパーになるのだ。


 そんなことを、澪はよりによって、警察である彼に口を滑らしてしまった。だが、当然言い訳しようにもときはすでに遅く、彼は目を鋭くしていた。


「……どうやら、詳しく話を聞かせてもらう必要がありそうだね。直ちに僕と一緒にここから出てもらおうか」

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