第11話 覚醒
ぴちょん。と。
おでこの当たりに落下してきた、水滴の感触に、瞼が動く。
「…………ん……」
寝起きで霞む視界で、徐々にピントが合わさっていく。
視界に映るのは、無骨なレンガ状の天井に、人間一人分ほどが通れるような大穴。
「……生きてる」
体を倒したまま、次に左右を見る。
幅10mほどの正方形であろう床に、出口の見当たらない、狭い部屋。
何も変哲のない、ただの部屋に見えたが……、ひときわ目を引いたのが、部屋の中央にある台座。
その上に置かれた、小さな丸い水晶だった。
「…………嘘だろ。起き上がれる。…………傷が、ない……?」
そうしてやっと体を起こした俺は、胸元に手を当てた。
デッドリースコルピオに貫かれたはずの怪我が、何事もなかったかのように塞がっていた。
……夢じゃない。
その証拠に、貫かれたはずの場所は、服が破れているからだ。
「……………………」
わからないことだらけだが……、俺は、やはり、部屋の中央へと目を向ける。
こうなってくれた原因は、明らかに、あの水晶にありそうだ。
ゆっくりと、近くまで歩く。
近くで見ても、見た目はただの、イメージとしてはよく占い師とかが、手ではぁ~っとする時にかざす、あの丸い水晶だ。
「なんだ、これ……ダンジョンでこんなものがあるなんて、聞いたことが無い」
けど、なんだろう。
なんだか、とても懐かしい気がする。
まるで、過去に大好物だったお菓子を、数十年ぶりに食べたかの様に。
まるで、過去に家族みんなで楽しんだ場所に、数十年ぶりにたどり着いたかの様に。
哀愁とノスタルジックを感じる、そんな結晶。
――触れたくなった。
ごくりと生唾を飲む。
この場所で、こういったものに無闇に触れてはいけない。そんなの頭ではわかっている。
けども、止められない。ここで死ぬより、ここでこれに触れずに一生を終えた方が後悔しそうな、それほどまでの魅力を感じたのだ。
意を決して、それに、触れる。
まるで、俺の手に収まることが予定されていたかのように、ぴったりと握れた。
「っ、……これは」
その瞬間、手の内側から鋭い光が溢れる。
その光の強さは、とどまることを知らずに、やがて、部屋を、視界を、真っ白に染める。
――光の先で見たのは、何者かとの会合か。それとも、未知なる世界への入り口か。
そのどれでもない。
まるで、遺伝子がゼロから書き換えられるかのような錯覚。いや、戻されるかのような鮮明な覚醒。
あぁ、そうだ。
思い出した。
頭に浮かぶのは、あの事件――数日前のパワハラタイムの直前に見ていた、過去の新聞記事。
難攻不落のダンジョンを、突如攻略した謎の男。
あれの、正体は――。
「うそ…………、上田、先輩……」
先輩が落下した仄暗い暗闇の向こうを、私はただ、じっと見続ける。
先輩が……死んだ。
される
き乱 感覚
をか に、
の中 私は
脳 思
。ぐ ずわ
塞を き吐
手で を気
口し催
「っ、う…………ッ、いや、いや……。いやああぁあぁあッ! なんで、なんで……ッ!?」
私が一人、ブラックなこの会社で孤立した時。
私の変わってしまった姿を見てなお、変わらず近くで寄り添ってくれた時。
私の復讐に、困りながらも毎回きちんと話を聞いてくれた時。
私が、先輩を好きになった理由が、頭でぐるぐると回ってから……、それは一つの、怒りへと行き着く。
近くにあった、魔導書を掴んだ。
「復讐してやる……、絶対にッ!」
眼前にそびえ立つデッドリースコルピオを前にして、私は魔導書のページをなびかせる。
先程の有西さんとマスタードラゴンのぶつかり合いで、私と彼の間は落石で封じられた。
つまり、私に助けは来ない。
私はここで死ぬんだ。
…………でも、それでも!
「一撃くらいは……叩き込んでやるッ!!」
この細い腕じゃ、無力な私を嘲笑うかのように見下ろしているこの敵に、一撃加えることもままならないだろう。
でも、……私の命を引き換えに、魔術を増加させれば……!
<シャァアアアアァアアァアアァッ!!>
スコルピオが、大きな雄叫びを上げ、先輩を貫いた尾針を私へと伸ばす!
やるなら、至近距離で……!!
失敗したら、貫かれるだろう。でも、そんなの、怖くない。
私の復讐心は、止められないからッ!
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