第1話 空前絶後の記事
プロペラが風を切る音が、上空から鳴り響く。
『ご、ご覧ください……。こ、これは……!?』
常にカメラ目線を心がけている、熱心なリポーターでさえ、この光景には息を呑んで唖然と下を見下ろす。
そこには、商店街やビルが並ぶ、いつもののどかな光景は存在せず、
まるで隕石が激突したかのように、円形に地面が隆起し、その中央には巨大な建造物が。
――ダンジョンだ。
まるで古代のピラミッドの様に、まるで世界遺産の大山脈の様に、圧倒的な存在感。
しかし、その程度では、これほどリポーターは驚かない。真に彼の心を揺さぶっているのは、その入り口にいる"人影"の存在だ。
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●ここって、S級モンスターのいるダン
ジョンであってるよな……?
●誰だあの男。情報キボンヌ
●今北産業。…………いや、三行
じゃなくてもいいわ。何が起こってる?
●バ ラ ン ス 壊 れ る
●いまさっきの光って、あいつがやったの?
●こんなすごい探索者いたら、今までの
配信者終わるだろ
●すげええぇえぇええぇえぇええぇえぇ!?
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その様子を公開していた、某有名配信サイトのコメント欄が、まるで奔流の如く流れる。
喫驚と煽動の書き込みが入り乱れるその隙間から、ダンジョンの前に立つその青年はカメラへと目線を向けた。
それはまるで、画面のこちら側を見ている様で。
「…………面白い」
暗闇の部屋の中、配信を見ていた少女は、小さく嘲笑った。
「謎の男、最難関ダンジョンを攻略する…………」
寝不足気味で痙攣する瞼をなんとか見開きながら、俺はたまたま見つけた、何年も前の新聞を見ていた。
ダンジョン、ダンソン、ダンスヨン。
ダンスよん。
スーツ姿の俺が、社内の図書館のような施設である、ここ中央資料室で踊りだしたら、流石にみんな俺のことを心配してくれるだろうか。
『あぁ、ついに彼も正気ではいられなかったか』と、昔見た有名なミステリー小説の一節を、この俺にかけてくれるか。
…………かけてくれるわけないか。精神科へGO! とでも言われて終わりだ。なんなら人生もそこで終わる。
「み、見つけましたよ、上田先輩……!」
そんなことを考えていると、突如後ろから声がかけられる。
見ると、そこには八重歯をむき出しにして、こちらをキッ、と睨む茶色いセミロングの髪型をまとめた少女の姿があった。今まで走ってきたのか、肩で息をしており額やうなじにはキラキラと汗が垂れている。
「澪か。どうした?」
「闇落ちした私を放ってどこかに行こうなんて、いい度胸ですね」
「すまん、忙しかったんだ。今日中に終わらせないといけない仕事があってな」
「許しましょう」
"やみおち"している割には、簡単に許される。
倉敷 澪、17歳。ダンジョンが現れてから適用された法律、"早期雇用形態"による新入社員だ。
小動物を連想させる『守りたくなる女子』然とした、年齢にしては小さな身長に、くりくりとした目、スカートから覗く健康的な素足は、どこぞのアイドルと言わんばかりの魅力を醸し出す。この会社でも有数の美少女だ。美少女なのだが……。悲しいかな。やはり彼女も俺と同様、このブラックな荒波に揉まれ、心が壊れてしまっていせいで、あまり人を寄せ付けるタイプではない。
入社当初は、それはまぁ真面目な少女だった。与えられた仕事を全うしようとし、他の社員の無茶振りにも困り笑顔で対応する、健気な子だった。
だが、お人好しは常に搾取される。それは、この会社でも例外ではない。
次第に彼女の心は蝕まれていき、今やパワハラを行ってくる上層部に対し復讐を誓う、彼女曰く"やみおち"(?)状態になってしまったのだ。え、そうはならんやろ? うん、ならんよな、普通。でもなってる。
「それよりも……っと、聞いてくださいよ、先輩」
そんな彼女が、ずいずいっ。と、俺が座る狭い長椅子に何度も体を押して無理やり詰めさせて座る。
その時に、女の子らしい小柄で柔らかな体の感触と、丸い顔が近づいた時に良い香りが微かに鼻孔をくすぐって、なんとも言えない気恥ずかしさから、思わずドキッとしてしまう。
「こんな腐った会社、復讐したくないですか」
ニヤァリ。と擬音が鳴りそうな悪い顔で、コソコソと話してくる澪。前言撤回、全くドキドキなどしない。
「……今度は何を思いついたんだ?」
「ふっふっふふ、この恐ろしさ、聞いても失神とか失禁とか、しないでくださいよ? 私、先輩をベッドに運んで濡れタオル額に置いて、おかゆあーんまでしかしませんからね……?」
「至れり尽くせりじゃねえか……」
特徴的な笑い方はともかく、若干やみおちする前の名残で良い子ムーヴが出てる。
しかし、そんな彼女は小悪魔的な影のある笑いを浮かべて、ごそごそとポーチから小さな黄色い果実を取り出した。
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