最終話 お父さん、娘さんとの交際を認めて下さい!
体験入団から3ヶ月後――
ラークは賢者試験の本番を迎えていた。
賢者試験は筆記・実技・面接からなる難関。合格者が出ないことも珍しくない。
ラークは緊張していたが、準備は万端だった。
自分の両親、フィアナとその両親、魔法学校時代の友人や恩師たち、全てに感謝しつつ、ラークは試験に臨む。
***
賢者試験、合格発表の日。
フィアナの屋敷では、ラークの結果を待ち受ける三人がいた。彼女らには試験の合否を真っ先に伝える約束になっている。
やや緊張した面持ちの令嬢フィアナ。
ニコニコ穏やかにソファに座るフィアナの母セレナ。
そして――
「ラーク、ラーク、ラーク、ラーク、ラーク……」
名前を連呼しつつ、屋敷内をうろうろと歩き回るフィアナの父バルガス。
フィアナは少し落ち着けと言いたくなる。
「よいか二人とも……。たとえラークが試験に落ちてしまったとしても、決して励ましてはならんぞ! 自分がみじめになってしまう! 男とはそういう生き物なのだ……!」
さらに続ける。
「かといって全く励まさないのもいかん! さりげなく、次頑張ればいいじゃないかと言ってやるのだ。励まさないように励ます、これが大事なのだ……!」
「難しい注文だこと」呆れるフィアナ。
またうろうろし始めるバルガス。フィアナもいい加減うっとうしくなってきた。
やがて、バルガスが絶望的な表情になる。
「まさか、ラークの奴……! 試験に落ちたショックで命を……!?」
「彼はそんなに弱くないわよ」
「そうは言うがフィアナ、奴はあれで繊細なところもある男だぞ! こうなれば私が馬でひとっ走り……」
「やめてったら!」
父と娘で喧嘩になる。
すると、ちょうど見計らったようなタイミングで、来客の気配が。
セレナが微笑む。
「ラーク君が来たようですよ」
***
「ラーク!!!」
「ラーク!!!」
訪ねるなり、恋人とその父がまとめて駆け寄ってきたので、驚くラーク。
「試験はどうだった?」とフィアナ。
「どんな結果でも、受け入れねばならぬぞ……!」と汗だくのバルガス。
ラークは満面の笑みでこう言った。
「受かりました! 今日から僕も賢者です!」
フィアナが抱きつく。バルガスも抱きつこうとする。が、フィアナが蹴り飛ばした。親を蹴るのは初めてだった。
「フィアナ! 親に向かって暴力を……!」
「うっさい! ここは私が抱きつく場面でしょ!」
とにかくめでたい知らせに、屋敷内は明るくなる。
ラークはリビングに案内され、四人分の紅茶が用意される。
「ふん……ラークは山賊退治でも活躍できたほどの男。すでに賢者レベルの実力はあった。私は合格を確信していた。ワッハッハッハ……!」
「ありがとうございます!」
面倒になったのかもはや何も言わないフィアナ。
「それで今日は……僕、バルガスさんに申し上げたいことがあるんです」
「ん?」
「賢者になったらずっと言おうと思ってました」
全く心の準備ができていなかったのか、バルガスが動揺する。カップを持つ手が震える。
「バルガスさん。いえ、お父さん。僕と娘さんとの交際を……認めて下さい!」
バルガスは一瞬「そういえば認めてなかったっけ」という表情をするが、すぐに顔を引き締めた。
「フィアナの父として、返事をさせてもらおう」
生唾を飲み込むラーク。緊張している。フィアナは全く緊張していない。
「よかろう……認めてやる。娘との結婚を!」
――ん?
「え?」
「え?」
とんでもないことを口走ったと、慌てるバルガス。
「ち、違う! 今のはそう、あれだ! フェイントなのだ! いきなり結婚を認めるふりをして、交際を認めるという高度な戦術……」
「そ、そうですよね! アハハハ……」
空回りするバルガスとラーク。
頭を抱えるフィアナ。
「どこらへんが高度だったのかさっぱり分からない……」
もはや完全に頭がパニックになったバルガス。
「とにかく……娘と結婚したくなったらパァッとやりたまえ! 君の両親はもちろん、魔法学校の面々や騎士団も呼んで、盛大にな!」
「は、はいっ!」
突然結婚式の話をされては、ラークもかえって困惑しているだろう。
「よし、ラークよ! お前は剣を習いたいと言ってたな。庭で少し揉んでやろう!」
「ぜひお願いします!」
「剣も使える賢者剣士というのも悪くないかもしれんぞ!」
賢者剣士――語呂が悪いな、とフィアナは思った。
庭で、ラークに手ほどきをするバルガス。
「ほう、基本の型をちゃんと覚えてるようだな」
「実はホウキで毎日やってたんです」
「立派な心がけだ。ワハハハハハ……!」
そんな二人を見つめながら、フィアナはぽつりと言った。
「ねえお母様。私もお父様に『ラークを返して』って挨拶しに行くべきかな?」
「まあ、しばらく好きにさせてあげなさいな」
セレナはいつも通りの優しい笑顔でこう答えた。
~おわり~
以上で完結となります。
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