表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第4話 お父さんと山賊退治

 体験入団も明日で終わるという時、騎士団がにわかに騒がしくなる。装備を整えている。

 ラークが一人の騎士に尋ねる。


「何かあったんですか?」


「出陣だ」


「出陣!?」


「凶悪な山賊団『地獄の虎』のアジトを、国の諜報部がようやく特定したんだ」


「『地獄の虎』……!」


 ラークも聞いたことがある。

 神出鬼没で、いくつもの村や町を荒らしまわった山賊集団である。山賊らしからぬ武力と統率力も備えており、自警団はもちろん、王国の部隊が返り討ちにされるケースも後を絶たなかった。さすがに騎士団が武で後れを取ることはなかったが、なかなか壊滅に至れないでいた。


 ラークは胸騒ぎがした。長年国を荒らした山賊がそう簡単に尻尾を見せるだろうか。これは……罠では?


 出陣しようとするバルガスに、ラークが声をかける。


「バルガスさん!」


「なんだ」


「聞きました。山賊討伐に行かれると」


「うむ、このチャンスを逃す手はないのでな」


「僕も連れてって下さい!」


「それはならぬ。貴様は体験入団してるだけにすぎん。危険にさらすわけにはいかない」


 当然の返答だった。

 だが、ラークは――


「今度の出陣、何か嫌な予感がするんです。例えば……罠とか」


「たとえ罠だろうと、騎士ならば飛び込まねばならぬ時がある」


 百戦錬磨のバルガスとて、山賊団の企みには当然気づいていた。奴らがただ居場所を特定されるわけがない、と。

 それでもラークは不安だった。


「どうか……どうか僕も連れていって下さい! 僕も魔法には自信があります! 絶対に足手まといにはなりません! 力になれます! お願いします!」


「……」


 バルガスは少し考えてから言った。


「よかろう。ついてこい、ラーク!」


「ありがとうございます!」



***



 山賊が巣食うのはコッホ山だという。首都から北西に位置するあまり人の寄り付かない岩山だ。


「ラーク、馬に乗れるか?」


「乗れません!」


「よく言った。見栄を張られるよりよっぽどいい」


 バルガスは愛馬にまたがると、ラークを軽々引っ張り上げる。


「前に乗れ。馬は後方ほど揺れる。しっかりつかまっていろよ」


「はいっ!」


「全騎士に告ぐ、出陣だ!!!」


 雄叫びを上げながら、勇猛な騎士団が出陣する。

 それはまさしく、ラークが思い描いていた勇猛な騎士団そのものだった。

 これから命懸けの戦いに行くというというのに、ラークは子供のように目を輝かせていた。



***



 コッホ山にたどり着いた一行。

 この山は決して標高は高くないが、入り組んだ岩山である。いわば天然の要塞、攻めにくい場所だ。


「伏兵がいるはず……多少の犠牲は覚悟で攻め込むしかないか」


 すると、ラークが言った。


「僕に任せて下さい!」


「む?」


「探知魔法を使いましょう」


 ラークが呪文を唱えると、彼の前に魔法陣が出現する。

 魔法陣には周辺の生命力を探知する機能が備わっており、一ヶ所不自然なところに光があった。

 ラークが指さす。


「あそこの茂みに隠れています!」


 すかさず騎士の一人が槍を投げる。


「ぐあっ……!」


 悲鳴が上がり、潜んでいた山賊が倒れた。


「やるな、ラーク」


「ありがとうございます」


 これで敵の狙いは分かった。やはり山賊が発見されたのはわざとであり、コッホ山には大量の罠と伏兵が仕掛けてある。


 騎士団にとって山賊が厄介なのと同じく、山賊たちにとっても騎士団は目障りなのだ。このコッホ山で騎士団を壊滅させるつもりだ。

 ならば受けて立ってやる。バルガスは部下たちに命じる。


「行くぞ!」


 山道を勇ましく駆け上がる騎士団。

 山中には大量の山賊が待ち伏せしていたが、精鋭たちはそれらを蹴散らしていく。ラークの探知魔法も役に立った。


「いいぞ、ラーク!」


「はいっ!」


 やがて騎士団は、左右を崖に挟まれた道に差し掛かる。

 危険ではあるが、山賊を倒すには進むしかない。馬を操り、意を決して駆け抜けようとする騎士団。


 岩が落ちてきた。

 やはり罠だった。

 しかし、スピードを緩めなければ突破はできる。犠牲は出るだろうが、やむを得ない――その時だった。


 ラークが魔法を発動させる。


竜巻魔法トルネード!」


 竜巻を起こし、さすがに岩を吹き飛ばすまではいかないが、落下速度を遅らせた。おかげで騎士に犠牲は出なかった。


 地の利は山賊にあるが、勢いは騎士団にある。次々に現れては、倒されていく悪党たち。

 バルガスも長年の経験から「これはいける」と感じた。


 ラークも同じ考えだったが、念のためと探知魔法を使う。

 すると、予期せぬ方角に光があった。


「あっ……!」


 木陰から一人の山賊が弓でバルガスを狙っている。

 魔法を唱える暇もない。となれば――


「危ない、お父さん!」


 ラークは身を挺してバルガスをかばった。

 矢が放たれる。

 舞う鮮血。

 ラークが崩れ落ちた。

 驚くバルガス。


「……!」


 倒れたラークを見て、バルガスが絶叫する。


「ラァァァク!!!」


 ラークの肩からは血が流れている。


「ラァァァァァク!!!!!」


「あ、ご無事でしたか……」


「ラァァァァァァァク!!!!!」


「僕も、矢は肩をかすめただけみたいで……」


「ラァァァァァァァァァァク!!!!!」


「これぐらいなら回復魔法で……」


「ラァァァァァァァァァァァァァァク!!!!!」


「あの……お父さん……」


「ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァク!!!!!」


 まるで聞いていない。


「許さん……許さんぞ、山賊ども……! フィアナの恋人にして我が息子ラークをこのような目にあわせるとは……!」


 激怒している。歯をむき出し、血の涙を流さんばかりの鬼気迫る表情。敵だけでなく味方ですらひれ伏してしまいそうになる。


「――全騎士に告ぐッ!!!」


 バルガスは高らかに剣を掲げる。


「賊どもを殲滅せよッ!!! 一人たりとも討ち漏らすな!!!」


 騎士たちの士気が高まる。

 彼らとてラークを気に入っており、なにより騎士団長の命令は絶対だ。士気は天にも昇り、その遥か上にも達する勢いだった。

 一斉に突撃を開始する。


 うおおおおおおおっ……!!!


 こうなればもはや、多少の地の利や罠など意味をなさない。


 後はあっけないものだった。なすすべなく、山賊団『地獄の虎』はコッホ山から駆逐されるのだった。



***



 駐屯地のベッドにて、横たわるラーク。自身の回復魔法で傷は癒えたが、痛みは残っているため包帯を巻いている。


「すみません、結局足手まといになってしまって……」


「そんなことはない。貴様の魔法がなければ、騎士団からも犠牲は出ていただろう。今回の戦いはそういう戦いだった。軍事への魔法の導入、本格的に考えねばならんな」


 バルガスは視線を外すと、ぽつりと言った。


「ありがとう」


 この言葉にラークは感激する。


「バルガスさん……!」


「誰がバルガスさんだ! お父さんと言え!」


「……え!?」


「あ、いや、間違えた! と、とにかく娘との交際は認めんからな! それはそれとして、貴様の魔法使いとしての実力は認めてやる! さらばだ!」


 言いたいことを言って、去っていくバルガス。

 ラークは微笑む。


 こうしてラークの騎士団体験入団は終わった。

 色々あったが楽しかった。ラークは自分が一回り大きくなったように感じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エタメタノールさんの歴代作品の中でもトップクラスに入るくらい、とても面白かったです。 バルガスを筆頭にキャラが魅力的で、ストーリーの流れやオチも完璧でした。 あとは腕立て伏せ回でのバルガ…
[良い点] 緊急事態ほど、人は本音を口にしてしまうと言いますが、もうすでにバルガス様の中ではラークくんは息子なんですね。 ラークくんを呼ぶ叫び声がだんだん長くなっているのが面白かったです、それだけ心…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ