第1話 プロローグ 転生
「何か凄い人数だね。こんなに招待したんだっけ?」
二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「まあ、多分。一生に一度と思って流れに任せましょう。」
今日は僕とミーサの結婚式なのである。
それにしても、
「よくもまあ、こんなに集まったなあ。」
と思ってしまう。
此処は王都ジーニスタにある、この国、最大の教会。
彼女の功績が認められて、王様へ謁見した際に口を滑らせたばっかりに、こんな事になってしまった。
これでも、まだマシになったんだけど。
最初は、国を挙げての祝福だ、パレードだと言う話も有った。
でも僕としては、目立ちたくないから、止めて~と心から叫んでいた。
始めて王様へ謁見した後にも、彼女達と僕は王様に呼び出せれ、結婚の真偽を聞かれたり、式について意見されたりと、本当に勘弁して欲しかった。
まあ、事前にどうするかを彼女達と相談していたから、王様へ感謝を述べながらも、王都の教会で式を挙げるまでで、勘弁してもらったけど。
式後に行われるパーティーについては、王様は太っ腹で費用も出してくれるとか。
王様としては、彼女達が今までこの国へ貢献したお祝いがしたかったんだろうけど。
王様の心配を他所に、彼女達も僕もこの国が好きなんで何処かへ行ったりしないから大丈夫ですよ。
僕はライト。
下から二番目のEランク冒険者。
日々、生活していくのがやっとなランク。
何でSランクであるミーサ達と結婚する事になったのか。
出会いから現在に至るまでの話。
そして、この世界の秘密に関わり、世界の発展に貢献し、世界を救った話。
それは、3年前。
僕、高橋幸雄は25歳で、しがない中堅の物流会社で働いていた。
家庭は、極々平凡な平均月収のサラリーマンだった。
学歴も、公立小中高を出て、二流の大学を平均的な成績で卒業した。
友達は多くも少なくもなくっていう感じの交友関係だった。
務めた会社も、友達の父親から大学時代に紹介してもらったアルバイト先から誘われて入社。
性格は、人に流され易くて、自分を出さない。
大人しい感じで、何かあると、直ぐに自分は駄目だと悲観的になってしまう、ネガティブ系。
揉め事、面倒くさい事は嫌いで、殴り合いはした事もない。
運動神経が悪いんじゃないかと思われがちだが、体育の成績も至って普通。
球技でも陸上でも全般的に、本当に苦も無くと言った所。
だけど弟は違った。
こんな普通の家庭から、サッカーの天才が生まれた。
小学校時代にテレビでサッカーに興味を持ち、地元のクラブに入るや、メキメキと頭角を現すと、最年少で地域大会での優勝に大活躍。
その後は超有名なクラブ系列のJrにスカウトされた。
あれよあれよと昇格し、最年少でプロもなった。
まあ自分と違い女の子にもモテモテだったよ。
でも仲が悪いと思った事はなかったけど。
弟からしたら、出来の悪い兄貴とでも、思っていたんじゃないかな。
今更だけど弟から本音を聞く事も無かったし。
僕の分もがんばれ弟。
そんな環境で、日々仕事に追われていた訳だけど。
その日は、突然やって来た。
その日も何時も通りに会社に行き、仕事をこなし残業を終わらせて帰宅する途中に、それは起こった。
何時もだったら、気にも掛けないでいたと思う。
だけどその日だけは、何故か電車が来る方向が気になった。
最寄り駅は、改札を入るとホームに向かう階段を上がるのだが。
僕が見ていた先の階段の下から、お兄さんがスマホを触りながら上がって来た。
その人はスマホに夢中で、ホーム先に居たお婆さんには気づかない。
そのままお兄さんはお婆さんと接触し、お婆さんが線路へ転落した。
不幸な事に何時もと違って、何故か閑散としていたホーム。
あれ?
誰も、お婆さんに気づかない?
丁度タイミングが悪く電車が来るサインも点灯する。
ぶつかったお兄さんは、おろおろして何もしていない。
やばい!
電車が!!
何時もの僕なら、見て見ぬ振りか傍観者だったろう。
だけどこの時は、何を思っていたのか落下地点へ走りだしていた。
僕は線路に飛び降りて、お婆さんに声をかける。
僕の行動で、周りの人も気づいたのか人が集まる。
そして僕達を引き上げようと手を出すが。
ピンポンパンポン~♪!!
「まもなく、.....。」
アナウンスが鳴っている。
お婆さんをホームに上げようと試みるが、腰を打ったようで力が入らず、下から持ち上げるのは僕一人で、上げる事が出来ない。
緊急ボタンも押された様だが、既に電車はホームの先に見えていた。
どんどんと迫る電車!!
運転手も気づいてブレーキを掛ける音が聞こえる。
キ~、キ~!
キキキキ~~!!
「お婆さん。こっち!!」
もう駄目だ!!
僕はお婆さんをホーム下に押し込んだ。
思い出せるのは、此処までだった。
耳にはブレーキの音が聞こえている。
ドン!
視界がグルグル回って見えた。
あっ!
何か目の前が暗くなってきた、......。
あれからどれぐらいの時間が経ったのか。
何となく意識は戻った様な。
だけどまだ真っ暗な事だけ。
あっ!
あれっ!
此処って、.....何処?
目の前は真っ暗だし。
電車に、.....、引かれたんだよな。
何か何処にも痛みも無いし、体の感覚も無い様な、...、気がする。
やっぱり電車に引かれ、.....たよな?
死んだ?
のか?
やっぱり、死んだんだろうな?
えっ!
でも人間って死んでも意識はある?
そんな不思議な感覚だった。
此処って、何も無い空間?
じゃあ。
このまま意識も無くなって、本当に死ぬって事?
そっか。
思い出すのは、両親に申し訳ない気持ちだけかな。
彼女なんかいなかったし。
ああ~あ。
御免。
親孝行もろくに出来ずに先立って。
涙は、.....、出ているのか?
出ていないのか?
何かそんな感覚も分からなくなってるんだ僕って。
僕が人助けをして、最後を迎えるなんて、思ってもみなかった。
「色んな才能が有ったのに、もったいないなあ。」
僕は思わず返事を返す。
「いやいや、才能何て。大した事も出来なかったけど、.....。」
えっ!
今、誰の声?
それに、僕も返事、.....、した?
はあっ!
「誰?」
僕の目には何も見えてはいない。
意識の中に語ってる?
もしかしてもう一人の僕?
二重人格だった?
すると、もう一度声がした。
「ああ~、御免、御免。落ち着いて聞いてくれる。僕は、いわゆる君の世界で言う神様みたいなもんかなあ。」
えっ!
神、かみ、紙、噛み、かみ?
かみさま?
本当に居るの?
「いやいや突然で申し訳ない。まあ落ちついて。今から君について説明するからさ。」
「は、はあ。」
やっぱり声が出る。
それに会話も。
「先ずは君の現状だけど。君は覚えてるかなあ。お婆さんを救おうとして、代わりに電車に引かれて犠牲になった。そのお陰でお婆さんは助かったよ。」
「そう何ですね。良かった。」
「それから君は肉体と霊体が分離して、霊体で此処に居る。」
「れ、霊体?」
「ええと、そうか。人間は普通、霊体と肉体が揃って生きている事になるんだ。」
「何か聞いた事ある様な。」
「まあ人間の世界でも、そう言った話はあっただろ。今の君は霊体。肉体は、既に供養されてしまった。」
「まあ。死んだんだから、仕方ないですよね。」
自分ではよく分からないけど。
感覚的には、意識は有るけど体が分からないからな。
言われているからそうなのか。
「じゃあ。僕は、霊体だけの幽霊で成仏できずに、彷徨っちゃう感じですか?」
「幽霊って事では無いよ。」
「でも霊体って。人助けして死んでも、そんなもんなんですかね。」
「まあ待てよ。普通は肉体と霊体が分離すると、君が言う成仏っていう話になるんだ。成仏は霊体になってしばらくすると消えていく。だけど君の場合は、訳あって僕が留めさせて貰った。」
「留めたって。もしかして悪い事に使おうとかしてる?」
「あのさあ。何か生前に変なの見過ぎじゃない。こんな場面でイメージ悪く考え過ぎ。何か、ちょっと考えちゃうな。」
「いや。何か変な想像してすいません。自分でも、どうしたらいいか分からなくて。」
「まあ。突然の事だし、仕方ないのは分かるよ。」
「は、はあ。」
「それで君の事なんだけど。君って、ちょっと特別だったんだ。」
「特別?」
「人間て生まれると、能力って言うか才能って言うか。与えられた能力を使い切って、人生を全うするんだ。」
「使い切って全う?」
「君は、それ使い切らずに終わったんだ。」
「いやいや、才能何て、何も無いと思いますよ。何をやっても普通だったし。」
「思い出してみてよ。君って、結構何でも出来たでしょ。あれって才能の片鱗だったんだけどね。其処から自分で面白さを見つけて、突き進めば極められたんだけど。」
はああああああああああ!!
「嘘ですよね。そんな事ないでしょ。」
「君さあ。何かあると、直ぐに自分で限界決めて諦めちゃったよね。もうちょい。もうちょい、頑張ればねえ。」
うう~~~ん
「まあ、言われてみれば。確かに自分は普通だからって、何時も限界決めてたかも。」
「それに君ってさあ。前世も前前世もそうだったんだ。」
「前世に前前世?」
「貯めに貯めて、普通の人より3倍近くも能力が余っている訳。超貴重な存在。」
「能力が三倍?」
「まあ普通の人だと、前世分が余ったら今世で使い切る。だから今世では、才能が人より秀でていたりする。」
「そんな仕組みだったんですね。」
「まあね。それで君の場合は、三世代分も残っているから大変な事になってるの。」
「余って大変?」
「だけど君の居た世界で、3倍増し何ていう能力は、発揮は出来ないからね。世界のバランスが崩るから。でも過去には居たんだけど、大変な事した人。」
「大変な事?」
「まあそれは置いといて。今の君に何とか才能を使ってもらおうと思って、自分が出てきたって訳なんだ。」
「はあ。」
あれ!
いやいやいや。
「でも、もう死んじゃったんですよね。肉体が無いって言ってたじゃないですか?」
「そうだね。」
「じゃあ、肉体の無い世界って事は、僕は神様の使いになって、人間に何かをするとか?」
「それは君の才能を使う事になって無いだろ。」
「そうか。才能は使いませんね。」
「君の三倍増し能力を発揮しても、生きていける世界って言うのがあるとしたらどうする?」
えっ!
「あのう。違う世界って在るんですか?」
「在るよ。」
「そうなんですね。でもどの道、元の世界には戻れないんなら、別の世界で、やり直してもいいかなあ。」
「君って。結構ネガティブなのに、そう言う所は、サバサバしてるね。」
「今更、どうしようもない事を考えても、仕方ないかと思って。」
「君には申し訳ないけど、それしか選択肢もなくてね。だけど、才能を存分に発揮して貰える様に、僕も考えてみたんだ。」
「考えた? 何を?」
「君が行く世界だけど、今までの世界とは少し違って能力を使って生きる世界になるんだ。」
「能力を使って生きる世界?」
「その世界は、才能と言うか、正しくはスキルと言うんだけど。何かを上手く使える様に補助してくれるのが、スキルとでも言っておこうかな。」
「補助?」
「スキルは、勉強したり訓練すると身に付くんだ。生まれ持ったスキルも有るけどね。その世界に生きる者は、皆それを有効に使いながら生きていく世界。」
「もしかして、戦いの時とか有利になったりするやつですか?」
「そうだね。君の世界にもゲームとかなら有っただろ。あれの現実世界。」
「やっぱり有るんだ。」
「だけど、まだ君の居た世界に比べれば、全然、発展途上っていう感じの世界かな。」
「発展途上かあ。」
「いきなり何も無く行っても無謀だろ。だから君には、その能力を発揮する為、特別なスキルを付けるよ。」
「特別なスキル?」
「何か特定で優秀なスキルを、付与しようかとも思ったんだけど、自分で色々と探して、好きなスキルを使えた方が、君にはいいかと思ってね。」
「好きなスキルが使える?」
「だから、君の特別なスキルは、コピー!!」
「コピー?」
「相手が人でも魔物でも、スキルを鑑定して有効そうなスキルを、自分の中へコピーする。そうすれば自分のスキルとして使う事が出来る。」
「コピーしたら使える?」
「後は、パソコン。」
「はあ、パソコン。えっ、パソコンですか?」
「そうパソコン。」
「その世界とパソコンって、何か関係が有るんですか?」
「いや、無いけど。君が新たな世界で使う能力が、使い難くても大変だろうからね。操作方法として、元の世界で君が慣れ親しんだパソコンとしてみたんだ。」
「はあ。でパソコンなんですね。」
「まあ、向こうに行ったら試してみて欲しいけど。画面の代わりが頭の中に映されて、手を動かせばマウスって言うのかな、操作する感じ。」
「バーチャルですね。」
「そうなの?」
「ええ、仮想って言うんです。」
「まあ、いいや。後はスキルなんだけど。人間の中にも、元々は鑑定が出来る人がいるから、余り多くのスキルを設定すると、君の事を利用する人もいるかもしれないから程々に。」
「まあ、何処の世界にも悪い人って居るんですね。」
「管理や整理が出来る様に、フォルダって言うのかな。一応、用意しといたから。」
「フォルダですか?」
「直ぐに使わないスキルは、一旦、フォルダへ仕舞っておく事も出来る。フォルダの中は、最高の鑑定スキルでも、確認は出来ない。」
「鍵付きですね。」
「後は、君の行く世界は、科学と言うよりは魔法が有り、魔物がいる。当然、人間もいるけどね。」
「魔法か。本当に有るんだ。」
「まあ。その世界で色んな事を試して、好きな事を見つけ、人生を全う出来る様に頑張ってくれ。」
「やるしかないんですよね。」
「そろそろ時間だ。今度、君は18歳の男になる。ある事故が切っ掛けで死亡する筈だったけど、君の為に体は残した。」
「18歳の男ですか?」
「名前はライト。孤児から冒険者になった人間でね。ライトだった時の記憶は消したから、上手く立ち回ってほしい。」
「それだけですか。」
「そうだよ。」
情報少なくない。
まあ、死んだ筈が、やり直せるのか。
やるだけやってみるしかないか。
「君が新しい世界で、どんな功績を残せるか期待しているよ。頑張って楽しんで。」
「神様が何を期待しているか分かりませんけど、やるだけはやってみます。」
という事で、僕は新たな世界で生きる事になった。
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