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幸福の道標  作者: Retisia
第一章 生命の渇望
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37話 図書館②


遅くなり申し訳ありません。




········不思議ですよね?

『ありません』と言っているのに謝っていると受け取れるんですから·····。





「ひとつ、訊きたいことがあります」


 レティシアは前触れもなく話し出す。


「·········」


 しかしルネは言葉を返さない。

 答えたくないのではない。訊かれることなど、分かり切っているからだ。


「どうやってあの蜘蛛を斬ったんですか?·······いえ、違いますね。訊きたいことはこれじゃない。」


 一呼吸して再び問う。


「貴方の『変覚』はなんですか?」

「········」


 そう、レティシアは始めからこれが問いたかった。


 明らかに人を越えた身体能力に突如として現れる大剣、極めつけはあの時だ(・・・・)


「どうやってあの()を弾いたのですか?」


 真摯にルネを見つめるレティシア。

 同じく横目にレティシアを見ながらも言葉を返さないルネは答えるべきかの選択の中で悩む。



 これからのことを(・・・・・・・・)考えると言っても良いとルネは思っている。しかしこれは打算的な結論だ。

 心情的には下手なことには巻き込まれずに日々を過ごして欲しいとルネは思っているのだ。


 悩むルネをレティシアは分析する。


(この反応、おそらく私を慮ってもの、でしょうね。)


 だから、あと一押しと言葉を紡ぐ。


「······このまま進めば、いいえ、進まなくとも、私はカルセナクには居れないでしょう」


「·······」


「それだけのことを過去にしてきましたし···········それがなくとも私の情報が漏れた時点で追われるのは確定しています」


「··········それは」


「ですので、私に平和はもう訪れません···········だから、これ以上の何かが在ったとしても変わりません」


 言葉を切り、小さく息を吐いた。

 相変わらず表情に変化は無くとも、レティシアの内心は揺れていた。



 過去にあった過ちをルネに知られたくはなかったのだ。

 未熟と中途半端が原因で犯してしまった失敗の人生を。



 だから、詳しくは話さなかった。



 だが、それで事足りたのだろう。

 ルネはほんのりと苦笑も漏らしてレティシアの頭を撫でた。


「·······悪いな、俺の方が年上なのにこんなに優柔不断で····」

「·······いいえ、私の方こそ、ありがとうございます。そんなに悩んでくれて」

「········ああ」


 ルネはレティシアの頭から手を離し立ち止まる。同時にレティシアも立ち止まり振り返る。

 レティシアを見るルネの顔は酷く苦々しく、申し訳なさそうであった。


「······だけど、今じゃない」

「·······わかりました。突然の質問、申し訳ありませんでした」


 少し目を伏せてはすぐに戻す。

 これ以上話を持たせる気はなかったレティシアは再び目的地へと足を向けるが、ルネの言葉を聞き、止めた。


「ここを出て··········落ち着いたら、話すよ」

「········はい」

「だからもう少しだけ、待って欲しい」

「········はい」


 振り向きはしなかったレティシアは今度こそ前へと進む。


 そしてその顔には作り物ではない笑みが浮かんでいた。





□□□




 祠のある場所まで歩いている二人は、先程まであった不満もなく穏やかに進んでいた。


「それにしても、よく気がついたな」

「何がですか?」


 ルネがふと思い至ったように話し出した。


()のことだよ。あの蜘蛛の攻撃に紛れていただろう?」

「ああ、そのことでしたか。··········私は接近には気付けていませんでしたよ。あれは偶々です」


 レティシアに蜘蛛糸の連擊が迫っていたあの時、ひとつ、別の場所から(・・・・・・)髪と同等の細さの針が放たれていたのだ。

 それはレティシアの《暴風》で弾き飛ばされて事なきを得たが、戦闘後にレティシアが調べると解析がほとんど出来ない未知の毒が塗られていた。

 だが仮にレティシアが針に刺されようとも《異常浄化》の効力で無効化されていたが。


「結局、針を放った誰かは見つからなかったんですよね?」

「ああ、手掛かりは一切なかった。人であるかすらわからない状態だな」


 まいったと言わんばかりにルネは肩を(すく)めた。


「······私が《探知》で探しましょうか?」


 それなら居場所程度はわかるだろうと提案したが、返答は芳しくなかった。


「いや、辞めておくよ」


 これまでの失態の挽回が出来ると思っていたレティシアはほんのちょっとだけ、不満を瞳に出した。


 それを敏感に感じ取ったルネは手をレティシアの頭にのせて言った。


「·······たぶんだけど、もうここにはいないよ」

「············目的は果たした、ということでしょうか」

「さあな。そこまではわからない」


 レティシアの頭から移動するように手を動かして毛先を持つ。


「········敵のことなんて警戒しなくとも、レティシアさんのことは守るさ」



 そしてそっとキスをした。



「···············女の敵と、言われたことはないですか?」

「ああ、不思議なことに何度もな」


 固まって動かないレティシアにニッコリと笑いかけるルネは最後にもう一度レティシアの頭を撫でてから先を歩き出した。


 それを固まったまま見ていたレティシアはハッと気が付き、追いかけた。



「·········これは流石に効きましたね」



 ちょっとだけ拗ねたように呟きながら

















『奏功を願う少女』とよろしくお願いします!

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