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幸福の道標  作者: Retisia
第一章 生命の渇望
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35話 異形蜘蛛




 左右ジグザグに動き、糸の槍を回避しながら前に進んでいくレティシアは明らかに増えた糸の槍に辟易としていた。

 しかも威力も段階的に上がっているそれは今の段階でもレティシアが当たれば致命傷とはいかないでも多少の損傷は覚悟しなければいけなかった。


(厄介な敵ですが倒せない程ではないです。それに実験には使えそうな敵ですね)


 レティシアがルネより先に進んだのは早く戦闘を終わらせると言うのもあるが、新たに手にした力を試すこと、馴染んだ身体の練習も目的に入れていた。


(·········反射神経の向上が凄まじいですね。以前の時とは比べ物になっていません。·········何より、魔力の親和がしやすい)


 全体的な能力の向上は喜ばしいことであったが、しかしレティシアの内心は浮かない。


(············結局、副作用などは見つからなかったですが警戒だけは続けておきましょう)


 そんな思考を余所に敵が近いことを肌で感じ、レティシアは《斬風》の他に《崩球》を幾つか展開した。


(······それにしても森というのが厄介ですね。これでは炎系統の魔術が使えない。········いっそのこと全部燃やせれば良かったんですけど······)


 割と本気でそう考えたが、飛んでくる糸槍に自然と蜘蛛に意識を詰めた。








 着いたのは正しく蜘蛛の巣といえ場所だった。


 何百もの木々の間に蔓延る蜘蛛の巣にそれに引っ掛かったのだろうウサギや鹿などの草食動物。

 地面にはおそらく捕食した動物の血を想像させる(おびただ)しいどす黒い血で濡れていた。


「思っていたよりも広い範囲を巣にしていたのですね。初め来たときに出会わなかったことに驚きです」


 呟き、辺りを見渡す。

 蜘蛛本体を探しているのだ。


 しかし、いない。


「おかしいですね。確かに気配があるのに、いない」


 本当は《探知》を使いたかったがここで隙を見せるわけにはいかず断念した。


 仕方なくレティシアは木々のひとつに《崩球》を放つ。



―――――瞬間、全ての木々が震えた。



「やはり、魔術の力も上がっていましたか」


 予想内の誤算ではあったが向上している分、レティシアには文句はなかった。



 ズトーン!



 後ろに落ちる音がした。


 明らかに巨大な何かが落ちる音が····。


 土煙が巻き起こる背後をレティシアは振り返る。同時に先制として《斬風》を右手の掌に起き狙いを定める。

 本来、そんなことをしなくとも狙うことはできるがレティシアの感覚として精密に狙いたいときには、よく手を指針としていた。


 ゆっくりと土煙の中の影は起き上がる動作を見せている。


『dggujhffgybju5rfh7bredecg5c!!???』


 意味の解らない支離滅裂な言語に聞こえる鳴き声は当然だが蜘蛛が発していい声音ではなかった。


 実際にレティシアは普段見ている蜘蛛がこんな声で鳴いているとしたら迷わず叩き潰す自信があると思っている。


「··················ッ!?··········なるほど、気配が一つなのに数が合わなかったのはそういうことでしたか········」


 土煙が晴れ、巨大な10m前後の蜘蛛の姿を鑑みる。


 8本の脚に6個ある複眼だろう眼球。なによりずんぐりとした雪だるま型の胴体、それに人の顔を模した物が一番でかい胴のそこらにへばり付いていた。


 最初は単なる模様だとレティシアは思ったが、それは間違いだと気づいたのはへばり付いた顔から(・・・)声が出ていたからである。

 それが到るところにあるそれを見るときっと一般人は顔をしかめて目を背けるか、あるいは青い顔をして気絶でもしたかもしれない。


 しかし【肉塊】の大群を何百と殺してきたレティシアは生き物として冒涜的な姿をしているモノを見るのには慣れていた。


 しかし、今のレティシアの興味はそこではなかった。


「··········あの顔········ひとつひとつが生きていますね」


 それが《探知》が数を誤った原因だ。


 文字通り、生きていたのだ。


 レティシアが意識して耳を澄ませると顔のひとつひとつから呼吸音も何かの鼓動も、舌が動いているだろう湿った音も聞こえてきた。


 それが12個と、正しく《探知》した通りだった。



「············ああ、不思議です。どうやって融合させたのか、それにここまででかい人の顔を模した生物はどこにいたのか、興味は尽きません」


 若干の早口で自らの興味を捲し立てる。

 しかし冷静である彼女は《斬風》を放ち、後ろに下がりながらも追加の《斬風》を生成、射出していく。


 しかし蜘蛛はでかい図体の割に途轍もない速さで木々を飛び移り、走り、躱していった。


「こんなに素早いとは思いませんでした」


 単純に驚くレティシアは更に《斬風》の生成に力を入れる。



 だが、蜘蛛から視線を逸らさず観察していると奇妙に違和感を覚えた。




 そう、これは何かが起こるときに必ず起こるそれだ。




 そして、それに気付いたのと蜘蛛の反撃の手は、ほぼ同時であった。

 


 


























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