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幸福の道標  作者: Retisia
第一章 生命の渇望
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28話 封印は解かれる為にあるのです。


 時は戻り、レティシアが家に入った頃。


 レティシアが家に帰ると両親は勢い良く抱き締めてきた。

 そして抱き締め返す。


「······無事でよかったわ」

「はい」


 母――ベレニスは優しくレティシアの頭を撫でて彼女が生きていることをしっかりと実感する。

 その様子を父――ケイト・ネイアは微笑みながら見詰めていた。どちらも学院の事件からずっと心配していたのだ。



 場所が変わりリビングの椅子に三人が座る。


「それで、何故連絡も寄越さなかったの?」


 レティシアは死にかけていた所をルネという男に助けられたことを話す。しかし、自分から危険な場所に行ったことは話さない。これ以上の心配を掛けるのは止めておきたかった。··········それと怒られる要因を話すのは避けたかったというのもある。


建物の崩壊(・・・・・)()()()込まれて(・・・・)怪我をしてしまいまして······魔法では直せないほどの重症だったそうです。そこでルネと言う方が助けてくれました。」

「重症!? 大丈夫なの?」

「はい。怪我は完治したので」

「······でも、どうやって直したんだい? 魔法や魔薬でも直せない傷だったんだろう?」


 ケイトは疑問に思ったことをレティシアに問う。

 魔法以外に重症を直せる方法など知らなかったからだ。そして助けたというルネのことも今一信用ならないとも考えている。



「薬です。彼は薬師らしいので」

「薬? そんなもので直すことがあるのかい?」


 この世界での薬の価値はそれほど高くはない。

 外傷、病気の殆んどは魔法もしくは魔薬と呼ばれる魔石に治癒の魔法を込めた物で直ってしまうからだ。

 しかし、それにも限度がある。

 それらを使っても自然回復できる範囲でしか効かないし、強いウィルスは撃退できない。

 つまり、今回レティシアが受けた複雑骨折はともかく、臓器損傷と壊死などは直せないのだ。


 故にそれを直せてしまう薬師としてのルネの腕前の異常さが際立つ。


「······信じがたいな。そんなものが作れるとは」

「それはいいでしょう?あなた。レティシアは元気に帰ってきたわけですから」

「···まぁ、そうだな」


 ベレニスに窘められたケイトは苦笑気味の笑みを浮かべてレティシアを見る。

 話が纏まったのを見て、質問をする。


「それよりもカルナは無事なのですか? 彼女の安否については私は知らないんです」

「ああ、カルナちゃんのことね。あの娘は大丈夫よ。今は両親と一緒に王都に行ってるわ」


 無事だと言われてほっとするレティシア。心配ないとわかってはいても【黒布】みたいな怪物もいたのだ。不安にもなる。


「王都、ですか?」


 何故王都に行ったのだろうか、と疑念に満ちた目でベレニスとケイトを見る。


「本家の方々に呼び出されて行ったのよ。それに今、カルセナクは不安定だから避難っていう意味もあるんじゃないかしら」

「······そうですか。」


 少し沈んだ様子を見せるレティシアに二人は顔を見合わせたが、その頃には元に戻っていた。


「······まぁ、それはいいです。私は暫く家に居ることにします」

「ええ、そうしなさい」

「そうしてくれると助かるよ。私の精神衛生上的に」


 真面目な顔をしながら言うケイトに苦笑をするベレニス。


「少し疲れたので部屋に戻りますね」

「そう、なら夕飯に呼ぶわね」

「はい」


 ちょっと物足りなそうな顔をしていた彼女の両親だがそれを押し退けてしたいことがレティシアにはあったのだ。




 レティシアは自分の研究室に入る。

 その中は大量の資料と文献、魔石に満ちている。その奥にはドアがあり、そこにレティシアは入っていく。


 そこはそこそこ広い部屋で物は何も置かれていない。壁や床には大小さまざまな魔術陣が描かれている。

 ここはレティシアがちょっとした魔術の実験に使っている場所だった。

 広範囲魔術は試すことは出来ないが殆んどの魔術の試験はできるようにしてある。


 実験室の真ん中に立ち、片手に持っているのは表紙の分厚い本だ。色は赤で縁をなぞるように金の装飾があり、豪華な印象を受ける本だった。


「さて、まず封印の解除からですね」


 この本は封印が施されていた。






□□□






「ん、これか?······これはー、本、だな」

「それは知ってます。私が聞きたいのは何故本をこんな場所に置いているのかです。ちゃんと片付けないといけませんよ?」


 出発する前日。

 ルネの屋敷のリビングで夕食を食べていたレティシアは机の上に無造作に置かれていた本について訪ねた。ついでに窘める。


「読書でもしていたんですか?」

「いや、違う。何て言うかな········その本はな、開かないんだ」

「開かない?」

「そうだ。昔に入った遺跡に落ちていたのを拾ったんだが、どうもそれは封印が施されているみたいでな。だから、開かない」


 興味深そうに本を見つめるレティシアを見て苦笑する。


「······ほら、さっさと食べて寝ろ。明日は早めに出るんだから」

「はい」


 返事をしたレティシアはさらりと本の表面を撫でる。


――それは静かな理解だった。


「···············」


 ビクリと撫でた手を引き剥がす。


( 確かに、感じました······)


 悪いモノがこの中にいる。

 それが漠然とだがわかったのだ。


「······あの、これ貰えませんか?」

「この本をか? それは構わないが······俺がいない時に本の封印、解くなよ?」

「·····はい」

「今の間が気になるが······はぁ、いいよ」

「ありがとうございます」


 今一信用ならない返事であったが、可愛いから仕方ないのであげることにした。

 喜んでくれると表情が心持ち明るくなるのでその変化はとても嬉しく感じたルネだった。


 内心レティシアは約束を破る気満々なのを知らずに。





□□□




「よし、と。これで封印は解けますね」


 30分後、レティシアはいとも簡単に封印の解除方法を暴いてしまう。

 実を言うとこの封印は古い魔術を使ったものだったのだ。魔術は総じて古いので解析には本来時間が掛かる。そして見たことのない物が殆どだ。

 しかしそこは稀代の天才レティシアである。ほとんど苦労なく解き方を暴いてしまえている。


「では、【解錠】」


 解析した封印を元に新たな魔術を作り出し、鍵を開ける為に行使する。


――シュウウウウウウウウウウウウ!!!


 開けた途端に本の隙間から紫の煙が噴き出してきた。

 本から吹き出したことに若干の驚きはあったが、レティシア落ち着くまで待とうと思い、暫くじっとしていると煙を吐き出すのが止まったのを感じた。


 もういいかな? と本に近づく。封印を解く前と一切変わらない様子で鎮座している本は先程起こっていた現象と相まって酷く違和感を感じた。········そして、それ以外にも嫌な予感とも言えるだろう違和感もあった。

 しかし、その違和感の原因がわからない。しかもそれは勘という曖昧なものなので悩んでいる時間に比例して気のせいとも思えてしまう。



 このままではいつまで立っても何も進まないと思ったレティシアはひとまず落ちている本を拾おうと手を伸ばす。



 そっと、表紙を触れた時、それは起こる。



 ずわり、と本の表紙部分から黒いナニカが飛び出した。



「っ!?」


 危険を感じ、即座に手を引こうとするがそのナニカに掴まれてしまう。

 そこでやっとレティシアは己を掴んでいるナニカの正体を知る。



―――それは、黒い手だった。



 本から黒い手が滲みでてレティシアの手首を掴んでいるのだ。手には紫の魔力が纏われており、それがレティシアを侵していく。


 ジュクジュクと這い上がってきた紫の魔力はレティシアの意識を呑み込もうとしている。それをレティシアは敏感に感じる。いや、本能で理解してしまう、と言った方が正しいだろう。



(まずい、ですね。しかし対処法が見つからない。······この手の正体は大体見当がついていますが、能力までは書かれていませんでしたから········)


 この時点でレティシアは紫の魔力に呑まれる覚悟を決める。呑まれてしまうと身体無防備になる可能性が高いので部屋に仕掛けてある機能を起動しておく。さらに魔術《怨鎖》を使い自らの身体を縛る。


 《怨鎖》は呪いの鎖だ。

 それに縛られた者は《怨鎖》が持っている呪いに感染してしまう。それはレティシアも変わらない。しかし、発動者と開発者はレティシアである。呪いを極力罹らないようにすることなど造作もない。



「これで、万一は無さそうですね」



 そして全ての準備が終わったと同時に、レティシアは意識を失った。






















レティシア「やってしまったものは仕方ないと思うのです」

ルネ「そんな訳あるか! 事態が悪化してるだろうが!」

レティシア「許して、くれませんか?」(うるうる)

ルネ「·······くっ、許す!」

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