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40話 対峙




「アマネさん、一緒に来ていた二人の子どもはどうしたんですか? オカマしかいませんけども……」


「えっ、どういうことだい……あっ……!!」


アマネはタウンPDへの入り口である柵のところまで来てやっと天人とアルトが付いてきていないことに気がついた。

後ろにはオカマしかいない。


「ちょっ、デルタールッ! さっさと天人たち探しに行くよっ!!」


「えっ、そっ、そんなに急ぐことないじゃないですか〜」


急にきびすを返すアマネにデルタールも慌てて後を追う。

アマネは妙な胸騒ぎを感じていた。


(あの子達、さっさと帰ると言ったのに。

急がないとっ!)


アマネは空に無数のこうもりが羽ばたいているのに気づいた。

夜とはいえ、こんなにも数多のこうもりが現れることなど滅多にない。

それはアマネの嫌な予感が的外れでないことを示唆してる。


(天人、アルトッ、間違っても両眼だけは使うんじゃないよっ!!)


アマネはこうもりが飛ぶ方向へと疾走し出す。

デルタールもそれに続く。

しかし既にこのとき戦闘は始まっていた。





「くそっ、このこうもりの量ハンパじゃないっ!

このままじゃジリ貧かっ」


アルトはその頃、キュラとの戦闘に挑んでいた。

でも当のキュラには指一本として触れることのできない状態が続いている。

空から襲来してくる夥しい数のこうもり。

アルトは地面から金棒を取り出してはそれらに投げつけるという作業のような戦いに追われていた。


「昼間と違い、夜のこいつらは活発だなってやからな。呼べばじゃんじゃんと駆けつけてくるんや。

天人は後や、まずはお前から殺したるわ」


キュラは天人たちを捕らえて、カリスの元に連れて行くことは愚行だと気づいていた。

どうせ、父カリスはなにかしらの因縁がある天人を殺しはしない。

その連れであるアルトもおそらく見逃すだろう。

いや、腰抜けである父に自ら手を下すことなどできない、キュラはそう認識していた。

ならば今ここで二人の、そしてラメットの命も断つ。

キュラは鼻からそのつもりでいた。


(俺には俺のビジョンが……俺の正義があるんや。

それを一々邪魔して…………このままやと俺が腐ってまう。

尊敬したいはずの親父の像が崩れていく。

だったら俺がたて直さなあかん。

俺が親父の根性を叩き直したるんやっ!!

こいつらの首をもって…………!!)


キュラの意思に呼応してか、どんどんとこうもりは集まってくる。

それに応じ、アルトの呼吸も荒くなっていく。

そしてアルトの体の所々からは血が出始めていた。


(ぐっ、守りきれない部分はどうしても攻撃を受けちまう。このこうもりがやって来るのをどうにかしないと)


アルトはこうもりに覆い尽くされた視界に、かすかに入るキュラの姿を見た。

鼻と口を、特に花の方をヒクヒクさせている。


(そうか、やっぱりあいつも……)


アルトはその動きから"ドラキュラ"の力に対する仮説を立てた。

もし当たれば起死回生、外れれば窮地に追い込まれる一瞬の賭けだ。


「うらああああああああああっっっ」


「なっ、急に何をっ……ぐあっ!!?」


アルトが投げつけた金棒がキュラの顔面に命中した。


「あっ、あかん。指揮が……」


その途端、アルトを囲っていたコウモリたちが催眠から覚めたように空へと舞い、その場から飛び去り始めた。

それを見て、アルトはキュラにドヤ顔を見せつける。


「やっぱりそうか。()()()を使ってあいつらを操ってたんだな。やっぱり"ドラキュラ"といえど、そこはこうもりと同じ」


「……チッ、気づいたんか」


キュラは操りの仕組みを見抜かれたことに肝を冷やした。

キュラは鼻を使って超音波を発し、こうもりたちに指令を出していた。

だが金棒をぶつけられたことによりその鼻は鼻血とともにひねくれ曲がり、超音波は封じられてしまった。

キュラは最大の武器といっても過言ではない能力を失ってしまったのだ。


「いっぱしのガキではないことは認めたるわ。あの状況でよくそこまで頭が回ったな」


キュラが思わず感嘆してしまうのも無理はない。

もしアルトの読みが外れていればその刹那の隙でアルトの体の血は吸い尽くされてしまっただろう。


「俺はあんたの戦いを一度見ていたからな」


「ああ、そうか。謙遜でもしているつもりなんか。

なら滑稽やな、俺は別に焦ってへんで」


キュラは羽を伸ばし、宙に浮いた。

その動きは一度目を離せば、もう一度見つけるのが困難であろうほどに素早い。

月に照らされ僅かに見えるものの、キュラの姿は陽の落ち、闇が広がる空とどうかしている。


「まだ俺には飛行(これ)が残ってるからな。太刀打ちできるもんならしてみい」


キュラが空からアルトを見下ろしながら大声で言った。

そのキュラの得意げな表情どおり、アルトは次の戦略を強いられていた。

アルトは空を飛ぶことができる能力を持つダリュウズ・アイを所持していない。


(どうする? "天狗"を使うか? いや駄目だ、あれは風こそ起こせるがあいつの動きだとかわされちまうだろう。

だとしたら……)


アルトはリアナと対峙している天人に目をやった。

二人ともアルトと同じく、先頭の真っ只中だ。


(駄目か、天人から眼を借りる余裕はない。干渉すれば、その時を狙われる)


そうして思考を巡らせるアルトに旋回したキュラが襲いかかってくる。

アルトは間一髪でそれを交わしたが、右肩にキュラの鋭い歯型がつく。

その急な一撃にアルトが途惑う間にも、キュラ次の一撃に狙いを定めようと、宙で方向転換していた。


「どうしたんや、考え事でもしてるんやったらそれは命取りやでっ?」


キュラのマトを射抜く挑発にアルトは更に小僧に苛まれ出した。

急いで次の一手を考えなければ、詰まれる前に。

だがその焦りがアルトに一つの策を編み出させた。


「ああ、忠告ありがとうな。頭が冷えた」


(全く捻った作戦じゃないが、あの攻撃しか仕掛けてこないなら、勝算はある!)


アルトの思考がまとまった時、再びキュラが空から突進してきた。

ギラギラと尖った歯を見せつけながら。


「かあああああああああああああっっっ」


「くっ、なんやいきなりっ!」


突然叫びをあげたアルトにキュラがその攻撃を止める。

そしてその刹那にアルトは金棒をキュラに向かって放った。


「わっ、なんや今度はっ」


キュラは紙一重でそれを逃れた。

しかしその数秒の間に眼前にいたはずのアルトの姿を見失ってしまう。


(……って今度はどこ行ったんや!)


視界から消えたアルト。

その行方はすぐに知れた。


「がっっっはああああっっ!?」


下に注意をひかれていたキュラのが突如背後からの衝撃を受ける。


「……なっなんやっ……これは…………がああああ!!」


突つとしてキュラに上空から石のようなものが降り注ぐ。

矢継ぎ早に降ってくるそれらはキュラの体を、なにより羽を破壊し始めた。

そして機動力を失ったキュラはそのまま地面へと叩き落とされた。

そしてそのまま地面に仰向けになる。


「ぐっはっ!! この〜〜、何が起きたんや」


「お前が金棒を避けたときに上空に跳んだ。それだけのことだ」


キュラにその声が届くと同時にアルトが現れた。


「なんや、一体どうやったんや、今の攻撃」


「…………」


アルトはそれには答えなかった。

答える義理はなく、その質問さえキュラの罠である可能性があったからだ。


しかし種明かしをすると、キュラに金棒を投げた瞬間、アルトはその"鬼"の力によって強化された脚力でキュラよりも上空に行った。

この時、キュラはまず地上にアルトの姿を探した。


しかしその間、アルトは手に握ったいくつもの鉄のカケラを既にキュラに投げつけていたのだ。

この鉄の塊はアルトがキュラに投げた金棒からもぎ取ったものだ。


金棒を投げ、丸腰になったとされるアルトからの思わぬ上空からの奇襲。

その細かく砕かれた鉄のカケラの量はもしキュラが気づいたとしても避けられるものではなかった。

まんまとキュラはアルトの術中にはまってしまったのだ。


「お前がなんか焦ってるからこんな簡単な戦略に引っかかるんだよ」


アルトはそう言って金棒を地面から取り出してキュラの元へと歩いていく。

キュラはまだ体から衝撃が抜けず、その場から動くことができない。

まさに今決着がつこうとしていた。





(お兄様がっ)


その頃リアナは横目でキュラがアルトに追い詰められるのを視認した。


(うっ、駄目だ。この子全然強い)


よそ見したリアナにさえ天人は攻撃をいれられない。


(やっぱりこのままだと無理だ。別のダリュウズ・アイを使わないと……でもそんな猶予もない)


天人はここまで一度も"フェニックス"の能力を発動できずにいた。

空に飛ぼうとすれば、リアナに蹴り落とされ、翼から火炎を放とうと思っても懐に潜り込んでくるリアナとの距離が近すぎてそれができない。


つまりリアナの体術が天人の何枚も上で、天人に攻撃を仕掛けられないほどに強力だったのだ。

その上、天人は石化されないようにリアナを直視することを避けないといけない。

天人はアルトの戦闘になど目をくれる間もないくらいに追い詰められていた。


「うっ、ぐっ……!!」


とうとう天人はリアナに首根っこをつかまれた。

リアナは倒した天人を馬乗りする。

咄嗟に目を閉じるがリアナはその目をこじ開けようと、天人のまぶたを捻りあげる。


「あなたは私の家族を……お姉ちゃんをけなした。

あなただけは許さない」


リアナはそう言って天人の目をこじ開ける。

その時だった。


「やめなっ、リアナッ!!」


「えっ……!?」


リアナは突如として現れた誰かに吹っ飛ばされた。


「アッ、アマネさんっ!!」


天人はそれがアマネだということにすぐに気がついた。

アマネは息を切らしながらその天人の呼びかけには構わずリアナの方に頭を向ける。


「リアナ、あんた今本気でこの子のことを殺そうとしたのかい?」


そしてアマネがリアナに問いかける。

天人はなぜアマネがリアナにこんなことを訪ねているのか困惑する。

リアナはアマネに顔の形を崩すことなく答えた。


「はい、殺そうとしました。でもおばさんには関係ないですよね?」


そうしてまた天人の方へと足を運ぼうとする。

アマネはその前に立ち塞がった。


「リアナ、あんたは姉のアナが死んでからおかしくなったんだよ。そのショックで異端な愛ばかりに固執している。

それはあたしのせいだ。

お願いだよ、もうこんなことやめなっ。

今度はあたしがちゃんと親としてーーー」


アマネは救いを求めるようにリアナにそう訴えた。

それにリアナのほおが一瞬ほころびる。

だが心は動かなかった。


「なんて……今なんて言ったんですか?」


リアナはアマネが今告げた言葉に刺さるものを感じたようだ。

アマネの目を睨みつける。

どんどんどんどん睨みつける。

そしてアマネの体が石化していく。


「アマネさんっ!!」


天人がリアナを止めようと立ち上がろうとする。

だが立てなかった。

アマネが横目でそれを拒否していたからだ。


「リアナ、あんたは今落ちている。暗い奈落の底に……」


「黙れ」


リアナは顔まで石化し始めたアマネの頭を思いっきり右手で押さえつける。


「おばさん、あなたは私にとって暖かい存在じゃないんです。

あなたといても私は暖まらない、ただ冷たいだけ。

それはあなたが偽りの家族だから。

あなたは私の母親にはなれない、ならないでほしい。

自分の愛の形を押しつけるなら私の前から消えてほしい。

あなたのエゴを押し付けられても、何の慰みにもならない。

むしろ寒い、汚い、穢れている、吐き気がする。

私を暖められるのはお姉ちゃんだけ。

それを否定するならあなたも敵です。

家族がいないからって私を巻き込まないでください」


「リ……アナ……」


その時完全にアマネは石化した。

目からこぼれた涙さえも白く固まっている。


「おっ、おばさんっ!?」


その様に隣で今まさにキュラにとどめを刺そうとしていたアルトも気がついた。

さっきまでいなかった師匠が急にカチンコチンになっている。


「油断……してるんちゃうで」


「……!!」


アルトがよそに目をやった一秒にも満たない時間。

キュラは血反吐を吐きながら、立ち上がり腰につけていた短刀を手に取りアルトの胸へと飛び込んだ。


「げっ、がぁぁおぁ」


アルトは胸から血を吹っぱなし、その場に倒れこんだ。

左目からダリュウズ・アイが抜けて、その力も解除される。


「アルトッ!!」


天人はアルトの元へと駆け寄った。

アルトの胸の中心に短刀が垂直に突き刺さっている。

悟性が震えた天人は即座にそれを抜き出した。


「おっ、馬鹿っ。そういうのは……すぐ抜いちゃいけないんだよ」


「えっ、そうなの」


そのままアルトは痛みゆえに目を閉ざした。


「形成逆転やな、まさか助けに来た奴がヘマするなんてな。

ミイラ取りがミイラになるとはこのことやな」


一気に形成がひっくり返り、調子に乗ったキュラは天人にも攻撃を仕掛けようとした。

しかしリアナの思いもよらない行動に目を奪われる。


「ちょっ、リアナなにやってるんやっっ!!」


キュラの視線の先では石化したアマネを抱えリアナがその場から疾走し始めていた。

死んだ蟻のような目をしながらリアナはキュラに応答することなく消え去っていく。


「なんやなんや一体どうしたんや」


キュラは天人とリアナが走って行った先を見比べた。


「まあ、ええわ。今日のところは堪忍したるからな」


キュラはそう言い捨て、リアナが行った方へと走り出した。

本当のところ羽もボロボロになり一人では天人に対抗する手立てがないからだが、天人はキュラに見逃されたという錯覚に陥る。


「そんな……アマネさん」


天人は呆然とそれを見ているだけだった。

追いかけたくても追いかけられない。

手元では虫の息であるアルトがいるからだ。

早く手当てをしなければ死んでしまう。


「アルト、大丈夫だよ。僕が……」


最後の力を振り絞ったとき天人の目からダリュウズ・アイが飛び出た。

天人はその状態のまま意識を失った。




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