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35話 投獄




「ラメットは、カリスにその位も国も奪われ、細々と生きるしかなかった。しかし、まさかダリュウズ・アイを持っていたとはね。これは私も知らなかったよ」


どうやらラメットがダリュウズ・アイを持っていたことは今日知れたことらしい。

そしてキュラを襲った動機は反逆といったところだろうか、それもたった一人で。


「どうやったのかはわからないけどラメットはカリスからその"かまいたち"を盗み出したんだろうね」


(そうか、じゃあそれがたまたま俺たちが持っている"かまいたち"と同じだったってことか。

それにしてもあいつ……大丈夫かよ)


天人への心配もさておき、アルトの中にはラメットへの懸念も生まれた。

今後ラメットは狙われ続けるだろう、この国を取り戻すという意志を持つ男にこの国から逃げ出す選択肢があるのだろうか。


「そのラメットも心配だけど、アルト。あんたが心配しなきゃいけないのは天人のことだろ?」


うつむくアルトにアマネは思い出させるように言った。


「あっ、そうだわ。アマネさん、天人ちゃんは今後どうなるのっ?」


デルタールが目の色を変えて聞く。

アマネはコーヒーを口に運びながら言った。


「恐らくそれだけのことをしたんなら、極刑……死刑だろうね。しかも早くて明日。

死刑なんてあたしが知る限り初めてかもしれないね」


デルタールがそれを聞いて縮こまる。

アルトの方も言葉が出なかった。


(死刑……駄目だっ! それだけは絶対っ!!)


アルトは爪が食い込むほどに自身の膝を握った。

今更ながらにリリース教会の前で天人と言い争ったことを後悔する。

天人の死刑、それだけは阻止しなければいけない。天人は仲間だから。

アルトが自分の目的を果たすための大切な仲間。





一方天人はカリス城内部にある牢屋の中に収容されていた。

その牢屋の中というのが酷く、縦横二メートルの狭い部屋には椅子も布団もトイレも何もない。

天人はそこに閉じ込められ、手足は周りの壁に付いている鉄の鎖に繋がれていた。

態勢としては狭い部屋に体を大の字に広げて、仰向けになって寝ている状態だ。


(ここは監獄? 腰が痛い……)


手足を動かそうとしてもそれらと天人の意思の間を鎖が介在し、うんともすんともしない。

少し寝ていたためか時間もわからない。


「こっちか。数時間前、教会でお前が捕らえたという男は」


天人が段々と焦りを感じ始めたとき、檻の外から聞いたことのない低い男の声とともに徐々に近づいてくる足音を察知した。


(誰? もしかして他にも捕まった人がっ?)


天人は檻の外に目をやった。

そこからは向かいにある壁が見える。


(あれ……? そういえばこの檻の中も外の壁もなんかやたら綺麗だ)


「おう、やっと起きたようだな。どうだ寝心地は?」


「うぇっ!?」


天人は眼前にさっきの声の主が立っていることに気がついた。

その両横にはまるで補佐してるかのように二人の男女がその人物を固めていた。


「あっ、お前たちはっ!」


天人は横にいる二人が誰かすぐに分かった。

そう、その二人は天人を捕らえ、ここに連れてきたキュラとリアナだった。

無頓着な眼差しを向けるリアナとは対照的にキュラはゴキブリでも見るかのような目を天人に向けている。


「そうや親父。こいつがラメットを逃した挙句、隠し持っていたダリュウズ・アイを使って俺に反抗したガキや」


天人はキュラの言葉を聞いて、一瞬でそれまで朦朧としていた意識がいつも……いやそれ以上までに回復した。

思わず目ん玉が飛び出そうになる。


(親父……ってことはこの真ん中の男はっ)


天人は人間に怯える野良犬のような目をした。

天人は今自分の手足が縛られている状態がこの上なく悔しく感じた。


「カリス……!! お前がカリスッ!

僕に何の用だっ!?」


天人に映った男はその正体を知って初めて極悪人という付札に埋め尽くされた。

その名前を初めて聞いたときものすごい憎しみを覚えた相手。その張本人が目の前にいた。

言いたいことはたくさんある、言ってやらないといけないことはたくさんある。


「何の用か。それは聞くまでもないこと、お前にも分かっているだろう」


カリスは天人の心を逆撫でるでもなく、諭すでもなく、単調な口調で言った。

それに天人も偶発的に答えてしまう。


「ダリュウズ・アイ……」


「そうだ、ダリュウズ・アイだ。お前が持っていた二つは押収した」


カリスは手のひらにそれを出して見せた。

取られたのは"フェニックス"の両眼。

どうやら連れていかれるときに咄嗟に投げた二つは奪われていないらしい。


「お前が持っていたこれら、先ほど試させてもらった」


そう言って、キュラはその二つを天人の檻の中に放り投げた。

その唐突な雑な扱いに天人は絶句した。


「なんで……」


「その二つは返そう。必要ないからな」


「だから、なんでそう簡単に返すっ!?」


天人はゴミを捨てるように"フェニックス"を放り込んできたカリスが理解できなかった。

つまりそれはいらない、だから返すということ。

ダリュウズ・アイ、それをみすみす敵である自分に返すなどあり得ないことなのだ。


「だから言っただろう、必要ないっ。それはいらない」


「それは、"フェニックス"の性能をもって、そう言ってるのかっ!?」


「ああ、そうだ」


天人は益々意味がわからなかった。

"フェニックス"はかなり優れた能力を持っていることを知っていた。

少なくとも、そこのキュラの"ドラキュラ"には対応できる。

だが、天人はそれをここで熱弁する程馬鹿じゃなかった。

よく分からないが、返してくれるなら好都合。

そして、それ以上にカリスにぶつけたい怒りが先行した。


「そうやって捨ててきたんだろっ。自分が要らないと思ったものは全てゴミのように扱ってっ」


「うん、なんの話だ?」


「とぼけるなっ! 僕はこの目で見たんだっ!!

市場で泣き叫ぶ子供っ、デッドオアマニーで死んでいく人たちっ!!

みんなお前にとってゴミだったんだろっ!?

そうやって何人もの人がっーーー」


「黙れっっっ!!!」


カリスは突然声を張り上げた。

その声が鉄格子に響き、天人の体にも伝わってくる。


「お前はっ……何も分かってない!!

俺は……誰も死なせてないっ!!

死んだ者の死因は全てその者たちの過失に起因するっ!!」


「なんだよっ、全然意味が分からないよっ!

だったら金がないことが原因で死んだ人はみんな自己責任ってことっ!?

ふざけるなっっ!!

そんな人たちを援助できる国を作るのがお前の使命だろっ!!」


天人は語調が荒れるほどに反発した。

いきなり感情を高ぶらせ何を言うかと思えば、自分が行なった悪業があたかも貧窮な人たちの死とは無関係だという主旨の発言。

それらは天人の中に溜まった怒りの源を着火させるのに十分だった。


「俺は……俺の子たちが幸せになればそれでいい。

そう決めたっ!!

俺はそのためにこの国を支配すると決めたっ!!

他の奴らのことなど知ったことではないっ!!」


カリスはしゃがむ込み、天人の顔をガン見した。

その顔には明らかな憤怒が広がっていた。

その表情は本当に自分は後ろめたいことをしていないと物語っているように見えた。

そして何かを思いついたのか、そのまま天人に向かって言った。


「そういえば、お前の父親もお前と同じ、もしくはそれに輪をかけたお人好しだったなっ」


「なっ……!?」


その節に、天人は自分の中の体温が急激に下がるような感覚に見舞われた。

どうしてそんな話になる?

だが次にカリスから出た言葉は天人に目を殴られるくらいの衝撃を与えた。


「飛廉……それがお前の父親の名前だろ?」


「なんで……父さんの名を……」


「くくっ……」


カリスは嘲るようにほおを緩め、天人に文字が書かれた紙を見せた。

そこには"天人"。"アマト"ではなく"天人"と記されている。


「僕の……なんで……」


「はっ、その反応やっぱり間違い無いようだな、()()。お前の名前は使われている文字の種類が違う。

俺は一応お前の名前と同じ文字の種類から人の名前が作られている国を知っている。

が、お前がその国の出身でないことは分かった。

なぜなら飛廉はその国のものではないからだ」


カリスは驚いて言葉が出ない天人に続けた。


「俺はお前の父が飛廉だとその顔と天人という名前で分かった」


「……で、なんで急に父さんの話をし始めたんだっ?

お前は父さんとなんの関係があるんだっ!?」


天人はカリスが意図的に話題をそらしたことを理解していた。

しかし天人は転換された話題にどっぷりハマってしまっていた。

カリスが父飛廉と何かしらの関係にある、それが分かった時点で天人に歯止めは効かなかった。


「それをお前に話す義理も必要も俺にはない。

俺とお前がもっとマシな出会い方をすれば話していたかもな。

だが、お前の父について俺が一つ言えることを言ってやろう」


カリスは鉄格子の間から手を入れ、天人の顎を触った。

主人が飼い犬を手懐けるように。


「お前の父親はいない!!」


「えっ!?」


カリスはそう言うと、天人の顎を地面に叩きつけた。

その拍子に天人は舌を噛んだ。

口の中がドロドロとした感触で満たされていく。

それは激痛だった。


「どういう……ことだっ、僕の父さんが……死んだ?

嘘だっ! そんな訳ないっ!!」


「俺はただ事実を述べただけだ。それをどう解釈しようとお前の勝手だ、だがな……」


カリスは立ち上がり、口から血を流している天人を見下ろした。

見間違いだろうか、天人はそのカリスの目が潤んでいるように見えた。


「お前が俺のやり方に……家族を守るために国民を生け贄にするという方法に反対でなければ、俺はお前を実の息子として迎え入れてやりたかった。

だがそれは叶わないようだな。

お前は明日国民の前で処刑だ」


カリスはそう言うと、そこから立ち去った。

キュラもその後に続く。

天人は舌の痛みと乱れる思考により、それを止めることができなかった。

カリスが言ったことに自分の考えが追いつかない。


(僕を実の息子として……? それは父親がいない僕を憐れんでのこと?

それにカリスがこの国を統治するのは自分の子供、キュラたちを守るため?

確かに国の王になれば、自分の息子たちを守ることができる。

でも、そのために……いやそこじゃない、カリスはほんとうに真の悪人?)


カリスが去った後、天人は明日自分が処刑されることよりもそのことばかり考えていた。

そもそもデッドオアマニーのような人の命をコケにしたゲームを主催するような奴が、タウンPDのような区域を放置するのか?

税金をかけても彼らからは恐らく何も絞り取れないだろう、あのゲームに参加するような人たちなのだから。

それに本当に冷徹なら彼らを強制労働なりさせて、駒のように扱うのではないか?

何もせず、放置するのは何故?

そんな思考が天人の頭を飛び交っていた。


「ねぇ、何考えてるの?」


「…………!!」


天人は頭の中を覗かれた感覚を覚えた。

急いで、頭を上げる。

そこにはリアナが不思議そうな目で天人を見ていた。


「何って、決まってるよ!

カリスのことっ。なんであんな酷いことをっーー」


「全然分からない。お父様が何かしたの?」


「何って……」


天人はふいに語るのをやめ、リアナの目を見た。

リアナは吸い込まれそうになるくらい澄んだ瞳をしていた。


「君も、カリスの子?」


「うん、私の名はリアナ。カリスは私のお父さん」


天人はリアナの顔を改めてじっと見つめる。

天人はなんとなくキュラにはカリスの面影を感じていた。

だがこの子にはそれを感じられない。


「君は本当にカリスの子ども?」


「うん、サーティ・ナイトの人たちはカリスの実の子ども」


「サーティ・ナイト? いや、そうじゃなくて君は本当にカリスの子どもなの?」


リアナは少し考えるように下を向いた。

そして頭を上げた。


「私は後から迎えられた」


「後から?」


「うん、でも私は本当にあの人のことをお父さんだと思ってるよ」


天人はまた考え込んだ。


(じゃあリアナは自分と同じく、カリスに養子みたいな形で誘われたのか。

でも、カリスはなんでこの子を自分の子にしたんだろう)


「ねぇ、そんなことよりも……」


リアナは天人の顎を掬って言った。

そんなことには興味ないといった感じで天人に問いかける。


「なんで、さっき怒ってたの?」


「えっ、それは…………君のお父さん、カリスがタウンPDの人たちをーーー」


「分からない。なんで関係ない人のためにそんなに怒れるの?」


「それは……」


天人は言葉に窮した。

でも答えはすぐ見つかった。


「僕は今それまで関係なかった人のおかげでここまで来ることができた。だから、関係ない人のためにも頑張ってしまうのかもしれない」


それが少なからず天人が導いた答えだった。

ただの偽善者と思われてるかもしれない。

でもリアナはそうは言わなかった。

天人の言ったことをそれとなく受け止め、話を進めた。


「"暖かい"? そのあなたをここまで連れてきた人は?」


「えっ?」


(暖かい? どういう意味?)


天人はリアナが言っている意味が理解できなかった。

だが、リアナは返事ができない天人を見てそれを察したようだ。


「そうか、分からないか……でもね」


リアナは立ち上がると、天人に背を向けた。


「自分が"暖かい"と感じることができるのは本当の家族だけだよ。

それ以外は、ただの石。自分に何の干渉もしない石だよ」


リアナはそう残し、そこから去っていった。

天人はリアナの質問に何も返せないまま、その背中を見ていた。


そして、次の日がやってきた。




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