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33話 大騒ぎ




神使人、それはリリースライズ教の開祖にして神であるアカリスの使いである。

彼らは償承品のルールを破るまたは国の中でリリースライズ教の教えに背いたものを裁く処刑人なのだ。


その神使人は通称"サーティ・ナイト"と呼ばれる四人が務める。

サーティ・ナイトとはカリスの元での最高幹部であり、彼らはカリスの実子たちなのだ。

またこの四人はそれぞれ戦士として

"クローバー"、"ダイヤ"、"スペード''、"ハート"という称号も背負っているのだ。





「ごっ、ごめんなさい。命だけは……」


「ごめんな。俺やって人の命奪いたないわ。でも……お前償承品返されへん身分ちゃうやろ。

知ってんねんで。あんた償承品のゴビが作った千羽鶴全部換金して十人ぐらいの男とヒーハーしてたやろ。

しかももとよりも高い金額貢がせたことも知ってるんやで」


「そっ、それは……」


「嘘はあかんなぁ」


「いやぁっ! 許してっっっ! お金払うからぁぁぁ!!」


キュラはその女性の首元にその鋭敏なる歯を近づけた。

歯がその柔い皮膚をプツリと刺し、そこから赤いしずくが彼女の首元をつたっていく。


「…………!?」


「心配せんくてもええ。一瞬で終わる、血を抜くだけや。

気づいたたら死んでるわ。

でもこれだけは言わせてくれや」


キュラはその女性の首元にぬるい息をかけ、手を女性の臀部へと回しながら彼女にだけ聞こえるように言った。


「生まれ変わったら二度と嘘なんかついたらあかん。

そして自分というものを大事にしい!

簡単に男に身を売るな!!

三十二歳のおっちゃんとの約束やで!!」


「うっ、ぐうぅぅぅぅ」


流れ出る血が勢いを増す。

教会中の人々がシンとしてそれを見ていた。


これは見せしめ行為でもある。

償承品を返せなかった、つまりリリースライズ教の教えに背いた。

背信者には死あるのみ。


(せめて、楽に逝けるようにっっっ)


今にも女性が気を失う、そのときだった。


「あっ、がっ!! なんだ……これは!!?」


「へっ……? きゃあああああああ」


それを見て女性が気を失う。

キュラの脇腹を巨大な刃のようなものが貫通していた。

キュラは一時、一体何が起きているのかわからなかった。

だがすぐに自分の背後にいるものの存在に気づく。


「お前は……ラメットか!!?」


キュラの背後にいたのはなんとラメットだった。

その両腕は巨大な鎌に変形しておりその右鎌がキュラの腹を貫いている。

その右目は銀色に輝いていた。


「今日は処刑がある日だと聞いたんだ。

だから今朝は早起きしてしんどかったぜ。

お前を殺すためにな馬鹿やろー!!」


ラメットは刺さった鎌を抜き、両鎌を大きく振りかぶった。

そしてそこから生まれた疾風がキュラの体を天井へと吹き飛ばした。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


キュラが天井にぶつかると、天井から吊り下げられていた、火を灯したシャングリラが次々と落下していった。


「「「きゃあああああああー!!!」」」


「おっ、おいっ。危ないぞ逃げろぉぉ!!」


教会にいた人たちが我先にと逃げ出し始める。

まさにそれは混沌を極めていた。


「二人ともっ、はやく逃げましょうっ! 怖いっ、怖いわっ!!」


席の一番後ろにいたデルタールはいち早くその場から逃げようとドアノブに手をかけようとした。


「いやっ、怖いわっっ、いや〜〜〜〜…………いっだあああああ!!!」


デルタールはころんだ。

しかも仰向けに。


「うわっ、バケモンだあああああ」


入り口でデルタールが倒れたことで渋滞が起きる。

ドアから外に出ようとしても出られない。

致し方ない、顔に化粧を塗りたくった怪物が白目向いて倒れてるのだから。


そんなデルタールなどには目をくれず、天人とアルトは教壇前のラメットの様子を見張った。

ラメットの目の輝きにその姿。

それは二人が知っている、いや体感したものだった。


「うん、僕らが持ってるのと同じ"かまいたち"だよ、右眼の方の。

でもなんで……」


「くそっ、どうなってるんだよ! まさかあのラメットってヤロウが統術師でしかも俺たちと同じやつを……!!」


「アルトッ! キュラって人が降りてくるよ」


キュラはその羽を使いゆっくりと降りてきた。

さっき天井に激突した衝撃で鼻が四十五度曲がっている。

しかしラメットを睨みつける視線は曲がっていなかった。

横腹を庇いながらキュラが言う。


「おいおいなんで急にこんなことし出すんや。人もいっぱいあるのになあ」


「そうだな。邪教に心を乱された人がたくさんいるな。

わかった……表でやろう」


「ほん、物わかりがええなあ。没落人が」


二人は壁のステンドガラスを突き破り、教会の外へと飛び出した。


「おい天人、俺たちも外に出るぞっ」


「うんっ」


天人とアルトもガラスを突き破り、外に出る。

その横ではまだドアの前で渋滞ができていた。

みんな気絶したデルタールの形相に怯えている。

どうやら人は命を失いことよりも、目の前のオカマをまたぐあるいは踏むことの方が怖いらしい。

滑稽なことだ、パップパブンではあんなにもてはやされたのに。


一方で外では一瞬の油断も許さない闘いが始まろうとしていた。


ラメットとキュラは教会の横の庭、ただただ白い砂だけが広がっていてそれを柵で囲っただけの庭に出た。

闘うには格好の場所だろう。


ラメットはまず後から飛び出してきた天人とアルトの存在に気がついた。


「あっ、お前あのときの……!!」


「なんや、そのガキ二人……知り合いかいな。

おい坊主たちっ、危ないから下がっときっ!!

今からおっちゃんこの悪いにいちゃん倒さなあかんねん。

坊主たちを汚させるわけにはあかんねんっ」


キュラは二人に逃げるように指示を出した。

ラメットもアルトのことは覚えていたようだ。

手の甲を向け、しっしっと退散することを促している。


「どうするアルト?」


「俺たちが参戦する理由はないしな。下がっとくか」


二人は柵の外に出てそこからその様子を眺めた。

ラメットとキュラは互いに間合いを取っている。

どちらから仕掛けるか、そんな緊張が走る一方で教会の中からは怪物だオカマだなと喚く声が聞こえてくる。


「ラメット、お前の身の上が苦しいのもわかってる。

だけど俺がお前に歩み寄ることがお前のプライドってのを傷つけるのもわかってる。

せめて俺が楽に死なせたるわ」


キュラが両手を広げ、足を開き構える。

それに対してラメットは構えるどころか急にその場に膝をついた。


「うん? どうしたんや?」


「いやっ、さっきガラス突き破って着地したときに……多分捻挫……悪いけどちょっとだけ……」


「……ふふっ、煩わしいっ」


キュラは大きく両腕を広げ羽を伸ばした。

するとどこからともなく大量のコウモリが空から出現した。

どれもこれもが真っ黒で空は暗澹となった。


「いけえっっっっ! いくんやああああっっ!!

血ぃ全部吸い取ったれぇ!!!」


足がおぼつかないラメットにコウモリが雨のように降り注いでいく。


「うっ、うわあああああああああ」


まるで一つの小さな竜巻が発生したかのようにラメットの周りはコウモリで埋めて尽くされる。


「くそっ、怪我人に容赦ないなっ、でもやるしかねぇっ!

この国のためにっ!!

全部出さなきゃ負けることもできねえっ!!!」


ラメットは鎌を振りかざした。


「うおおおおおおおおおおおおっっっ」


コウモリが次々と切り刻まれ地面へと散っていく。

白い砂の上に赤と黒という色が付け加えられる。

大量の(せい)が散った。


「ははっ、やっと全滅させたぜ、馬鹿やろうが」


「ちゃんと上、見いやバカヤロー」


「えっ、うわあああああ」


また新たなコウモリの群れが空に登場した。


「くそっ、しゃらくせえっっ」


ラメットはまた鎌を振り回し、それらを切り刻んでいく。

それわ天人とアルトはあわれみの表情を浮かべ見ていた。


「さっきみたいに竜巻起こせばいいのに……あのラメットって人馬鹿なのかな……」


「なんだ、お前知らなかったのか天人。

あいつ馬鹿だぜ。

よく馬鹿っていうのは自己紹介だ」


「あーなるほど」


戦いのセンスがないものはまず自分の能力を忘れてしまったりする。

ラメットはさっきやった風を起こすという技の存在を頭の中からポイしてしまっていた。

ただ闇雲に襲いかかってくるコウモリを切り刻む。

まるで終わりのないキャベツを切っているように。


「あ〜、やっと終わった。ここからが本番だ。

潔くタイマンでやろうぜ」


ラメットは鎌を振りまくり感覚が麻痺しかけていた。


「……ええやろ」


キュラはラメットが既に足腰弱っているのを見切っていた。

まだコウモリを出すことも可能。

だがタイマンというのはコウモリを呼び出すなということだろう。

されどもそんなことをしなくてもラメットは押せば倒れる。

キュラは勝利を確信していた。


「かかってこいや。お前の命魅せてみろや!!」


「うあああああああああああああ」


キュラの承諾にラメットは間髪入れず飛び出した。

キュラの喉が鎌により張り裂ける……直前だった。


「くっ、ぐうぅぅぅぅ」


「残念やったな……ラメット」


ラメットの刃はあと一歩及ばなかった。

キュラの喉を掻っ切ったと思われた鎌の先はキュラの右手に収まっている。


「さっきコウモリに襲われたとき、お前は吸血されてたんや、ラメット。それで技のキレも悪くなって……最後の一撃も外れたわけや」


「ぐっ、そうか。だからお前は……」


ラメットの攻撃を抑えたキュラはピンピンとしている。

腹部からの流血は止まっていた。


「お前の血ぃ吸ったコウモリちゃんが俺に噛み付いてその血分けてくれたんや。お前が血を失うほど俺は回復していったんや。

もっと頭使うべきやったな、ラメット。

じゃあ…………トドメや」


キュラがラメットの右肩に噛み付く。

二本の長く先鋭なる歯はラメットの皮膚、血管、骨を貫いた。

鎖骨が割れる音が鳴り響く。


「があああああああああああああ!!!」


血がどんどん失われていく。

だが肩に走る激痛だけは血のように赤く、くっきりとラメットの精神に刻まれてゆく。


(くそっ、馬鹿やろーがっ!! ここで俺が死ぬわけにはいかないっ、俺は……!!)


「俺はっ、お前らからこの国を取り戻すんだっ!!」


ラメットは消え入りそうな意識の中で叫んだ。

それが陰で見ていた天人とアルトのもとに届く。


「……助けなきゃ」


「えっ、おい天人っ。おいっ、待てっ、おいっっ」


天人はアルトの声にも耳を貸さず、ラメットたちのところに飛び出していった。


(あの人は……多分……死んじゃいけないっ!!)


天人は左目に"フェニックス"のダリュウズ・アイをかざした。

天人の左目が赤く染まり、背中には炎の翼が出現する。


「あっ、なんやお前っ。まさかお前もっ……!!」


急に出てきた天人にキュラは怯んだ。


「うああああああっっっ!!」


天人はその翼から五つの火炎球を放った。

放たれたそれらはキュラの周りの地面に激突し、ラメットの肩に噛みついていたキュラの体勢を大きく傾かせた。


「あっ待てっ、このガキがあああ」


その一瞬の隙に天人は翼を羽ばたかせ宙を舞い、猛スペードでキュラに詰め寄り、ラメットを救出した。


「お……前、なんでお前が」


ラメットは霞む視界の中で捉えられる天人に話しかけた。

ほとんどの血が抜かれてしまったのか顔の肉がただれている。


「いいから逃げてください。僕があとは……」


天人は着地するとラメットにアルトが隠れている場所に逃げるように目でサインをした。

そしてその場から離脱しようとするラメットにキュラが声を荒げた。


「待てっ、ラメットっ。 お前は失血で死ぬっ!

大人しく捕まりっ、そうすれば俺が輸血したるっ!」


そうやって追いかけようとするキュラを天人が立ち塞がる。


「駄目だよ、おじさん。さっきおじさんはラメットさんを殺すって言ってたでしょ」


天人の言葉にキュラが歯をきしませる。


「ああ、そうや。ラメットの意思を汲み取ってそう言ったんや。戦って死ぬんやったら本望やと。

でもあいつは逃げた、生きるために。

それやったら俺はあいつが生きるって意思を尊重したりたいんや」


「……悪いけど、信用できないよ」


天人はまた火炎球を繰り出した。

キュラは宙に羽ばたいて、それをかわす。


「ははっ、そうや。ラメットはもとから殺すつもりやっ!

純な坊主だったら、俺の言うこと信じてくれる思ったけどそうもいかんらしいなっ!!」


キュラは空高く上昇し、天人を見下ろした。


「どうやら、お前にも仕置きが必要みたいやな」





「大丈夫かよ、お前」


アルトはその頃、"ユニコーン"の能力を使いラメットの体を癒していた。

左眼だけの使用だが、ラメットの体はすぐに血で満たされた。


「ああ、すまないな。恩に着るぜ馬鹿やろう」


ラメットはすぐに立ち上がった。

しかしすぐにその体が揺らぐ。

コウモリの群れに襲われたのも重なり、思った以上にダメージを受けていたようだ。


「いいからお前は逃げろ。どうせこんなことしたんならお尋ね者になるだろ」


アルトはラメットの肩を背負った。

ラメットはアルトが言ったことに苦笑する。


「ははっ、そうだな。今日から俺もおたずねもんか〜」


二人はそのまま教会から離れたところまで移動した。

そこでラメットは思い出したように言った。


「っておい、あのガキはどうすんだよ。

置き去りじゃねぇか」


天人がキュラと交戦している、ラメットはその事実に気づいた。


「大丈夫だ。あいつはそんなーー」


「いいから行けっ! キュラ一人でも危険なんだっ。

今すぐに戻れっ!!」


急に叫び出したラメットはその振動で自分の体の傷を痛めた。

アルトはそのラメットの気迫に押され、急いで天人の元に走り出した。


「なんなんだよっ、ったく」


アルトはキュラの戦闘を見た上でさほど天人とキュラの間に戦力差はないのではないかと思っていた。

正確に把握したわけではないが、"ドラキュラ"能力がそこまで脅威には思えなかった。


(大丈夫だ、俺も加われば倒せるはずだ)


だが、アルトはこのときに大きな誤算をしていた。

目ではたやすく測りきれないもの。


"経験の差"、実践の差。

それが天人とキュラに雲泥の差として広がっていることにそのときアルトは気づけなかった。


「もうすぐだ、大丈夫だ」


教会が見え、横の庭が見えてくる。

そこに待っていた光景はアルトが望まないものだった。




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