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31話 リリース教会




そして次の日の早朝、デルタールは天人とアルトを連れて、リリース教会なるところに来ていた。

未だにデルタールから何故自分たちがこんなところに来なければならないのか聞かされていない天人とアルトは不可解な面持ちでそれを見上げた。


「うわぁ、この建物は他のテントのいいと違って石造りなんだね。

なんだか久しぶりにこんな家を見た気がするな〜」


それもそのはず。

そのリリース教会というのは石造りの建物だったのだ(宝石等は使われていないが)。

天人がこういう建築物を間近に見るのはユーランド王国を出て以来になるだろう。


「まあ教会って言うんだからこんな感じなんだろうなとは思ったけどな。

屋根も三角だし、そのてっぺんには風見鶏っぽいのがついてるし」


アルトが屋根を見ながら言う。

たしかに教会というにはおあつらえ向きの風貌をしている。

そしてその建物の周りの地面には墓碑っぽい石がザクザクと突き刺さっていた。


「相変わらずいい感じの建物なのね。

ところで、二人とも、ちょっと時間あるから私化粧直しに行ってくるわね」


「あっ、いってらっしゃい」


(化粧してもしなくてもバケモノのままだと思うぞ)


デルタールはそそくさと教会の傍にある小型テントの中に向かった。

その中には公共のトイレが設置されている。

デルタールはそのテントの前に立つと何やらおどおどし始めた。

どうやらどっちのトイレに入るか迷ってるようだ。


「あいつ、どっちの便所に入るつもりだよ」


「大丈夫、デルタールさんちゃんと女性の方に入っていったよ」


「それなら……って、まずくね〜かそれ」


待たされることになった天人とアルトは仕方なく地面の砂を足先でいじり、時間を潰し始める。


リリース教会、それはいうまでもなくリリースライズ教の教えについて、くどくどと説かれたり、お祈りをさせられたりする場所である。

タウンPDの住民を例外とし、このワイアラ王国の民は毎週の日曜日には近隣にあるこの教会に朝五時に赴かなければいけない。


しかしパップパブンの店主アマネはリリースライズ教をひどく毛嫌いしている。

それゆえに今までは幾度となくこの教会へと足を運ぶことを避けていた。

今もアマネはこの場にはいない。


だが天人、アルト、デルタールはアマネに言われ出席することになったのだ。

あんたたちは私と違って行かなければ、国から酷い目に合うと言われて。


「なんでアマネさんは教会に行かないことを黙認されてるのかな、何が特別な権力を持ってるわけでもなさそうなのに」


「さあな、俺もあのおばさんがもと軍人っていいこと以外何か特別には思えないな。

……あっ、そうだ天人、アマネのことで思い出した。今後のことだけどな」


「えっ、今後? それって……」


アルトは砂に円をかきながら今後の計画について天人に話し始めた。


「ああ、この国に長居は無用だ。昨日接客してたときに聞き込んだんだが、"百目"の在り処もわからねーし、俺の親父の(かたき)もおそらくいない。そいつが使ってたようなダリュウズ・アイの能力を使う奴はこの国にはいないらしい。お前の親父、飛廉って名前のやつもここにはいないらしいぞ」


天人はアルトがそこまで情報を集めていたことに感心した。

アルトはちゃんと目的を持って旅をしている。

天人は自分が父を探すこと以前に旅そのものを楽しんでいたことに気づいた。

まだ始まってそんなに日が経ってはいない旅ではあるが、天人にとってそれは訓練所で過ごした五年間よりも何倍も濃いものだったのだ。


「そうだね。で、いつ出るつもりなの?」


「三日って言ってたけど、なんとか店で働き続けさせてもらって金が貯まるまで。

といっても食料だけ確保できればいいから一週間くらいかな」


「そうか……」


アルトは旅を楽しんでないのだろうか。

そんな疑念が天人の中に抱かれるくらいにアルトがスラスラと話を進めていく。

アルトは自分のすることに忠実に生きている……でも天人はそれを止めたいと思った。


「でもさ、えっと、ほらこの国にもダリュウズ・アイはあるんだよ。この前みたいに……」


「あ〜、お前の言いたいことは分かった。でもそれは無理だ。

グリジアルス王国じゃ、色々条件が揃ってたから、ダリュウズ・アイいただきます作戦が立てれたんだ。

俺ははっきり言ってこの国のことはあまり何も知らない。

胸糞悪いのは色々見たけどな。

だから――」


「だからもうこの国を出るの?

この国のことほとんど何も知らないまま?

タウンPD、カリスのこと、僕はもっと知りたい。

もっと色んなことを知って楽しみたいんだ。

この旅をーーアルトはそうは思わないの?」


天人は両手を前に構え、アルトをじっと見つめた。

アルトはそれに目をふさぎこんだ。


(分かってるさ……でも……)


アルトが歯ぎしりする音だけが天人の中に伝わってくる。


(天人、お前の言う通りだ。楽しむべき旅とはそういうものなのかもしれない。

でも俺は父さんの国を取り戻して、仇も殺さないといけない。

そのために一人で五年も訓練してきたんだ。

簡単に楽しむなんていうなよ、俺はこれにかけてるんだ)


アルトが顔を上げる。

その目はさっきと違う色合いを含んでいた。


「どうやらお前の望むものと俺が望むものは同じようでちょっと違うのかもしれないな。

俺はお前が"百目"を操れる神王眼を持っていることに気づいてお前を誘ったんだ。

お前が俺にそこまで指図できることはないだろう」


それを聞き、今度は天人がその頭を沈め、ふさぎこんだ。

そこから小さな、それこそ覇気を失った声が聞こえてくる。


「……そうだよね、僕は勘違いしてたのかもしれない。

この旅の目的を。

君は僕を利用するために誘ったんだったね。

カルロ国王を殺し、アルトがユーランド王国を手に入れるために……でも僕は……」


天人が視線をアルトの元に戻した。


「そのために人は殺したくないよ」


天人はそう言うと、アルトから目を逸らしまた砂をいじり始めた。

そのひどく小さく見える背中にアルトはかける言葉が見つからなかった。


(ごめんな天人。俺は本当にお前のことは仲間だと思ってる。

旅をする大事な仲間。

道具だなんてこれっぽっちも思ってない。

でも……)


アルトは天人の背中に手をかざした。


(俺は自分の目的を見失うわけにはいかない。

でもお前と馬鹿なことを話したり、色んなことをしているうちにそれを見失いそうになるんだ。

自分は何一つ成し遂げたわけじゃないのに心だけが満たされていく。

それを求めていて、どこか嫌う自分がいるんだ)


アルトはそのまましゃがみ込み、砂をその手に握った。

指と指の間からそれがシャーとこぼれていく。


(本当は俺が一人でやり遂げなければいけないんだよな。

何度もカルロを刺し殺す機会はあったのに怖くてできなかった。

弱い自分が、大事なところで怖気づく自分がいた。

でも……そういえば……)


アルトはまた腰を上げた。


(それに打ち勝つって誓いを立てられたのも、お前がいたからだったな)


「ちょっと〜、待たせたわね〜」


そこにデルタールが戻ってきた。

若干唇がピンク色になっていてまつげの長さが通常の五倍くらいになっている。


「あらん、二人ともどうしちゃったの? 辛気臭い顔しちゃって。とりあえず中入りましょう」


のほほんとした空気が舞い込んできたことによってその場の雰囲気もいくらか和んだ。


「天人、今のなしだ」


「えっ?」


「だから今のなしだってことだ。全部忘れてくれ」


そうアルトが言うと、天人は歯を出し笑った。

でもどこか乾いている。

だがアルトにはそれが裏の無い笑顔に見えた。


「そうか、ありがとう」


そして天人も立ち上がり、三人は教会の中へと向かった。



ーーーーー



「なんだか、想像してたのと全く変わらなくて拍子抜けしちゃいそうだよ」


天人は教会内を見渡していった。

その教会の中は至ってシンプル、典型的な教会を模しているように見えた。

入って真っ正面の一番奥に祭壇があり、そこに続くまでの身廊。

その両横に会衆席があり、会衆席の中央辺りにエモい模様が描かれた柱が立ち並んでいる。

また窓として拝む人々の姿が映るステンドガラスが連なっていた。


「多分独自性とかは全く気にしてないのよ。リリースライズ教に至っては。

ただ人々にお祈りさせたいだけ」


「そうかなぁ、それにしては前の方に座っている人たちかなりガチっぽいけど」


天人が会衆席の前の方に座っている人たちを指差す。

その人たちは体を小刻みに震わせながら、真珠のようなものを繋げた数珠を握りしめている。

その身震いしながら何がブツブツと唱える姿には狂信的なものを感じられる。


「えっ、まてよ。おいっ、デルタール。あの前から二番目の一番右端の壁側に座ってる奴見てみろよっ」


「えっ、どれ〜? あっ、あの人っ!?」


デルタールはそれにすぐ反応した。

覚えのある長身、絶妙にダサい髪型。

リリリリリーで出会ったラメットという男だ。


「えっ、あの人。市場で女の子助けようとしてボコられていた人だよね?」


「ああ、そうだ。それでお前はプレイヤーだったから会ってないかもしれね〜が、リリリリリーにも居たんだよ、あの高飛車男」


天人がなるほど〜とうなづく。

割といい席で座っているラメットは割といい服を着てその席に座っている。

どうやらお一人のようだ。

連れの男は見当たらない。


「結局、あいつも()()()の人間だったってことだな。あんな偉そうなこと言っておいて」


「でも、アルトちゃん。この街に住んでる人が誰しも貧乏を見下す悪い人とは限らないわよ。

それにあの人はデッドオアマニーに参加していた人たちを擁護していたじゃない」


「……どうだかな」


アルトは一番後ろの席に気だるそうに座った。

天人とデルタールもその横に腰を下ろす。

この教会内にはどうやらタウンPDの人はいないらしい。

アマネの話によるとどうやらタウンPDの人たちも教会に礼拝に来るという義務を免除されているらしい。

いや、むしろ許されていないのかもしれないが。


「天人ちゃん、アルトちゃん、もうすぐ神父の人がやってくるのだろうけど一つだけ約束して欲しいの」


「なんだよ?」


「ぜっっったいに騒ぎを起こさないでちょうだい。わかったわね」


「ははっ、大丈夫だよデルタールさん。

流石に場所はわきまえるよ僕も。

それに騒ぐ理由なんてないしね」


(……馬鹿っ!)


天人が胸をどんと張って宣言するのにアルトはややこせついた心待ちになる。


(騒ぎ出しそうなことがあるってことだろ、お前がっ)


そう天人に釘を刺そうとしたが場合も場合だ。

さっき天人に放ってしまった失言がアルトがそれを言うのを後ろめたくさせた。


「……あっ、来たわよ」


前の祭壇に小柄でぽっちゃりとした男がペコペコと前に座る人たちに頭を下げている。

どうやら彼が神父らしい。

だがそのなんの変哲も無い神父に天人とアルトは違和感を覚えざるをえなかった。

つい最近……見たことがある。

どこかで…………誰だ?


「こんにちは、私が神父のゴビでございます。

今日は私めが全ての進行の役目を仕らせていただきます。

誠に恐縮でございますが、よろしくお願い致します」


篤実そうな人柄を連想させるその口調は似ても似つかない。

けれどもその名前で天人とアルトはそれが誰に似ていたのか分かった。

ゴビーだ、あのゴビー…………ゴビーって誰だろう。


「ふふっ、弟さんね。腰が低そうなところは兄弟変わらないわね」


デルタールはその神父の男のことについて知っているようだった。

されどもそれはどうでもいいこと。

神父のゴビは重々しく口を開き、両手を組むと祭壇の前にある他のものよりも一段と巨大なステンドガラスに向かって頭を傾けた。


「みなさま、それではこれから一時間目をつむって神にお祈りをーーー」


「はぁっ!? 一時間っ!? そんなに祈られたら神も迷惑ーー」


「黙ってましょ〜ね、アルトちゃん。さっき騒がないでって言ったばかりでしょ〜が」


「そうだよアルト、ここは教会なんだから」


デルタールに慌てて口を塞がれるアルトに天人までもがあきれた表情をあらわにする。

当たり前だ、つい一分前に言われたことをいきなりぶち壊しているのだから。


「わっ、わかったよ。祈ればいいんだろ一時間、じっくり

くどいくらいに祈ればっ」


アルトはしぶしぶ手を合わせた。

周りの人の肌に焼き付けるような視線が痛い。

アルトはそれから逃避するために目をじっとつむった。

そこからの無の一時間はまさに気が狂いそうになるくらいに長く感じられた。


デッドオアマニーでハッスルする人たちの気持ち、わかる気がする。

こんなこと定期的にやらされていてはどこかでストレスを吐き出さなければやっていけない。



ーーーーー



そうして一時間が経った。

アルトは寝そうになるのを何度もデルタールに脇を小突かれては起きを繰り返して、目がすっかりと充血していた。

いびき一つかくことさえこの場では背信とみなされるらしい。


(ふぁぁ〜、よく寝た)


一方天人とはゆっくり寝れたようだ。

図太くないからいびきをかかずに寝ることに成功したらしい。

憎らしいことだ。


「みなさま、一時間のお祈りお疲れ様でした。

是非、肩のコリを治しながらお聞きください。

続いてはリリースライズ教の開祖、アカリスにまつわるお話をさせていただきたく存じます」


ゴビが聖書と思われる本を片手にその話を語り出した。

その目がその本の字に沿って右左とぎょろついている。

読むべきページがどこか探しているようだ。


(神父ならそれくらい覚えとけよっ)


アルトは総突っ込みたくなったが、膝頭をひねって抑えた。

ここで声を出したら何を言われるか分かったものじゃない。


そして暫くすると、ゴビはやっとそれを見つけたらしく額の脂汗を本で拭うと、それを朗読し始めた。


「これは昔のお話ーーー」




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