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19話 デッドオアマニー①




数分前。


「なあ、デルタール。誰もいないんだけど……」


「ばかね〜、アルトちゃんの目は節穴っ?

奥に人が集まっているじゃない、砂糖にたかる蟻みたいに……」


「うわっ、ほんとだ。すげぇ人の数っ!」


デルタールとアルトは天人が着いた数十分後に馬に乗って、リリリリリーの会場なるテントに駆けつけた。

手前のいろんなギャンブルが用意されている場所はすでに人がいなかった。

いや、いた。

ギャンブルに負けまくった挙句、自害している人たちが。


二人はテントの奥の人だかりまで進んだ。

しかし、千人もの人の壁が二人を足止めする。

デッドオアマニーに参加する者たちの顔が見えない。


(まずいわ……ゲームが始まる前に天人ちゃんを連れ戻さないと……)


(天人の奴俺を差し置いてこんなおもしろそうなところに来やがって……)


アルトとデルタールはそれぞれ焦燥感を抱えながら、その場でなんとか人混みに入ろうとした。

しかし、血球がばい菌の侵入を阻止するかのように二人は弾き出される。


「参ったわ、いっそ私が裸になって、この中を駆けぬけようかしら。

みんなきっと鼻血を出して倒れていくわよ……」


(それだけは阻止しねぇとな……

死人が出ちゃ、たまらない……!!)


アルトは必死の形相で脳みそを絞った。

アルトの思考能力はそのときの状況に応じて、変化する。

よく分からないが、今は天人の命の危機!!

アルトに名案が浮かぶ。


「デルタール、ちょっと下がってろ……」


「えっ、ちょっと何よっ! 今から脱ごうとしてたのにっ!!」


アルトはダリュウズ・アイを取り出した。

黄色く光るダリュウズ・アイを……。


(これでも、天人が今持っている"かまいたち"と同じことができるはずなんだ……)


アルトはそれを右目にかざす。


途端にアルトの鼻がビヨヨヨヨーンと伸び、紅色になる。

ピノキオ……ではない、これは天狗の鼻だ。

アルトが選んだのは"天狗"のダリュウズ・アイだった。


「えっ、アルトちゃん、何それ?」


アルトの長い鼻を見て、デルタールの顔がひきつる。


「あっ、あまり見るなよっ」


(これなら……"風"を起こせるっ……!)


アルトは歩きながら、足をカタカタと鳴らす。

その両足にはちゃんと下駄が装着されていた。


「見とけよ〜〜」


アルトはガッと足を踏み込み、その右手に持ったヤツデ型の団扇を大きく振りかぶった。

大きな旋風が巻き起こる。


目の前にいた人たちが埃が舞い上がるように宙に浮く。

大量の札束とともに。


「今だっ、デルタールっ!!

突っ走れっ!! 出来るだけ札を掴みながらなっ!!!」


「りょっ、了解っっ!!」


アルトとデルタールは宙に舞った人がドタドタと落ちてくる雨の中を駆け抜けた。

まさに馬のごとく。


「ふぅ、なんとかたどり着いたなっ」


「でも、アルトちゃん、流石にこれはやりすぎじゃない?」


なんとか人混みの最前線まで来たアルトとデルタールの二人の後ろはまさに嵐が去った後だった。

しかも、駆け抜ける時に札より先に人が落ちてくるものだから、二人は全く札を掴めなかった。


「まあ、いいんじゃね。どうせ、治療費ぐらいなんとか出来るブルジョワの方々だろうし。

ってあれ見ろよ、デルタールっ」


アルトは目の前にある柵を指差した。

その五メートルの高さはある鉄の柵は、天井まで続く太い鉄柱を正方形に囲っている。

その縦横十メートルぐらいの柵の中に五人の貧窮そうな身なりの男たちが入れられていた。

彼らは背中にこれまた大きなネズミの死骸のようなものを背負っていた。

この鉄の柵は彼らを出られないようにするためにあるのだ。


「あの五人の中に天人ちゃんはいないわね……これが最初のゲームっぽいし……」


デルタールは五人の中に天人の姿がないことを認識し、ほっと安堵した。


「って、何だよあれ……」


アルトがその柱を見上げた。

鉄柱の地面から三メートルあたりのところに巨大な巣のようなものがある。


(あれって、まさか……ミツネコの巣っ?)


アルトはもっと近くで見ようと柵まで近づいた。

だが、そこに大きな喚起を促す声が響いた。

アルトは思わず柵から退く。


(っん、何だよっ、一体……!)


「こらこら、お客さんそれ以上近づいてもらっちゃ困りますよ〜」


アルトは声の音源に目をやる。

そこには他の客よりも一段高いステージに立っている二人の人影があった。

このゲームの司会者ゴビーとマリーだ。

さっきアルトに注意を促したゴビーはまだしつこくアルトをいじくりまわす。


「困るったら困るよね〜!!」


ゴビーの嫌味ったらしい声とともに会場全体からブ〜〜〜〜とブーイングが起こる。


「ほら〜、みんな怒っちゃってるよそこの僕〜」


「「「「「引っ込めっ! ゴビーッ!!」」」」」


「ややっ!!?」


会場のブーイングが自分に向けられていることに気づいたゴビーはぐしゃりとその笑顔を崩した。

シワが寄った顔の隙間から、涙がこぼれだす。

あまりにも切ない。


「何だよっ、ったく」


「アルトちゃん、とりあえず目立たないようにしましょ」


デルタールに連れ戻され、アルトは柵から何歩か引いたところまで下がった。

けれども、アルトは近くで見たおかげで、鉄柱の巣の正体がミツネコなしだと確信が持てた。

だが、それはアルトの知っている手の平サイズのミツネコの巣とは違い、規格外にデカイ。


「っと、すいませ〜ん、皆さ〜ん。

進行が先程から遅れていますが早速第1のゲーム

"ミツネコのミツノコ取り"の説明に参りたいと思いま〜す」


倒れているゴビーをガシガシと蹴りつけながら、マリーが司会を始めた。


「それではゲームルールはこちらとなりますっ!!」


マリーはきゃぴきゃぴとゲーム"ミツネコのミツノコ取り"の

説明を始めた。


・第一ゲーム "ミツネコのミツネコ取り"のルール一覧


①五人のプレイヤーは背中に巨大ミツネコの大好物巨大ネズミの死骸を背中にくくりつけてゲームを開始する。


②五人のプレイヤーはネズミの死骸もろともに彼らの命を狙ってくる全部で五匹のミツネコの猛襲をかいくぐり、ミツネコの巣の中にある幼虫ミツノコを手に入れる。


③ミツノコを手に入れ、柵まで無事に戻ってこれた上位3名に多額の賞金が送られる。


④プレイヤーの安否についてリリリリリー本部は一切の責任を負いかねる。


以上がこのゲームのルール説明だ。

続いてマリーが五人のプレイヤーについてアバウトな紹介をした。


プレイヤーA ジョージ・プランタン (四十九歳)

備考 太っちょ 木登りは苦手


プレイヤーB ビル・ハーディン (四十六歳)

備考 のっぽながりんちょ 高いところが大好き


プレイヤーC ローラ・スコッキー (三十四歳)

備考 名前を女とよく間違えられる 運動は得意


プレイヤーD オリバー・ガルス (二十八歳)

備考 雰囲気イケメン 逃げ足は速い


プレイヤーE ジョン・ガリバー (三十二歳)

備考 スラリとした体型

恐らくこの五人の中で一番の運動神経の持ち主


役者は出揃った。

アルトたちを含めた会場全員が見守る中、マリーが声を上げた。


「ゲ〜ム…………スタートーーーー!!!!!!」


「ワアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!!」


「ピュー、ピューーー!!!!」


会場全体が熱気に包まれ、ゲームが開始する。

アルトとデルタールもゲームが始まってしまった故、そのまま観客として、観戦に回ることにした。


(こういうゲームが続けば、いずれ天人は出てくる。

そのときにさっさと天人連れて逃げないとな……)


アルトはポケットの中のダリュウズ・アイを握った。

とはいえ、アルトとしても少し、このゲームに興味が湧いていた。

アルトは息を弾ませ、腕を組み、そのゲームに見入った。


(まあ、ゆっくりと楽しませてもらおうか)


アルトは半ばデスゲームというものへの興味、半ば天人への不安を抱えていた。


そしてゲームが始まるとともにマリーはノリノリでゲームの実況を始めた。

その足元で靴跡だらけになったゴビーがピクピクと這いずり回っている。


「さあっ、始まった。命と金を賭したデスゲームッ!!

おっと、先陣を切ったのはプレイヤーB ビルだっ!!」


木登りが得意なビルはツルツルの鉄柱に足を回し、グイグイ巣へと登っていく。


(この鉄柱、意外と登りやすい。いける、いけるぞっ!!

一位は俺のものだっっ!!)


優位に舞い上がるビルはそのままスイスイと鉄柱を登っていく。


(ふふっ、他の奴らはどうかな?)


ふとビルは下を振り向いた。

だが、ビルに続き、鉄柱を登り始める者は誰もいない。

ビル以外の四人はスタート地点に立ったままだ。


(えっ、どういうことだっ!? 試合放棄かっ?)


急に巣を目の前にして、慌て始めるビルにプレイヤーEのジョンはやれやれと息を吐いた。


(ったく、分かってねーな、あのバカ。

今巣に入ったところで中には()()いるんだぜ……)


そう巣の中には五匹いるのだ。

腹を空かせた化け猫が……。


「おっと、ここで巣の主の登場だーーー!!」


轟いてくるマリーの声にビルははっと上を見上げた。


「うわああああああああああああああああああ!!!!」


上を見上げたビルは度肝を抜いた。

そこにいるのは全長二メートルはあろう体を蜜だらけにした

二匹の巨大ミツネコ。

二匹は柱にしがみつくビルを見つけると、ニンマリと舌なめずりをした。


「「うんにゃ〜〜〜〜〜〜!!!!」」


「ヒッ、ヒィィィィィィィーーーー!!」


ビルは直ぐに下に降りようとした。

だが、体が石のように固まり、手足が動かない。


「うにゃあああああああああーーーー」


一匹の包丁サイズのミツネコの爪がビルの右手に突き刺さる。

プシュッとそこから血が飛び出していく。


「いっ、いでえっ!!! やっ、やめろを〜〜!!」


ビルはそのままミツネコに引きずられ、巣の中へと押し入れられた。


「ギィヤアアアアアアアアアッッッ!!!!」


巣の中のから、ビルの悲鳴と血と美味しそうな蜜とが飛び出してゆく。


「…………ペッ……………………」


巣の中から何か硬いものがカツンと地面に落ちてきた。


「「「「ッッッ!!!!」」」」


それを見た他のプレイヤー四人は不覚にもぞっとした。

それはベロベロと舐めまわされ、唾液がたっぷりと付着したビルの頭蓋骨だった。


「おおっーと、ここで早くもビルプレイヤー脱落っ!

このゲームの恐ろしさを率直に体現したゲームオーバーと言って、いいでしょうっ」


ビルの開始三分という早すぎる脱落に会場の客からはけたたましい罵倒が起こった。


「何だよっ! これじゃ、ゲームがつまんねぇよっ!!」


「俺はBに十万かけたんだぞっ!!

どうしてくれんだよっ、この不始末っ!!」


そう、このプレイヤー五名にはここにいる客全員から金がかけられている。

客からしてみれば、いわば競馬のようなものだ。

その賭けられた金の一部が賞金として、上位プレイヤー3名のもとに届けられるのだ。


「狂ってやがる。ここにいる奴ら全員っ……」


会場の人の死を顧みない異様な盛り上がりにアルトは瞋恚(しんい)を覚えていた。

思わず、また柵に掴みかかりそうになるアルトをデルタールが咄嗟に抑えた。


「アルトちゃんっ、私たちのすべき本質を見失っちゃダメっ!! 私たちの目的はこのイカれたゲームに参加する前に天人ちゃんを連れ戻すことでしょっ?」


デルタールは懸命にアルトを諭そうとした。

けれども、アルトはデルタールの言葉を聞き、別の不安が込み上げてきた。


(そうだ……このゲームはイカれてる…………

参加する前に天人を連れ戻さないとっ!!)


「ちょっ、アルトちゃんっっっ!!!!」


デルタールの呼びかけを振り切り、アルトはテントの横側にある小さな個室のようなところに向かった。


(天人のすぐ調子に乗ってしまう性格なら、そのままゲームに参加するかもしれねぇっ!

それだけはダメだっ!

天人が死ぬっ、それだけはダメだっ!!)


アルトは一目散にそこに向かった。

ところが、突然現れた体がその行く手を阻んだ。


「おっ、お前っ……」


見覚えがある、そう見たことのある男。

それは市場でボコられていた青年だった。

顔の傷が漫画みたいにキレイに治っている。

でも、元から老け顔なのか、ちょこっと生えたあご髭とか揉み上げが彼に年を取らせている。

青年は走ってきたアルトを止めて、言った。


「おいおい、何する気だっ?

早く、観客席に戻れっ、ばかやろっ」


「はあっ? お前こそなんだよっ!?

俺はその先のきったねえボロ家みたいなとこに用があるんだっ!」


青年はクルッと、アルトのいう小屋の方を見て、首を振った。


「ダメだっ、あそこには行かせないっ、馬鹿やろー!

お前、あそこにいる誰かを連れ戻しにきたんだろ」


「ああ、そうだっ。俺の仲間だっ。

分かったら、さっさと……」


「ばちんっっ!!」


「っっっっ!」


青年は不意にアルトの左頬を叩いた。

アルトはそれに余計に怒りが滾った。

だがしかし、アルトが何か言う前に青年はそれを遮った。


「俺はさっきの少女をちゃんと家まで送り届けきた。

大量のパンと一緒になっ」


その言葉にアルトはピクリと止まる。

この男は悪い男じゃない。

そう判断したのだ。


「分かったら、さっさと戻れっ、ば〜か」


(こいつ、さっきから何回バカって言うんだよっ)


アルトは腹が立ちながらも青年が言われるがままさっきの場所に戻った。

この青年の話が聞きたくなったのだ。

あと、本当に青年という歳なのかどうかも。


その柵の中では地上に降りてきた一匹のミツネコにプレイヤー四人が柵の中を逃げまどっている。


「あらっ、何その人っ。結構いけてるじゃな〜い」


初対面の人に放った第一声がこれ。

青年は不気味がりぶくりと後ずさった。


「で……何で俺を止めたんだよっ?」


アルトがその青年に荒々しく問いかけた。

その青年の顔はデルタールこそイケてると言ったものの、熱血漢はあるがどこか間の抜けたボケキャラといった感じだ。

けれども、その青年は眉をピクリと動かしただけだった。


「お前……歳いくつだっ?」


「はっ? 十五だけど」


「俺の名はラメット! 俺は十八歳だっ、しかも俺の方が身長も高いっ。

そして、恐らく人間としての器もなっ。

分かったら、さっさと言葉を改めろ、馬鹿やろ……」


「ゴキッッッ」


(さっきから命令口調なんだよっ、老けっつら!)


アルトのパンチがラメットの鼻をぶち抜いた。

それでも、ラメットはくらっとよろけながらも何とか立ち直り、パンチの構えを見せた。


(はっ、やる気かよ……)


アルトも構える。

だがラメットに動く様子はない。

アルトはツンとラメットの体を押してみた。


「ドターーーー」


ラメットはあっけなく倒れた。

アルトとデルタールの冷たい目線が間抜けにも目をクルクルとさせ、気絶するラメットに注がれる。


((よっわ…………))


よわっ、よわよわよっわっ。

アルトとデルタールはラメットを放置し、再びその目を柵の中に向けた。




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