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1話 物語が始まる五年前

ストックが四十話ほどあるので毎日数話ずつ更新していきたいのでよろしくお願いします。


1話目は主人公が旅に出る五年前の話です。




ダリュウズ・アイ……それは人が目に取り込むことで人智を超える生物の力を得られる、呪いの眼である。

そしてここはとある異世界にある、とある島ジャランディア島の森の中だ。




「なんで……なんでだよっ!!」


まだ十歳の少年である宿目(やどりめ)天人(あまと)は自分を救ってくれた恩人、マリスの亡骸を前にして泣き叫んでいた。


「なんで……なんで死んだの? マリスさん?

なんで僕を助けて死んだの? 何でそんな意地悪をするの? 僕を一人にしないでよ……」


ただただ涙を流し、既に血だらけのマリスの体を殴り続ける。

天人は命の恩人に怒りの感情を抱いていた。


"だから言っただろっ、天人! お前は生きててはいけないんだっっ!!"


"アハハッ、大丈夫だよ。お兄ちゃんっ! 私がずっとず〜っとそばにいるからっ。私が幸せにしてあげるからっ!"


どこからか聞こえるはずのない声が流れ込んでくる。

天人はそれにおびえ頭を塞いだ。


「やめてっ、誰だよっ。僕に話しかけるなっ!!

……助けてよマリスさん……父さん……」


また雨が降り出そうとしている。

自分を照らす月夜がうっとうしい。


なぜこんなことになってしまったのか。

話は数十分前に遡る。



*ー*ー*ー*ー*



「ねぇ、父さん。本当に行っちゃうの?」


「ああそうだ。ごめんな天人」


数十分前、天人は父である飛廉(ひれん)と別れの挨拶をしていた。

とっくに夜を迎えた森の中、薄暗い中で二人の声はやけに大きく響いた。


「飛廉っ、天人は俺に任せろっ」


「ありがとうな、マリス」


飛廉は天人を抱きながら、胸を張るマリスに深々とお辞儀した。

マリスは飛廉の唯一無二の親友である。

これから別れることになる飛廉は天人をこのマリスに託すことにしたのだ。


「じゃあな……天人、マリス……うおっと、これを忘れるところだった」


その場から去ろうとした飛廉が慌てて振り返る。

飛廉はズボンのポケットに手を突っ込み、二つの赤く光る玉を取り出した。

そしてそれをマリスに突き出す。


「なんだよ、これ?」


「なんだって……ダリュウズ・アイだよっ。"フェニックス"のなっ。左眼と右眼、両方お前に託しとく」


「でっ、でもお前、両眼はいらないぞっ。右か左眼、片眼だけでいいっ」


マリスが片方の眼を飛廉に返そうとすると、飛廉はそれを強く拒み、首を振った。


「それはダメだ。両方とも持っといてくれ。

お前も知ってるだろう、ダリュウズ・アイは右か左の片眼だけだと、封印された生物の力の五分の一ほどしか出せない。

両眼があってこそ、真価を発揮出来るんだっ」


飛廉はあくまでもそう言い張り、マリスと天人を馬に押し乗せた。


「じゃあなっ、お前らっ」


「ちょっ、ちょちょちょ飛廉!?」


マリスが異議を唱える前に飛廉は馬のケツを蹴り上げた。

馬は悲鳴をあげ走り出す。


「父さんっ!!」


天人も叫んだがもう遅い。

飛廉はそれこそどんどん豆粒サイズになっていき、二人の視界から消えた。


「ハハッ、あいつらしいな。おいっ、天人っ。

歯ぁ食いしばれっ!! 出発だっ」


「ええっ、こんな別れ方嫌だよっ」


天人がそう喚くのにマリスは聞こえない聞こえないと耳をパタパタしてみせる。

こうして天人とマリスは夜の森の中を駆け出した。



ーーーーー



数分後、マリスはまだ馬に揺れながらぐずる天人に声をかけた。


「おいおい、そんなにお父ちゃんと離れたのがショックか? 全く俺の嫁さんみたいだな〜〜」


「マリスさんの……奥さん?」


「ああ、そうだ。これを見てみろっ」


マリスは得意げに右まぶたをめくり、そのまぶたの裏を天人に見せつけた。


「うわぁっ、何これ?」


「ふふふ、そうだ。俺はまぶたの裏にカミさんの名前を彫って……」


「"死ね"って文字が大量に書いてあるよっ!!」


天人は度肝を抜いた。

マリスがドヤ顔で見せてきたまぶたの裏には数千もの"死ね"という文字が刻まれている。

小さいまぶたの中に細かく細かく……細かい! 細かすぎる!!


「うひゃっ、それは浮気した時のやつだっ!!

本物はこっちだっ」


マリスは大急ぎで左まぶたを広げる。

そこには"アロエ"と彫ってある。

マリスの愛妻の名だ。

気持ち悪い。


「マリスさん、そんなことよりもなんか風が強くなってない。さっきまで全然吹いてなかったのに」


天人は唐突に森に吹き込んでくる風が強まっていくのを感じた。

夜中になればなるほど、気温が下がり吹きつける風が寒く感じるのは当たり前のことだ。

だけれども違う。

気温は変わらず、風だけが強くなっている。


「まずいな……勘付かれたか」


マリスも違和感を感じたのか襟を正し、さっき飛廉に貰ったダリュウズ・アイの左眼を取り出した。

そして走っている馬を止めそこから降りる。


「天人、いいか。これがダリュウズ・アイの使い方だ」


そう言うと、マリスは左目にそのダリュウズ・アイを押し込んだ。


「すっ、すごいっ」


天人は目の前で起きていることが信じられなかった。

ダリュウズ・アイはマリスの左目に取り込まれ、マリスの左目は赤色になった。

更にそれだけではない!

マリスの背中に大きな炎の翼が出現したのだ。


「見たか、天人!? これが"フェニックス"の力だ。

でも興奮するのは後だ、敵が来る!!」


「ええっ、敵!?」


天人はそう言い、はっと口を閉ざした。

風邪がどんどん強くなって、何かがどんどん近づいてくる。


「まずいっ、避けろっ天人!!」


「なっ、何!? わああああ!!」


マリスは馬に乗っていた天人をそこから蹴り落とした。

天人は水がたっぷりと染みた地面に叩きつけられた。

そしてピクリともせず意識を失う。


だがそれは大したことではなかった。

マリスが天人を蹴り落とした一秒後、今度は馬が悲鳴をあげた。


「ヒッヒッッ……ヒギャアアアッッッ!!」


おおよそ馬が出すはずのない鳴き声を弾き出す。

その鳴き声とともに馬の体はいくつもの亀裂が入り始め、その体は血肉とともに吹っ飛んだ。


「よぉ、マリス。久しぶりだな〜」


気がつくとあたり一面に飛び散った馬の血を踏める一人の男がいた。

マリスはその男を睨みつけた。


「やっぱりお前か!」


「おおっ、不躾だなぁ。せっかく会いに来たのに」


その男の両手は一メートルほどはある大鎌に変化しており

左目は銀色に輝いていた。


(コイツ、"かまいたち"のダリュウズ・アイをっ!!)


マリスは一歩退く。

"かまいたち"のダリュウズ・アイ……その能力は大鎌を振り回し、疾風を生み出すことで高速移動を可能とすることだ。

更にその風で宙を移動し、敵を鎌で斬りつけることもできる。

この男が取り入れてるのは左眼だけだが、そら恐ろしい力だ。


マリスは背中の翼を翻し、空に舞い始めた。


「おお、待てよっ。釣れねー奴だなぁっ」


男も風に乗り、マリスの後を追う。

森の木々をくぐり抜け、空の果てまで……来たところでマリスは男を振り返った。


「おおっと、やっと止まってくれたか〜〜。今切り刻んでやるよ」


男は得意げに鎌を構える。

ここは既に雲さえ見下ろせる上空だった。

空気も薄い。

息さえ辛い。

だがマリスはそっと笑うだけだった。


「面白い。お前とも正々堂々戦いたかったよ。

しかし……今はこうするしかない!」


マリスは右目にもう片方のダリュウズ・アイを取り込んだ。

そしてマリスの右目は左目同様赤く染まり出す。


「馬鹿な! 両眼を使えばどうなるか分かってるのか!?

体はその負担にーー」


「ああ、分かってるさ」


マリスの翼の炎は勢いを増す。

そしてマリスは体さえも変化し始めた。

体の骨格、筋肉、それらが徐々に人間のもので無くなっていく。

鳥の姿に変わってゆく、まるで不死鳥のように。


「馬鹿なっ、よっよせっ!! ああああ〜〜!!」


マリスの翼から放たれた火炎弾が男に直撃した。

男はその恐怖にかわす余裕すらなく、もろにそれを受けた。

男は火だるまになり、真っ逆さまに転落し始めた。


「ハハッ、能力的にはお前が勝ってたかもしれないのに……な」


マリスは自分の体が震え出しているのに気がついた。

ダリュウズ・アイの力に体が耐えきれていない。

明らかにマリスの体が受け切れる力の量をオーバーしている。


「ダメだ。まだ俺は、死ねない……」



ーーーーー



数分後、マリスは残った力と気力でなんとか地上の天人がいるところまで降り立った。

そこには男が使用していた"かまいたち"のダリュウズ・アイが落ちていた。


「おい、天人。しっかりしろっ」


マリスは突っ伏している天人を揺り起した。

天人は夢から覚めたかのようにうっすらと目を開ける。


「マリスさん、その傷……」


「これか? 大したことはないさ。本当なら治ってるはずなんだけどな。まあ気にすんなっ!!

それよりも俺が今から言うことをよく聞けよっ」


マリスはそうして天人にこれからすべきことを全て伝えた。

いや、もっと話したいことはたくさんあった。

でもできなかった。

話しているうちに、マリスの息はきれていき、心臓は止まってしまった。


天人はひとりぼっちになってしまった。



ー*ー*ー*ー*ー


こうしてマリスが死に、今の状況に至る。

マリスは自分が持っていたのと男から奪ったダリュウズ・アイの合わせて三つを持って、森を抜けろと言った。

そして街に行けば飛廉に会える、そう言って生き絶えた。


「なんでだよっ! 僕を置いて死ぬなっ!!

この無責任!!」


天人はそうマリスの遺体に怒鳴りながらも、その場から歩み始めた。

早く歩けば、早く町に着く。

そしたら父に会える、マリスのことを知らせないと、そう思いながら。


"ねぇ、お兄ちゃん。どこ行くの? 嫌だよ、どこにも行かないでっ!!"


またさっきと同じ甘い少女の声が聞こえてくる。

そのとき天人の口からぽろっと声がこぼれた。


「アルト…………」


このアルトという人が誰なのかも天人は分からなかった。

さっきから記憶が錯乱してる。

天人は頭がはちきれそうだった。


アルト、デルタール、カリス、ユーランド王国、ワイアラ王国、天国。

色んな名前が頭をよぎった気がした。

でもそれが過去の記憶なのか、未来の記憶なのかもわからない。

それ以前にそうやって頭に浮かんでくるのが記憶なのかどうかもわからない。


でもやっぱり記憶じゃないのかもしれない。

本人が気がつくのはまだ後の事になるのだが、天人には今日以前の記憶が一切ない。


「父さん、待ってて。今行くから」


天人はそうして暗い森の中を一人、後にした。




読んでいただいた方ありがとうございます。

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