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12話 爺さん、過去を語る



ー*ー*ー*ー*ー



エレクトスの握っていた杖がカランと手元から落ちる。

そして、眉間にしわを寄せ、どこか一点を見つめるように言った。


「そして、飛廉が去ってから数週間後じゃった。

村から連れて行かれた月眼を持つ者たちが、海上訓練中の天候悪化により、海が荒れ、そのまま一人残らず海の藻屑となった、という知らせが入ったのは……」


天人はわななくエレクトスの手にすっと自分の手を重ねる。

そうすることでエレクトスの平生を取り戻そうとした。


「ありがとうございます。それとごめんなさい、そんな辛い話をさせてしまって……」


天人はその仕草だけでエレクトスに対する敬意を払ったつもりでいた。


(ハビリス村の過去のことは分かった……でもそれよりも……)


天人の中から沸き立つ追求心は、エレクトスへの心置きを十分に施させてはくれなかったのだ。


今や、天人の意識は村のことよりも"飛廉"という男の存在に注がれていた。

まだ下を向いているエレクトスの頭に天人は自分が気になっていることを尋ねた。


「エレクトスさん、その飛廉という人の右腕には大きな火傷の跡がありましたか?」


その傷は天人が五年前、森の中で微かに見た父の右腕にあったものだった。

エレクトスはその言葉を聞き、がばっとその頭を振り上げた。

そして、少し驚いた表情で首をコクリと下げた。


「おお、あった、あったぞ。

少年や、何故そのことを知ってるのじゃ?」


天人の唇が返答に窮し、くの字に曲がる。

ただ、エレクトスはその詳細を詳しくは聞いてこなかった。


「そうか、お主の知り合いじゃったか、あの男は……」


エレクトスが一人納得した様子を見て天人は胸をなでおろした。

天人は自分が神王眼の持ち主だということは内緒にするようにアルトから言われていたのだ。

しかし、飛廉という男が自身の父であると確信した天人は更にその飛廉という男がどこにいるのかという質問を重ねた。

最早、ハビリス村のことなど蚊帳の外だ。


「すまんが、その男が今どこにおるのかはわしにはさっぱり……」


エレクトスが言い終わる前に天人からため息がこぼれる。

天人は話を基軸に戻す。


「ところで、何で村から連れて行かれた人たちが殺されたと断言できるんですか?」


それにエレクトスは決まり悪そうにかぶりを振った。


「ない、断言できるものは何も……。

だが、海上訓練で死んだのは皆、この村から出た者達じゃった。

絶対に何か裏がある。

その出来事があったからわしらは今日グリジアルスの王メタリンボス暗殺作戦に至ったんじゃ。

わしの孫、サピスの子であるガンダが死んだその事件があったからっ!」


弁論を振るう教授みたく、エレクトスは床をバシンと叩いた。

けれども、その力説は天人には無謀な雲をつかむような話として頭に響いた。


(戦う……? あんな怪物たちと?

だめだっ!! 勝てる訳がない、"だいだら"も"雪女"も、この人たちの手に負える相手じゃない!!)


「エレクトスさんっ!?」


天人は立ち上がり、エレクトスの両肩をつかんだ。

やめてほしい、その天人の思いを感じ取ったのか、エレクトスは言葉を繋げた。


「今日を選んだのにはちゃんと理由があるっ!

まず、戦争の後でグリジアルスの兵、力を使った反動を受けているはずの統術師たちはわしらの反乱を止められないということじゃ。

2つ目に、わしとサピスは最近遂にダリュウズ・アイの力を使いこなすことに成功したのじゃ。

そして、最後に……」


「おいっ、親父っ!?」


サピスがドンと音を立てて家に入り込んできた。


「さっきからずっと皆待ってるぜ!もう行かねーと……!」


外からは月の光が差し込んできた。

その光にエレクトスとサピスの月眼が黄色く輝く。

天人はさっと自分の両目を隠した。


(まずいっ、神王眼がっ……)


エレクトスは腰を上げ、外に目を向けて言った。


「今日は比類無き満月……それが最大の理由じゃ」


天人にはエレクトスの声がどこか遠くに聞こえる気がした。


「じゃあな、天人君……」


部屋からエレクトスが出ていった後も、天人は家から出るわけにはいかない。

もう大丈夫だと思った頃に天人はドアを開け、外を覗き込んだ。

そこにはもう誰もいない。

遠くから男たちの雄叫びが聞こえる。

そのまま、疾風怒濤のように走り去る音も……。

天人はしまったと思った。


(止められなかった……皆戦いに行ったんだ、きっとあの時のマリスさんと同じ思いで……)


天人は床の端に溜まっている砂を握りしめ、空を見上げた。

そこには眩いばかりの月が天人の目を異常に強く輝かせていた。



ーーーーー



「全く、あのエレクトスって爺さんも人が良すぎるよな〜。馬を用意してくれていて俺たちにはこれで逃げろなんて……」


天人とアルトはエレクトスやサピスたちが去った後のガランとした村で逃げるわけでもなく、立ち往生していた。


(父さん、何でエレクトスさんたちにダリュウズ・アイを渡したんだろう……)


天人の頭にはさっきからそればかりがよぎっていた。

5年前……それが自分と別れた後の出来事なのか、それともそれ以前の出来事なのか、皆目、天人には見当もつかない。

だけど、それを考えるべきのは今ではなかった。

エレクトスやサピス……彼らは今日死のうとしている。


「アルト、生きるためならどんなことでも許されるのかな?」


天人は馬の手綱をいじっていたアルトを見た。

アルトもまた天人の顔を真剣なまなざしで見返している。


「僕は何も知らなかった。このサピスさんが持つ誇りも、森で会った生きていくために悪魔になった男の人の葛藤も……」


天人は今日、いままで自分が知ることのなかった人々の悲痛な過去に出会った。

けれどもその人々は決して曲げられることのないものを持って生きている。

プライドや誇りなどでは済まされないもの。

その人々の生き様を最後まで見届けたい、天人はそう思った。


「アルトっ、行こうっ! エレクトスさんたちの元に!」


その言葉を聞き、アルトは颯爽と馬に飛び乗った。


「ハッ、お前もほんとお人好しだなっ。……ああ、行こうぜっ! 手ぶらじゃ、この国は出られない」


(ハハッ、アルトもいくつもりだったんだろう?

きっと……)


二人は馬に乗り、エレクトスたちが行った道を走り始めた。

遠くで誰かの悲鳴が聞こえる前に……天人たちは馬のケツを強くひっぱたいた。





「着いたぞ、ここが門だっ!!」


サピスたちはグリジアルス王国本土四方全てを囲む壁の門に辿り着いた。

月の光だけがその壁を暗く照らし出している。

そしてハビリス村一番のギョロ目、ピルクがある異変に気づいた。


「サピスさんっ、警備の兵がいませんよっ!?」


「何だとっ!? まさか、俺たちの行動に気づいていたのか?」


サピスたちはハビリス村から壁までの何十キロもある距離を灯りも持たずに、走ってやってきた。

それは、敵に気付かれずに門の警備兵を捕らえ、壁の中に入るためだった。

あくまでも戦いを避けて王を殺すのが、サピスたちの目的だったのだ。


「門の扉の鍵はかかっている。一体どういうことだ?」


何人かの男たちは壁に沿って移動し、別の門の扉も確認した。

だが、全てで四つある門は全てが同じ状態であった。


(馬鹿なっ!! 俺たちは今日のために全てをかけてきたんだぜっ。

村の誇りもそれぞれの家族の命もそのために親父と俺もダリュウズ・アイを使う訓練を行ってきたんだぜ、

まさか本当に……)


「どうするのサピスちゃん?

私、怖いわっ! 心細いわ! 嫌だわっ!

いやじゃ〜〜!! いやじゃ〜〜!!」


「分かってるぜっ、ちょっと黙ってろ、デルタールっ!

俺は今考えてるんだぜっ!!」


デルタールの発情した猿のように甲高い叫びが皆の心もとない心境を煽っていく。

まさか本当に作戦がバレたのではないかと。

門兵を倒し、門の鍵を手に入れ、壁の中に入る。

これが彼らの段取りだったのだ。


「くっ、どうすりゃいいんだっ!! 壁を破壊すれば敵に気付かれる!! もう今夜みたいなチャンス二度とかないかもしれないんだぜっ!?」


「今まで一ヶ月間確認した通り、一日も警備兵がいないなんてことはなかったんじゃ。

もしや、今日戦争があったことが関係しているのかもしれん……」


サピス、エレクトス、その場にいた者たち全員が頭を抱え始める。


(どうする……? 壁をよじ登る? この何メートルもある壁を?

よじ登れたとしてそこに敵兵がいない保証なんてあるのか?)


サピスの詰まりに詰まった思考が崩壊しようとしている。

そこにドミノ倒しのように何かが倒れていく音がした。


「!?」


サピスは音に気が付き、下に吊るしていた頭を上げた。


「おいっ、何か変な音がしてるぜっ、どうしたんだっ?」


「はいっ、確かに変な音がしてますが何も異常は……

グバッ、グバァァ!?」


「っっ、ピルクっっっ!!?」


サピスはピルクの胸を凝視し、凍りつく。

その胸からはピルクの心臓と肺がえぐり出されていた。

ポタポタと胃液と血液とが混ざり合った液体がそこから流れ出していた。


「……ピ……ルク……!!」


サピスの溶けた体は瞬時にまた凍りついた。

ピルクの背後に羅列しているものに。


(おいおい、まじか。ピルク以外のみんなも、じょっ、冗談じゃねえぜっ!!)


ピルクが倒れた後ろにはピルクと同じように胸を何かに貫かれた死体がいくつも、転がっている。

男たちの悲鳴が上がる。


「なっ、なっ、何だよっ!! 何でみんな急に死んでんだよっ!!!?」


「馬鹿っ!! 大きい声出すなっ!! 敵が見つけられないだろうがっ!」


「ちょっ、デルタールさんっ! どさくさに紛れてやめっ! あっ、あっ、あっ、あっ!」


「落ちつかんかあああっ!!

皆のものー!」


「「「「……………」」」」


エレクトスの一声がその混沌とした状況を沈めた。


「だっ、誰だっ!?出てきやがれっ!!

俺が相手になってやるぜっっ!」


そう叫びとサピスは自分はしなったズボンの中から1つの天色に閃く玉を取り出した。

その瞬間、投げ槍のように尖った何かがサピスのその右腕めがけ、弾丸みたく飛び込んできた。


「うおうっ…!?」


「いやっ! 大丈夫っ!?サピスちゃん!?」


サピスは紙一重でそれをかわすことができた。

そしてそのサピスの耳に二日酔いしたおっさんのうめきがじとじとと入り込んできた。


「あっあっあっ〜、もう少しだったっつ〜のによ〜。

はっ、はあっ、めんどくせえっ!!」


サピスはジロリとその声の主を直視する。

その声の主の姿は半分人間、半分馬といったところであった。

手にはシャープなひづめ、顔は典型的な馬面、というふうに仕上がっていた。

ちなみにその首も馬みたいに長かった。

永遠に麒麟の長さには勝てないという宿命を持つ馬の首みたいに。

明らか馬に似ている。

ただ、馬と違うのは天色の輝きを放つ左目と何人もの血に先端を赤く染められた、幾度となく研磨された剣のごとく鋭い角を持つということだった。


「おっ、おい……あいつの"眼"俺のと同じだぜ……」


そう、その男の左目の輝きはサピスが右手に握るそれとまさしく同じ輝きだった。

それはサピスと同じ"ユニコーン"のダリュウズ・アイだったのだ。


(嘘だろっ? 俺と同じダリュウズ・アイ……?

って、おいおいおい……)


「…………!! うわあっ!?」


その左目に気をとられたサピスにその男の赤い角が直進してきたのだ。


だが、突如現れた茶色い体毛に覆われた腕がその攻撃を阻止した。


「チッ、なんだぁ? 今は俺とこいつの戦いだろうがよっ?」


「ふんっ、不意打ちでその言い草はないじゃろう、小童。のう、サピスや」


それはダリュウズ・アイを取り込んだエレクトスだった。

サピスの視界がエレクトスの肥大化したけむくじゃらの背中に遮られる。

それはダリュウズ・アイ"人狼"を両目に取り入れ、月の光を浴びもたらされた姿だった。

その姿はまさに人狼であり、盛り上がった筋肉だけでなく、敵のひづめにも負けない尖った爪と歯を兼ね備えている。

また、その両目は枯茶色になっていた。


「親父っ! いきなり両眼使って大丈夫なのかよっ!!?」


「力を出し損じないのがわしの主義じゃっ!! いいから、お前は生きてる者だけでも治せぇっ!」


敵の馬男とエレクトスの攻防が始まった。

エレクトスの言葉に促され、サピスもその右目にダリュウズ・アイをかざし、敵の男と同じ、馬面になった。


「きゃあぁぁん、サピスちゃんっ、キモかわいいわ〜〜」


おかまの声が響き渡る。

サピスは急いで、胸を刺されてはいるものの、まだ息のある仲間の元に向かった。


「サピスちゃんっ、この子はまだ生きているわっ」


サピスはデルタールが指差す胸から内臓が弾け出した男の頭を持ち上げ、その額に角をかざした。

すると、みるみるうちにその胸の穴が塞がり、その男に生気が戻った。

"ユニコーン''の力を宿した統術師はその角を怪我人の額にかざすことでその傷を癒すことができるのだ。


「サ……ピス……さん……」


「んっ、なんだ?お前の傷はもう治ったぜ」


「……う、ま、づ、ら……」


「うっ、うるせぇっ!! もう一度寝てろっっっ!!」


「何やってんのよっ、サピスちゃん……さっきまで死にかけだったひとよ……んもうっ、このドジっ子ったらんっ!」





一方、エレクトスは両眼を使っているにもかかわらず、防戦一筋を強いられていた。

もはや馬よりも素早く動き回る相手の男の動きに目が追いつかない。


「おっ、お主は、何者なんじゃ?グリジアルスの統術師か?

なぜ、お主一人だけで戦っているんじゃ」


周りをいくら見回してもこの敵の男の仲間と思われる人影はどこにも見当たらない。


「ああっ!? 俺の名はガリオだよっ!

早くくたばれよっ、ジジイめんどくせえっ!!

お前みたいな老いぼれ、両眼使ってるところで怖くねえんだよっ!!」


的外れな返答として、自己紹介をするガリオという男にエレクトスは一瞬ポカンとした。

その一瞬の隙にガリオはその角をエレクトスの胸に、ドスリと突き刺した。


「……ぐっ、あ、あ、あ、あ……」


声にならない痛みがエレクトスの全身に巡り巡っていく。

その背中から内臓がこぼれ落ちる激痛は想像を絶する。


「ふっ、ジジイっ!

めんどくせえが、冥土の土産に教えておいてやるよっ。

ダリュウズ・アイによって得られる戦闘力はその個人の持つ能力に大きく比例する。

お前みたいな老いぼれにはっ……グボォォッ!!」


ガリオが自分の腹を覗き込む。そこからは、彼と同じ、黄金色の角が血しぶきと共に飛び出していた。


「親父をっ、愚弄するなよ。

俺が許さねえぜ?」


「フッ、ハハハハハハッ、ハッ、ハハハハハハハッ」


「てめえっ、何がおかしいんだっ!」


「ふんっ、上を見上げて見ろよ……」


サピスが上を見上げる。

その見上げた壁の上に何やら、巨大なものがいるのがわかる。

そして、遠くに見えたそれはどんどんその大きさを増していった。

サピスは動く寄りに先に叫んだ。


「親父ぃ、避けろおおおおおおおおおっっ!!」


サピスはその角を抜き、エレクトスの巨体を抱え、壁の反対側の茂みに飛び込んだ。


その巨体が墜落した音とともにガリオのせせら笑う声が響き渡る。


「お前ら、ハビリス村の反乱は最初っから、俺たちの手の平の出来事なんだよっ、ハッハハ……」


そのガリオの背後で動く大きな影がサピスとその場にいたもの全てをこみ上げる絶望感とともに沈黙させた。




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