小さく花開く蕾
第1話 感情が無い少年
僕には涙が無い。
この世界に生まれ落ちた時から無表情で泣かない子供だったらしい。
そのせいで親に忌み嫌われた。
僕には笑顔が無い。
小学校に入ってすぐに出来た友達に笑えなくて虐められた。
僕には心が無い。
忌み嫌われても、虐められても心は無いから苦しくなかった。チクリともしなかったんだ。
この話は感情が無い少年の成長の物語である。
第2話 死と涙
僕は大学生になった。もちろん今でも感情が無いまま、友達がいない親も居ないという孤独な人生を歩んでいる。
今日は講義だった、とても面白げの無い講義でつまらなかった。今はその帰りである。
僕は本を読みながら歩く、人通りの少ない道路だからぶつかる可能性もない。
その瞬間ガンッという音がした。それは車の音だった。きっと車の音だと思う。
僕は音の正体が確認できないから、車だかどうかも分からない。
大丈夫ですか!という声が遠くで聞こえる。
あぁ、僕は死んだのか。否まだ、意識はある生きているのか?
僕に心残りがあるとすれば、きっと感情が無かったことを恨むだろう。
恨んだらどうなるんだろう。
嘆いたらどうなるんだろう。
悲しんだらどうなるんだろう。
「あぁ、感情が欲しかったなぁ」
僕は初めて涙を流す。
涙を流すと共に意識が遠く遠く離れていってしまったが、確かに僕は最初で最後の涙を流した。