弟でもここまではセーフ
弟 小麦色の肌に黒髪。目は若干釣り目で性格はぶっきらぼう。兄を嫌っているように見えてそんなに嫌ってはいない。どちらかといえば兄を心配しているほう。14歳
○○ 就活生。就職で連敗続きで内定を得られず、気がまいっている。21歳
セミが未だにさんざめく夕刻時。○○はひどくやつれた様子でフラフラと家に帰る。
アパートの四階。四〇二号室のドアを開けると、○○は力なく玄関に寝転ぶ。
弟「お帰り、今日は結婚記念日で親いな……うわっ! なにしてんの?」
弟は玄関に倒れている○○を見るなりひどく怪訝な顔になる。
○○「……」
弟「おい、おーい」
弟が呼び掛けても○○は無反応。
○○は目に涙をうかべ、廊下を濡らし始める。
弟「泣いてんの?」
○○はコクコクと首を縦に振る。
弟「また失敗したんだ……。その、ドンマイ」
○○はいまだに泣き止むことがなく、弟は困り果ててしまう。
弟「お兄ちゃん、起きてさ、飯食べよ? 愚痴でもなんでも聞いてやるから」
○○「ならほめて……」
弟「ええー……」
弟は少し嫌そうな顔をするも、大きなため息をつく。
弟「分かったよ。いいから飯食べようぜ」
テーブルには四つの椅子があり、向かい合う形でカレーライスの盛られた白い皿が並べられる。
弟はお茶のペットボトルとコップを持って椅子に座る。
弟「ほら、食べるぞ」
○○はおずおずと椅子に座り、弟をチラッと見る。
弟「いただきまーす!」
○○「いただきます……」
弟はスプーンでがっつき始めるも、対照的に○○はちまちまと食べる。
弟「お兄ちゃんはさ、頑張りすぎなの」
弟「不器用にがむしゃらに頑張ってさ、自分のことを全く考えない」
○○「ごめん……」
弟「けなしてないし! それがお兄ちゃんの悪いとこだしいいところなの!」
弟「だからさ、時には息抜きもしろよってこと」
弟「大学受験の時もそうじゃん。毎日寝る間も惜しんで勉強してさ、試験前には体壊したじゃん。覚えている?」
○○「なんで知ってるの?」
弟「……! お、お母さんから聞いたの! 別にいいだろどこで知ったかくらい!」
弟は顔を赤くして、コップ一杯のお茶を流し込む。
弟「てかさ、なんか趣味とかないの? 音楽聞くとかさ、ゲームするとか。スポーツとかさ」
○○は考えこんで思いつく。
○○「ゲーム……」
弟「ならさ、食い終わったらしようぜ。ほら、最近はやりの大乱戦アタックバスターズ。俺持ってるからさ」
○○「やる……」
弟「そうだ。盛り上げるために罰ゲームありにしようぜ。負けたら勝ったほうの言うことを何でも一つ聞くってやつ」
○○は微かに笑う。
○○「のった」
食後、○○は弟の部屋に来る。
青を基調とした部屋で、回る椅子の背もたれには制服が雑にかけられていた。
弟「コントローラー。青でいい?」
○○「うん」
弟はカセットをセットすると、テレビのリモコンをいじって入力画面を変更する。
画面にゲームの画面が映ると、弟と○○は目の色を変える。
弟「勝っても負けても文句なしだからな」
〇○「了解」
弟「くらえ! そこ! あ! もー……」
○○「まだまだだな」
弟「へんだ! 次は……って、待ってよ! 卑怯だろ! あーもう!」
いとも簡単に弟は負けて、悔しそうに天井を見上げる。
○○「じゃあ……」
弟「もう一戦」
○○「え?」
弟「もう一戦! 次は絶対に勝つ!」
弟「なんで!」
またしても○○は弟を打ち負かす。
○○「これで二つ」
嬉しそうに○○はピースサインをして、ニコニコに笑う。
弟「男に二言はねぇ! なんでも二つ聞いてやるよ!」
○○「ぎゅっとして頭なでなでして」
弟「はあ!? きもっ!」
○○「あれれ~? 二言はないんじゃないの?」
弟「恥ずかしいしさ、それに気持ち悪くない?」
○○「別に?」
弟はうなだれると、覚悟を決めたのか両手を大きく広げる。
弟「もう好きにしろ!」
○○は優しく弟の胸に抱き着く。
弟「あーもう!」
ふっきれた弟は○○の頭を乱暴に撫でる。
――END
弟が弱りきった兄を甘やかすうちに母性に目覚め、いつの間にか優しくなる。
ぶっきらぼうな受け答えが徐々に柔らかく……。
染める頬の色は薄紅色に、目には母性。ああ、おぎゃりたい。