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第3話 不安


「あ、アリス、それ新しいやつ?」

「うん。疲れに効く薬草を組み合わせたやつなんだけど、あんまり甘くないよ?」


 ミルクティの器を置いたユティアに、「食べてみる?」とさっきラグスにあげたものと同じ飴を渡せば、「もちろん!」とユティアは嬉しそうに頷く。


「綺麗な色ね」


 棒についた飴の結晶を、ランプの光に当てながら、ユティアが呟く。


「それはあまり色の出るものを使っていないからね。見た目だけだと普通の氷砂糖だよね」

「普通の氷砂糖とは全然違う! アリスの作るものはいつもキラキラしてるもの」

「そうかなぁ。キラキラしてるのは…ユティアのほうじゃない?」

「わたし?」


 自分を指さしながら言うユティアに、うん、と頷きながら答える。


「今朝だって、クートからのプレゼントを渡した時も」

「だ、だって、あれはっ」


 クート、という名前が出ただけで、ユティアの頬がピンクに染まる。


「嬉しかったんでしょう?」


 真っ赤な顔をする幼馴染みに、ふふ、と小さく笑いながら問いかければ、「…だって、クートから、だし」とユティアが言葉を途切れ途切れにしながら答える。


 クートとユティア。

 幼馴染みの二人が、お互いを大事に想っていることは、一目瞭然なのだけれど、以前に「本人以外がどうこう言うことじゃないよ」とマノンが言っていた。

 きっと、二人は近い将来には想いを伝え合うのだろう。

 そんな二人を見れる日がくるのは楽しみだし、二人の想いが重なるのはとても嬉しい。


 けれど、同時に、どうしようもない不安があって。


「アリス?」


 コト、とカップを置く音がする。


 皆、大切な人が出来た時、恋すらしたことのない私は、どうなるのだろう。


 独りぼっち、になるのだろうか。


 時々、そんなどうしようもない不安が、襲ってくる。

 そんな事を考えていても仕方のないことだと、理解している。

 それでも、時折ふいに考えてしまう。


「食材、買いに行こっか!」


 浮かんできた不安を振り払うように、勢いよく言えば、ユティアは驚いた顔をしたあと、何かを呟いたように見え、「ユティア?」と彼女の名を呼ぶ。


「ん?」


 首を傾げて私を見たユティアに、気のせいだったかな…? とほんの少しだけ首を傾げる。


「あ、そういえば、さっきしたベレックス家の令嬢の話、覚えてる?」


 パチン、と両手を軽く合わせながら言ったユティアに、「えっと…」とさっきまで話していたことを振り返る。


「えっと、お嬢様の身辺警護、だっけ?」

「そう!それなんだけどね。今日、珍しくラグスとマノンが正装しててね」

「あれ?でも今朝会った時はいつものバンダナを巻いたラフな格好だったけど……?」


 朝一番で出くわした時は、普段、巡回の時に、身につけている簡易鎧と、いつもつけているバンダナといういつものラグスの格好だったし、マノンも軽装だった。

 んん? と首を傾げた私に、「お昼すぎに見かけたの」とユティアが言う。


「あ、お昼すぎっていうと、私も一番隊の人たちが西側に向かってるの見かけたよ」

「一番って、え、あの一番隊?血気盛んで、よくうちの店で騒いでる?」

「水色のマントだったから間違いないよ。ってまたユティアのお店で騒いでたの?」

「そうなの。この前もね、ってそれは今はどうでもいいわ。そっか……あの一番隊が」

「?」

「ますます心配だわ……」


 ふうん、と何かを考え込むように、頬に手をあて、ううん、と唸るユティアの次の言葉を首を傾げながら待つ。


「ユティア?」


 うんうん、と唸るユティアに、彼女の名前を呼べば、「あ、ごめんね」とユティアが頬から手を離して口を開く。


「聞いた話によるとね。ベレックス卿の令嬢って、すっごい一目惚れしやすいんだって」

「へえぇ」

「でもさ、護衛を頼むだけなら、四番隊が一番護衛向きじゃない?」

「ラグスも言ってたね。それ。気を遣える、かつ、冷静な判断力が四番隊は抜群で、俺の隊には無いものも多いって」

「ね。だから、わたしはてっきり、ベレックス卿の令嬢も、四番隊がするものだとばかり思っていたんだけど。一番隊も西側に向かって行って、二番隊の隊長でもあるラグスと副隊長のマノンも正装をしてた。となると」

「となると?」


 ユティアの言葉の続きを待たずに、飲み終わった二人分のカップを持って流し台へと向かう。

 こうした行動はいつものことだし、ユティアもユティアで気になどしないから、とひょいとカップを持ち立ち上がる。

 そのついでに、と、そろそろ市場に買い物に行かないと日が暮れてしまう。

 そう思い、ユティアに質問をしつつ、買い物籠を手にとれば、「となるとね」といつの間にか近くに来ていたユティアが、籠の取っ手を掴む。


「騎士団の人たちって、格好良い人が多いじゃない? 特にラグスとマノンは、街の女の子たちにも人気だし」


 確かに、騎士団の団員たちは格好良い人が本当に多い。

 ラグスが憧れているという団長も、格好良さと大人の貫禄が相まってとても素敵だし、身近なところで言えば、ラグスもマノンも、街の女の子たちの話題によく出てきている気がする。


「マノンは優しいしね」

「あら、ラグスは?」

「ラグスも優しいけど」

「けど?」


 玄関先にかけていた上着を手にとり、バサ、と肩へ巻く。


「最近は、なぜか怒られてばっかりだから、たまにちょっと怖い。いつも優しいは、優しいんだけど。あとよく分からないことが多い」


 むう、と思わず口を尖らせながら言えば、「あらあら」とユティアが何だか嬉しそうな表情で笑う。


 がちゃり、と玄関のドアを開ければ、上着を羽織ったユティアも、私に続いて家の外へと出る。


 鍵をかけ、斜めにかけている鞄へとしまい、石畳みの道を二人で歩きだす。


「ラグスってあんなに怒りっぽかったっけ?」

「んー、昔とたいして変わっていないと思うけど…。あ、ねえ、最近怒られたことはなぁに?」

「一番最近なら、今日の朝一番」

「今朝?」

「うん」


 私が住むこの地区は、街を抜けてしばらく歩き、この国の北側にある高原に続く地区だ。

 家の前を通るこの石畳みの道は、緩やかな坂道になっている。

 家から少し歩いた先に、道と道が交差する場所があり、そこの石畳みのいくつかは、荷物の行き来などが原因でほんの少し段差が出来ている箇所がある。


「ここで転びかけて、怒られた」


 ぴょん、と躓いた箇所へと軽く飛べば、「怪我はしなかった?」とユティアが心配そうな表情を浮かべる。


「大丈夫だよ。ラグスが支えてくれたから」

「そう。アリスに怪我が無かったのなら何でもいいわ」


 そう言って、私の横に並んだユティアが、「でも」と私の顔を見ながら口を開く。


「支えてくれたけど、ラグスは怒った、と」

「そう。いつも言ってるんだから気をつけろって。このへんは躓きやすいから、って」


 あの時も、ラグスはひょい、と転んだ私をなんてことなく受け止めて立たせてくれたけれど。


「お礼を言った時に、目があったのに、すぐにそらされちゃった」


 怒っているように見えて、なんで?どうして?と思っても聞けなかった。

 私、何か怒らせるようなことをしたのだろうか。


 でも。


「でもね」

「アリス?」


 目が合った一瞬、優しい顔をしていた、気がするんだ。

 すぐに、違う表情になってしまったけれど。


「……なんでもない」


 どうしてだろう。前は、もっと、笑ってくれていたはずなのに。

 答えが分からない疑問に、気持ちが沈みそうになった時、「アリス!ユティア!」と聞き慣れた声が少し離れたところから聞こえた。












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