第一話
物語の主人公と言うものは日常から非日常的な世界に放り込まれると言うものが多いらしい
と言う事は今現在学校で女の子に椅子にダクトテープで縛り付けられて刃渡り15cmを超える銃刀法違反ナイフで左の太腿を椅子と一緒に刺されているこの場面から、僕は物語の主人公になったのだろうか?
それとも推理小説のプロローグで無残にも殺される最初の犠牲者になったのだろうか?
どちらにせよこの物語を進めるためには現実逃避ではなく目の前の自分自身に起こっている事を解決しなければならない
自分が追い込まれたとき物語に例えるというどうでもいい事を知るよりもダクトテープを切る方法を知りたい
椅子を使わず拘束されているのなら切る方法は知っているが生憎椅子に両手両足を縛り付けられているのだから手を振り下ろしたりもできない
早くしないと出血で死ぬだろうしその前に痛みで気絶しそうだ
ただ下手に動くと目の前に立って笑っている僕の血が顔に付いている女の子が何をして来るかわからない
かと言って何もなければ相手も動かないという訳でもなく、女の子はしゃがんだけれども位置的にf…いや、流石にこの状況だと勃たないと言うかまずそこに送れる血液が足りないと言うかその足りない血液が現在進行系で流れ出ている太腿の傷口を舐めたり啜ったりするのは精神衛生上良くないので辞めていただきたいし、その恍惚とした表情は出来ればこういう場面では見たくは無かったのと少しそっち系な展開を期待した僕を殴りたい
カッターシャツの隙間に手を伸ばして触ってくるのは出来ればベットの上だと嬉しかったのだけど今は触られている感触すら感じない
もうそろそろヤバイのは分かっているから声を出そうとするが喉が張り付いて声がまともにでない
そんな事はお構いなしに彼女は僕の身体を弄り舐め回す
そんな彼女の姿を見て
「君は僕じゃなくても良いみたいだね」
声が出ていた
さっきまでは恐怖で声が出ていないだけだったようだ
今のは思った事が自然と声に出たんだと想定しておくけどなんでこんな言葉が出たのかは分からない
頭に酸素が十分に送られなくておかしな思考になってるのだろうか
「……何故そんな事を言うのですか?」
彼女は驚いているようだ
動きが全て止まり僕の目を怖いくらいに睨みつけてくる
答えなきゃもっと酷い目にあいそうだなぁ
でも僕ですら分かっていないのにどう誤魔化すか
「僕は人から怨みを買うような人間ではないと自負している
そして君とは面識は無い
自慢じゃないけど記憶力はそれなりに良い方だからね
話した事のあるこの学校の関係者は全て覚えてる
だから、君のここまでの行動で僕の妄想では君は快楽殺人者だと思ってる
そういう事件は最近聞かないし、君の年でってのを考えたらこの考えは妄想止まりなんだけどね
まあ、一目惚れして気持ちが抑えきれなかったってのよか現実味あると思うよ
それで本題だ
僕じゃなくてもいいって言ったのは君の行動が、僕でなくても出来るって事だよ
さっきと変わらない様に聞こえたかな?
わかっていたとしても他人から言われた方が実感もあるだろうから言わせてもらうと、君は僕を見ていない
僕の脚にナイフを突き刺した状態で君はこっちを見て笑っていた
だけど、僕では無く僕のいる方向を見ていただけなんだよ
絵を鑑賞する様に僕を見ていたのか、これから僕をどうするか考えていたのか、それは僕にはわからないけど君は僕を見ていなかったんだよ
君は僕の脚の傷口を舐めていたよね?
その時の君は僕には血を舐めて啜り恍惚としているだけに見えたよ
僕の血だからでは無く、血に興奮している様に見えた
だってその時君は僕を見ていなかったから
君は僕の身体を弄っていたけど、君は血を舐めるのを続けるだけで僕の事を見るどころか反応すら気にしていない
君が僕の事を玩具だと思ってると仮定すると反応を一切気にしないのは違和感だけど、自分の好きな様に遊んでるだけならまあ僕の事を見てないのは納得なんだよね
そう考えると玩具は何でもよかったのかなと思うんだ」
意外とスラスラ言葉が出てきたけど自分が1秒でも長く生き残る為だからか恐怖よりもこちらが勝ったらしい
要約すると僕じゃなくて身体(主に血)しか見てないよねって話なんだけど無駄に話を長く、理解させづらく、それっぽい事を並べて見たけど途中で話を切る事もせず僕の話を聞いていてくれたのはラッキーだった
将来議員になった時に使えるかもしれない……そもそもそこまで頭良くないけど
さて、彼女が今何を考えているか分からないけど動きは止まっているからチャンスではある
このまま言葉を続けて警備員が来るのを待ってもいいしどうにか抜け出す方法を……無理か
「違うのです……そうでは無いのです……祐馬さん……私は貴方でないといけないのです」
名前を呼ばれてしまった
学生証か何かを見られたのかも知れないけど名前を呼ばれただけなのにちょっと怖かった
「違うとは?僕と話す事もせずただ僕を傷付けて血を啜った人に違うと言われても説得力は無いですよ
客観的に見ても君は誰でもいいと思ってる様に見える
何なら人の形をしていて血が出ればいいんじゃないかとさえ思えてしまうよ」
「違うのです……わ、私は……貴方に……一目惚れ……しまして」
一目惚れ?
流石にこの自分の容姿で一目惚れなんて言われると詐欺かと思うよね
と言うか意識が少し朦朧としてきた
「苦しい言い訳に聞こえますね
一目惚れしていきなり殺しに来ますか?
僕なら声をかけて仲良くなりに行きますけどね」
嗚呼、ここで何故か肯定した上で助かる方向に持って行かなかったのだろうか
「そ、それは……その……愛情表情というものを……知らなくて……初めての……事ですし……つい……いつもの様に……今までは……何もしなくて……よかったですし……嗚呼……ここまでしたのに取り込まれないなんて……やはり貴方は……特別な方」
……?
今おかしくなかった?
今まで?取り込まれない?
……
「なんか……話の途中でごめんけど……もう駄目みたいです」
流石にもう血を流し過ぎたみたいだ
彼女が慌てて僕に刺さったナイフを抜こうとしているのを見て視界が暗転した
ナイフ抜いたら余計に血が出ないかな……
続くかわかりませんがよろしくお願いします