94話 ClearStarClear
引き金を引き、ラヴィの眉間をぶち抜いた。瞬間、視界がブラックアウト。ズキリと頭痛がして、三半規管も狂っている。床か壁か天井のどれかに投げ出されるように倒れこんだ。上手く受け身を取れず手を捻る。手首の鈍い痛みを感じるよりも早く、全身を這いまわる気持ち悪さに苛まれた。
「っ!」
吐いた。視界は未だ真っ暗で、自分の態勢も理解できないくらいの酩酊感。嘔吐したせいか、身体がガクガクと震えている。ような気がする。
そのまま、いつまで経っても回復しない視界に疑問を抱きながらただ倒れ伏していると声が聞こえた。
「やあクリアスター。やっとお目覚め?いったいどんな夢を見てたのかな?僕待ちくたびれちゃったよ」
こいつ、ラヴィ・アメリアか?待て、アメリアだと?どうして今になって気付いた!?今日は、今はいつだ?私はいつから夢を見ていた!?くっ、目が開いていないのか?ずっと暗い!何でもいい、情報が欲しい!
「混乱してる?最近の記憶でも思い出してみたら?何かわかるかも」
最近の、記憶?いつも通りリンネを虐めて、それで?そのまま帰宅したはずだ。うん。鮮明に思い出せる。だが逆に、そこまでしか確かな記憶はない。先程までの景色も夢を見ていたかの如くどんどん不鮮明になる。霞んでいく。もう既に奴の顔も思い出せない。まあ本当の顔ではないのだろうが。
「どう?僕の能力でも分かったりした?」
こいつの能力は恐らく夢を操る、いや待て。目覚めた瞬間私はぶっ倒れてその上視界も回復していない。結界系能力の可能性もあるか?くそっ、能力の特定は難しいんだぞ!
「ま、分かられても困るけどね~。ところでクリアスター。今日が何の日か知ってる?」
何の日?何の日!?
「っ、まさか!!」
「お!ようやくわかった?」
まさか私はそれすら忘れていたというのか!?記憶の中でも知覚していない!この事実を、今日が本来何の日であるかを!ではいつなんだ!?私がラヴィ・アメリアに能力を使用されたのは!!
「最初から」
「・・・は?」
なにをいっている?
「君が国の諜報部隊から我らがDELETEに能力を使って潜入してきた時からだよ」
・・・本当に最初から?そんなことが可能なら、だとしたら何故私は生きているの?どうとでもできたはずだ。
「まあ今日を邪魔されなければそれで良かったからね。僕としても無益な殺しはしたくないし」
そもそも何故会話が成り立っている?私の思考と!
「僕の能力は〈最親〉。対象にとっての当たり前となることで認識されないという能力。だと思わせている。アリスとミリア様以外にはね」
突然何を?ミリア、様?
「そう!ミリア様はね?すっごいの!僕の能力なんてことごとく無効化しちゃうの!恐怖すら覚えたよ、初体験だったからね。僕の持つ能力ぜ〜んぶ負けちゃった。何も出来ないなんて初めてで、ゾクゾクしちゃったよね」
能力全部?どういうことだ?
「あれ〜?仮にも大学で能力について学んでたでしょ〜?知らないの~?聞いたことない?デュアルとかトリプルって。能力の多重持ちのこと。僕、それなんだよ」
その可能性を失念していた。たしかに聞いたことはある。だが、かなり珍しい存在とされているので頭から消えていた。成程、能力を複数持っているならこの状況も納得か。納得したところで、だが。
「は〜。早く逢いたいよミリア様〜。平手打ちしてくれないかな〜。踏まれたい」
そういえば私はミリアを脅威として認識していなかった。明らかに異質な事をしていたというのに。思えばヘルオールからこの国に一瞬で転移してきたこともカナトの石化を解いたのも他人を瞬間移動させたのも、全て異常だ。
「そう。そもそもヘルオールは能力不干渉地域でこの世界で唯一といっていい未開の地。ミリア様は能力無しであんなことができるんだ~。神だよ~」
そうだ。思い返してみればミリアには私の能力が効いていなかった。それどころか逆に私が催眠のようなものに掛けられていた。震えが止まらない。なんて化物。何故私が死んでいないのか不思議な程だ。
「さっきからさ~。何故生きている何故死んでないって、そんなに死にたいなら殺してあげよっか?だらだら話してても意味ないし、早くミリア様に会いたいし。どうする?今死ぬ?」
「何を、言っている?何故わざわざ、私に聞く?」
「だ~か~ら~。さっきも言ったけど僕は別に人を殺したいわけじゃないの。だから生きたいんだったら殺さないし死にたいんだったら殺す。本人から許可もらわないと殺しちゃ駄目って習わなかったの~?」
なんだこいつ。いかれてる。
「あ?殺すぞ」
「い、生きたい。から、殺さないでほしい」
「オッケ~。まあ殺しはしないってだけだけど」
「!?」




